しょうがいしゃを裏切る“障害者総合支援法改定案” 政府は、法案を取り下げよ!

しょうがいしゃを裏切る“障害者総合支援法改定案”
政府は、法案を取り下げよ!

3月1日、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」(以下、法案)が閣議決定され、国会に上程されました。2014年に日本が障害者権利条約を批准したうえでの改定ですが、その内容は、しょうがいしゃばかりではなく、国会の論議さえも裏切る代物です。
2011年8月、しょうがいしゃ団体の代表が加わり作られた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(以下、骨格提言)は、法律として生かされるはずでした。それが、2010年1月の「障害者自立支援法違憲訴訟団」との和解内容でしたし、すべてのしょうがいしゃとの約束だったはずです。
しかし、2012年6月に成立した総合支援法は、自立支援法の焼き直しに過ぎないものでした。それでも厚生労働省は、骨格提言を「段階的に実現する」と答弁してきました。また、現行の総合支援法の附則第三条には、「政府は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく・・・共生する社会の実現に向けて」検討する規定があります。しかし、法案は、こうした社会を実現する内容には全くなっていないのです。

●しょうがいしゃの隔離体制は変わらない
精神しょうがいしゃの入院患者数は32.3万人(うち1年以上の入院者は20万人)、知的しょうがいしゃの施設入所者は11.9万人、身体しょうがいしゃの施設入所者は7.3万人です。同居家族が高齢化したり死亡したりすると、施設や病院に入れられる状況が続いています。こうした隔離の場での虐待事件も横行しています。
こうした状況を変えなければ、権利条約の内容は実現されませんし、差別解消の出発点にさえなりません。
精神しょうがいしゃの他国にも類例を見ない長期入院については、国連やOECDからも批判を受けています。そして、法案のもとであるはずの社会保障審議会・障害者部会(以下、障害者部会)の報告書では、長期入院者の5万人が退院すると5万人がまた長期入院となる、との記載があります。審議の中では、5万人の退院者のうち1万1千人が死亡退院であり、1万9千人が転院や転科だという指摘がありました。
法案は、こうした深刻な事態を改善する施策が全く盛り込まれていません。

●骨格提言とは
上記のようなしょうがいしゃの状態を骨格提言では、「放置できない社会問題」と呼び、その解決のために予算を確保し、「地域基盤整備10か年戦略」を推し進める方針を提起しています。しょうがいしゃが地域社会でほかの市民と平等に暮らすため、本人の必要に応じた支援を作り出すことを求め、しょうがい種別間や地方自治体間の支援の格差をなくし、また、制度上の不備から支援を受けられない人が出ないようにしようというものです。
権利条約の具現化のためには、骨格提言の完全実現が必要なのです。

何が改善なのか全く不明な法案

●「支援の充実」は見せかけ
新たに障害福祉サービスのメニューに加えられる「自立生活援助」や「就労定着支援」は、現行の制度でもすでに行われているものです。前者は、現行の「地域定着支援」とどこが違うのでしょうか。後者は、現行の就労移行支援事業でも行われていることであり、また、障害者雇用促進法の“就業・生活支援センター”が行ってきた支援です。

事業所の情報公開についての条文も新設されていますが、すでに、ワムネットが行っている福祉サービス第三者評価のホームページ上の公開とどのような違いがあるのでしょうか。

●入院時の介助はどうなるのか
“重度訪問介護”利用者が入院した際に、慣れたヘルパーが介助を行うことができるようにするとの触れ込みがありましたが、法案に書かれているのは、介助を行う場所として、省令で定める場所、と記載しているだけです。閣議決定の際に厚労省から配られた資料によれば、入院時の介助の対象となるのは、障害支援区分6の人に限定しています。また、同資料によれば、ヘルパーの行う仕事は、医療関係者に適切な介助方法を伝えるだけの内容です。

●しょうがいじとその家族の支援は充実しない
「居宅訪問型児童発達支援」の新設が法案に入っていますが、これは、通所が困難な家庭に訪問して訓練を行うものです。
重度のしょうがいじのいる家族の問題として、障害者部会で議論されてきたのは、睡眠時間もまともに取れない家族の実態でした。これを解決するには、ヘルパー派遣、日中一次支援、移動介助などの充実だったはずです。

●事業所が増えないように規制する
児童福祉法改定の中に、「特定障害児通所支援」という規定を盛り込み、「放課後等デイサービス」などの事業所の増加を抑制しようとしています。大人の「特定障害者福祉サービス」と同様に、都道府県知事に事業所の総量抑制をさせようとしているのです。そのために、新たに都道府県の障害児福祉計画を作らせようとしているのです。
上述の「自立生活援助」も、“障害支援区分”の1や2の人をグループホームの対象者から除外するとの方向の中から出てきており、グループホームの増加を抑えようとする政策の一環です。

●介護保険制度に近づける政策に反対
骨格提言では、介護保険優先原則を改め、しょうがいしゃの制度か介護保険課を選択制にすることを求めてきました。しかし、今回の法案にそのことは全く反映されず、かえって介護保険に近づける政策ばかりがとられています。補装具にレンタル方式を取り入れたり、介護保険に移行したしょうがいしゃの利用料の一部払い戻し制度の導入は、そのために作られたものであると考えます。
この払い戻しに使われる予算は、総合支援法関連予算から支払われますが、その金額は政令で定めることとされています。閣議決定時の資料には、「一般高齢者との公平性」、「一定程度以上の障害支援区分」、「低所得者」、障害福祉を受けてきた年限など様々な条件が付けられており、払い戻しの対象者や金額が大きく絞り込まれることは明らかです。

●施行日を再来年4月としている意味は
政府の予定では、法案を今国会で通過させるのですが、施行は2018年4月としています。この施行時期は、“障害福祉サービス”事業所への時期報酬改定実施と重なり、前日の3月31日には高額な利用料や食費負担を軽減している経過措置の期限日となっています。財務省は、この経過措置の廃止を要求しているばかりでなく、利用料の増額、制度を利用できるしょうがいしゃを限定すること、家事援助を制度から切り離すか“地域生活支援事業”に移すこと、“障害支援区分”判定制度の改悪などを求めてきています。
総合支援法は、政省令を変化させることで、大きな制度改悪を可能とする構造をもっています。この約2年間の間に、政省令改悪が進められる恐れがあります。

私たちは、国会に上程されている法案を取り下げるよう、政府と全国会議員に要請します。そして、骨格提言を実現した法律の制定を求めます。
★私たちは、すべてのしょうがいしゃとその関係者に呼びかけます。地域社会から隔離された仲間を取り戻し、権利条約を具現化するために、骨格提言の完全実現を求めて闘うことを!

「骨格提言」の完全実現を求める
大フォーラム実行委員会
【連絡先】東京都世田谷区豪徳寺1-32-21スマイルホーム豪徳寺1F自立生活センターHANDS世田谷内 TEL 03-5450-2861 FAX 03-5450-2862



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