2011年橋本容子さん記者会見資料

『精神障がい者の人権』 記者会見配布資料 №1

2011/03/10

精神医療の現場で起こる人権侵害

~精神障がい者の人権と強制医療の実態~

裁 判 -『人としての尊厳を取り戻す闘い』

「上告」のご報告

原告 橋本 容子

はじめに -私の障がい

私は、「双極性気分障がいⅡ型」という疾病に罹患しています。双極性気分障がいは、「Ⅱ型」の場合、端的に言って「Ⅰ型」よりも躁が軽いという特徴があり、軽躁病相とうつ病相が相互反復します。さらに、私は「ラピッド・サイクラー」(急速交代型)と言われるタイプです。医学的にはこのラピッド・サイクラーの診断基準として、年に4回以上、躁・うつ各病相の交代があるというものですが、私の場合、年に4回どころでなくかなりの多数回で、しかもその病相の移行に要する時間も極めて短いものです。

第1 人権侵害事件 ※資料№2参照

10年余に渡る治療の敗北(背景として)

オーバードーズ…平成19年1月30日(ハルラック0.25㎜7錠 ロヒプノール2㎜9錠)

治療拒否…同1月31日 朝、社会医療法人明和会医療福祉センター渡辺病院へ救急搬送

縊首行為(自殺企図)…救急搬送を受け入れたものの、治療拒否され、何のケアも受け られず、さらに心理的に追い詰められ、同1月31日 夜、縊首行為に至る

患者の遺棄(不適切な紹介)…同1月31日、救急車にて、国立病院機構鳥取医療センターへ紹介、移送される。

医療保護入院…鳥取医療センターにおいては、医療保護入院ありき、の受入で、まともな診察もなく、同伴の父親への説明もなし

「医療保護入院」の、保護者の「同意書」に、署名を取らず

入院中、違法な隔離・身体拘束 性的辱めを受ける。

第2 裁判の経緯

平成20年 8月4日 鳥取地裁 提訴

(平成20年(ワ)第356号 慰謝料等請求事件)

9月4日 証拠保全(鳥取医療センター)

10月14日 第一回口頭弁論

↓ 第二回~第七回口頭弁論

平成22年 1月27日 第八回口頭弁論 (証拠調べ) - 弁論終結

5月31日 敗訴

6月 4日 広島高裁松江支部 控訴

(平成22年(ネ)第76号 慰謝料等請求控訴事件)

10月20日 控訴審 第一回口頭弁論

12月17日 第二回口頭弁論 - 弁論終結

平成23年 3月 2日 敗訴

3月10日 最高裁 上告 及び 上告受理の申立

第3 本訴訟の意義 (監修:訴訟代理人 大田原俊輔)

本訴訟の意義は、このような形で精神障がいのある人が裁判を起こすことがなかなかできない中での数少ない訴訟というところにあります。

我が国の200万人を超える精神障がい者は、そのうち約34万人が精神病院に入院しており、さらに、7万人(政府による、が、実際はその倍の人数であろうと言われている)が、社会的な理由で隔離され、本来は地域で生活できるにも関わらず、様々な理由で差別され、また、病院の中でも人間としての尊厳を保証されているとは思えない状況にあります。そこでは、医療機関側の勝手な理由に基づく身体拘束や濫用的な薬物投与などの人権侵害が過去に多数生じています。(資料№3参照)

本件の、鳥取医療センターでの原告への違法な身体拘束も同じ延長線上にあります。

なぜ、人権を侵害されている精神障がい者は裁判できないのか。

① 障がいのある本人が訴えるには、様々な支援が必要である。

② 精神障がいとその関連法を熟知し、訴訟を支援できる弁護士がいない。

③ 裁判所の無理解。また、差別禁止法がないことから、人権問題としての視点が判断基準に取り込まれない。

以上の3点から、勝てる可能性がほとんど無いためです。

2 1のような状況を打破するために、まず、一つ一つの裁判で勝てるという事例を作ることが必要なのです。

3 本件控訴審より、「精神保健福祉法33条(医療保護入院)は憲法違反である」と主張しました。

そもそも、33条「医療保護入院」は、「精神保健福祉法」の前身である「精神衛生法」のもとでの「同意入院」(「保護義務者」の同意による入院の意)が、言葉を変えてそのままスライドしたものと考えるのが妥当で、濫用を生みやすい法と制度の構造的問題を深く含有するものです。加えて、その運用実態を見れば、明らかに濫用がなされており、このことは、33条そのものが憲法違反であるということを示しています。

以下にその違憲性を簡略にまとめます。

①憲法13条 幸福追求権に由来する医療に関する患者の自己決定権の侵害

②憲法18条 人身の自由の侵害

③憲法31条 適正手続保証への違反

医療保護入院の手続きを定める他の条項を総合して判断した場合、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、またはその他の刑罰を科せられない」に違反する。

第4 障がいの問題を人権問題として見る視点

1 障がいの問題を人権問題として考えた場合、「障がい」の観念も再考されなければなりません。「障がい」という言葉は、狭義には、身体や精神の機能の低下に対して用いられます。これに対して、広義には、こうした意味を含みつつ、そのことが原因となって派生する生活上の困難や不自由や不利益などを包摂する概念として用いられます。広義の「問題はむしろ社会にある」という考えが人権の考え方です。

このような考え方を医療モデルから社会モデルへの転換と言いますが、裁判所はなかなかこのような考え方を取りません。そのためにも、まず、このような考え方をとったと言えるような判決をひとつひとつ取っていくことが、流れを変えることになります。

2 また、支援する側にもお願いがあります。

精神障がい者が地域で生きるということは、その独特のコミュニケーションが社会から排除されているということから精神障がいとされているという、この「社会モデル」の考え方を前提にしてもらいたいということです。

例えば、気分障害の場合、うつ状態ではならではの、事象の受け取りかた、発言の仕方があります。躁状態でも、対人期待が高すぎることによる何が当然と考えるかなどの、いずれも、いわゆる「認知のズレ」が生じます。そのようなズレが存在することを理解し、翻訳していくことが必要です。この翻訳という作業をしてもらえなかったということに、社会から排除されてきた原因があるということに気がついてもらえたらと思います。

おわりに

今回、私の身に起きた事件は、精神科の現場では、日常茶飯事と云っても過言でない事柄です。もっと酷い事例もあります。新聞報道されるような事例は患者が死亡するなどの事例であり、そこに至らない場合は表面化することもなく、また、故意に隠蔽され、社会的関心も低い中、うち捨てられ、放置されています。精神科病院は、今なおその多くが24時間鍵のかかった閉鎖病棟であり、人権侵害が発生しやすく、また発生しても顕在化しにくいという状況にあるのです。

多くの精神医療者たちは、未だに旧態然とした、閉じ込めと安易な薬物による過鎮静などで患者に対応し、それで事足れりと考えているようにしか見えません。

しかし、社会の無知、無理解、偏見と差別の中で、精神病者自身は声を上げられず、家族も押し黙ったままです。そして、一旦精神病棟に収容されれば、そこは社会から隔絶された異空間で、医師が患者に対して生殺与奪の権利の一切を握る、恐ろしい空間なのです。21世紀の現代において、このような信じられない事が、当たり前に存在する、それが精神科医療の現場なのです。

精神医療では、あくまで「医学モデル」偏重主義が横行し、さらに人権意識の低さから、患者を守るためとの理由づけで、強制医療がまかり通ってきました。

私のこの度の体験からも、安易な隔離拘束などの強制医療は、患者の人としての尊厳を粉々に打ち砕くものであり、精神病者の心を深く傷つけるものであるということを、解っていただきたいのです。

私たちが必要としている援助、ケアは、こんな事ではありません。私たちを、疾病や障がいの部分だけで見るのでなく、その人の全体像としてとらえる視点を持ってもらいたいのです。

強制医療は、私たち精神病者にとって、病状の悪化をもたらすことはあっても、何の益ももたらしません

私は、この事件の後、一度は自死を決心しました。あの時、ゴミのように捨てられ、虫けら同然の扱いを受け、「もの」として扱われた私は、完全に「人」ではなくなりました。そして、存在の意味をも無くしました。そんな私が、人でなくなった私が、どうして平気な顔をして生きていられるでしょうか。

そんな時、「奪われた人としての尊厳は、闘って取り戻すしかない」というシビアな事実を、淡々と伝えてくれる人の存在がありました。その言葉に、私は、闘うことを選びました。死ぬか闘うか、私には、この究極の選択しか無かったのです。

裁判を始めて、当然のことながら、私は医療から切り離されました。医者や病院を訴えたのですから、おそらく日本中どこへ行っても、私を治療してやろうという医療者はいないでしょう。ところが、うれしい誤算とでも云うべきか、平成20年5月に正式に法律事務所との契約が成り、提訴に持ち込み、かれこれ2年半が経過しましたが、その間、時間の経過と共に、私の病状は、明らかに軽快しているのです。裁判というストレスフルな境涯にさらされているのに、また、10年余もありとあらゆる薬物療法を試みて全く軽快せず、オーバードーズや自殺企図するほどに、絶望的様相を呈していた私の病状が、一切の医学的治療も受けずに、驚くほどの回復をみせています。

このことからも、いかに現在の精神医療が、患者の利益にならず、むしろ病状を悪化させ、社会性を奪い、自信や自己肯定感を奪っていたかということが、お解りいただけるのではないでしょうか。

医療に対してのみならず、社会全体に対しても、『障がい者』特に『精神障がい者』に対する認識を、大きく転換していただくことを希望します。

私たち精神病者の特性を、人間の多様性のひとつとしてとらえ、私たちが生きやすい社会の構築を、皆で実現する必要があると考えます。

国連『障がい者権利条約』の批准に向けて、国内法の整備(障がい者基本法の改正・差別禁止法・人権機関の設立・個人通報制など)の一日も早い実現を、願っています。

『精神障がい者の人権』 記者会見配布資料 №2

『人としての尊厳を取り戻す闘い』

裁 判

平成20年8月初旬、鳥取地方裁判所に、精神障がい者の女性(橋本さん)が訴えを起こした。

橋本さんは、精神医療の現場で行われた人権侵害事件の被害者だ。以下、その「訴状」の一部を紹介する。

「原告が本件で訴える違法行為の概要は、端的には、次のとおりである。

1 被告特定・特別医療法人明和会医療福祉センターに対しては、

① 後述するように平成19年1月30日から同月31日にかけて起きた原告の薬物多量服用に伴う救急車の利用に際し、その搬送を受け入れた渡辺病院が治療を放棄したために、原告を同病院内で縊首行為をするに至るまで精神的に追い詰めたことに対する責任を問う。

② 被告独立行政法人国立病院機構鳥取医療センターへ救急車を呼んで原告を転送するに際して、不適切な連絡(紹介)により、医療センターでの違法な身体拘束・隔離等の人権侵害惹起の責任を問う。

2 被告独立行政法人国立病院機構・同松島医師に対しては、同月31日に紹介を受け同機構の鳥取医療センターにおいて原告を受け入れた際、医療保護入院に必要な保護者の同意について、充分な説明を行わず、保護者からその場で同意書への署名も口頭での同意も取っていないにも関わらず、原告を違法に隔離・身体拘束し、男性看護師によって下着を剥ぎ取るという人権侵害を行ったことに対する責任を問うものである。」

橋本さんの背景と事件に至る経緯

橋本さんは、鳥取県鳥取市在住。「双極性気分障害Ⅱ型」、精神障がい者の女性である。

橋本さんが、本件の被告である社会医療法人明和会医療福祉センターの開設する渡辺病院に通院を開始したのは、平成8年4月のことであった。翌平成9年12月より、明和会の代表者である渡辺医師の担当するところとなり、事件の起こった平成19年1月31日に至る約9年間、ほぼ一貫して同医師の治療を受けてきた。

この間、渡辺医師は、彼女に様々な薬物療法を試みたが、それらはことごとく効果をあげず、彼女の病状は年々悪化の一途をたどった。闘病が長期化すればするほど、彼女の焦りは増して行き、希望が見えない状況の中で、ひとり苦しみもがいていた。特に、事件の3年前あたりから、社会生活はおろか、日常生活さえも壊滅的な状況となり、その状況下での彼女の心理的な切迫感は筆舌に尽くしがたいものであった。

人権侵害事件

そのような状況下で、事件は起きた。

橋本さんが薬物多量服用をしたのは、強い鬱症状のため約半年間も、自宅でひとり寝たきり状態にあったその時である。

一方、渡辺医師は、約半年間にもわたり、彼女が外来受診をしていないことなどから、彼女がおかれていた深刻な状況を長年の治療関係において知り得たにも関わらず、彼女に対して何らの救いの手を差し伸べようともせず、存在すら忘れたかのように無視し、放置していた。

彼女は、そんな渡辺医師に対して不信感を募らせながら、出口の見えない深い絶望の淵にあり、言語に絶する苦しみを味わっていた。その苦しみから、彼女は、薬を飲んだ。平成19年1月30日の昼頃のことだった。

翌1月31日、朝。彼女が救急車で搬送されたのは、渡辺病院だった。鳥取市内に住む彼女の父親に連絡が取られ、父親は病院に駆けつけた。そこで渡辺医師が父親に告げたのは、「今日は診療しません。引き取ってください」ただそれだけだった。彼女は薬物の影響下にあり、まるで酒に泥酔したような状態。実際、橋本さんには、30日の昼頃薬を飲んでからこの日31日の夕方までの記憶が無い。薬物多量服用による『ブラックアウト』である。しかし、結局、橋本さんは夕方まで外来処置室のベッドを与えられたものの、治療されることなく放置されていた。

被告明和会は、当初、橋本さんの薬物服用の事実を知らなかったと虚偽の陳述をしたが、原告側が「調査嘱託申立」によって、橋本さんを救急車搬送した、県東部広域行政管理組合・消防局長あてに、当日の救急搬送について調査を求めたところ、次の陳述では、橋本さんが薬を服用していたことは救急隊から聴取したが服用量は多量ではないので処置を必要としなかった、と、途端に主張を翻している。

夕方、再び彼女のもとを訪れた渡辺医師は、付き添っていた父親に「引き取って下さい」と重ねて言い、父親が「しかしこんな状態では…」と言っても「お帰り下さい」の一点張りで、さっさと姿を消してしまったため、父親は、為す術もなく、ただただ困惑するばかりだった。

やがて外来も終了時間となったが、橋本さんと父親は、すっかり照明も消えて人気のなくなった外来で、看護師一人が居残っていたものの、ただ途方に暮れ、その場に居続けていた。

長年の治療にも関わらず、悪化する一方の病状に対する苦しみの挙げ句に引き起こされた薬物多量服用であるのに、それに対して渡辺医師は、手を打つどころか治療拒否という、治療困難な患者を手に負えない厄介者として放り出す、医療者としてあまりに無責任な態度に出たのだ。そのことに対して、橋本さんは、その場に居座ることで精一杯の抗議の気持ちを表したのだった。

しかし、橋本さんの思いは渡辺医師に届くことはなく、10年にもわたる辛い闘病の行き着いた先は、それだった。彼女は、深い憤りとともに暗澹たる絶望に落ちていった。

そのやり場のない気持ちの発露として、発作的に彼女がとった行動は、ふと目にした処置室の片隅に置かれた数枚のタオルを、カーテンレールに結びつけ、首をくくるという行為だった。これは、直後に看護師が気付き止めたため、大事に至らなかった。

死に至るかもしれないほどの行動に走ってしまうまでに、渡辺医師の治療拒否と放り出しは、彼女を追い詰めたのであり、このような患者の行動に対して、医師には予見可能性があったと、本件訴状において、具体的な証拠を挙げ指摘がなされている。

その直後、彼女は、勝手に救急車を呼ばれ、国立病院機構鳥取医療センターに転送される。

医療センターに到着した橋本さんと父親は、診察室に通された。しかし、当直の松島医師は彼女に目もくれず、内線電話で慌ただしく指示を出しており、聞くとはなく聞こえてきたその内容から、彼女を収容するための隔離室の準備が、既にとられていることが分かった。この時、松島医師は、診察と言える行為は一切行わず、事務的に書類を記入してその複写を彼女に渡した。これらの様子と松島医師の態度から、彼女は、自分が『医療保護入院』させられると瞬時に察知し、恐怖した。それはまさに10年余に渡る闘病の結果、彼女が精神医療の現場で患者として様々の不当な処遇を見聞し且つ経験してきたことにより培われた、知識と直感力によるものだった。

診察も何もないまま、いきなり医療保護入院させようとする医師のやり方に、強い憤りを覚えた彼女は、手渡された書類を、松島医師の目の前でわざと破り捨てた。すると松島医師は、「そんなことをすると懲役3ヶ月だ!」と強い口調で怒り出し、更に、「わしは精神保健指定医だ!」と、恫喝するような調子で言い放った。

これらの言葉を聞いた時、橋本さんは、それまでの憤りが鎮まってしまうほどに呆れかえってしまった。松島医師の人権意識の低さ、患者を前にして子供だましの脅迫や権威のふりかざしを行う人間的な幼稚さに。しかし、それは同時に、この医師の前ではモラルも法も理論も封殺され、患者は絶対的な暴力で抑圧され、抵抗することは全くの無駄であると、悟ることでもあった。

実際、父親の同意もないまま、松島医師の指示の下、あっという間に数名の職員によって彼女は羽交い締めにされ、無理矢理引きずるように病棟に拉致された。さすがに複数の人間に取り囲まれて問答無用に引きずられて行くことには、強い恐怖を感じ、彼女は悲鳴をあげて父親に助けを求めたが、松島医師も職員も、黙って淡々とそれを行った。

橋本さんは、強制的に隔離室に入れられ、注射を打たれ、錠剤を飲まされ、ベッドに寝かされ、腹部と両手足を拘束具で拘束される。本人の了解どころか、父親の同意もないまま、彼女は強制的に監禁され身体拘束された。

しばらくして、男女2名の看護師がやって来て、男性看護師によって下半身丸裸にされ、紙おむつを着けられる。女性看護師はただ突っ立って見ているだけだった。橋本さんが「何故男性の看護師がいるのですか」と冷静に質問すると、女性看護師が応えて「看護師には男性も女性もいますよ!」と吐き捨てるように言った。

橋本さんが体験させられた今回の精神医療現場での驚くべき非人道的扱いは、断じて許されるべきではない。全く同意を求められることもなく強制的に自由を奪われ非人間的扱いを受けたという事実は、人権無視、人権侵害というありきたりの表現を通り越して、「ひと」の存在に対する冒涜である。

原告 橋本さんの決意

「その時、私は『ひと』ではなく『もの』に過ぎなかった。医療者たちは当たり前のように私をそう扱った。これは、精神医療の現場で「患者保護」の美名のもとに公然と行われている日常的な人権侵害のひとつである。『ひと』はその尊厳を失っては存在の意味をも失う。だから私は、闘うことを決意をした! 奪われた人としての『尊厳』を取り戻し、『ひと』として生きる意味を取り戻すために。 同時に、そうすることが、社会の人々から顧みられることもないまま、精神医療の現場であまりにないがしろにされている精神病者の人権を守ることにつながると信じるからだ。」

人としての尊厳を取り戻す闘い

橋本さんは、たった独りで「人としての尊厳を取り戻す闘い」を始めた。

まず、地元弁護士会の法律相談で相談するが、「あなたには損害はない。事件にもならないし、裁判になどならない」と門前払いの扱いだった。地元の弁護士に相手にされないのなら、日本中探してでも、精神障がい者の人権問題を理解できる弁護士を見つけようと決心し、「全国『精神病』者集団」を通じて知り得た、東京の池原毅和弁護士に望みを託した。

彼女は、渡辺病院へ事件当日のカルテ開示の請求をし、本件証拠とした幾つかの文書を入手した。それらを丁寧に調べ、父親の証言を得ながら、事件の経緯を詳細な文書に綴った。それらを携えて、単身、東京の池原毅和弁護士を訪ね、相談し、直接の紹介として、障がい者の法と人権をよく知る鳥取市の大田原俊輔弁護士と出会う。

揺るぎない人権思想と、強い意志がそこには働いている。自らの『ひと』としての尊厳を取り戻すために、巨大な権力と組織に対して一歩もひるまず、圧倒的な力の差があるにも関わらず、たった独りで闘いをつくってきた、無謀とも言えるほどの熱意。人権問題の原点が、そこにはある。

精神医療の現場で、彼女のケースのような人権侵害事象が、何故公然と行われているのか。それは、国会で十分な議論もされないまま、採決せられた『心神喪失等医療観察法』(予防拘禁法)に対するように、多くのひとの無関心と無神経さが引き起こしているとも言えよう。だから、この裁判は、橋本さん個人の問題ではなく、私達ひとりびとりの問題と考える。

「支援する会」へのご賛同のお願い

精神医療現場で起こった今回の人権侵害事象を許さない闘いを、当事者(橋本さん)だけの闘いにせず、社会全体の問題として取り組むためにも、「支援する会」は橋本さんの裁判を支援していきます。

橋本さんの『人としての尊厳を取り戻す闘い』に共感、ご賛同頂き、裁判の経過を見守ってくださることを、心よりお願いいたします。

「人としての尊厳を取り戻す闘い」を支援する会 呼びかけ人

代表: 森島 吉美 (広島修道大学 教授)

池内 まどか (社会福祉法人一条協会・高知県 事務局長)

岩田 啓靖 (曹洞宗:大寧寺・山口県 住職)

内田 博文 (神戸学院大学法科大学院 教授)

宇都宮 富夫 (八幡浜市議会 議員)

江嶋 修作 (解放社会学研究所 所長)

大久保 陽一 (いのちくらしこども宍粟市民ネットワーク代表)

金杉 恭子 (広島修道大学 教授)

鐘ヶ江 晴彦 (専修大学 教授)

川口 泰司 (山口県人権啓発センター 事務局長)

佐々木 理信 (浄土宗:真明寺・滋賀県 住職)

志村 哲郎 (山口県立大学 教授)

露の 新治 (落語家)

砥石 信 (国連登録NGO横浜国際人権センター・信州ブランチ代表)

富田 多恵子 (びわこ南部地域部落解放研究会 副会長)

林 力 (福岡県人権研究所 顧問)

福岡 安則 (埼玉大学 教授)

山崎 典子 (浜田べっぴんの会 代表)

山本 真理 (「全国『精神病』者集団」会員 ・

世界精神医療ユーザーサバイバーネットワーク 理事)

亘 明志 (長崎ウエスレヤン大学 教授)

若月 好 (精神障害者当事者会「きまぐれの会」・鳥取県民生児童主任)

「人としての尊厳を取り戻す闘い」を支援する会

【連絡先】 森島 吉美 733-0874 広島市西区古江西町20-18-507

E-mail:morisima@orange.ocn.ne.jp

「支援する会」代表 森島 吉美

『精神障がい者の人権』 記者会見配布資料 №3

「精神科事件史年表」―精神科で発覚した主な問題事件

「精神科事件史年表」(読売新聞・原昌平氏作成)から「大阪精神医療人権センター」が抽出したもので、紙面の関係で勝手ながら2000年以前については一部省略し、掲載します。

■ 精神科事件史年表

(注:訴訟や個別過誤、患者同士の刑事事件はあまり収録していない)

発覚年 病院名 所在地 主な内容
2008 12 貝塚中央病院 大阪 違法拘束中の男性患者が重体、転院先で死亡。看護職員の暴力で患者が告訴
12 東京クリニック 東京 元患者につきまとい、脅迫メール。元院長をストーカーと脅迫容疑で逮捕
11 しのだの森

ホスピタル

千葉 男性入院患者の腕をねじ上げ、骨折させたとして看護師を傷害容疑で逮捕
10 大東市の診療所 大阪 向精神薬エリミン約20万錠が不明。暴力団に売った元事務長を近畿厚生局が書類送検
8 米子病院 鳥取 男性入院患者の顔を殴ったとして看護助手を暴行容疑で書類送検(起訴猶予)
7 モリタニ

クリニック

京都 リタリン大量に使途不明。院長を近畿厚生局が書類送検(起訴猶予)
6 初石病院 千葉 火災で保護室の患者が煙を吸い死亡。看護師がカギ開けず。別の患者を放火で逮捕
6 十全病院 石川 患者ら2730人の個人情報がネット流出。職員がメモリーで持ち出していた
4 藤枝駿府病院 静岡 肺炎球菌で院内感染64人、患者4人が死亡。保健所報告は発生の約4週間後
2 光ヶ丘病院 富山 男性患者(84)が同室の男性患者(87)を殴って殺害。のち殺人容疑で書類送検
2007 12 武蔵野病院 群馬 男性看護師が男性患者の頭をけり、死なす。傷害致死で逮捕。以前から暴行
11 県立こころの医療センター 三重 面会室で交際相手の女性を絞殺、入院患者の男を逮捕
11 公立小浜病院 福井 救急搬送の男性に鎮静剤投与後、心肺停止。1年後死亡
11 片倉病院 山口 入院中の女性が病室のベッドで首を圧迫され死亡。殺人で捜査
11 東京クリニック 東京 リタリンを無診察・無資格で処方した容疑で捜索。のち院長を書類送検
10 京成江戸川クリニック 東京 リタリンの無資格処方で院長と事務員を逮捕
10 陽和病院 東京 入院中の少年(18)が男性看護師(33)を刺殺
7 松山記念病院 愛媛 患者13人からの預かり金975万円を男性職員が着服、懲戒解雇
6 しおかぜ病院 香川 入院患者が同室の患者を刺殺
5 宮城県精神医療センター 宮城 看護師が患者2人の預金312万円を着服、懲戒免職
2 東松山病院 埼玉 職員水増しで不正請求。男性看護助手が患者に暴力
1 国立・武蔵病院 東京 患者1688人分の個人情報が入った私有パソコンを医師が紛失
1 東京クリニック 東京 説明を求めた女性患者の頭を院長が壁にたたきつけ負傷。傷害で逮捕、有罪
2006 11 国立・国府台病院 千葉 PTSDの女性患者を男性医師が殴る。民事判決で認定
10 国立・賀茂精神医療センター 広島 看護師が入院患者8人の預かり金の計78万余円を着服、懲戒免職
10 国立・国府台病院 千葉 入院費など計約436万円を着服した係長が着服、懲戒免職
10 成増厚生病院 東京 保護室で患者が放火、女性患者1人死亡、4人重傷。保護室カギあけず
9 新潟県立精神医療センター 新潟 使途不明通帳が2冊(計約77万円分)が見つかる
9 国立・武蔵病院 東京 准看護師が患者のキャッシュカードを盗んで316万円を引き出し、逮捕
9 三船病院 香川 5階病棟の床下に白骨死体。02年6月に行方不明の女性患者
8 岩倉病院 京都 患者の金数百万円が不明。女性看護師長が30万円返還
7 埼玉江南病院 埼玉 准看護師が患者に暴行・負傷。法務局が勧告。傷害で略式命令
6 本舘病院 岩手 女性患者が預けた預金通帳と印鑑で事務職員が890万円を着服
6 都城新生病院 宮崎 閉鎖病棟で火災、男性1人が死亡
4 都南病院 岩手 元通院患者の女性に医師が睡眠薬を飲ませ、準強姦で逮捕、有罪
1 瀬戸内市の病院(廃) 岡山 不当な漫然長期入院・使役労働。弁護士会が人権救済勧告
2005 11 心斎橋みやまえクリニック 大阪 医師がうつ病の女性患者の家に上がり、体を触り逮捕
8 三隅病院 山口 薬剤師が向精神薬約150錠と注射器を外部へ横流し
7 行橋厚生病院 福岡 看護師2人が入院中の小5男児を殴って負傷させる
4 安田メンタルクリニック 愛知 女性の患者の胸をさわったとして院長逮捕、有罪確定
2 長崎県の病院 長崎 看護師を患者への暴行で容疑で逮捕
2004 11 西熊谷病院 埼玉 職員が女性患者に暴行、男性患者の窒息死届けず、不正請求
11 都内の病院(複数) 東京 身体拘束によるエコノミークラス症候群で5年間の4人死亡
10 土屋病院 山形 無資格の理事長や職員らが4年間、薬を調合
6 海辺の杜ホスピタル 高知 准看護師が入院患者8人の預金643万円を引き出す
1 県立友部病院 茨城 閉鎖病棟の入院患者が抜け出し凍死。鍵かけ忘れか
2003 12 岐阜県の6病院 岐阜 入院患者に掃除や配膳などの院内作業、県も容認
8 福島松ヶ丘病院 福島 作業名目で清掃作業、違法拘束、超過収容
5 三生会病院 山梨 心臓に持病の男性患者に電気ショック療法、死亡
4 松口病院 福岡 任意患者の退院拒否、電話制限、違法拘束
2002 12 上妻病院 東京 任意入院の女性患者の退院を不当に拒否
10 県立会津総合病院 福島 保護室に複数収容、電話面会制限、不正請求
8 宇都宮病院 栃木 O157に123人が集団感染、9人死亡
7 和歌浦病院 和歌山 看護助手が男性患者を殴打して死なせる
4 浜黒崎野村病院 富山 指定医の診察なく隔離、カルテ改ざん
1 豊明栄病院 愛知 男性入院患者が何者かに扼殺。違法な院内作業
2001 12 県立病院静和荘 山口 女性患者の不審死届けず。両親の面会を半年拒否
12 井之頭病院 東京 保護室で抑制中の男性患者が窒息死
8 箕面ヶ丘病院 大阪 職員水増し、違法拘束、外出制限、電話妨害
8 中間保養院 福岡 職員水増し、不正受給、超過収容
3 新門司病院 福岡 事務長が患者の金や市の補助金など9500万円着服
2 真城病院 大阪 看護士がゴルフクラブで頭を殴るなど暴行
1 宝喜クリニック 東京 女性を拘束して病院へ搬送中に窒息死(業過で有罪)
2000 11 朝倉病院 埼玉 不要な中心静脈栄養、違法拘束、病室で手術
9 県立大村病院 長崎 看護士が勤務中に女性患者と性関係
5 埼玉医大 埼玉 中3少女がビタミン併用を怠った輸液で死亡
1999 11 松口病院 福岡 患者の退院・処遇改善請求を取り下げさせる
2 多度病院 三重 インフルエンザで19人死亡。超過収容、使役労働
1998 12 平松病院 北海道 保護室に男性患者2人を入れ、1人が暴行死
11 奄美病院 鹿児島 女性患者を庭木に縛る。ニセ医師が診療
9 国立犀潟病院 新潟 違法拘束中の女性がノドに物を詰めて窒息死
1997 3 大和川病院 大阪 暴行死、違法入院・拘束、電話・面会妨害、使役労働、職員水増し、24億円不正受給
2 山本病院 高知 職員2人が女性患者の頭を壁に打ちつけ死亡
1996 11 栗田病院 長野 院長が死亡患者の預金着服、脱税、患者虐待
1995 12 皆川記念病院 神奈川 男性患者がベッドに縛られたまま流動食を詰め窒息死
1994 12 米沢市立病院 山形 精神科病棟の火災で女性患者がCO中毒死
4 越川記念病院 神奈川 患者にエアガン乱射、違法拘束、職員水増し
1993 9 湊川病院 兵庫 男性患者が何者かに暴行を受けて重傷
2 大和川病院 大阪 男性患者が院内で暴行を受け不審死
1992 6 河野粕屋病院 福岡 電気ショックで82年に患者2人死亡。不当な強制入院
1989 5 河野病院 福岡 違法な入院・拘束、看護士が電気ショック
1986 10 根岸病院 東京 自殺を病死に工作、処方箋の記入を部外に大量発注
5 青葉病院 東京 職員水増し、使役労働、違法拘束
1985 10 青梅成木台病院 東京 乱脈経理、患者の金を理事長らが着服、不要入院
7 吉沢病院 東京 無資格の看護職員が注射やレントゲン
7 大多喜病院 千葉 入院患者の急死、違法入院など
4 厩橋病院 群馬 看護士が患者を殴って頭の骨を折る
1984 10 青山病院 広島 火災で患者、看護婦ら6人焼死
3 宇都宮病院 栃木 患者が職員らのリンチで死亡。院長らが患者虐待、使役労働、無資格診療、違法解剖
1982 6 鴨島中央病院 徳島 患者8人が集団脱走、うち2人は連れ戻されたあと自殺
1980 9 高岡病院 姫路 ガラス店や鉄工所で作業療法と称して低賃金労働
1 大和川病院 大阪 看護人が男性患者に暴行、死なす


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