ごあいさつ
いきなり寒くなりましたが、皆様、いかががお過ごしでしょうか。
昨年は、障害者自立支援法違憲訴訟の基本和解、障がい者制度改革推進会議の設置と大きな前進を遂げましたが、一方で、精神保健福祉法の一部改正(精神科救急の導入)を含んだ、いわゆる障害者自立支援法改正案が国会を可決し、また、医療観察法の国会報告も不透明な状態が続くなど、障害者権利条約から一歩後退という印象を受けた年でした。
今年は、障害者基本法の国会上程をはじめ、障害者施策の基本的な方向付けを行う時期になります。また、鳥取では、精神保健福祉法医療保護入院違憲訴訟が行われます。精神障害者を強制的に閉じ込める制度に対して、自由でありたいという患者側からの声が形になったものです。今年こそ、各地の仲間と連帯して、障害者権利条約の理念とも言える「私たちのことを私たち抜きに決めるな!」に徹底した運動を進めていきたいです。
(桐原)
政府は保護者制度を含む強制入院等の見直しをどう進めるか
全国「精神病」者集団
桐原尚之
2010.12.8
政府は、6月7日に障がい者制度改革推進会議から出された、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」に基づき、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について(平成22年6月29日閣議決定)」を閣議決定した。そこでは、「精神障害者に対する強制入院、強制医療介入等についてい、わゆる「保護者制度」の見直し等も含め、その在り方を検討し、平成24 年内を目途にその結論を得ることとしている。
しかし、ここには障がい者制度改革推進会議が検討を行うとの文言はなく、政府(つまり厚生労働省を含む)が独自に行うことを想定している。そのため、早速、厚生労働省が障がい者制度改革推進会議の構成員を誰一人も入れずに、「精神障害者の保護者制度と入院制度のあり方について検討するワーキングチーム」を立ち上げることを決めた。
はたして、障害者権利条約および障害者制度改革の推進のための基本的な方向についてと整合性をもった検討及び結論となるのか、疑念を拭いきれないのだが、ここれは、一度、保護者制度をふくむ強制入院等について、整理したい。
一 任意入院は、医療保護入院を補完する制度であり、任意入院(第二十二条の三)の同意は、民法上の契約に当たらない場合があること。そして、医療保護入院の保護者の同意(第三十三条)は、民法上の契約に当たること。
【条文】
第二十三条の三
精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
この条文の「精神障害者を入院させる場合」とは、精神病院の管理者において入院医療を行うか否かの判断をすることができる場合を指しており、専ら医療保護入院との関係について規定したものである(精神保健福祉法詳解)。また、第二十二条の四第二項で、精神科病院の管理者は、自ら入院した精神障害者(以下「任意入院者」という。)から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならないとしながらも、同条第三項では、前項に規定する場合において、精神科病院の管理者は、指定医による診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、同項の規定にかかわらず、72時間を限り、その者を退院させないことができるとしている。この場合の任意入院者による退院の申出は、第三十三条第一項第一号の、当該精神障害のために第二十二条の三の規定による入院(任意入院)が行われる状態にない(病識欠如)に該当し、また、72時間の退院制限は、医療及び保護の必要性がある場合としているため、即座に医療保護入院の要件を満たす。そのため、保護者の同意があれば医療保護入院となる。このことから、任意入院は医療保護入院を補完する制度であるといえる。
「精神障害者を入院させる場合」が、精神病院の管理者において入院医療を行うか否かの判断をすることができる場合を指しており、専ら医療保護入院との関係について規定したものである(精神保健福祉法詳解)ことは既に説明した。このことは、本人の同意がなければ保護者の同意で医療保護入院になるだけであり、「精神障害者を入院させる場合」があれば、保護者が同意を与えない場合を除き、入院となるわけである。また、この場合の「本人の同意」とは、「同意」は任意入院の基本的要件であるが、その意味は精神病院の管理者との入院契約のような民法上の法律行為としての同意と必ずしも一致するものでなく、患者が自らの入院について拒むことができるにもかかわらず、積極的に拒んでいない状態を含むものとされている。非強制という状態での入院を促進することに任意入院の中心的意義があるとする考え方に立つものである(精神保健福祉法詳解)。
昭和六十二年の改正前は、本人の意思による入院についての法律上の規定はなく、いわゆる「自由入院」と呼ばれ運用されていたが、同改正において、説明、説得により精神障害者本人が入院に納得する場合も含めて本人の同意に基づく入院については、その症状によっては行動制限や退院の制限も可能とした上で、法律上明記することとし、その呼称についても「自由」という表現を避け、非強制という意味で「任意入院」という呼称とされたものである。「同意」は、自発的な「意思」と異なり、強制的な場合もありうる。
単に、同意する者が保護者であれば医療保護入院に、本人であれば任意入院であるだけで、いずれも精神科病院の管理者が入院をさせることを決定するわけである。
しかし不可解にも、本人の同意は民法上の契約であるとは限らないのに対して、保護者の同意は、当然のこととして、一般の疾病の場合の入院と同様に民法上の契約を締結する行為とされている。これは、契約行為である保護者の要請に基づく入院を是認するものである。同時に保護者は精神障害者の入院を断ることができるものである。そのため、精神障害者の医療保護入院を保護者に限定し、且つ、保護者が契約行為として入院の是非を決めることができるとするのが、保護者制度の本旨である。
元宇都宮病院入院者の損害賠償請求訴訟では、1993年6月11日、東京地方裁判所は原告I.М.訴訟に関して、保護義務者としての宇都宮市長につき「入院にあたり、保護義務者の同意を必要とする旧精神衛生法の規定の趣旨は、理由のない入院の強制から患者を保護することにあるにかかわらず、市長は入院の必要性を何ら確認せずに漫然と同意しており、違法である」として石川文之進院長および宇都宮市長の賠償責任を認めた。更に控訴審において、1996年9月30日、東京高等裁判所は「本件にあっては、宇都宮市長は医師等による説明はおろか、原告I.М.の病名、症状についても確認することなく、入院同意を与えたものであり、違法であると評価するのが相当である」とし、かつ「宇都宮市長のなした同意入院が、国の機関委任事務としてなされたものであることは原告と被告である国との間に争いがない。この事務執行につき違法が認められる以上、国も国家賠償法に基づき、損害賠償義務を背うと解するのが相当である」との判断を下している。つまり、現行法の下での市町村長の同意による入院は国の機関委任事務であること、この事務の執行にあたって法的には医師の説明、病名、症状等の確認が必要であるとの司法判断のあることを指摘しておく(広田伊蘇夫, 2004,立法百年史:p21)。
二 民法で保護者に監督義務が付されていること。医療保護入院の費用を本人および扶養義務者が支払う規定がある(四十一条)こと。
しかしながら、保護者が精神障害者の入院に際して同意を与えないことは、基本的に難しい。民法第七百十二条には、未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない、という規定がある。いわゆる、民事無責任能力者に関する条項だが、精神保健福祉法に基づく医療及び保護の必要性のある者は、民事無責任能力者に該当する場合がある。民法第七百十四条には、責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない、とする規定がある。この場合の「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」とは、精神保健福祉法の保護者が含まれる。そして、保護者の法定の義務とは、精神保健福祉法第二十二条の規定である、精神障害者の治療を受けさせ、及び精神障害者の財産上の利益を保護すること(第一項)、精神障害者の診断が正しく行われるよう医師に協力すること(第二項)、精神障害者に医療を受けさせるに当たっては、医師の指示に従うこと(第三項)である。すなわち、保護者が同意を与えない場合、精神障害者が責任無能力状態で不法行為をした場合、保護者が責任を負うことになる。
この法構造に基づいた判決として、2000年1月20日、仙台高等裁判所の控訴棄却判決がある。この裁判は精神障害者が第三者に加えた損害をめぐり、被害者の家族が損害賠償を請求した事例で、第一審の仙台地方裁判所は1998年11月30日、「保護者は可能な限り、精神障害の具体的内容につき正しい理解をし、精神障害者の治療経過をよく観察し、主治医等の関係機関とよく相談するなどして、精神障害者の治療を援助するとともに、精神障害者の自傷他害の危険を防止するため必要な措置を模索し、できる限りの措置をとるよう努力することは可能であり、保護者は最低限、右のような努力をする義務を負っている」との事由から、保護者がこの義務を履行しなかったとして、被害者側の損害賠償請求を認めた。この判決に対し、保護者側は仙台高裁に控訴したが、「精神保健福祉法の改正により、精神障害者の自傷他害を防止する保護者の監督義務規定は排除されたが、治療を受けさせる義務はあり、自傷他害の状態になれば、民法第714条に基づく保護者の責任はある」との司法判断を下し(2000年1月20日)、控訴が棄却されたことを紹介しておく(広田伊蘇夫, 2004,立法百年史:pp19-20)。
三 論点
障がい者制度改革推進会議では、当初、保護者制度の問題が強制入院と結びつくところまでは理解されていたが、任意入院が医療保護入院を補完する制度であり、それをつなぐための保護者制度という認識にはいたっていなかった。あらためて、厚生労働省は、保護者制度の全体を解体などするだろうか。おそらく、民法の改正の段階で、法務省民事局も絡んでくるため、なんらかのかたちで「難しい」との結論を打ち出すことだろう。しかし、障害者権利条約の観点から、あらためて強制の廃絶が主張されている。それは、非常に大規模な国内法整備を要しているわけであって、内閣府が主導であることは、そうしたことを踏まえてのことである。つまり、「政府」としていても、厚生労働省だけでは変えようもないことは明白であり、内閣府がなんらかの策を講ずる必要が出てくる。現時点では、障がい者制度改革推進会議が進める障害者基本法の改正があげられ、このなかで、保護者制度を含む強制入院等の見直しに係る強制の廃絶を実現できるようにしていかなければならないのだと思う。
全国「精神病」者集団 岡山支部からの報告
運営委員 佐々井 薫
今年の11月11日に内閣府主催で岡山市の「ピュアリティーまきび」で開催された「障害者制度改革について考える地域フォーラムinおかやま」の実行委員会に、全国「精神病」者集団 岡山支部の団体名で、ビラまきを申し込んだところ許可が出ました。
当日、会場で150部の「医療観察法反対」のビラと全国「精神病」者集団のリーフを配ることが出来ました。
これを気に本格的に全国「精神病」者集団 岡山支部が活動したいと思います。
活動内容は全国「精神病」者集団が原則とする「精神病」者の生命の尊守、権利主張、総体の利益追求を地方で実践するとともに、地方への情報提供をできる限りやって行いたいと思います。
全国「精神病」者集団 岡山支部 窓口係
〒711-0911
岡山県倉敷市児島小川10-2-15-501
佐々井 薫
E-mail k3313jp(@)gmail.com
(@)を@に変えてお送りください
つきましては活動費を、みなさんのカンパに頼るしかありません。
生活が苦しいのは、じゅうじゅう承知でおねがいいたします。
中国銀行
児島支店
普通 2267621
キズナシャ オカヤマシブ
小額でもかまいません。余裕のあるときに継続的にお願いできればありがたいです。
会計報告はニュースか、何かでさせていただきます。