全国「精神病」者集団ニュース 2002年4月号

2002年4月発行の「ニュース」抜粋です。

全国「精神病」者集団

ニュース


ごあいさつ

あわただしいまでに早い春の訪れでしたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

この季節は毎年体調を崩しつらい日々を送っておられる方も多いかと思います。後一月の辛抱かと思います。どうかお大事に。

国はいわゆる「精神科救急」を各地に広め強化しようとしています。他の科の救急体制とは違い、精神科の救急は私たちの求めに応じて私たちのためのものというよりは、強制的であり、社会防衛あるいは家族のために運用されているのが実態です。精神科救急のために強引に措置入院させられ、電気ショックを強制されたりひどい処遇を受け、それによりさらに追い詰められ、病状を悪化させられた例すらあります。精神科救急さえなければなかったと思える違法行為もあります。今回の保険点数の改訂では精神科救急の施設基準として、(1) 病棟の半数が保護室か個室であること(2) 都道府県の措置入院の4分の1以上を受け入れていること、があげられているそうです。

これこそ「処遇困難者専門病棟」であり、「特別病棟」「保安病棟」です。すでに実態として措置入院制度は保安処分として機能していますが、こうした機能をより近代的に、効率よく合理的に運用していこうとする動きといわざるをえません。保険点数という経済的な武器で病院をより保安処分的に再編成していこうという動きです。特別立法のみでなく、こうした国会にすらかけられない行政主導の保安処分攻撃を見逃すことはできません。都道府県にひとつの特別病棟に措置入院されて地域から切り離される動きが今後全国化し強化されていきそうです。措置入院先を選択することすらできない、つまり医者も病院も選べない今の精神保健福祉法は撤廃しかありません。

(略)

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北から 南から 東から 西から


(略)


詩集を出版

奈良 藤井わらび

私は20歳の時に躁鬱病になりました。直接のきっかけは阪神大震災です。しかし、思い返してみれば小学生の頃から心を病んでいました。私は一見「フツウの子」でしたが、軍隊式の学校でのプレッシャーに耐え切れず、心や思考は歪んでゆきました。その積み重ねが「精神病」として姿を現しただけのことでしょう。

私は発病して2年間、自分を病気だと認めるのが大変恐ろしく、病気と向き合おうとしませんでした。その結果、ただの鬱病だったのに、躁状態が発生し、大学四回生の冬、両親に連れられて大学病院へ行くことになりました。

ずっとずっとフツウに憧れ、一般企業の事務職に就くことを夢見ていたのですが、その夢も無残に崩れ去ったのでした。その後、アルバイトで生計を立てるようになりますが、夢もなく行き先もわからず、虚しく、大変苦しい日々でした。その暮らしを救ってくれたのが、吐き出すようにつけ始めた詩でした。誰も聴いてくれる人がいない、病気や生活の辛さを吐露し、それがだんだん生きる支えとなっていったのです。苦しい時には詩として表現することを考え、苦しみを紛らしました。いつか病気が治った時、この書き溜めた詩をまとめて本にするぞ!と希望を抱きながら…。

そして、2000年の春に詩集は完成しました。本として出版することはなりませんでしたが、前径書房社長の原田奈翁雄氏とおつれ合いが編集・出版をされている季刊誌『ひとりから』に一部掲載して頂くことになったのです。その年の12月号(8号)に載りました。

昨年11月ぐらいから、完全版の出版を考え、出版社をあたってみましたが反応はなく、昨年末、自費出版することを決めました。体裁は立派ではありませんが、この本によって、病気の人には仲間がいることを感じて、症状がいつかは和らぐ日が来るという希望をもってほしいです。また、病気でない人には、どんな病気なのか、どういう気持ちで過ごしているのかを知って、真の医療・治癒を考え、理解し、少しでも活動してもらえたら、と思います。

是非、詩集をお読み下さい。そして、お読み頂ける場合には、

郵便振替口座番号・00950-3-110466、加入者名義・京谷裕彰、

通信欄には著書名(『奇跡ではなくて』)と部数をお書き下さい。

定価1部1,000円、1冊だと送料240円の合計1,240円をご入金願います。

送料は、2冊310円、3冊340円。

連絡先は(略)、

メールアドレスfrieden22@hotmail.comです。よろしくお願いします。

地味な活動しかできませんが、地道にこつこつゆきたいと思っています。


特別立法制定阻止のための実行委の呼びかけ

龍眼

いわゆる「触法精神障害者」対策として特別立法が国会に上程されました。審議は法務委員会で(厚生労働委員会でもという声もありますが)、審議入りは早ければ4月上旬とも言われ、このニュースがお手元につくころには審議入りしている可能性もあります。法案が明らかになってくるにつれて、その重大な人権侵害の本質も明らかになってきました。それゆえ精神医療関係だけでなく、法律家団体も含めさまざまな団体が反対の意思表示をしているところです。しかしながら、その動きはいまだ大きなうねりとなって制定阻止の流れを作るにはいたっていないと判断します。今こうした反対の声を一つにしていくことでしか、この悪法を阻止することができないと考えます。

それゆえさまざまな違いを乗り越えてこの法律制定に反対する声を一つにしていくために緊急の実行委を作ろうという呼びかけがされております。

私自身の考え方から言うと、むしろ保安処分推進論か?といいたくなるような見解や声明を出している団体もないではありませんが、とりあえずこの法案阻止のためには、法案制定阻止の声を広げ権力にぶつけていかねばなりません。

立場も反対の根拠の違いもあることから、別紙のような表現になりました。3月23日呼びかけ人会議を経て今後の日程としては

(略)

のみが案として出ております。

これ以上精神障害者に対する隔離と差別の強化を許さないためにも、ぜひ私たちとともに討論し反対の声を上げてくださるよう訴えます。個人団体を問いません。

参加してくださる方は呼びかけ人か賛同人となっていただき、一口千円の分担金をご負担いただきます。振込先口座はまだ準備中です。連絡先は以下です。

東京都練馬区大泉町2-17-1 陽和病院労働組合気付 暫定実行委事務局

電話・ファクス 03-3924-XXXX

メール sosi-owner@egroups.co.jp

呼びかけ人賛同人になれない方も5月6日に集会でお目にかかれることを祈っております。


資料

朝日新聞特集

「心神喪失者の処遇法案」内容と焦点

<2002年3月16日朝日新聞>

「心神喪失者の処遇法案」内容と焦点

再犯のおそれどう判断

15日の閣議で、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」が決定された。「再犯のおそれ」の有無を基準に、裁判官と精神科医が入院や通院を命じ、保護観察所がケアに関与するという、これまでにない制度の導入をめざす。手続きの流れや精神医療の現状、今後の国会審議の焦点をまとめた。

新制度の流れ

★目的

法案はその目的を、心神喪失等の状態で他人に害を及ほす重大な行為をした人に対し、「継続的かつ適切な治療と、その確保のために必要な観察・指導を行うことによって、病状の改善、同様の行為の再発防止、社会復帰の促進を図る」、と定めている。

74年に法制審議会がまとめた改正刑法草案は、「保安上必要があると認められるとき」に患者を施設に収容できるとしていた。これが厳しい批判を浴びて国会提出に至らなかったことを踏まえ、今回は患者の治療と社会復帰を前面に打ち出した作りとなっている。

★対象

「重大な他害行為」とは、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ(いずれも未遂を含む)、傷害致死、傷害(軽微なものを除く)を指す。

これらの行為をした当時、①心神喪失あるいは心神耗弱で刑事責任能力が問えないとして、検察官が不起訴処分とした人②心神喪失により裁判で無罪が確定した人③心神耗弱により裁判で刑を軽くされ、執行猶予などで実際に刑に服することがなかった人--が新制度の対象となる。政府は不起訴事件などの統計から、その数は年間300~400人と試算する。

★判断機関

対象者の処遇を判断するのは全国の地方裁判所に置かれる合議体で、裁判官1人と新設される精神保健審判員1人で構成する。

同審判員は、厚生労働相から最高裁に提出された学識経験をもつ精神科医の名簿の中から、事件ごとに地裁が任命。評議のときに意見を述べる義務を負う。裁判官でない者が判断権をもって裁判に参加する、日本では初めての制度となる。

★申し立て

検察官は、継続的は治療をしなくても精神障害による再犯のおそれが明らかにないと認める場合を除き、審判を申し立てなければならない。

現行の措置入院制度では、責任能力がないとして不起訴処分となったが、措置入院の要件である「自傷他害のおそれ」はないとの理由で、治療が施されないケースがある。これに対する批判を踏まえ、原則として審判を開く仕組みにした。

★審判

申し立てを受けた裁判所はまず、対象者に鑑定のための入院を命じる。その後、決定が出るまでの間、対象者は在院しなければならない。期間は2ヵ月までで1カ月の延長が認められる。

審判には対象者、付添人(弁護士)、検察官が出席。裁判所が必要性を認めれば、精神保健福祉士らの専門家(精神保健参与員)も関与する。裁判所の許可により、被害者や家族も傍聴できる。

★決定

裁判所はまず①対象者が本当に殺人などにあたる行為をしたか②心神喪失・耗弱者であるか、の2点を判断し、当てはまらない場合は申し立てを却下する。①の判断は裁判官が担当する。

合議体は入院、通院、入・通院の必要なしのいずれかの決定をする。判断基準は「医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれ」の有無で、裁判官と精神保健審判員の意見が一致しなければならない。

★入・通院

入院決定の場合は、厚労相指定の医療機関に入院する。期間に定めはない。医療機関は、入院しなくても再犯のおそれがないと判断したら、裁判所に退院許可の申し立てをする。継続する場合は裁判所がその必要性を6ヵ月ごとに決定する。

通院決定の場合、期間は3年間で、2年以内の延長が可能とされた。保護観察所が対象者の生活環境の調整や観察・指導にあたる。専門知識をもつ精神保健観察官が中心的役割を果たす。保護観察所長は通院期間の延長や再入院の必要性があると判断したら、地裁に申し立てる。継続、延長、再入院の決定に、鑑定は必ずしも必要ではない。

★警察の介入

審判や決められた治療に対象者が従わなかった場合、裁判所は警察に「必要な援助」を求めることができる。

★対象者の権利など

対象者は弁護士を付添人に選任でき、いない場合は裁判所が必ず付けなければならない。審判で対象者や付添人は、意見陳述をしたり資料を提出したりできる。ただし、証拠調べは裁判所が職権で行うとされており、証人申請などは権利としては認められていない。

入・通院などの決定に不服があれば高裁に抗告できる。抗告権は検察官、保護観察所、入院医療機関にも付与される。

刑事処分と精神医療をめぐる現状「精神障害者」4割が起訴

検察庁の統計によると、00年までの5年間で心神喪失などにより不起訴(起訴猶予を含む)になったのは3157人、起訴されたが裁判で無罪あるいは刑を軽減されたのは383人だった。

両者を合わせた3540人の中で、今回の処遇制度が対象とする殺人、放火、強姦などの重大犯罪にあたる行為をしたのは2037人になる。

うち殺人の702人について見ると、過去10年にさかのぼって重大犯罪の前科・前歴がある人は6%、事件を起こした当時の治療状況は「治療中」と「治療なし」がほぼ半々、措置入院の経験がある人は7%、事件後の処遇では71%が措置入院、12%が懲役などの実刑--となっている。

検察庁の事件処理をめぐっては、「安易な鑑定で安易に不起訴としている」との批判がある。これに対し法務省は、00年に重大事件を起こした後、鑑定(簡易鑑定を含む)で精神障害者と診断された756人のうち、4割以上が起訴されている点をあげ、「批判は当たらない」としている。

入院300日超、医者も少なく

日本の精神医療は、病床数の多さと入院日数の長さが際立っていると批判されて久しいが、この10年をみても状態はほとんど変わっていない。

経済協力開発機構(OECD)加盟10カ国の精神病床数を人ロ1千人あたりで比べた90年の統計によると、最も多い日本が2.9床(全体で35万床)。英国が1.5床、フランスと旧西ドイツが1.3床で、最も少ない米国は0.4床だ。

60年代以降、各国が「病院中心の医療から地域福祉へ」のスローガンの下、病床数を減らしてきたのに対し、日本の病床数は戦後一貫して増加してきた。精神病院の多くが国公立の欧米諸国と違い、日本では約8割を民間病院が占める。このため、政策転換ができないまま今日に至っている。

この「隔離・収容」を中心とした精神医療政策が長期入院を生む。厚生労働省によると、欧米の平均入院日数は半月から長くても3ヵ月程度であるのに対し、日本は300日を超えている。

一般医療との格差も目立つ。100病床あたりの医師数は、一般病床が11.3人であるのに対し精神病床は2.9人。看護者数は一般46.9人に対し、精神28.5人でしかない。背景には「精神病院は一般病院よりも医師や看護師の数が少なくてもよい」とした58年の厚生事務次官通知(いわゆる「精神科特例」)がある。この特例自体は昨年廃止されたものの、格差は残っている。

「措置入院」運用に地域差

刑事責任を問えずに不起訴や無罪になった精神障害者への手当てとして「措置入院」がある。精神保健福祉法に基づく強制入院のひとつで、新しい処遇制度が導入された後も、この仕組みは存続する。

人権侵害を招きかねないだけに、法改正のたびに手続きの厳格化が図られてきた。現在では、都道府県の職員の立ち会いの下、2人以上の精神保健指定医が一致して「入院させなければ自分自身を傷つけるか、他人に害を及ぼすおそれがある(自傷他害のおそれ)」と診察した場合にのみ、入院が認められる。

措置入院の患者を受け入れている病院は、6カ月ごとに患者の症状などを都道府県知事に報告する必要があり、自傷他害のおそれがなくなった場合は、直ちに退院させなければならない、と定められている。

しかし実際には、都道府県ごとに運用面で大きな格差がある。精神病院の全入院患者に対する措置入院患者の割合(措置率)は、最も高い滋賀県が3.2%、最低の香川県が0.2%で、実に10倍以上の差がある。また20年以上入院している長期入院患者の割合は、山口県で69%に達する。一方、千葉県、京都府、大阪市などは0%だ。

「自傷他害のおそれ」の有無の医学的判断になぜこれほど違いが出るのか。厚労省は「格差は認識しているが理由は検証できていない」と話す。

鑑定困難医師ら反発も判定の基準は

裁判所の処遇決定の基礎となるのが鑑定だ。法案によると、裁判所から鑑定を命じられた医師は「継続的な医療を行わなければ、精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無」を判定しなければならない。日本精神神経学会などは「精神科医にそうした任務は担えない」と反発する。

犯行当時の精神状態の評価は通常の刑事裁判でも大きな争点になり、鑑定医によって結論が分かれる場合が少なくない。近い将来の「自傷他害のおそれ」を判断する措置入院の診察にもばらつきがあると指摘される。まして数カ月、数年先の「再犯のおそれ」をどうやって判定するのか。

制度の根幹が、実は大きな揺らぎの中にある。

人材は十分か

対象者の入院治療を行う医療機関として、厚労省は10年間のうちに全国に30の国公立病院を指定する構想をもっている。同省幹部は「専門知識を身につけた医療スタッフを手厚く配置し、早期の社会復帰を実現する理想的な精神医療を実現する」と言う。しかし現場の医師は「治療が難しい措置入院患者を受け入れている国公立病院に、予算と人手を手厚く配分するだけで、医療の中身が大きく変わるわけではない」と冷ややかだ。

ほかにも、通院命令を受けた患者を地域で支えるための福祉施設や精神保健福祉士(PSW)に優秀な人材を確保できるのか、病院-保健所-保護観察所の間の連携をどう図るのかなど、「人」を巡る課題は尽きない。

入院長期化の心配

「対象者に必要な治療をする」という目的との整合性から、法案は入院期間の上限は設けていない。通院の場合の上限は5年だが、その間も保護観察所は入院・再入院の申し立てをすることができる。

入・通院、入院継続、再入院の判断基準はいずれも「再犯のおそれ」の有無だが、再入院については、一定の住居に住むなどの決まりを守らなかっただけでも申し立ての対象となる。

また、入院継続と再入院に際しては、精神科医による鑑定は必ずしも必要とされていない。日ごろその対象者の治療にあたっていない第三者の視点が入らないまま、入・通院が長期化する懸念が指摘されている。

入院施設側が.「もはや治療することはない」と判断しているのに、裁判所が「再犯のおそれ」を認めた場合はどうか。法の趣旨を外れ、治安確保のために入院が続くことにもなりかねない。

保護観察所 機能するか

批判が強い保安処分との違いを強調するため、法案は退院後のケアを担当する精神保健観察官制度の新設を打ち出した。しかし、これが狙い通りに機能するかどうかは不透明だ。全国50カ所の保護観察所に配置するには「200人程度は必要」(与党)との声があるが、行革の流れの中、新規の大量採用は簡単な話ではない。

同観察官には精神障害者福祉に詳しい精神保健福祉士を起用することが想定されていた。だが、法案は「専門的知識に基づき、事務に従事する」と規定するにとどめ、資格を義務づけなかった。今いる保護観察官に精神福祉・保健の分野を学ばせて担当させるにしても、新年度予算案に研修などの予算措置はとられていない。

社会復帰できるのか

法案が目標とする対象者の社会復帰は、退院後の生活の場を確保できるか否かにかかっている。だが、新たな処遇制度について患者団体などは「精神障害者であり犯罪にあたる行為をしたという二重のらく印を押されることになり、差別、偏見が強まる」と懸念する。

現在でも精神科の入院者33万人のうち7万人が、帰る家がないことによる「社会的入院」とされる。新制度のもとでも地域での生活の見通しが立たなければ、この事態は変わらない。ケアにあたる人材の育成と社会復帰施設の整備。ソフト、ハード両面で課題は山積している。

その他の資料

☆ 法案そのものは厚生労働省のホームページに掲載してあります。インターネットをお使いでない方は厚生労働省にご請求くださいませ。

☆ そのほかの資料各団体の声明見解等も以下のページに掲載してあります。

全国精神医療労働組合協議会

http://www.seirokyo.com/

☆ 長野英子のページには法務委員会、厚生労働委員会の名簿が掲載されています。

多くの方の声が議員さんたちに集まることは今とても重要だと思います。

インターネットをお使いの方はぜひご自分の声を議員さんにお届けくださいませ。

なおファックス郵便のリストも準備中です。お問い合わせは窓口まで。

(略)


「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察に関する法律(案)」について

弁護士 八尋光秀

1 問題点

政府は2002年3月15日表記の法案について、国会上程の閣議決定をしたという。この法案は、新たに「精神障害者」だけに対して「隔離規定」を適用する特別立法である。この法案により国は新たにこの人たちの人生のすべての時間を閉鎖した病棟に閉じ込め、選択の余地なく治療を強いることができる、ということになる。もちろん、「一定の要件」に基づいてではある。

法案第1条の「目的」及び法案提出「理由」は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者に対して」、「その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする」という。この目的のために、期限の定めのない患者隔離とその中での治療の強制を手段とするのである(法案第42条1項1号、43条1項、45条、51条1項1号、61条1項1号)。

そのための法律要件としては「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった」こと、現に(審判時に)「精神障害者と認められる」こと、「原因となった精神障害のために再び対象行為(重大な他害行為)を行なうおそれ(以下、「再犯のおそれ」という)がある」ことの3つである(法案第37条1項、同42条1項1号)。

刑法第39条第1項は「心神喪失者の行為は、罰しない」とし、第2項は「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と定める(以下、問題を絞り込むために「心神喪失」に限って言及する)。すなわち、傷害以上のいかに重大な犯罪であっても、心神喪失の状態で行なったとされれば、例外なくすべての人は刑法第39条1項により処罰されることはない。これは近代法の原則、「法はできないことは強制しない」という責任主義によるものである。いかに結果が重大であっても、責任を完うしたとしても避けられなかったならば、国が国民を処罰することを許さない、という法原則である。

今回の法案は、国が本来刑法第39条第1項により処罰することが許されないはずの人のうち、「再犯のおそれ」が認められる「精神障害者」については無期限で閉鎖病棟に隔離収容し、治療を強制することを認めるものである。仮に「再犯のおそれ」がどれほど強く認められても、「精神障害者」でさえなければ何らの強制を受けることはない。この意味で、この法案は「精神障害者」にだけの隔離収容法の実質をもつものである。

この法案で検討されなければならないのは、「重大な犯罪はできる限り予防された方が良いかどうか」でもなければ「犯罪被害者の苦しみは筆舌に尽くし難いかどうか」でもない。「犯罪はできる限り予防された方が良い」し、「犯罪被害者の苦しみは筆舌に尽くし難い」ことには誰も何の異論もない。

検討されなければならないのは、法案は果たして法律としてもつべき正義に適っているかどうかである。法が備えるべき正当性、公平性、合理性をもっているか、科学的、客観的な根拠に基づくか、である。

患者に対して隔離医療を許容する法律が憲法に合致するかどうかを判断した判例はひとつしかない。患者隔離法は憲法違反であるとして確定したハンセン国賠訴訟である。この判決は次のように指摘する。

(隔離規定について)

入所命令や入所の即時強制のほか、「入所者には、療養所長が退所を許可しない限り、療養所にとどまるべき義務(在所義務)があると解され」、これらを隔離規定という(1、279~282頁)とした。

(隔離の必要性について)

「患者の隔離は、患者に対し、継続的で極めて重大な人権の制限を強いるものであるから、すべての個人に対し侵すことのできない永久の権利として基本的人権を保障し、これを公共の福祉に反しない限り国政の上で最大限に尊重することを要求する現憲法下において、その実施をするに当たっては、最大限の慎重さをもって臨むべきであり、少なくとも、ハンセン病予防という公衆衛生上の見地からの必要性(以下「隔離の必要性」という)を認め得る限度で許されるべきものである。」(同267頁)とした。

(患者隔離による人権制限について)

隔離規定による「ハンセン病患者の隔離は、通常極めて長期間にわたるが、例え数年程度に終わる場合であっても、当該患者の人生に決定的に重大な影響を与える。ある者は学業の中断を余儀なくされ、ある者は職を失い、あるいは思い描いていた職業に就く機会を奪われ、ある者は結婚し、家庭を築き、子供を産み育てる機会を失い、あるいは家族との触れ合いの中で人生を送ることを著しく制限される。その影響の現れ方は、その患者ごとに様々であるが、いずれにしても、人として当然にもっているはずの人生のありとあらゆる発展可能性が大きく損なわれるのであり、その人権の制限は、人としての社会生活全般にわたるものである。このような人権制限の実態は、単に居住移転の自由の制限ということで正当には評価し尽くせず、より広く憲法13条に根拠を有する人格権そのものに対するものととらえるのが相当である。」(同282頁)とした。

(患者隔離規定の違法性について)

患者の「隔離規定は、新法(らい予防法のこと)制定当時から既にハンセン病予防上の必要を超えて過度な人権の制限を課すものであり、公共の福祉による合理的な制限を逸脱していた」(同286頁)とした。

このように、患者の隔離規定に関して確定する唯一の憲法判断を示したハンセン国賠訴訟判決に従えば、本法案の患者隔離規定についても、その目的と手段の合理性と必要性が「最大限の慎重さをもって」検討され、認められなければならないことになる。

以下の点に要約できる。

①「精神障害者」だけを対象とすることの必要性及び合理性の有無。すなわち「精神障害者」は重大な犯罪をその障害ゆえに行なうと認められるか。言い換えると「精神障害者」は危険な存在か。

②「再犯のおそれ」を独自の法律要件となすことの合理性の有無。すなわち、「精神障害者」の再犯(危険性)予測は法的な認定が可能か。言い換えると再犯予測は確実にできるか。

③「患者の病状を改善し、再犯を防止し、もって社会復帰を促進する」という目的のために、患者隔離ないし通院を強制して行なう制度新設が必要かつ合理的か。すなわち、患者隔離、通院強制による精神科治療は病状改善、犯罪防止、患者の社会復帰に他に替え難い程度に有効だと認められるか。その前提としてまず治療は再犯防止等に有効か。

これらの点について、人権制限規定としての合理性及び必要性、法律概念としての確かさ、科学的根拠に基づくか、が肯定されなければならない。そうでなければ、本法案の患者の隔離規定は、らい予防法と同様に、いたずらに患者の「人格権を侵害」し、「人生被害を与える」ものとして、憲法13条に違反することになるからである。

以下に、まず、「精神障害者」が置かれている状況を素描し、検討項目としてあげた3点に言及し、最後に私見を簡単に述べたい。

2.「精神障害者」に対するこれまでの患者隔離(略)

3.「精神障害者」は危険か(略)

4.再犯は予測可能か(略)

5.治療は再犯防止等に有効か(略)

6.見 解

精神医療に限らず、医療の必要性や患者の社会的危険性を理由として、病院収容による患者の隔離、治療強制を行なうことは、厳に慎まなければならない。

現在の我国の「精神障害者」をめぐる問題は、低質の安上がりな医療を患者隔離によって維持し続けているところに主たる原因が存する。この問題の克服は、精神医療の質を一般医療の質へと格段に高めることと、今ある患者の隔離規定を見直すことから始めなければならない。

誤って信じられていることは正さなければならないし、誤った社会認識の上に立った「世論」「民意」に正当性はない。専門家はこれを是正すべき義務こそあれ、追随することは許されない。

バリアフリーを唱え、「精神障害者」の社会復帰がこれほど求められている時代は、我国においてかつてない。33万人~34万人の患者を病院収容し社会から隔離している現状において、このうえことさらに「精神障害者」に対する患者の隔離規定を新設することに正当性は見出せない。その弊害の大きさは途方もない。

最後に、この法律の国会審議のあり方に注目したい。本法案審議は、党議拘束を廃し、国会議員のひとりひとりに真摯な討議と判断が求められる課題であると思う。

ハンセン国賠訴訟判決では国会議員ひとりひとりの法的責任が問われた。いわく、法の患者隔離規定は、「患者隔離という他に比類のないような極めて重大な自由の制限を課する」ものであり、「少数者であるハンセン病患者の犠牲の下に多数者である一般国民の利益を擁護しようとするものであり、その適否を多数決原理にゆだねることには、もともと少数者の人権保障を脅かしかねない危険性が内在されている。」(1、284~285頁)とした。そもそも患者の隔離規定の合理性・必要性の判断は、立法裁量事項ではなく、国会議員ひとりひとりの人権判断を要する事項であるとされたところにあった。

本法案も同様に、患者の隔離規定の合理性・必要性の判断が問われ、立法裁量ではなく、ひとりひとりの人権判断にゆだねられなければならない事項である。少数者である「精神障害者」の人権保障を脅かしかねない隔離規定をもつ法案の審議だからでもある。党派ではなく、国会議員ひとりひとりの判断に基づく意見表明と表決が求められ、かつ、その法的責任が問われ得る課題なのである。

以 上

参考文献

1 解放出版社編 「ハンセン病国賠訴訟判決」 2001年11月15日

2 2002年3月9日読売新聞(日刊)

3 法務省 「検察統計年報」

4 法務総合研究所編 「犯罪白書」

2001(平成13)年11月30日

5 公衆衛生法規研究会編 「精神衛生法詳解」 第3版中央法規出版 1985(昭和60)年11月20日

6 厚生省保健医療局精神保健課監修 「新精神保健法」中央法規出版 1988(昭和63)年6月20日

7 大谷實著 「精神保健福祉法講義」 成文堂 1996(平成8)年7月1日

8 2002年2月1日読売新聞(夕刊)

9 2002年2月2日講演会 日本精神保健政策研究会主催

10 Henry J Steadman (吉田哲雄訳) 「危険性の予測」

精神経誌 90巻(3号) 1989年

(八尋光秀さんの論旨は非常に明快で、かつ人権という基本的な視点を私たち「精神病」者に対しても留保しない点とても勇気付けられます。長文のため大半を省略しております。全文をお読みになりたい方は窓口までご請求くださいませ…編注)


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注文先 あおば病院 富田三樹生気付 電話042-393-2881 FAX042-393-2880

メール CZX00547@nifty.ne.jp

『保安処分を許さない学習討論会・記録』 代金300円プラス送料

中島直さん(精神科医)の講演が刑事司法手続きにおける精神障害者の問題を分かりやすく説明しています。

発行 「処遇困難者専門病棟」新設阻止共闘会議

『精神保健福祉法の撤廃と精神障害者復権への道』300円プラス送料

特別立法・保安処分の対案ではなく、そして私たち「精神病」者を客体とした差別的な対策対案ではなく、真に私たちの求めるものを獲得するための指針。

久良木幹雄さんの遺稿。オープンスペース街発行

注文先 上記2冊は全国「精神病」者集団窓口まで。連絡先はニュース表紙に記載されています。


予防拘禁、不定期拘禁に反対しよう!

今法務省は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったものの医療及び観察等に関する法案」の上程(この文書がお渡りになるころには上程されてしまうかもしれませんが)を企画しています。この立法は人を予防的、不定期的に拘禁することになります。この法律は、「対象行為の防止」を理由として拘禁する悪法です。

これを阻止するために小異を捨て大同につくこととし、大規模な人々の広範な集いを立ち上げてこの悪法を阻止しようと思っています。

是非、実行委員会に参加されるようお願い申し上げます。

2002年3月27日(五十音順)

呼びかけ人

(略)



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