◆経済財政諮問会議の方針(「骨太の方針」)について

6月30日に、“経済財政諮問会議”の方針が閣議決定もされて発表されました。この方針の名前は以下のものです。

「経済財政運営と改革の基本方針2015 ~経済再生なくして財政健全化なし~(骨太方針)」

毎年6月に、安倍政権は、この方針を作ってきました。第二次安倍政権としては、3回目です。

以下、この方針について、骨太2015、と記します。

また、これには概要版がありますので、これを、骨太概要、と記します。

 

 

★財務省の方針との関係はどうなったか

 

「障害者」の福祉については、骨太2015では触れられていません。しかし、医療、介護保険、生活保護などの見直しについては、財務省関係の方針が表れており、これらにより、「障害者」も含めて苦しめられることになりそうです。

特に、医療について患者側として、危険性を持つ内容があります。

財務省側の表現では、「受診時定額負担」、骨太2015では、「外来時の定額負担」の導入を検討するとしています。3割から1割の窓口負担とは別に、受信するたびに一定額を支払わせようとするものです。事実上、3割負担を超えて支払わせる制度を定着させ、更なる窓口負担の増加を図ろうとするものです。

とりわけ、難病医療に指定されていない難病を抱える人=1型糖尿病、線維筋痛症などの人たちの負担は、さらに増大します。

また、財務省関係の方針では、「受信時定額負担」が導入された場合には、生活保護利用者からも、医療費の自己負担を求める、としていましたが、この導入も懸念されます。

 

財務省は、「頻回受診」を問題にしていましたが、骨太2015では、「重複受診」も問題にしています。日本の保険制度では、自由に医療機関を選べるという利点があったが、これをなくしてしまう可能性があります。これは一般の患者にとってもだが、医者との相性問題の大きい「精神障碍者」にとっては大きな問題になるのではないでしょうか。

 

  • 介護保険について

財務省の方針を受けて、次のよに記載されている。

「軽度者に対する生活援助サービス・福祉用具貸与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援事業への移行を含め検討を行う。」

財務省関係の方針では、要介護1、2の人を介護保険サービス給付の対象から外し、生活援助、住宅改修、福祉用具を自費で購入することを基本とするとなっていた。一部の補助は、自治体の地域支援事業の中で、補助がある可能性もあるが。

また、骨太2015では、「社会保障制度の持続可能性を中長期的に高めるとともに、世代間・世代内での負担の公平を図り、負担能力に応じた負担を求める観点から、医療保険における高額療養費制度や後期高齢者の窓口負担の在り方について検討するとともに、介護保険における高額介護サービス費制度や利用者負担の在り方等について、制度改正の施行状況も踏まえつつ、検討を行う。」、「あわせて、医療保険、介護保険ともに、マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みについて、実施上の課題を整理しつつ、検討する。」ともされており、利用者負担の増額を図ろうとしている。

財務省関係の方針では、利用者負担2割の対象者拡大を図るなど、やはり利用者負担の増額を狙っていた。

骨太2015では、「介護サービスについて、人材の資質の向上を進めるとともに、事業経営の規模の拡大やICT・介護ロボットの活用等により、介護の生産性向上を推進する。」

資本家らしい表現ではあるが、実際に何をもたらすのか。小規模事業者はどうなってしまうのか。

 

  • 生活保護

骨太2015では、次のように記されている。

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足下の経済雇用情勢を踏まえ、就労支援を通じた保護脱却の推進のためのインセンティブ付けの検討など自立支援に十分取り組むとともに、生活保護の適用ルールの確実かつ適正な運用、医療扶助をはじめとする生活保護制度の更なる適正化を行う。さらに、平成29年度の次期生活扶助基準の検証に合わせ、年齢、世帯類型、地域実態等を踏まえた真に必要な保護の在り方や更なる自立促進のための施策等、その制度全般について予断なく検討し、必要な見直しを行う。

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財務省のように、更新制や「正当な理由なく就労しない場合の保護費の削減」、医療費の自己負担など、具体的なことは出てこないが、実際の検討段階では、財務省の方針がたたき台として出てくることは確実だろう。

 

  • 「尊厳死」の推進

財務省関係の方針では不鮮明だったものが、骨太2015では明確にされている。

「都市・地方それぞれの特性を踏まえ、在宅や介護施設等における看取りも含めて対応できる地域包括ケアシステムを構築する。また、人生の最終段階における医療の在り方の検討を行う。」

 

★歳出削減として、「公的サービスの産業化」、「インセンティブ改革」?

 

骨太概要には、次のように記されている。

「歳出改革は、「公的サービスの産業化」、「インセンティブ改革」、「公共サービスのイノベーション」に取り組む。公共サービスの質や水準を低下させることなく、経済への下押し圧力を抑えつつ公的支出を抑制。歳出全般にわたり、安倍内閣のこれまでの取組を強化し、聖域なく徹底した見直しを進める。また地方においても、国の取組と基調を合わせ徹底した見直しを進める。」

 

  • 公的サービスの産業化

財務省関係の方針では、医療や介護の保険など公的給付の対象から外して行くことが、そうした分野の市場を産業として発展させることができる、としている。

これが歳出削減となることは明白であるが、産業として発展させると言うのはどういうことだろうか。

厚労省の調査では、昨年7月時点の調査で、「生活が苦しい」という世帯が62.4%と過去最高となったことを発表している。

骨太2015では、財務省関係ほど露骨な表現は行っていない。2か所ほど引用する。

「民間の知恵・資金等を有効活用し、公共サービスの効率化、質の向上を実現するとともに、企業やNPO等が国、地方自治体等と連携しつつ公的サービスへの参画を飛躍的に進める。また、これまで十分に活用されていない公的ストック(社会資本、土地、情報等)を有効に活用する。さらに、規制改革や公共サービス・公共データの見える化等により、新たな民間サービスの創出を促進する。」

NPOが産業化の担い手だとすると、「非営利」ということはどうなってしまうのだろうか。

「(社会保障をはじめとする公的サービスの産業化の推進)

・ 企業等が医療機関・介護事業者、保険者、保育事業者等と連携して新たなサービスの提供を拡大することを促進する。

・ 医療、介護と一体的に提供することが効果的な健康サービスや在宅医療・介護の拡大に対応した高齢者向け住宅、移送サービスなどのニーズに応じた新たなサービスの供給を拡大する。」

「在宅医療」を産業と考えているのには驚く。

高齢者向け住宅はすでに作られてきたものであり、移送サービスは、介護タクシーなどで行われてきたのだが、それが新たに発展すると言うのだろうか。

健康診断や保険請求のデータを活用した健康産業の発展ということも考えているようだが、プライバシー問題、優生主義的な活用も懸念される。

 

  • インセンティブ改革

・骨太概要

「国民一人ひとり、企業、自治体等の意識や行動の変化を促す仕組みを構築。インセンティブが十分働く仕組みとするための改革を推進。」

骨太2015では、医療や介護保険について、医療費の地域差をなくす(医療費の多い地域の医療費の削減)、健康診断の地震率、要介護認定率、一人当たり介護給付費の地域差などに注目して、地域ごとの診療報酬に差をつけること、市町村や健康保険組合などに支援金を交付することなども検討すべきであるとしている。

個人についても、1年間保険医療を受けず、健康診断なども受けているかどうかに着目して、1万円あげるとか、スポーツクラブの利用券と交換できるポイントを交付するとか、医療機関を利用せずに健康を調整することなどを進めようとしている。

これは結局、地域間格差の増大となり、必要な医療も抑制してしまうことにつながっていく。実際に次のような記述がある。

「全国一律に一定の行政サービスを保障する仕組みの下、コスト意識が希薄化し、自助自立を促す取組や公共サービス需要の膨張を抑制する取組が弱い。また、一律的なサービス提供であるため、選択肢が乏しく、創意工夫が発揮されにくい。」

各地で一律のサービスさえ提供していない現状があるのに、何を言うか、と言いたくなる。

また、自己責任論、市民の健康を維持する義務などの万円を作り出して、優生思想を煽り立てていくことになるのではないか。

 

  • 公共サービスのイノベーションとは

骨太概要には、「「公共サービスの徹底した見える化」、「エビデンスに基づくPDCAの徹底」、「マイナンバー制度の活用やITを活用した業務の簡素化・標準化」に重点的に取り組む。」と記されている。

 

★骨太2015をどう読むか

 

消費税については、2017年に10%に引き上げることは、何度も書かれている。

その上で、社会保障について、相反するような2面があると読める。このままではやっていけない、という表現と、少なくとも2018年度まではこれまでの3年間と同様の予算をつけていく、と読める部分である。以下に、概要からこうした表現を抜き出す。

  • 「財政と社会保障制度は現状のままでは立ち行かない」
  • 「歳出改革は聖域なく進める。社会保障と地方行財政改革・分野横断的な取組等は、特に改革の重点分野として取り組む。
  • 「安倍内閣のこれまで3年間の経済再生や改革の成果と合わせ、社会保障関係費の実質的な増加が高齢化による増加分に相当する伸び(5兆円程度)となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続していくことを目安とし、効率化、予防等や制度改革に取り組む。この点も含め、2020年度に向けて、社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税率引上げとあわせ行う充実等に相当する水準におさめることを目指す。」
  • 「国の一般歳出の水準の目安については、安倍内閣のこれまでの3年間の取組では一般歳出の総額の実質的な増加が6兆円程度となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続させていくこととする。地方の歳出水準については、国の一般歳出の取組と基調を合わせつつ、交付団体をはじめ地方の安定的な財政運営に必要となる一般財源の総額について、2018年度までにおいて、2015年度地方財政計画の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保する。」

 

財務省は、あくまで社会保障予算の伸びを、高齢者の人口増加の伸びの範囲に抑える、としていて、消費税での予算の充実については、述べていなかった。5%から8%にしたときにも、消費税収で増えた部分は、大部分、国債で賄われていた部分や所得税や法人税などの税金で賄われていた部分の代替えとして利用されてしまった。したがって、ほとんど充実には使われなかった。財務省は、これと同じことを10%になった時にも行おうと考えていたのではないか。

 

選挙を意識しなければならない議員や厚労省の側の巻き返しもあったのかと思う。安倍政権としては、来年の参院選も含めて、選挙で勝たないと改憲ができないということも背景にあるのではないか。

子育て関係の予算については、これとは別に、予算を確保するとしており、ほかの社会保障関係とは別扱いになっている。

しかし、その間も、制度改革は行って行く、と述べているのであり、法制度の改悪は、財務省の方針も含めて検討されるという危機意識をもっていないといけないのではないか。

2020年度までに、国債に依存せずに一般歳出を賄えるようにするのが2020年の目標とされている。そして、2018年度には、一般歳出を賄うのにあたって、5兆円程度の国債の発行に抑える目標を立てている。(5兆円程度とは、GDPの1%ということを、私なりに計算した額です)

「中長期的に、実質GDP成長率2%程度、名目GDP成長率3%程度を上回る経済成長の実現を目指す。」

というここ何年もなかった高い経済成長を前提とした方針であって、マスコミの言うように、破産する可能性が高い。そうなると、財務省のような方針が、もっとエスカレートして出てくることも予想される。

 



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