ごあいさつ
ご挨拶にかえて徒然なるままに。
先日、茶店で会話をしつつお茶を楽しんでいたところ、後ろの方から「私の悪口を言っているのはわかっている!店員さん、あおの人たちの悪口辞めさせてください!」という怒鳴り声が響き、一瞬して店内は沈黙に包まれた。私は、自分に向けて言われているという自覚がなかったため、誰のことかと辺りのお客さんに確認したところ、どうやら私のことだったらしい。見ると小奇麗な女性が茶店の椅子上で座ったまま飛び跳ねている。店員は、私たちに対して「勘違いしているだけですから」といい、両者に気を配る。私は、いつも通り精神病について会話をしていた。だが、精神病の人は、精神病というだけで負い目だから、「精神病」という単語を街できくと、それを自分に引き付けてしまうことがある。誰かが悪口を言っている、という「症状」は、発病してしばらく無縁であったが、2012年の春、とうとう私にも訪れたときのことを思い出す。あのとき、自分が勘違いしているだけと言い聞かせて、先ほどからこちらをちらちら見ては笑う女子高生を怒鳴り散らしたい衝動に耐えていた。それを思い出したとき、その女性に対して、すまないと思った。(桐原)
連載
大野萌子さんの思い出、つれづれなるままに その一
山本真理
産業医は船医になるのか軍医になるのか
ブラック企業が話題になっている。労働法などどこ吹く風、極端な長時間労働の強制、しかも時間外手当などないといった企業の実態がマディアをにぎわせている。これは民間だけではなくて官製ブラックなどと称されるように自治体などにも広がっているようだ。
どれだけ多くの労働者がこうした状況の中で発病しそれを理由に排除されているのか、いまに始まったことではないとはいえ、暗澹たる気分になるとともに、障害者雇用促進などという掛け声の虚しさを感じる。
先に神奈川労災職業病センターの川本浩之さんに精神障害者と労働現場というテーマで、発病した労働者が労災に認定される場合等について講演していただいた。文末のURLから講演録は文末のURLからダウンロードできる。
労働法自体が解雇自由、解雇の金銭解決などなどとその根幹が揺るがせられているが、労働安全衛生法の産業医の役割は非常に重い。
大野さんは産業医は船医になるのか軍医になるのか、と問うていた。
船医は、患者の利益のためには医療的判断により船の進路変更まで命じることができ、その点では船長以上の権限を持っている。しかし軍医はまず、兵隊を再生して戦場に戻すことがその役目で、患者の利益に奉仕するのではなくまた患者が生き延びることを目指すことも許されない。
すでに生活保護受給者はブラック企業での労働を忌避したという点で懲役忌避者などという例えが一部でされているという。
そうであれば、今精神科医が、医師が、そして何より産業医が問われているのは、船医になるか軍医になるか、という問である。
大野さんはご自分の電電公社との闘い、発病後公社のみならず労組も彼女を排除しようとした中で、徹底して席を守り続け排除を許さなかった闘い、これをまとめたいとおっしゃっておられたが、余裕のないままこれがまとめられていないことは悲しい。
私は啓蟄女
3月6日は啓蟄であった。大地が暖まり地中の虫が出てくる季節という意味だそうだ。季節の変わり目、自然界が生殖にもえあがるとき、からだの弱い者、病人はその盛り上がりについていけず体調を崩し苦しむという、中医学では春愁と言っている。
大野さんは毎年この時期体調を崩し、苦しんでいた、苦痛は新緑の季節まで続き梅雨になるまで、続いていた。
彼女は新緑を「おどろおどろしい」とまで表現していたものである。
特に啓蟄がひとつの節目で、私は啓蟄女と称しておられた。
読者の皆様もこの時期体調を崩しておられる方が多いようで、窓口にも訴えがしきりである。入院なさった方もおられる。
じっと辛抱しかないと常々大野さんも話しておられたけれど、時期を待つということしかないようでもある。
必ず梅雨はやってくる、そのことに期待することで、少しは苦痛が和らぐであろうか?
皆様くれぐれもお大事に。
病棟転換型居住系施設
2014年3月24日、全国「精神病」者集団は、「病棟転換型居住系施設」構想への反対声明を出した。
日本には、社会的入院の問題がある。社会的入院とは、一般には「入院治療が終わっても、家族・地域の福祉施設などの受け入れ先がないため退院できず、入院を続ける」、つまり「病院での長期入院」のことである。社会的入院は、治療の必要性のない者に対して健康保険を使うことの問題、患者の人権上の問題などが指摘されている。そのため、厚生労働省は、推定7万2千人の社会的入院者を退院させるため、地域移行と病床削減を狙っている。ところで、社会的入院の原因は、一般に退院後の「受け皿」がないためと考えられている。たびたび、1960年代米国の脱施設は、大量の浮浪者を生み出したとして「グループホーム」や「中間施設」の必要性の根拠とされてきた。しかし、米国と異なり生活保護制度が発達した日本においては、「受け皿」がないなどということはない。生活保護制度さえ活用していれば、多くの退院者が浮浪者とまではなり得ないのである。そのため、むしろ入退院手続きを定めた法令、すなわち、精神保健福祉法の構造と精神病院の経営上の問題との両立不可能性が退院を難しくしている状況といえる。
収入のほとんどが入院関連の民間精神科病院では、ふつうに考えると病床削減≒収入減少なので、現状の制度のもとでは病床削減は困難となる。そのため、日本精神科病院協会(日精協)では病棟をそのまま施設に転換することを提案してきた。これはどういうことかというと、精神病院の病棟を施設と位置付けることで、国にとっては病床削減により、健康保険の支出を抑えることができる、精神科病院にとっては、経営を続けることができる、という両者の思惑の妥協点なのである。日精協は、2012年5月に公表した「我々の描く精神医療の将来ビジョン」の中で、「介護精神型老人保健施設」の創設を提唱したが、これは単なる病棟の看板の書き換えにすぎなかったため、各方面から強い反発を招いた。
しかし、今になって再び「介護精神型老人保健施設」の創設をもくろむ人々が制度化議論を再燃させた。例えば、2012年衆議院選挙の自民党のマニフェストには、「142 精神保健医療福祉の推進」に長期在院者対策として「介護精神型老人保健施設」が言及されている。2012年衆議院選挙での自民党政権奪回の後、厚労大臣に日精協政治連盟の田村憲久衆院議員が就任した。しかし、オレンジプランを骨抜きにすることは出来ず、「介護精神型老人保健施設」の評価も低いままであった。
2013年6月の精神保健福祉法改正に伴い、国は「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」を定めることになり、2013年7月に「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」を設置した。その第6回検討会(10月17日)の席上で構成員から精神科病院の病棟をグループホーム、アパート、介護精神型老人保健施設等に転用できる病棟転換型居住系施設の導入が提案された。日精協の委員以外の複数の委員も賛意を示し、検討するための常設の委員会の設置が提案された。その場で「病棟転換型居住施設」と名前が変わり、具体例にグループホーム、アパートなども入っているが、「病棟転換」≒「単なる病棟の看板の書き換え」という点では、「介護精神型老人保健施設」とほぼ同じ内容を持っているといえる。当該検討会で最終的にまとめられた「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案」では、「病床を転換することの可否を含む具体的な方策の在り方について」2014年に新たに立ち上げる検討会で引き続き議論していくこととされた。
2013年11月23日には、精神障害者、精神医療従事者、法律家、学者、市民らによる「病棟転換型居住系施設」について考える会が反対の声明文を発表した。同日中に開催された、精神保健従事者団体懇談会の第7回精神保健フォーラムでは、その宣言の中で「病棟転換型居住施設」に関して「特に、改正法第41条の大臣指針を策定するための検討会で議論になっている「病棟転換型居住系施設」構想については、これが真の地域移行とは程遠い姿となる可能性が大きく、当事者の意思確認の方法等も不透明であることから、重大な危惧を表明せざるを得ません」と重大な危惧が表明された。
2014年2月3日、内閣府が3日に開いた障害者政策委員会(委員長=石川准)で、厚生労働省が病棟転換型居住系施設を提案し問題となった。 厚労省の北島智子・精神・障害保健課長が出席し経緯を説明したが、政策委員会では「障害者権利条約に反する発想だ」と異論が相次ぎ、石川委員長は「結論を出す前に意見交換したい」とした。
全国「精神病」者集団としても、次の反対声明を出した。
「病棟転換型居住系施設」構想への反対声明
私たち全国「精神病」者集団は、精神障害者個人及び団体の全国組織として、今年で結成40周年を迎える。
2013年6月、精神保健福祉法が改正され、国は「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」を定めることになり、2013年7月に「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」を設置した。第6回検討会の席上で構成員から精神科病院の病棟をグループホーム、アパート、介護精神型老人保健施設等に転用できる病棟転換型居住系施設の導入が提案された。当該検討会で最終的にまとめられた「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案」では、「病床を転換することの可否を含む具体的な方策の在り方について」2014年に新たに立ち上げる検討会で引き続き議論していくこととされた。
病棟転換型居住系施設の狙いは、表向きは入院医療の必要性がないのに長期入院している社会的入院患者の退院を促進するための段階論に位置づくものとされているが、要は精神科病院の経営に配慮しながらの健康保険費の抑制である。そこに患者の視点があるとは、到底言えない。
また、地域移行に向けた段階論として提案されたのならば、最終的な目標となる完全地域移行状態までのロードマップとその中で病棟転換型居住系施設がいかなる位置付けであるかが示されていなければならず、段階論の体をなしてさえいない。すると、単に新規に施設を提案するものに過ぎず、結果的に地域移行は見込めないといわなければならない。
そして、新規施設の設置は、施設を維持するための供給体制を必要とし、再び施設化社会へと逆行していくことになる。
障害者権利条約19条は、障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと旨を規定している。ここでいう特定の生活様式とは、障害者運動の動向から考えて当然ながら施設が含まれる。
障害者がどこで誰と生活するかを選択する機会を有することは、人権の問題である。病棟転換型居住系施設構想は、精神科病院によって制限されてきた精神障害者の地域生活の権利を、再び新規施設によって制限しようとするものである、障害者の権利を抑圧する結果を招く。
そのため、私たち精神障害者は病棟転換型居住系施設に断固として反対の意志を表明する。