全国「精神病」者集団ニュース 2013年2月号抜粋

国連憲章否定するのかと呆れた、国連障害特別報告官

12条の重要性と後見人制度の廃止を強調した

障害者権利条約委員会委員長

 

東京   山本眞理

 

11月6日日本障害フォーラム(JDF)、国連障害者の権利条約推進議員連盟の共催で、来日した国連障害特別報告官シュアイブ・チャルクレン氏の講演会が国会議員会館で開かれた。彼は、南アフリカで障害者の権利問題に取り組んできた障害当事者。2009年8月、国連経済社会理事会から第3代目の国連障害特別報告者に任命され現在に至る。

国連障害特別報告者とは「障害者の機会均等化に関する基準原則」(93年国連総会採択)が世界各国でしっかりと実施されているかモニターし、障害者の地位向上に取り組むために、世界で1人だけ選任されているもの。

彼の講演で印象的なのは、いろいろな方から日本では人権ということが非常に否定的にとらえられているという話だったが、そもそも世界人権宣言はすでに1947年のものこうした普遍的人権が日本では否定されているのか、と呆れていらしたこと。それから障害者権利条約の国内監視機関の重要性についてである。

残念ながら未だ有効なそして政府から独立した国内監視機関が作られる見込みは日本ではない。未だ一般的な国内人権機関すらできる見込みがない状態なのだ。

さらに12月6日にはJDFセミナーが国連障害者権利条約委員会の委員長ロン・マッカラム氏を招いて開かれた。障害者権利条約委員会とは国際的に条約の履行状況を監視するところであり、締約国は定期的に履行状況について政府報告書を出し審査を受けることになっている。

すでにニュースで述べているように、この委員会は再三後見人制度の廃止と強制入院の廃止を各国に提言している。当日もマッカラム氏は12条の重要性を強調し、法的能力を否定されたら、すべての権利を奪われる障害者が出てきてしまうことを強調した。会場から山本が確認として日本ではなんと後見人制度の推進に予算がつき、選挙で政党が推進法まで公約している。後見人制度推進する障害者のための団体は12条に4項があるので、12条は後見人制度を容認していると解釈しているが、どうか、質問した。マッカラム氏は4項を重要視すべきではない、12条全体を読むべきであり、後見人制度は支援された自己決定に置き換えられなければならないと回答した。

厚生労働省は来春精神保健福祉法を改悪、医療保護入院を残しかつその要件を緩和しようとしているが、そもそも医療保護入院の要件の一つ入院に同意する法的能力がない、ということ、そのことが根底的に否定されているというのが障害者権利条約であることが明白である。その意味でも強制入院制度は廃止するしかない。まず医療保護入院が廃止されるべきである。

 

第12条 法律の前における平等な承認

1 締約国は、障害のある人が、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。

2 締約国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。

3 締約国は、障害のある人がその法的能力の行使に当たり必要とする支援にアクセスすることができるようにするための適切な措置をとる。

4 締約国は、国際人権法に従い、法的能力の行使に関連するすべての措置には濫用を防止するための適切かつ効果的な保護が含まれることを確保する。当該保護は、法的能力の行使に関連する措置が、障害のある人の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反及び不当な影響を生じさせないこと、障害のある人の状況に対応し及び適合すること、可能な限り最も短い期間に適用すること、並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査に服することを確保するものとする。当該保護は、当該措置が障害のある人の権利及び利益に及ぼす影響の程度に対応したものとする。

5 締約国は、この条の規定に従うことを条件として、財産の所有又は相続についての、自己の財務管理についての並びに銀行貸付、抵当その他の形態の金融上の信用への平等なアクセスについての障害のある人の平等な権利を確保するためのすべての適切かつ効果的な措置をとる。締約国は、また、障害のある人がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。

 

第33条 国内的な実施及び監視〔モニタリング〕

1 締約国は、その制度に従い、この条約の実施に関連する事項を取り扱う1又は2以上の担当部局〔フォーカルポイント〕を政府内に指定する。締約国は、また、異なる部門及び段階におけるこの条約の実施に関連する活動を容易にするため、政府内に調整のための仕組みを設置し又は指定することに十分な考慮を払う。

2 締約国は、その法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し及び監視〔モニター〕するための枠組み(適切な場合には、1又は2以上の独立した仕組みを含む。)を自国内で維持し、強化し、指定し又は設置する。締約国は、当該仕組みを指定し又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機関の地位及び機能に関する原則を考慮に入れる。

3 市民社会、特に、障害のある人及び障害のある人を代表する団体は、監視〔モニタリング〕の過程に完全に関与し、かつ、参加する。(長瀬・川島訳より)

さてこの法的能力問題、ピンと来ないかた多いでしょうが。実は強制入院や強制医療を否定するという視点から見ても重要な条文です。治療に同意する能力がないわけがわからない人だから強制入院するんだというのが精神保健福祉法の思想、とりわけ医療保護入院の思想です。これを粉砕するためにはすべての人が法的に能力を持っていることを前提にすべての仕組みをつくり上げること、が重要となる。

ところが後見人制度のようにこの障害者は法的能力がない、後見人が本人の契約を取り消せる、となると、被後見人になっていない障害者も法的能力について疑いの目で見られ、法的能力があることを立証する義務を課せられてしまう。

たとえばニチイ学館とホームヘルパー派遣契約をするとき、私は契約に際して、法的能力を疑われ、ワーカーに立ち会ってもらわないと契約できません、と言われました。役所の担当者に連絡したところ、「だいたい事情はわかりましたのでこちらからニチイに連絡しておきます」私は何の事情かわからなくてポカン、としたけれど、折り返しワーカーから電話があって、「山本さんは障害者運動もしていて自立支援法詳しいですから一人で契約出来ます、といっておきました」とのこと。つまり誰かに私の法的能力を立証してもらわないと私は無能力推定ということなのだ。他にも1件ニチイが被後見人でもなく未成年でもない精神障害者との契約に立会人の印鑑を求めた例が報告されている。

最近もニチイの担当者から私の個人情報を区の担当から聞いていいですか?と問い合わせ「一体何を聞きたいのですか? 私の知らない私の個人情報が区にあるんですか」と聞くと「医療機関主治医、病名を聞きたい。山本さんのことを知ってケアするということになって書類を書く必要がある」とのこと、法令が求めていることではないがとのこと、めんどくさいのでそれ以上追求せずに「それなら私に直接聞けばいいことはじゃあありませんか」ニチイ「直接伺っていいかどうかわからなかったから」なんともはや、私は精神障害者だといった途端に、主治医の名前も病名も話せない人あるいは病名告知されていない人と推定されるのだ。

ことほどさように、法的能力がすべての人にあるという前提は私達の人権保障のためにもっとも重要かつ日常的に影響することなのだ。私はショートステイを使おうとしても施設側から、山本さんのことをよく知っている人と来てください、と言われたこともある。障害者福祉であるがゆえに差別的だということここにも現れている。私のことを私以上に知っている人というのは誰でしょう。そんな人いたら怖い。

今総合支援法では後見人制度利用促進事業に予算がつき、条約などどこ吹く風で差別的事業推進がすすめられている。これについては支援された意思決定も含め検討ということが総合福祉部会意見書でも障害者政策委員会の障害者計画についての意見書でも出されているが、徹底した追求が求められている。

 

運営委員会活動報告

障害者政策委員会の報告;新障害者基本計画の策定

 

新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見がだされました。

障害者政策委員会に全国「精神病」者集団運営委員の関口明彦が委員として参加していますが、2012年12月17日に、標記の意見書が旧政権に渡されました。障害者政策委員会は障害者基本法に定められた委員会であり、その職責として障害者基本計画に意見を述べると共にその執行状況を監視することとなっています。この基本計画は今年度から10年間の基本計画となります。

その後政権交代があり、この意見書がどの程度今後の障害者基本計画に反映するかどうか不安ではあります。多方面に渡る意見書ですが、いい中身でまとまっていると思います。障害者基本法1、医療、介護等【14 条】に関して以下が明記されました。

 

<新基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 以下の事項について、今後の在り方及び検証のための指標の作成もあわせ、精神医療の専門家、精神障害者及び家族に加えて、一般医療及び障害分野全般並びに地域生活に関する諸分野に精通する幅広い層の参画により、総合的に検討すること。

・ 社会的入院の解消

・ 国際的水準に見合う精神科病床の計画的削減

・ 精神医療における強制医療及び強制入院の廃止

・ 精神障害者の地域生活に必要な社会基盤の整備

・ 保護者規定の解消を始めとした家族負担の軽減

・ いわゆる精神科特例の廃止

・ 精神科病院の経営等その在り方

◎ 上記の検討に当たり、精神科病院への入院の実態及び退院後の地域生活の実態についての調査を行うこと。

◎ 家族支援を前提としない地域移行を促進するために、住まいの確保等の社会資源の基盤整備を行うこと。

◎ 関係施策及び機関の密接な連携の下、性別や年齢に配慮し、地域の身近なところで、必要な医療やリハビリテーションが提供される体制をつくること。

資料

障害者権利条約を元とし批准に向けた障害者制度改革への動き

2009年3.月5日   政府の障害者権利条約批准方針断念(JDFの意向に基づいて)

2009年8月~9月  政権交代、政府より自立支援法訴訟に関する和解申し入れ

2009年12月8日   障がい者制度改革推進本部発足

2010年1月7日      障害者自立支援法違憲訴訟原告団と国 基本合意文書締結

2010年1月12日   障がい者制度改革推進会議発足

2010年4月27日     障害者総合福祉部会発足

2010年6月7日      ※障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)

http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/pdf/iken1-1.pdf

2010年6月29日    上記第一次意見の主要部分の閣議決定

2010年11月22目   差別禁止部会の発足

2010年12月3日    いわゆる「つなぎ法」の可決成立

2010年12月17日   ※障害者制度改革の推進のための第二次意見

(障害者基本法の改正案への提言)

その1   http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/pdf/iken2-1-1.pdf

その2   http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/pdf/iken2-1-2.pdf

2011年7.月27日     障害者基本法の改正

2011年8月30日    ※障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言

-新法の制定をめざして

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sougoufukusi/dl/0916-1a.pdf

2012年2月~3月  「障害者総合支援法案」の厚労省案・与党案の公表

2012年6月20日     障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の成立

2012年7月23日    障害者政策委員会の発足

2012年9月14目    ※「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会の意見

http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/pdf/bukai_iken1-1.pdf

2012年12月17日   ※新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見

http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/pdf/kihon_keikaku/honbun.pdf

※印は、政府に対する意見書(これまでに5つのタイトルを取りまとめ)

 



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