医療観察法国賠訴訟第3回口頭弁論期日のご報告
現在、東京地方裁判所において継続中の医療観察法国賠訴訟について、9月13日(水)に、第3回口頭弁論期日が開かれましたので、そのご報告をいたします。
【医療観察法国賠訴訟とは】
2017年2月13日、精神遅滞及び広汎性発達障害という診断を受けており、医療観察法に基づく医療の必要性がないのに、鑑定入院(医療観察法に基づく入院を決定する前の精神鑑定のための入院)として58日間にわたり精神科病院に収容された方(原告)が、国を被告として、慰謝料等の損害賠償を求めた訴訟です。主に、精神遅滞及び広汎性発達障害の医療の必要性(治療可能性など)と検察官の事件処理の遅れ(事件発生から2年経過してから医療観察法に基づく手続を開始するための審判申立を行った)が問題となっています。
【日時】
第3回口頭弁論期日
2017年9月13日(水)10:00
東京地方裁判所615号法廷
【前回期日までの流れ】
第2回口頭弁論期日において、被告国が反論(被告準備書面(1))を提出し、鑑定入院命令に関与した検察官と裁判官の行為の違法性及び過失を全面的に争ってきました。裁判所より、原告の宿題として、この被告の反論に対する再反論が求められていました。
【提出書面】
原告:原告準備書面(2)
甲17-23(国会の議事録と文献が中心)
文書送付嘱託申立書(医療機関に対して鑑定入院中のカルテ等の提出を求めるもの)
文書送付嘱託申立書(検察庁に対して不起訴記録の提出を求めるもの)
被告:なし
【法廷でのやり取り】
1 文書送付嘱託申立について
⑴ 不起訴記録について
被告より対象文書の特定が不十分であるという意見が出されたため、裁判所から原告に対し、一定程度の文書の特定が認められました。
⑵ 鑑定入院中のカルテ等について
文書送付嘱託が採用されました。医療機関に照会がなされます。
2 警察の事件処理の遅れと検察官の審判申立の違法性の関係
被告国は、検察官が警察から事件送致を受けたのは事件発生から約13か月後であり、検察官のところで事件を抱えていたのは約11か月間に過ぎないから、検察官の審判申立は違法な遅延に当たらないという反論をしていました(被告準備書面(1))。
このような被告の主張を受けて、第2回口頭弁論期日において、裁判所は、原告に対し、警察の事件送致が遅れた場合に検察官の審判申立が違法となる理由の説明を求めました(求釈明)。
これに対しては、原告としては、警察の事件送致が遅れた場合であっても、事件発生から相当期間が経過すると事件当時の症状が分からなくなり、当時の症状を治療するという医療観察法の前提を欠く事態となるから、事件発生から1年経過した検察官の審判申立は時機に遅れたものとして違法となる、と補足説明を行いました(原告準備書面(2))。
【次回期日】
第4回口頭弁論期日
2017年11月15日(水)10:00
あっという間に終わりますがそのあと代理人からの説明あります
東京地方裁判所615号法廷
(宿題)
原告:不起訴記録の特定
被告:反論(11/8まで)
(参考)
【今回提出した原告準備書面(2)の概要】
主に、医療観察法の審議過程における国会の議事録を証拠として提出し、検察官の審判申立や裁判官による鑑定入院命令が、立法経緯や審議過程における議論の内容と乖離しており、違法な運用であることを指摘しています。
第1 医療観察法の法的性格
(国会の答弁で重要なもの)
1 「刑罰にかわる制裁を科すものではない、あるいは、社会防衛を目的とするものではない、・・・本人の社会復帰の促進を目的とするものである」(平成14年12月3日、衆議院法務委員会・漆原良夫議員)
⇒ 刑事手続とは異なる法的性格の手続である。つまり、刑事手続の場合には、検察官が起訴をして無罪となっても検察官の起訴が直ちに違法となるわけではないが、医療観察法を刑事手続と同じように考えてはならない。
2 「本制度による処遇の対象となる者は、・・・医療が必要と認められる者に限られる・・・仮に医療の必要性が認められる者であっても、そのすべてを本制度による処遇の対象とするのではなく、その中でも、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要な者だけが対象となる」(平成14年11月27日衆議院法務委員会・塩崎恭久議員)
⇒ 医療観察法の適用対象者を限定する趣旨で、「医療の必要性」という要件が設けられた。仮に医療の必要性が肯定されても直ちに医療観察法の対象となるわけではなく、「社会に復帰できるよう配慮することが必要な者だけが対象となる」のである。
3 「対象者に十分な看護者がいるなど、その生活環境等にかんがみて社会復帰の妨げとならないと認められる場合には入院の決定は行われない。」(平成14年12月6日衆議院法務委員会・漆原議員)
4 「この法律による手厚い専門的な医療までは特に必要がないと認める場合」には対象者とはならない(平成14年12月6日衆議院法務委員会・塩崎議員)。
⇒ 原告のように、本件傷害事件発生後2年間にわたり、専門医に定期的に通院し、社会内で平穏に生活している者は、「社会に復帰できるよう配慮することが必要な者」に該当しないはずである。
5 浜四津敏子議員の「本制度の処遇の対象からは・・・知的障害者というのは除外されると考えていいんでしょうか、法務省にお伺いします。」という質問に対し、法務省刑事局長樋渡利秋参考人は、「知的障害のみを有する者につきましては、・・・その精神障害につき治癒、治療の可能性がないと判断される場合には、精神障害を改善するため、この法律による医療を受けさせる必要があるとは認められませんから、本制度による処遇の対象とはならないと考えられております。」(平成15年5月8日参議院法務委員会)
⇒ 知的障害について、審議過程においても、治療可能性の存在につき消極的に考えられており、基本的に医療観察法の対象ではないと考えられていた。
第2 検察官の職務行為についての違法性判断基準及び主張立証責任
被告が引用する最判昭和53年10月20日「「逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当の理由があり、かつ、必要性が認められるかぎりは適法であり、公訴の提起は、・・・起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りる」は、刑事手続に関するもので法的性格が異なり、医療観察法には妥当しないことなどを指摘してる。
第3 裁判官の職務行為についての違法性判断基準及び主張立証責任
被告が引用する最判昭和57年3月12日「当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別な事情があることを必要とする」は、本件のように国家賠償法による救済の必要性が高い事案(鑑定入院命令に対する不服申立手段が存在しない(医療観察法72条2項))には妥当しないことなどを指摘している。
第4 鑑定入院命令の取消しを行わなかったことの違法性判断基準及び主張立証責任
鑑定入院命令の取消が義務づけられる時期について、応急入院の12時間の時間制限(精神保健福祉法33条4項)や任意入院の72時間の退院制限(同法21条3項)を参考に、これらの時間よりも短時間で解放する義務がある。
第5 検察官の本件申立の違法性(医療の必要性)
医療の必要性が肯定されるためには、治療可能性のほか、「社会に復帰できるよう配慮することが必要な者」(配慮必要性)が必要であることを指摘した。
その上で、知的障害の治療可能性については、国会の審議過程においても否定的に捉えられていたことや精神医学的にも教育や環境調整が想定されており「手厚い専門的な医療」が不要なことのほか、簡易鑑定においても「即時の指導や教育の有効性を否定するものではない」と述べられていたことを指摘し、治療可能性の不存在を主張した。
また、配慮必要性については、原告にとって落ち着いた環境こそが必要なのであり、「社会に復帰できるよう配慮することが必要な者」に該当しないことを指摘した。
第6 検察官の審判申立遅延の不相当性
申立遅延が違法と評価される時期について、再度の退院請求がなされた場合に精神医療審査会が意見聴取を行うかどうかの判断基準(6か月)、医療観察法の入院処遇ガイドラインの入院期間「概ね18か月以内」などを参考に、事件発生から1年を超えれば申立は違法となると主張した。
【本件に関する問合せ】
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医療扶助・人権ネットワーク 事務局長弁護士 内田 明
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