2001年10月発行の「ニュース」抜粋です。 一般定期購読は有料(年6回程発行1年分5000円)です。(病者である会員の購読は送料も含めて無料となっております。)
- 目録
ごあいさつ
警察庁へのメール
精神障害者の「事件」を考える
集会「“当事者からの発信”精神障害者の『事件』と医療・福祉を考える」 での発言
声明文
全国「精神病」者集団愛知分会0の会
政府及び与党による「触法精神障害者」に対する特別立法立案に抗議するとともに「触法精神障害者」対策議論の中止を訴える
保岡興治(元法務大臣自民党「触法障害者問題」国会議員プロジェクトチームメンバー)議員からの電話に思うこと
特別立法反対の意思表明を
資料
「司法精神病棟」建設をはじめ精神障害者に対する隔離・収容施策の強化に反対する声明
大阪精神障害者連絡会(ぼちぼちクラブ)
全国「精神病」者集団
ニュース
反保安処分特集号
ごあいさつ
すがすがしい青空の季節となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか? 冷房すら入院患者の保障できないこの国の精神病院の貧しさは今年の酷暑のなかで深刻な問題でした。夏の疲れが出て体調を崩しておられる方や、毎年恒例の秋のうつ期におびえておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか? ひたすら休息がとれることをお祈りいたします。
「ほっとできるニュースであってほしい」という要請が会員からありましたが、今回は保安処分特集号で、お読みになるのがつらくなるような記事ばかりとなってしまいました。興味のおありのところだけでも拾い読みしていただければ幸いです。次号は多様な内容でできるだけ早く出すつもりでおります。
余裕のある方は会員からの厚生労働省法務省への抗議要請呼びかけに応じていただけたらと存じます。
(略)
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警察庁へのメール
愛知 ASKA
情報を見ました。
私も障害者です。
私たち障害者には、色々な欠格条項で縛られているという息苦しさがあります。
その私たちに対して、これ以上に厳しくして、免許を取らせなくしたり、取り上げたりして、私たちの生活を、これまで以上に厳しくするつもりですか。
あなた方にはもっと他に、するべきことがあると思います。
この前テレビで見た、トラックのコンテナの積荷の問題などです。
あの問題では、年間100件以上の事故があるそうです。
そのような問題には手をつけずに、障害者には、締め付けをするなんて、あなた方は、血の通った人間ですか?
私たちにとって免許は、通院したりするなど、とても重要なものなのです。
これ以上障害者いじめはしないでください。
編注……先の国会において道路交通法の「改正」がされ、それにより、以下の者については、政令で定める基準に従い、免許を与えず若しくは保留し、又は免許を取り消し若しくは免許の効力を停止することができるとされました。これ自体おおいに問題であったのですが、私自身は何の闘いもできませんでした。
次のような法文になったところです。
一 次に掲げる病気にかかつている者
イ 幻覚の症状を伴う精神病であつて政令で定めるもの
ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であつて政令で定めるもの
ハ イ又はロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの
二 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者
三 第六項の規定による命令に違反した者
幻覚の症状を有する精神病には免許を与えないことができるという条文自体が問題であったのですが、今回警察庁がこの「政令」に関する部分の「素案」を作り意見募集をしています。以下のページにありますが、欠格条項がなくなるどころか、いま免許を持っている人間もとりあがられる可能性が高い内容です。運転免許を通した新たな保安処分制度といっていいでしょう。
インターネットと官報(?)だけで広報して、しかも期間1ヶ月では意見を聞いたということにはなりませんので、この期間にこだわる必要はないと思います。すでにこのニュースがお手元につくころには意見募集の締め切りは終わっていますが、各地の討論ご意見を窓口までお寄せくださいませ。
警察庁のホームページ
http://www.npa.go.jp/
抗議先は以下
警察庁交通局運転免許課法令係
〒100-8974 千代田区霞が関2-1-2
ファックス 03-3591-8692
以下内容抜粋を掲載いたします。
1 幻覚の症状を伴う精神病関係
精神分裂病にかかっている者については、以下のようにします。
ア 寛解の状態(残遺症状がないか極めて軽微なものに限ります。)その他の自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがないことが明らかである場合については、処分の対象としません。
イ 6月以内にアの状態になると見込まれる者については、免許の保留や効力の停止を行うこととします。
ウ ア及びイ以外の者については、免許の拒否や取消しを行うこととします。
<備考>
この結果、これまでは、精神分裂病にかかっている者については、一律に免許を受けることができないこととされていましたが、アの者については、免許を受けることができることとなります。
2 病気等に係る免許の拒否や取消しの基準等に関する規定の整備について
(1)免許の拒否や取消し等の基準等について
本年の道路交通法の改正により、障害者に係る免許の欠格事由が廃止され、その一方で、次の病気にかかっている者や身体の障害がある者等について免許の拒否や取消し等の処分ができることとされましたが、その処分の基準等について定めることとします。
(2)臨時適性検査に係る規定の整備について
1 運転免許試験に合格した者に対して臨時適性検査を行う場合の免許の保留等の基準について定めることとします。
2 一定の病気にかかっている者について、公安委員会は、必要に応じ期間を定めて、臨時適性検査を行うことができることとします。
3 臨時適性検査をやむを得ない理由がなく受けない者に対する免許の取消しや効力の停止の基準について定めることとします。
(3)免許申請書等への病状等の記載の義務付けについて(府令事項)
免許申請書や更新申請書に、病状等(例えば、過去に一定の病気にかかったことがあるかどうか、病状が悪化したかどうか)についての記載を求めることについても併せて検討しています。
(臨時適性検査について)
臨時適性検査は、試験に合格しても、通知をうければ、応じなければならない。拒否した場合、免許は交付されないか、停止される。また、病状に変化のあるものについて、一定の期間ごとに臨時適性検査を行う。(精神分裂病、てんかん、躁うつ病、筋ジス、パーキンソン病など)
(病気等の申告義務)
免許交付時、申請時に、病気、既往症、経過など病状について記載を求めることを検討している。
精神障害者の「事件」を考える
集会「“当事者からの発信”精神障害者の『事件』と医療・福祉を考える」 での発言
於 福岡市・市民福祉プラザ
主催 障害者・難病医療費問題福岡県連絡会
四方木屋
今日お配りした資料は、全国「精神病」者集団の長野英子さんの声明です。
私には説明できませんが、こういう声明もあるという事で、参考資料にいたしました。
私は精神障害者といういい方は正しくないと思います。
障害なれば何時障害をうけたか、何故障害なのかはっきりと本人に言って欲しいと思います。
それは、仕事が長続きしなかったり、社会との融合が自然にできなかったり、難しかったりしますが、私自身は障害者と言うより、いつもは現在及び過去に精神医療を使った意味で、“精神医療ユーザー”と言っています。簡単に、ユーザーと言っています。
ここでは、“いわゆる”精神障害者と言う事で、敢えて精神障害者と言います。
私は、私の体験から「事件」と“いわゆる”精神障害者の事について話させていただきます。
私は今では“くるめ出逢いの会”の世話人の一人として活動しています。元気にそれなりに、楽しい生活を送っています。
若い頃にさかのぼりますと、私は18歳の高校3年生の正月に、受験の返事を待ちきれなくて、気がすさんでいました。また今考えると恋愛を一方的にしていた事。そんな事が集中的に起こり、傷ついていました。
決して入院するまでもないのに、ちょっとした間違い(私の戸惑い)により入院致しました。
その時、若いあの頃の当直のインターンの医師によって、電気ショックをかけられて本物の精神障害者になりました。
保護室の、食事を受け取る狭い穴から、「足をばたばたした」と、一週間後に看護婦さんから聞きました。
その間の、一週間の記憶が全くありません。
私はその医師を、その時も今も恨んでいませんが、あの時の治療は果たして正しかったのか時々疑問になります。
今だったら、通院ですむと思います。
それから記憶力と論理的に考える力が衰えました。高校3年間で覚えた事などはほとんど忘れました。
どうでも良い大学には一応行きましたが、続くわけが無く、中退して本当の精神障害者として再入院しました。
合計、5回の入退院を繰り返し最後の退院より、5年になります。
今でもいろんな薬をもらっています。
精神科入院によるPTSDだと信じています。 もう一つ電気ショックによるPTSDだと信じています。
医師のつける病名は精神分裂病ですが、残念ながら私には妄想も幻聴も起きません。幾分の生きにくさと、周囲の環境が今私を必要としている事への感謝とが、混在しています。
ただ、気の短い変わった小父さんです。
暴力を教育する精神病院
私が二度目に入院した病院は、開設まもなく、看護士の暴力は日常化し、また患者同士のささいな原因から始まる喧嘩も毎日のようにありました。
私はその頃体も細く、また若く、いつもまるで暴力団の抗争みたいに、病院自体が全て暴力に支配されていました。
私はその病院内で、暴力を振るった事があります。
やはり、病院内ではナーバスになり、患者同士の揉め事もおこります。かえって、病院内のほうが私にはストレスが加わります。
ちょっとした事で暴力を振るって、保護室に入れられたことがあります。
そうして暴力をふるう事を覚えてしまいました。
3回目の入院は、家庭内暴力でした。
大した原因もなくて、私は母を足蹴にしました。止めた、今は亡くなった父を殴りました。
今でも母には済まないと思います。
死んだ父には今もって後悔しています。
思い出したくない事ですが。
その前にちょっとした事で、自転車屋さんの店員さんともみ合いになって、けがも大した事ないのに、相手は包帯グルグルまいて1週間の診断書をもらってきていて、私は事情調書を取られとことがあります。
私もかすり傷を受けたのですが、まるで私1人が事件を起こした取り扱いでした。
警察官によると、相手は私が謝ると許すとのことですが、私には見覚えのない事で謝る事はないと思い、それは拒否しました。
約1ヶ月経ったころ、警察の呼び出しがありました。
私は遠くから警察署に駆けつけました。
その時の経験から言えば、警察官は事件を捏造できると思います。
私の主張は全く受け入れずに、ただ相手の事ばかりに傾いた事をオウム返しに聞かされて、僕は「どうでも良いや」と思いました。相手側の主張どおりに、警察の作った作文に拇印を押すしか、家に帰る方法が無かったからです。
マスコミ報道の影響
今も時々精神障害者の事件がある度に考えさせられます。
事件があるたび被疑者の「名前」が出ないと、私はいろいろ考えます。
殺人事件の件数ははるかに多いのに何故精神科に通っていたかだけで、マスコミの過大な反響があるのだろうかと。
ずっと以前のM事件(いわゆる連続幼女誘拐殺人事件被告)では、何回もワイドショーを見ていると、まるで私が事件を犯したような錯覚に陥りました。
本当に辛く悲しくなります。
何故こんなに、精神科に通った、入院しただけで容疑者が特別に扱われるのかわかりません。
何度も何度も精神障害者・精神分裂病が原因で、事件を犯したような場面が覚えてしまうように何回も何回も写されます。
精神障害者に対するマスコミの過剰報道、過大報道が、一般市民が精神障害者をまるで別の人類の如く扱っているのに加担しているのに味方している。
別のいい方をすれば、何故精神障害者の事件だけ特別枠で、伝えなければいけないか、いつも事件のある度に思う事です。
それによって、精神障害者に対する世間での風当たりはますます冷たくなり、
今度のように、措置入院の解除に二人の医師が立ち会うようになったり、だんだんと精神障害者がちょっとした事をするだけで、強制的に病院に入れられます。
かえって普通の犯罪者で無期の懲役では平均15年間で刑務所をでられるのに、精神障害者というだけで、ちょっとした犯罪で処置入院されて、何年間もの入院のあげく、病院のたらい回しにあい、最後は自殺という非業の最后をとげた友人もいます。
大分の女子短大生婦女暴行事件の誤審、冤罪により当番弁護士制度ができました。
また、福岡県弁護士会が全国に先駆けて、精神科の当番弁護士制度をつくりました。
本当の精神障害者は、刑事の追及には、検事の取調べには弱いのではと思えてなりません。
普通の精神障害者は、割と簡単に罪を認めるように見えます。
精神障害者の犯罪率が、普通の人より、多いという調査結果は知りません。
かえって、カナダのバンクーバーでは少ないという調査がある事を、佐賀大学の田中英樹助教授の講演会で聞きました。
糖尿病の人が犯罪を犯しても問題にもなりません。
高血圧の人が犯罪を犯しても問題にもなりません。
何故これほど精神障害者の事件が問題になるのでしょうか?
精神障害者の殺人事件が大きく取り扱われる中で、新聞の三面の小さい記事に、一杯、普通の人の殺人事件が山ほどあります。
僕は犯罪までは至っていませんが、取調べを受けた身として、もしあの時に精神科に入院歴があることがばれたら、大変な事になったと思います。
私も措置入院されて、あげくの果てに、最近問題になっている処遇困難者病棟に強制執行されるでしょう。
決して精神障害である故に事件を起こしているわけではなく、ただ事件の犯人が精神障害者である事に過敏に、過大に反応しないようにしてください。
私の少ない事件との関わりより、以上の事が言えます。
どうも、つたない私の話を聞いてくださりありがとうございました。
皆さんにお礼がしたいです。
主催者の方々や、参加している皆さんと 一緒にいる偶然を感謝します。
どうも、ありがとうございました。
2001年9月9日
声明文
全国「精神病」者集団愛知分会0の会
2001年6月16日
6月8日大阪府池田小学校で小学生が多数殺傷された。
その残忍さと痛ましさは、全国民を強い憤りとやり場のない悲しみに陥れた。
「容疑者」といわれる者が精神病院通院中であったことから、一挙にその特殊性へと関心がそそがれ、メディアは連日そのセンセーショナルな報道を繰り返した。
その加熱ぶりは、おおむね「精神障害者」を「犯罪予備軍(犯罪を犯しやすいもの)」と決め付け、「精神障害者」の対策議論を繰り返し、隔離収容の強化が叫ばれた。
私たち「精神障害者」は、あたかも外出禁止令を受けたようにおびえ、政府・精神神経医学界・法曹界の動向に注目し始めた。
これによって6月15日法務・厚労省は重大な犯罪行為をした「精神障害者」を強制入院させる専門治療施設「特定精神病院」(刑務所に限りなく近いもの)の検討をはじめている。
マスコミを筆頭に「重大な犯罪を犯した『精神障害者』のみに限定する特定精神病院」があれば社会的合意が得られるかのような錯覚に陥っている。
この対策は「精神障害者」の「再犯防止の観点」で描かれている。
しかし、池田小学校事件では、「容疑者」といわれる者の苦悩が、精神科治療関係者に受けとめられず、その意味では医療関係者との信頼関係を問題とすべきではないか?
その点を重視し、事件の解析と解明に努力がなされるべきと私たちは考える。
そして私たちは今回の「特定精神病院」を以下批判したい。
第1に、この「特定精神病院」が整備されれば、「違法行為者」の裁判で争う権利が奪われる。まさに「裁きのない拘禁」で、前近代的・人権侵害である。
第2に、「医師」「法曹関係者」「有識者」を加えた判定機関が「特定精神病院」の入退院を判断する新たな方式が想定されると報道された。その人々によって退院が拒否されれば、「刑期のない予防拘禁であり、終身刑」にすらなりかねない。人権侵害である。
第3に、ここでは「心神喪失」者(刑法39条の不起訴処分)が、施設入所対象者になるように描かれているが、そのような重篤なものに、果たして弁明を含めて防御能力が発揮できるであろうか? 防御もできない拘禁は人権無視である。
以上「精神障害者」への隔離収容対策の動向には断固抗議し声明とする。
政府及び与党による「触法精神障害者」に対する特別立法立案に抗議するとともに「触法精神障害者」対策議論の中止を訴える
全国「精神病」者集団会員 長野英子
当事者抜きの議論は誤りの元
まず確認しておきたいことは、今回のいわゆる「触法精神障害者問題」が当事者抜きで議論され続けてきているということである。私自身は障害年金2級を受給中の精神障害者ではあるが、「重大な犯罪を犯した精神障害者」ではない。その意味で私も当事者ではない。いま肝心の当事者を完全に排除した形で論議が進められ、結論さえ出されようとしている事態、この誤りをまず確認してほしい。
そうである以上特別立法に反対するのみならず、いかなる対案提起もなされるべきでないことを私は主張する。当事者抜きの議論は直ちに中止されるべきである。
しかしながら特別立法は私たち精神障害者全体への差別であり攻撃だある側面を持っていることと、沈黙のまま特別立法を認めるわけにいかないという緊急性ゆえ、非原則的ながらやむをえず以下批判点を述べる。
保安処分としての特別立法
この6月の池田小事件以降、事件を起こした精神障害者に何らかの特別な施策、施設を、という保安処分攻撃が具体化されてきている。その中心となっている日本精神病院協会、および与党プロジェクトチームは、刑法でも精神保健福祉法でもなく特別な法律をつくり「触法精神障害者対策」を進めるとしている。内容はいまだ明確にされていないがマスコミ報道によると
①重大な犯罪を犯した精神障害者につき特別の強制入院制度新設さらに地域での強制通院等の強制医療体制を新設する
②新たな強制入院及び退院あるいは地域強制医療体制適用の判断は裁判官を入れた特別の審査機関で行う
③こうした強制入院のために特別の病棟を新設する、
などを骨子としている。
まさに保安処分体制である。
精神障害者に対する保安処分とは、すでに行った行為に対する刑罰でもなく、また本人の利益のための医療でもなく、「犯罪を犯すかもしれない危険性」を要件として予防拘禁し、「危険性の除去、再犯防止」を目的として強制医療を施すことである。
精神障害者以外はいかなる重大な犯罪を犯したとしても、「再犯の恐れ」を要件として予防拘禁されることはない。精神障害者のみが「再犯の恐れ」を要件として予防拘禁されるのは精神障害者差別にほかならない。
現行の精神保健福祉法体制化の措置入院は、「自傷他害のおそれ」を要件としていることで明らかなように、すでに保安処分制度である。現実に違法行為を行い措置入院となった患者の中には退院の望みなど一切持てず、20年30年と長期にわたり監禁され続けている患者が存在する(99年6月末調査では措置入院の30%あまりが20年以上の長期である。措置が解除になって医療保護入院となる場合もあるので、現実の拘禁はさらに長期化しているはずである)。健常者が受ける刑期以上の監禁が公然と行われている。
それにもかかわらずこの措置入院に屋上屋を重ねる形で今特別立法が作られようとしている。
一生出られない特別病棟の新設
いま現在の、建て前上は「本人の医療と保護」を目的とした措置入院の運用ですら、精神障害者に対する差別的予防拘禁として機能している実態を見れば、「再犯予防」を目的とした特別立法が何を生み出すかは明らかである。特別病棟への監禁の目的が「再犯防止」である以上審査機関は「社会にとって安全で再犯の恐れがない」と確認されるまでは拘禁を続けることになる。再犯が起こったときの非難を恐れ、審査機関は釈放には消極的にならざるを得ない。
一切希望をもてず監禁され続ける特別病棟で、医療など成立しようはずがない。絶望しきった人間を拘禁し管理するには徹底した抑圧と厳重な警備、そして秩序維持を目的とした強制医療(いや医療とは呼べない懲罰としての医療)が必要となる。薬漬けや電気ショックの横行が予想される。精神外科手術すら復活しかねない(精神外科手術は決して過去のものではない。少なくとも80年代からは強迫性障害の「治療法」としてロンドン、ストックホルム、ボストンでは精神外科手術が復活している。イギリスでは手続きも公に定められている)。
たとえ特別病棟を退所できたとしても、退所者には強烈な烙印が付きまとう。果たして地域での生活など可能だろうか? さらにいま議論されているように退所後も特別な監視体制下におかれるとしたら、人間らしい生活など一生奪われることになる。おそらく毎日こうした強制的な医療体制と付き合うだけの人生を押し付けられることになるだろう。
この保安処分を決して許してはならない。
「触法精神障害者」という用語は医療の用語ではない
「触法精神障害者」とは何らかの刑法に触れる行為をした精神障害者をさす言葉だ。これは医療の言葉ではない。医療は患者本人の苦痛を取り除き病を癒すものであり、それはその患者が犯罪を犯したか否かによって対応の変わるはずのないものである。「犯罪を犯した糖尿病患者」と「犯罪を犯していない糖尿病患者」で治療内容が異なるなどということはありえない。それはたとえ「精神病」であろうと同じである。
「精神障害者」を「触法精神障害者」と「非触法精神障害者」に分け、それによって処遇や対応を変えよう、という発想は本来医療の側から出てくるはすのないものであり、警察や検察官の「犯罪防止、再犯防止」を目的とした発想である。
精神科医はじめ医療従事者が「触法」という色眼鏡を通し患者を見るとき、すでに彼らは医療従事者の立場を捨て、警察官になるのだ。そこに医療的な関係など成り立つはずがない。
こうした用語自体が私たち精神障害者に対する差別であり、この用語が精神医療業界で使われていること自体に私は抗議する。
今なぜ「触法精神障害者」対策か?
それにもかかわらず一部の精神科医は「触法精神障害者」という言葉を乱発し対策の必要性を主張する。なぜか?
法務省と厚生労働省は昨年「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇決定及びシステムのあり方などについて」合同検討会発足させた。発足にあたっての主意書にも「精神障害者」の犯罪がとりわけ増加している事実はないことが述べられている。法務省も厚生省もそこでは現在は国が何かしようとしているのではなく精神科医から「触法精神障害者問題」が提起されている、としている。
たしかにこの間の「触法精神障害者問題」の提起は日精協を中心として精神科医から出されてきたことは事実だ。
日本精神病院協会は98年9月25日付で定期代議員会および定期総会声明として「触法精神障害者の処遇のあり方に現状では重大な問題があり、民間精神病院としても対応に限りがあることから、何らかの施策を求めたい。こうした問題に対して全く対応がなされない場合、止む(ママ)なく法第25条(検察官の通報)第25条の2(保護観察所の長の通報)、第26条(矯正施設の長の通報)等患者の受け入れについては、当分の間協力を見合わせることもありうる」と恫喝した。
また99年の精神保健福祉法見直しへの意見書の中では以下の意見が出さた。
*措置入院の解除については指定医2名で行うことにする
(国立精神療養所院長協議会、日本精神神経科診療所協会)
*措置入院の措置解除に際し、6ヶ月間の通院義務を課すことができることとする。
(国立精神・神経センター)
*措置入院を、特別措置(触法精神障害者――犯罪を犯した者、検察官、保護観察所の長等の通報による入院)と一般措置に分ける。特別措置については、国・都道府県立病院及び国が特別に指定した病院に入院することとする。
(日本精神病院協会)
*触法行為のケースの治療、措置解除時の司法の関与を明確化
(精神医学講座担当者会議)
こうした精神医療従事者団体の要請を受け、国会においても、99年の精神保健福祉法見直し議論の中で、衆参両院の委員会は法「改正」の付帯決議として「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇のあり方については、幅広い観点から検討を行うこと」旨の決議をした。
周知のごとくこの国の精神医療がさまざまな問題を抱え、いつでも誰でも、どこでも安心して受けられる精神医療にはほど遠い実態がある。それにもかかわらず、医療従事者の側は、「触法精神障害者対策」にターゲットを絞った対策を論じなければならない根拠を、どこにも明らかにしていない。
彼らの本音は精神病院経営上扱いやすい儲かりやすい患者以外は受け入れたくない、入院中や退院後何らかの事件がおきて非難されたり、賠償金を請求されるのは避けたい、ということである。そのためには「厄介な患者」をどこかほかのところに追いやりたい、入退院について医療だけで判断して責任を追及されることを避け、責任をほかのところにおわせたいということになり、措置入院の入退院判断の審査機関創設やら、「触法精神障害者」向けの特別施設新設の提言となる。
一方で現実に多くの「触法精神障害者」を引き受けている、という公立病院としても、それを根拠に予算請求して行くために何らかの制度として特別病棟の新設を要求して行くことになる。
貧しい医療費、人手不足という物理的問題を抱えてゆがんだこの国の精神医療全体を底上げすることなく、その場しのぎで特別な病棟を作れば、精神医療全体の貧しさはむしろ固定化されていくのではないか? いや87年精神保健法成立以来の精神保健予算の減額につぐ減額の状況を見れば、この貧しさは固定化されることは確実である。
国家の犯罪こそまず問われなければならない
毎年精神病院での患者虐待が告発されている。虐待を受けた本人、そして虐殺を目撃した患者の心の傷は癒しがたい。日常的に「精神科救急」の名のもとに私たちは誘拐され監禁され、身体拘束、薬漬けや電気ショックで傷つけられている。まず精神医療によって癒されるどころか、まず傷つけられている精神障害者があまた存在する。犯罪被害者のPTSD同様こうした精神医療の被害者のPTSDは深刻ではあるが問題にさえされていない。いやこうした精神医療の被害者もまた犯罪被害者である。
退院して暮らす場所がないゆえに長期入院のままで10年20年と精神病院にとどめられている患者が10万ともそれ以上とも言われている。その中には同意など一切なく精神外科手術をされた方たちもいる。手術によって新たな障害を押し付けられた方たちである。
戦争によるPTSDを発病した方たちは戦後もそのまま閉鎖病棟に入れられたままでなくなっている。戦争中戦争直後にかけてたくさんの精神病院入院患者が餓死した。
これらは歴史的構造的に精神医療体制を作り出した国家の責任である。国家としての犯罪といわなければならない。
いま現在も進行しているこうした精神障害者の人権侵害と虐待を許したままで、新たに「触法精神障害社」なる用語をもって、人を人間を予防拘禁する制度を作ることなど一切認めることはできない。精神障害者もいわゆる「重大な犯罪を犯した精神障害者」も人であり人間である。
政府は精神病者監護法(1900年)以来百年間の国家の犯罪を償うことからすべてをはじめなければならない。「医療中断防止」「早期発見早期治療」対策を言い立てる前に精神科医そして精神医療従事者は日常的な医療行為の点検と当事者からの批判に答える作業を開始すべきである。
たとえば長期入院患者の高齢化を考えただけでも、「触法精神障害者対策」など今論じている暇など本来ない。それとも国家的犯罪の被害者である、長期入院患者が死に絶えるのをこの国は待っているのか?
本来国がなすべきことをサボタージュし、目くらましとして「触法精神障害者」とレッテルを貼られた方たちをいけにえにすることを許してはならない。
2001年8月20日
保岡興治(元法務大臣自民党「触法障害者問題」国会議員プロジェクトチームメンバー)議員からの電話に思うこと
全国「精神病」者集団会員 長野英子
特別立法に反対する声明を出しましたが、与党および自民党のプロジェクトチームの議員に送ったところ、その一員である保岡氏より8月20日に電話がありました。
完璧にメモをとってはいませんしテープで録音したわけではないので、私の思い違いもあるかもしれません。それを前提での報告ですが、この間の「触法精神障害者対策」の本質がとてもよく出ている話だと思いますので報告させていただきます。
声明を読んだが問題であると思ったの説明したい、とのことで20分あまりも説明なさいましたが、彼が法相在任時代からこの問題で法務省厚生労働省が対立しているのを何とか連携させたいと、精神科医、弁護士、家族会、精神障害者当事者、犯罪被害者等の話を聞き勉強した。その上で法務省と厚生労働省のこの問題に関する合同検討会を発足させ主意書も自分が書いたとのこと。
彼が強調していたのは、
「精神医療全体の改善底上げとこの問題は車の両輪」
ここがまさに問題点だと私は考えます。昨年合同検討会の主意書を読んで私は震え上がりました。私の立場であれを読むと精神医療、保健、福祉、総体を「犯罪防止」に向け動員して行こうとしているとしか読めないのです。
彼が車の両輪といいますが、そのたとえを使えば両輪を貫く車軸は「社会防衛と治安」でしょう。「犯罪防止」のために人を予防拘禁することをいったん認めてしまえば、その精神障害者差別、そうした差別に基づく精神障害者観は精神医療および保健福祉総体を根底から規定してしまいます。
「精神医療の改善」やら「医療福祉、本人支援の充実」は無条件に「よいこと」とみなされがちですが、強制医療体制下においては、必ずしも「本人の利益」になるものではありません。ましてや「犯罪防止」のための予防拘禁制度と両輪の「精神医療の底上げ」は私たちにとって「管理監視の強化」「人権制限の強化」につながります。
私自身は強制入院制度撤廃を主張していますが、少なくとも強制入院制度下においては「精神医療福祉、本人支援の充実」は常に「人権擁護システム強化」と車の両輪でなければなりません。
保岡氏のいう「精神医療の底上げ」と「特別立法」を両輪とする体制は、恐るべき体制といわなければなりません。その車はどこに行くのでしょうか?
保岡氏はさらに「当面対象者は違法行為を行い不起訴や無罪となった人たち」であるが「やがてこの制度施設が国民の信頼を受けるようになったら、受刑出獄後の精神障害者、緊迫した犯罪の恐れがある処遇困難者、家庭内で暴力をふるう人、なども対象にしていくことも考えている」といいました。
さらに「初犯の防止も考えて行かなければならない」とも。
何度も強調しますが、私は特別立法は人を「予防拘禁」するシステムであり差別だから反対なのであって、この対象者が拡大適用されるから反対なのでも、犯罪防止に無効だから反対なのでもありません。
しかしこの特別立法が動き出そうとも、犯罪は起こり続けますし、その中に健常者も胃潰瘍の患者も精神病の患者もいておかしくありません。
特別立法が仮に施行された後、一度でもまた精神障害者による違法行為が起きたら、ただちに特別立法の対象者の拡大、強化が図られることになるのは明白です。そして「初犯の防止に無効」では意味ないということで、彼のいうもう一方の車輪である「精神医療の改善」「医療保健、福祉の充実」はより治安的社会防衛的に変化して行くことも明らかでしょう。
とりわけ今回の特別立法で導入されようとしている地域での強制医療システムは地域での精神医療保健、福祉の治安的再編に拍車をかける形に必ずなります。
精神病者監護法以来百年の誤りをいま再び繰り返さないために、特別立法新設阻止に向け全力をあげて闘いましょう。
特別立法反対の意思表明を
長野英子
現在与党は「触法精神障害者対策」のプロジェクトチームを作り、特別立法提案に向け作業中です。自民党のプロジェクトチーム9月中に案をまとめて10月2日には決定し3党プロジェクトへの段取りのようだと伝え聞きます(9月14日現在)。
臨時国会には間に合いませんが、11~12月には法案の形となり、1月の国会で上程かということです。
厚生労働省・法務省に特別立法反対の意思を、手紙、ファックス、メールで集中していただきたいと存じます。
抗議要請先
厚生労働省精神保健福祉課
〒100-8916 千代田区霞ヶ関1-2-1
メールアドレス www-admin@mhlw.go.jp
ファックス 03-3593-2008(直通)
法務省刑事局
〒100-8077千代田区霞ヶ関1-1-1
メールアドレス webmaster@moj.go.jp
ファックス 03-3592-7393(代表)
文章例
私は「触法精神障害者」とされた人たちへの特別立法、特別施設新設に反対します。特別立法は私たち精神障害者に対する差別的予防拘禁制度でありいかなる形でも認めるわけにはいきません。
なお、特別立法をめぐる動きは急速であり、2ヶ月1回のニュースでは情報提供が間に合いません。(略)
資料
精神科医療懇話会2001年6月27日付け声明の添付資料を借用。
【2-1 起訴前簡易鑑定】関連資料
1)刑法犯検挙人員に占める精神障害者の実数
(平成10年、業務上過失死傷および重過失致死傷を除く刑法犯検挙人員、犯罪白書より)
総 数
精神障害者
精神障害の疑いのある者
32万4,263
634(0.2%)
1,378(0.4%)
この数字を多いと見るか少ないと見るかは議論があろう。但し政府が出す各種資料においては、この「精神障害の疑いのある者」が含まれて見かけ上数が多くされている場合がある。実際に心神喪失や心神耗弱となる者の数は次表のとおりである。
2)心神喪失・心神耗弱者数と不起訴、裁判との関係(犯罪白書より)
年次
総数
不起訴
裁判
心神喪失
心神耗弱
心神喪失
心神耗弱
(起訴猶予)
(無罪)
(刑の減軽)
6
775
387
317
5
66
7
842
403
331
4
86
8
849
399
350
3
97
9
735
371
277
3
84
10
622
354
213
2
53
11
599
350
192
0
57
心神喪失や心神耗弱の多くが裁判ではなく起訴される前の段階で処理されていることがわかる。
3)精神障害名別処分結果(平成6年~10年の累計、犯罪白書より)
不 起 訴
裁 判
総数
計
心神喪失
心神耗弱
計
心神喪失
心神耗弱
総数
3805
3402
1914
1488
403
17
386
精神分裂病
そううつ病
てんかん
アルコール中毒
覚せい剤中毒
知的障害
精神病質
2264
259
61
309
194
150
48
2157
216
51
250
166
88
36
1323
120
30
126
71
30
8
834
96
21
124
95
58
28
107
43
10
59
28
62
12
9
2
1
1
1
1
–
98
41
9
58
27
61
12
その他の精神障害
520
438
206
232
82
2
80
覚せい剤中毒や精神病質など、通常の精神科医療の対象となりにくいものも不起訴となっている例が多いことがわかる。
4)1998年度の措置申請等と診察・入院
(厚生省統計より。数字は件数、括弧内は申請等の件数に対する割合)
申請等
非診察
措置入院
一般
414
118(.29)
231(.56)
警察官
4707
1500(.32)
2403(.51)
506(.52)
1(.09)
検察官
977
284(.29)
保護観察所
11
8(.73)
矯正施設
311
215(.69)
52(.17)
精神病院長
52
1(.02)
47(.90)
合 計
6472
2126(.33)
3240(.50)
不起訴となって検察官通報により司法から精神科医療に渡された数は977人で、資料3)に示される同年度の心身喪失・心身耗弱総数の622人を大きく上回る。この中には医療の対象ではなく起訴されるべき人が相当数含まれている。刑務所出所者等に対する矯正施設長等からの通報件数は311人であるが、本来の数より少なく、この群は受刑中の医療保障が論じられなければならない(2-2参照)。
【2-2 刑事施設における精神科医療の貧困ないしは不在】関連資料
1)新しく収容された精神障害者数(犯罪白書より)
行刑施設/うち精神障害者
少年院/うち精神障害者
精神障害者計
1996年
1997年
1998年
22433/1146
4208/169
1315
22667/1007
23101/840
4989/179
5388/209
1186
1049
2)受刑者総数に占める精神障害者の実数(犯罪白書より)
平成10年12月31日現在受刑者総数
43245人
うちM級(精神障害者)
444人(1.0%)
1)、2)より、かなりの数の精神障害者が刑務所等に収容されていることがわかる。
【2-3 精神障害者の再犯の問題】関連資料
1)平成5年出所者の再入率(平成5年から各年末までの累積の比率、犯罪白書より)
出所事由
出所人員
平成5年
6年
7年
8年
9年
10年
総 数
満期釈放
仮釈放
22036
9504
12532
6.4
11.6
2.5
23.6
34.5
15.4
34.8
46.7
25.8
41.1
53.3
31.9
45.4
57.8
36.0
48.2
60.8
38.7
2)5年再入率の年次推移(犯罪白書より)
出所年から5年間における再入率
出所事由
平成元年
2年
3年
4年
5年
総数
満期釈放
仮釈放
41.2
53.1
31.9
42.0
54.1
32.6
42.6
54.7
33.7
44.1
55.4
35.3
45.4
57.8
36.0
1)、2)は精神障害者以外も含む全出所者のデータであるが、30~60%という高い再入所率が続いており、むしろ増加傾向であることがわかる。
3)精神障害者の再犯率
昭和55年の精神障害犯罪者946例のうち、
昭和60年12月末までに再犯のみられた例 68例、7.1%
1981年(昭和56年)~1991年(平成3年) 207例が合計487件の再犯、再犯率21.9%
事件後に精神病院に入院294例、うち166例が5年以内に退院、うち21例が再犯
(山上皓ら:触法精神障害者946例の11年間追跡調査(第1報)-再犯事件487例の概要-。
犯罪学雑誌、61-5,201,1995。山上皓:司法精神医学の領域におけるいくつかの課題。日精協誌、14-9,947,1995)
4)殺人、放火における精神障害者と一般犯罪者の再犯率の比較
1980年から1991年までの再犯数の比較
総人員
再犯
再犯率
殺人
精神障害者
一般犯罪者
205
180
14
51
6.8%
28.0%
放火
精神障害者
一般犯罪者
139
185
13
64
9.4%
34.6%
(山上皓ら:触法精神障害者946例の11年間追跡調査(第1報)-再犯事件487例の概要-。犯罪学雑誌、61-5,201,1995)
3)、4)をみると精神障害者の再犯率はむしろ高くない。調査にも限界があるので、単純に結論を出すことはできないが、少なくとも精神障害者の再犯率が高いという根拠はない。
「司法精神病棟」建設をはじめ精神障害者に対する隔離・収容施策の強化に反対する声明
大阪精神障害者連絡会(ぼちぼちクラブ)
2001年7月1日
池田小学校事件の痛ましい結果について心よりお悔やみ申し上げるしかありません。
事件直後から報道の洪水の中、精神障害者全員が無関係にも関わらず、日々脅かされ、まるで精神障害者であることが悪い事であるかの様な裁かれる心境に追いやられました。
6月26日には「法務厚生労働両省は重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇において、各都道府県に司法精神医療審判所、特定精神病院を新設する方針を協議している」との報道がなれさました。
約300万人の精神障害者の人権に関わる問題であるにも関わらず、慎重な議論を抜きにして、政府は急激な展開を強行しようとしている事に大きな危倶の念を抱いています。
以下、今、議論となっている点についての見解を述べます。
(1)新法制定はまさに「保安処分」そのものです。「保安処分」とは精神障害者に対する予断と偏見に基づく予防拘禁の制度であり、許す事はできません。現行の医療と司法の責任を厳密に区別して対応することで問題の多くは解決可能です。
(2)起訴前鑑定は、約9割が不起訴処分となっています。検察は無罪判決で成績が下がる事を避けるためにこれを利用する事が多いのが事実です。ここを是正し責任能力のある人は処罰を受ける運用とすべきです。重大な犯罪を行った時の精神状態の診断については起訴前鑑定ではなく本鑑定で行われるべき課題です。
(3)他の疾患同様に治療優先で「公判の一時執行停止手続き」を取り入れ、状態が裁判の維持に耐えられる時に再手続きを行い、本人の事実認否や同様に関する意見表明が行われるよう配慮すべきです。
(4)措置入院の入院退院時のチェック機構に「精神医療審査会」をとの意見があります。
しかし、入院患者の人権を擁護する立場から、医療機関に対して第三者的にチェックを行う機関と、治安管理を視野に入れた退院のチェックとは、同じ名前でも仕事が異なります。似て非なる仕組みを合体させることは結局のところ、「精神医療審査会」を「治安管理の道具」にすることに他なりません。より冷静な議論が必要です。
(5)重大な事件を精神病の初発時起こす場合が多く見られます。また精神障害者が適切な治療を受ける環境がなく事件いたる事があります。そうした事実は地域で精神医療が安心してかかれる体制になっていない事に原因があります。現行の精神医療の底上げをはかり、人員のゆとりのあるチーム医療の提供こそ急務です。
日本の精神医療は隔離収容主義の下、安上がりで劣悪な医療体制の中、患者を長期間病院に押し込めてきました。さらに医師数は他科の1/3、看護数は2/3、でよいとする差別がまだ残っています。そうした本来解決すべき重大な人権侵害を改めようとせず、「触法精神障害者」問題のみ取り扱う姿勢は根本的に間違っています。大切な事は本人が苦悩の段階で安定した関係を築けなかった地域における教育・生活支援と医療体制のあり方の変革ではないでしょうか。私たち精神障書者が主張し実践してきた「ひとりぼっちをなくそう」こそ社会全体に問われているテ一マであり課題です。
(略)