全国「精神病」者集団ニュース 1999年8月号

1999年8月発行のニュースです。一部のみの掲載となっております。一般定期購読は有料(年6回発行1年分5000円)です。

目録

ごあいさつ

赤堀政夫さんの人権問題の一つ

障害年金が三級から二級に

詩二編

ハンセン氏病患者へのパイプ・カット

(略)

事務局報告

日本精神神経学会の東京総会について

精神保健福祉法「改正」について(略)

障害者欠格条項をなくす会結成(略)

例会報告(略)

事務局入手資料(略)


SSKO

全国「精神病」者集団ニュース

1999.6 Vol.25 No.4 東京都三鷹郵便局留め

ごあいさつ

酷暑がつづきます。冷房もない精神病院の一室やアパートの一人暮らしの部屋でこのニュースをお読みの方もいらっしゃると思います。皆さまいかがお過ごしでしょうか?

おかげさまで夏期カンパ 188,600 円、ニュース代 57,000 円の入金がありました。乏しい財布からカンパして下さった方々に感謝いたします。

自民党は精神保健問題検討小委員会を設置、そこでいわゆる「触法精神障害者」に対する対策を3年以内に党として結論を出すとしてしています。また今年2月24日には参議院予算委員会において民主党の海野徹議員が、事件を起こした「精神障害者」が社会に出てきて困る、必要な対策を、と法務大臣と厚生大臣にせまり、保安処分新設を示唆しています。

マスコミは警察情報を一方的に報道しているので真相は不明ですが、ハイジャック事件の被疑者は「精神病」者と伝えられ、マスコミでは実名顔写真報道をしたところもあります。刑が確定する目どころか起訴前・裁判が始まる前から、被疑者はさらし者にされ、「マスコミ裁判」により推定無罪であるべき被疑者が裁かれています。まさに私刑です。かつて国会議員の父親を殺した娘さんの顔写真が週刊誌に出たことがありました。父親の名前は当然報道されていましたので、彼女は不起訴になっても身の置き所がない状態に追い込まれていたと思います。彼女は昨年自殺しました。実名、顔写真報道を許してはなりません。スエーデンのようにすべての犯罪報道を原則匿名報道にするべきだと考えます。匿名報道が原則であれば、匿名報道をした際、その理由として精神科通院歴ありという説明を付け加える必要もなくなり、「精神障害者」差別につながる報道もなくなります。

現在「精神病者は危険、違法行為をした精神障害者は閉じこめておけ」「危険な精神障害者は町を歩くな」といった保安処分思想を下から動員していく動きが盛んです。日精協も今回の法見直しに対してそうしたように、今後も国会対策含め保安処分新設に向けその力を集中していくことでしょう。

全国「精神病」者集団がその結成時から力の限り闘ってきた、反保安処分の闘いがいま再び正念場を迎えていると考えます。すべての「精神病」者に対する差別と排外、そして抹殺の攻撃として保安処分攻撃はあります。今後の闘いをどう闘うのか多くの読者のご意見を全国「精神病」者集団まで集中して下さるよう訴えます。

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赤堀政夫さんの人権問題の一つ

赤堀政夫さんの介護者並びに代理人 大野萌子

「殺人者」の汚名を晴らした赤堀さんは一九八九年一月三一日に獄中から解放された。実に三五年ぶりに実社会と接点を持たれたのである。

以降赤堀さんは激変した社会への適応に時間をかけておられる。そうした赤堀さんと連帯する大野萌子はおおむね以下を意識化して介護者あるいは代理人を務めてきた。

第一に介護者としては健康管理、第二に社会適応訓練には一人のタグボート(水先案内人)、第三は赤堀さんの人権の復権の闘いには代理人の任務であろうか?

来年(一九九九年一月三一日)は解放後一〇年目を経過するのでこの節目に改めて総括と中間報告を行いたい。

赤堀さんは強度の不眠症である。その改善には精神科の診察と投薬であるが、その医療的対応は獄中医療から引き続いて今日も行われている。

本人の承諾を得て明らかにするが診断結果は「社会適応障害」「体感異常」である。「精神障害者」としては二級の認定で障害手帳を携帯されている。

この障害の介護が基本的なものになるが、加えて一般的な健康管理が行われている。内科にも主治医があり定期的に検診に訪れて、健康診断とそのアドバイスをいただいている。

介護者が最も注意するのは「全歯抜歯」(何度も義歯を入れたがその対応策は失敗に終わっている)の赤堀さんに咀嚼可能な食事を提供することである。

大野は介護記録とその報告書を主治医に提供しているがその続行が望まれている。

第二の社会適応は「生活者として最小限」の適応に限局しているのが介護者のスタンスである。

それでも赤堀さんは行政手続きなどは苦手であるため、介護者がすべての代理人となっている。獄中では看守が赤堀さんの「お世話」係であったが、実社会では大野がその代行者であろうか?

赤堀さんの苦手は地図の世界であったり、金銭感覚が戻らないことである。当然といえば当然であるが、獄中での金銭授受は一週間で五〇〇円以内で、それが長期的な習慣であったところから、現在も金銭的な感覚は「異常」となっている。

交通機関の諸訓練も難儀な問題であろう。

とくに買い物は主体的には行えない。価値基準がないのであろう? この問題も獄中病と言おうか? あるいは監獄後遺症とでも言おうか?

当然であるが三五年間「獄中で培われた価値観」が実社会では何ら参考にはならず、最初から「価値観の見直しや出直し」をせまられている赤堀さんの努力は想像を絶する。

とりわけ介護者から強力にアピールしたいのは獄中で「死刑」から免れることを祈り続けた赤堀さんが果たして価値観を持てる余裕があったか?である。

こうした悲劇的な存在を国民一人一人が心を痛めることであり、なぜどす黒いフレームアップを許したかをすべての人々が考えるべきではないか?

第三の問題は人権の復権である。赤堀さんは解放後に(一九八九年五月一四日には)六〇歳を迎えられた。

当然六〇歳は年金取得年齢である。赤堀さんが死刑囚で年金取得の拠出先がないことと、赤堀さんにも制度的な年金取得と言われる人権上追求をすべきこととは別個の問題である。

赤堀さんの実社会への解放はそのまますべての人権の復権がなされてしかるべきであるが、こうした問題の中心に赤堀さん六〇歳の年金取得問題があった。

その取得をめぐって介護者に当然問われるのが人権感覚であり、その実務的な能力である。

赤堀さん六〇歳直後に介護者は「静岡県の年金担当者」への申し入れを行ったが、当時の担当者は即日厚生省に出向して調査し、回答を介護者に告げた。「赤堀さんの年金問題は現在の制度では無理。この問題の解決を図ろうとすればダッカの奪還と同様に『超法規的措置』の問題として国会での追及を行いその承認を必要とする」との回答であった。

介護者は国会追求であろうが、ダッカの奪還と同様に「超法規的措置」であろうが人権の復権に欠かせない闘いであったが、「病気の再発」や疲れで具体的な行動ができない状況下にあった。

もっともその後赤堀さんの精神障害手帳取得後は名古屋市の精神保健福祉課にも、障害年金取得のための申し入れを行い、その実現に努力したが、「赤堀さんはかつて精神病院への入院歴があった(この問題では精神病院への入院歴では初発か?既往歴か?)」と認定するいかなる資料もないことで低迷する。裁判所もないと突っぱねるし、精神病院入院時の(溝口病院も当時のカルテは現存しないと突っぱねる)カルテも現存しないし、精神病院に送った矯正施設にもその記録がないという有様であった。

そしてこの一九九八年二月一日赤堀さんの解放一〇年目に突入で、再度方針を固めて同時多発的に人権の追及を行った。

まずは社会保険事務所に申請、既得権のない状態を確認し、上部の県の審査官へ問題は委託された。

そして同時に名古屋弁護士会には「赤堀さんに年金受給の資格のないのは「受刑中に年金への加入義務を周知徹底しなかった厚生大臣と法務大臣」の責任であるが、その責任を明らかにしてほしいと訴える。赤堀さんには年金の取得は「人権の復権」である。また同日にはマスコミの記者会見を行い広く市民の喚起をうながすことになった。

愛知県の年金指導官には「老齢年金の追求と同時に障害年金の請求も改めて同時に申請するよう」に指導されたので申請の手続きを行った。

いまだ名古屋弁護士会からは人権侵害の決定も出ていないが、こうした「障害年金の決定」は、社会保険庁はきわめて政治的な判断で決定されたと思われる。

赤堀さんの「人権の復権」を追求するとともに、元無実の死刑囚の方々にも同時に人権救済が行われること、そして獄中者にも「年金制度」が広く一般的な問題として周知徹底することがこの問題の提起である。

「障害年金取得者」赤堀さんで、解決に向けて一定の見解が見られたが、今後も現在追求中の「老齢年金問題」はさらなる闘いとして推進させる。

最後に「障害年金の証書」を持参し、その年金受給の説明を行った南区役所の行政マンに赤堀さんは「こんなにいただいて大丈夫ですか?」と素朴に問いかけられた。

ちなみに赤堀さんの障害年金は基礎年金二級で年額八〇万円弱である。支給は一九九八年一〇月が支給開始日である。 (一九九八年一二月二一日記)

(編注 名古屋弁護士会は一九九九年三月一二日付で厚生大臣宛に勧告書を出し、赤堀さんに年金が支給されていないことは「国民年金法によって具体化された申立人の生存権を侵害するものである」とし、赤堀さんに「国民年金を支給するべき必要な措置を講じるように勧告する」とした。老齢年金申請については却下され、行政不服審査を要求したが、最終的にはこの五月に却下されている)


障害年金が三級から二級に

私は一〇年以上前に厚生年金の障害年金三級を取得した。年金を受けるにあたる障害の程度の表を見ると三級は「援助があれば就労可能」となっている。私の年金請求の診断書および現況届けにつける診断書は一貫して「就労不能」となっている。そこで三級なのはおかしいのではないかと思い、主治医に相談してきた。

前の主治医は「入院中に申請しないと級は上がらないから」とあきらめるよう言っていたが、今度の主治医は「あなたは働けませんねえ」といって年金額改定請求に協力してくれた。

請求したところいったんは却下、そこで再審査請求をして、県の役人の家庭訪問もあり、結果は三級から二級となった。

請求自体には費用はいらないが、最初の診断書に診断書料一万円、再審査請求の際の診断書には五千円の費用がかかった。しかし結果として二級となったので充分もとがとれた。

厚生年金の障害年金で精神障害者はほとんどが三級にされていると聞く。しかし就労不能という仲間は一度は年金額改定の請求をしてみたらどうだろうか? 診断書のため主治医の協力と理解は必要だし、もちろん結果はどうなるか分からないので、主治医に払う診断書料だけ損となる場合もあるが……。


詩二編

新潟 A

世界で一番ステキな笑顔

となりの

おばあちゃんは、もう少しで、

八〇才に

なろうとしています。

一人暮らしになって、

どのくらいたったのでしょうか。

おばあちゃんは、いつも

明るい笑顔でいます

“私ネ。世界で一番

ステキな笑顔の人に

なりたいのよ。

いつも笑顔を

練習しているのよ”と

そのおばあちゃんは、

ニコニコ笑顔で、私に

教えて下さいました。

私もこのおばあちゃんの様に

いつも明るくニコニコとして、

いる人になりたいと思った。

最高の一品

人から見たら

お金も何もない

生活をしている

私を見て、

あわれに思う人も

いるかも知りません。

でも私は

たとえ一品であっても

最高の一品であり

たいのです。

たった一つでも

スバラシイ物で

ありたいのです。

本物としての

プライドは、一生

持っていたいのです。


ハンセン氏病患者へのパイプ・カット

静岡 O

私はほとんどテレビや新聞を見ませんが、年が明けた一月一一日の「報道特集」を見て、非常なルサンチマンを抱きました。

以前にも「知的障害」者の正常子宮摘出という事件がありました。報道特集ではハンセン氏病の男性を、強制的に同意なしにパイプ・カットしてきた歴史があるとの放送でした。

もう何十年も前からハンセン氏病は薬で治る病気で、伝染病でもなく遺伝する病でもないと理解されているにもかかわらず。周知の通りハンセン氏病もまた「精神病」と同じく「隔離・収容」の対象となる病気として考えられています。

「ライ予防法」は一九九六年に当時の厚生大臣管直人の手で撤廃されました。薬害エイズ患者に対するおわびも管が行ったが、私は別に管直人を評価しているわけではありません。当たり前のことをしただけです。むしろ精保法撤廃をしなかったのはなぜだ?と言いたいくらいです。

しかしハンセン氏病患者に対して、社会復帰をしたいか?というアンケートを行っても、二%程度の方が社会復帰をしたいと思っているに過ぎません。これも当たり前の答えです。ハンセン病患者同士が結婚しても子供がいなければ働く甲斐がないのは当然でしょう。(仮に理解ある健常女性がいてもパイプカットされているのですから、これまた当然子供はもうけることができません)。それにさして忌まわしい病気ではないことが、頭で理解できてもハンセン氏病にはまだまだ差別・偏見が残っています。放送の中でハンセン氏病者同士の老夫婦にインタビューする場面がありました。

老婦人がポツリと「子供はかわいいもんね」と答えていらっしゃるところで私は涙を流してしまいました。

つらつら考えるに、資本主義という金儲け第一の社会には適当な数の社会的弱者が必要なのでしょう。

(以下、略)


事務局報告


☆日本精神神経学会の東京総会について

・ビラについて

全国「精神病」者集団としては総会と「触法精神障害者のシンポ」で保安処分と精神保健法改悪、そして赤堀さんのフィンランドでの報告の三種類のビラを配布しました。さらに大野さんが、総会で個人としてガイドラインと組対法のビラを配布しました。

・触法精神障害者対策シンポを巡って

評議会、総会で一部の会員から、「このシンポ開催は軽率であった」「保安処分を推進してきた側である厚生省、警察庁、法務省の指定発言はカットすべき」の意見が出ました。

山本は「第一に学会は保安処分反対であったはずであるが、触法精神障害者『対策』という言葉を使っている以上『対策』とは事象や敵に対して使う言葉であり、触法精神障害者と共に生きるという姿勢を捨てており、この表題そのものが保安処分思想である。われわれ会員に一切相談がなく、保安処分反対の姿勢を変えるこうしたシンポを開くことは総会の私物化である」旨発言しました。

理事長の対応は「私物化ではない評議委員にアンケートをとってシンポのテーマを決めた」Y委員長は「保安処分をどうするか結論を出してシンポを開くのではなく、討論の場である」という回答をしていました。

総会でこの件について議論しようという理事長の発言があったのですが、結局時間切れで討論できませんでした。

シンポ自体は各地からの患者会と全障連が最初に壇上にあがりシンポ開催に抗議シンポの中止を訴えました。山本は総会で発言した趣旨を繰り返すと共に「総会でも問題になったが、総会では時間切れであった。したがって今このシンポ開催自体について討論すべき」といいましたが、支持者がなく、シンポ自体は開催されました。

(以下、略)

・死刑問題について

精神障害者の死刑囚問題について、三月一九日に学会の「精神医療と法委員会および保安処分と司法に関する小委員会」に招かれ死刑問題について訴えました。その結果とりあえず、袴田さんの獄中処遇問題について学会委員会として取り組むことになりました。

(以下、略)

・その他

理事会では医療費問題の委員会から厚生省に対して出す要望書の報告がありましたが、その中で「無けいれん電気ショックの点数化、今まで七日だった保護室加算を一二日に増やす。要件として二名に指定医の判定」という点が問題だと思いました。

(以下、略)


☆事務局入手資料

①日本精神神経学会調査報告書

(略)

②日精協精神医学会での精神保健福祉課長発言

(略)

③精神保健福祉法「見直し」に関する国会議事録

(略)


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(※HP用に一部省略して掲載しております。)



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