2003年3月発行の「ニュース」抜粋です。 一般定期購読は有料(年6回程発行1年分5000円)です。(病者である会員の購読は送料も含めて無料となっております。)
全国「精神病」者集団
ニュース
ごあいさつ
春先の体調を崩しがちな時期です。皆様いかがお過ごしでしょうか?
先の見えない苦しみの中でうめいている仲間からの訴えも多くなっています。
青葉若葉の季節が一段落するまでの苦痛を毎年語る仲間もいらっしゃいます。
まずこの時期を皆様が無事に過ごされることをお祈りいたします。
窓口係山本がこの法案廃案闘争、転居という生活実態の中で、多忙を極め疲弊もあり、お手紙へのお返事などが遅れがちになっていることをお詫びいたします。
「心神喪失者等医療観察法案」の参議院での審議が3月末にも始まろうとしています。
衆議院を通ったということはもう成立だといわんばかりに、法案を前提とした予算も組まれています。参院法務委員会では与党は一番にこの法案を審議しようとしているという情報もあります。
今回のニュースは「心神喪失者等医療観察法案」の動きにあわせた号外として、法案関係のみのニュースとなっています。ご投稿もたくさんいただいていますが、掲載できずにおります。いま少しいつものニュースはお待ちいただけますようお願いいたします。なお「法案」関係の資料その他ご希望の方は窓口までご請求下さい。同封の2.9集会報告のうち今後のスケジュールその他のお問い合わせも窓口まで。インターネットをお使いの方は長野英子(http://www.geocities.jp/jngmdp/)のページに随時情報が掲載されます。
注目!
全国「精神病」者集団の連絡先が変更となりました。
お手紙ニュースなどのあて先変更をよろしく。
★お手紙、各地のニュース、住所変更、ニュース申し込みはすべて
〒105-0004 東京都港区新橋2-8-16 石田ビル4階 救援連絡センター気付
絆社ニュース発行所
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(略)
今後の「心神喪失者等医療観察法案」廃案に向けた闘争スケジュール
2月16日の2.9全国集会実行委の総括会議が開かれ、2.9実行委としてはいったん解散するが、参議院での法案審議に向け新たに実行委を広範に呼びかけ廃案闘争を継続使用ということになりました。広く賛同人を募り実行委を作り、とりあえず以下のスケジュールで活動していこうということになりました。未定のスケジュールのお問い合わせは2.9集会実行委連絡先まで。
★第1回実行委会議
多くの方に参加していただき、それぞれのご意見アイディアを取り入れたいと考えております。ぜひご参加を。
日時 3月6日(木) 午後6時半より
場所 文京区シビックセンター 地下2階会議室
交通案内
営団地下鉄丸の内線・南北線後楽園駅 徒歩0分(直結)
南北線からは地下からエスカレータで直結。
丸の内線からは歩道橋か横断歩道を渡ります。1分で着きます。
都営地下鉄三田線・大江戸線 春日駅徒歩0分(直結)三田線では神保町寄り出口が一番近く、地上に出てから1分で着きます。
大江戸線の方は地下からエレベータをご利用下さい。
★署名の取り組み
集会でも配布した「法案」廃案に向けた署名を取り組んでおります。参議院議長と法務委員会委員長あて署名です。
署名用紙をご希望の方は以下連絡先にお申し出下さい。
自律支援センターさぽーと
以下のサイトからもダウンロードできます。
http://www.geocities.jp/jngmdp/
★参議院議員会館での院内集会
廃案の声を集めて国会議員に訴えましょう。多くの方のご参加を!
当日はロビーで集会参加の入館票を配りますので、それを受け取って入館してください。
日時 3月26日 13時から16時
場所 参議院議員会館 第3会議室
地下鉄丸の内線・千代田線 国会議事堂駅前 下車
地下鉄有楽町線 永田町 下車
★4.20全国集会
「心神喪失者等医療観察法案」の参院での審議中と予測されます。全国の仲間の声を集め、予防拘禁法を廃案へ!
日時 4月20日(日) 午後1時半会場 2時より4時半まで
集会後交流会を予定
4月21日(月) 国会議員に向けた行動(予定)
場所 幡ヶ谷区民会館
渋谷区幡ヶ谷3-4-1 電話03-3377-6203
交通機関 京王新線 幡ヶ谷駅下車 徒歩5分
新宿駅から京王新線二つ目(約5分)京王線ではないのでお間違えのないように
京王新線幡ヶ谷駅北口を出て、左に曲がる。そこから3本目の路地(角がガソリンスタンド)を左に曲がると、6号どおり商店街、その商店街を道なりにすすむと、水道道路に出る、信号を渡って左に曲がったところから約50メートル
「つぶせ!予防拘禁法 2.9全国集会」報告集
各地から参加した精神病者の声
悪法許せない佐賀の四方木屋です。2、9の全国集会は、私は生まれて初めての感激と言いがたい興奮を感じました。前日の交流会は全国の活動家たちが集い、終わるのが残念なほど新鮮さと、新しい出逢いでした。 (四方木屋 佐賀)
いまが時だ。俺達の未来は「法」や「医療」ではなく、俺達自身が決める。
いまが時だ。勝ち負けではなく、ひとりひとりが、いま・ここでやれることを試してみよう。
いまが時だ。システムにつながれた俺達の人生と魂を奪い返そう。
(Y 「心神喪失者法案」の廃案を求めるみやぎ実行委員会)
泉会は、ピアカウンセリングが中心で、対外的には、運動を起こさない方針ですが、今回の呼びかけで参加して、全国レベルの他の患者団体の人達のパワフルさには感激しました。
(C 心の泉会)
「普通」という言葉の思い込みがあると思います。やさしさを考えることはとても大切なことだと学びました。やさしく生きるためには、何か問題があったときには、闘うことも大切なことと全国から集まった、数百人の方から教えられました。
(S 松ぼっくりの会)
「私たちは精神障害者である前に人間である」のアピールが一番心に残りました。私たちが日常的に人権弾圧されている実態に黙っていてはいけない。
(F 松ぼっくりの会代表世話人)
欠格条項、精神科特例はそのままで! ますます偏見差別を助長する悪法断固反対! 国会議員よ! なぜごり押し急ぐのか! 精神病者の目線はるか上にいるからだ! 「一度でも、精神病院に体験入会してみなさい」
(F 松ぼっくりの会)
2.9集会では多くの仲間と意見交換が出来て充実した一日でした。ダメ連の店「あかね」においては色々な障害者対策等が飛び交い勉強させていただきました。
(F・33歳 統合失調症)
ハルシオンの下村です。集会の半ば、30分6曲も僕らの唄に心を傾けてくれてありがとう!
また上京して、抗議運動に全力投球したいので、よろしく!
保安処分・粉砕! 新法・阻止! (S 大精連)
反戦運動が世界で盛り上がってきています。この新法を成立させてしまうことは政治家統制の第一歩となってしまう。ここで「ノー」と主張することが私の反戦運動なのだと思いました。みんなとの連帯感をかみ締めながら、帰途につきました。
(K こらーるたいとう)
2.9集会に参加して、私にとって一番の収穫は「私は一人ぼっちじゃない」ということを実感できたこと。全国から駆けつけた仲間と共に力一杯叫んだ「精神障害者は街で生きるぞ!」というシュプレヒコールが胸にしみます。支えあう仲間がいれば病気も差別も怖くない。 (ペンネーム 大津太郎)
発病から30年、家族を失い一人密やかに悶え、のた打ち回って生きてきた私にとって、カミングアウトという世界があることさえ知りませんでした。交流会で全国から集まってきた多くの仲間の話に目を覚まされました。疲れましたが、私の人生を変えた2.9集会でした。 (S 京都)
私は2・9集会もさることながら2・8,2・9交流集会で全国の仲間と連帯感を持てたことが大きな勇気になりました。全国に散在している病者ですが、自ら奮闘していくことが市民との連帯につながる道だと思います。
(S 「心神喪失者法案」の廃案を求めるみやぎ実行委員会)
2.9 集会はさすが、全国のエンパワメントを得た方達と思って来ました。ただ、力を得たのも、その影には色んな人の力が沢山合っての事と思いつつ帰って来ました。
(K めざめの会・日本てんかん協会宮城支部)
この法案は政府と厚生労働省における精神障害者への棄民政策をもとにしたものであり、現に精神障害者に対する差別・偏見をさらに助長するものであり、地域精神医療に向いていたものが、隔離・収容にもどるのではと危惧する。
(いこいの場ひょうご一同)
参加してくださった多くの仲間のごく一部の方の声です。
メッセージは到着順です。
「つぶせ!予防拘禁法 2.9全国集会」報告
2月9日東京飯田橋のシニアワークセンターで、「心神喪失者医療観察法案」廃案に向けて全国集会が220名の参加を持って開催された。
それに先立ち前日は各地から駆けつけた「精神病」者仲間を中心に身体障害者、「精神病」者家族、精神病院労働者、その他30名あまりで宿泊場所の早稲田奉仕園において交流会。9日当日も午前中はシニアワークセンターで「言いたい放題交流会」と称し、60名余りが参加、法案に関するグループと、精神医療、福祉、作業所、地域について、のグループの二つに分かれ、参加者から日頃の言いたいことが率直に出され、熱心な意見交換がなされた。確実に各地で「精神病」者の運動が根付いてきており、それぞれが独自の多様な動きをしていることが印象に残った。しかし同じ県内ですら、それぞれの動きが孤立して線としてすらつながっていない現状は共通していた。
一方で作業所や精神医療を巡っては当事者というより行政の都合で作業所の建物が作られそこに自治体職員が天下りしている現状や、精神病院内で移動するだけで退院社会復帰となる福祉ホームB型の実態、精神科医や精神障害者福祉など専門家たちこそ差別や偏見がある。作業所などで当事者のやる気を押さえつけているのは家族やスタッフだという指摘もあった。家族に精神病への理解がなく、働けとお尻をたたかれるつらさを訴える「精神病」者参加者もおり、また「厄介者を引き取れ隔離しろ」というニーズは家族も含めて社会一般にあるとも語られた。
法案廃案のためには精神医療従事者家族も含め広範な市民労働者との連帯が必要という前提があるにしろ、現場で日常的に弾圧されている「精神病」者と精神医療従事者、健常者との緊張関係もまた否定することはできない。古くて新しい常に自覚されていなければならない問題である。
今回の集会での成果の一つはこうした交流会で「精神病」者仲間だけでなくさまざまな立場のものが率直に意見交換できたことであろう。初めて「精神病」者の生の声を聞く参加者も多かったと思う。
集会は龍眼さんの経過報告で始まり、参院での闘いに向け幅広い陣形作りが訴えられ、部落解放同盟、自治労などが廃案署名に組織的に取り組むこととなった報告もなされた。七瀬さんからは交流会の報告、その後京都のO弁護士から法案の問題点の講演。修正といっているものの、なんら本質的には変わっておらず、「精神病」者への偏見を強化する法案として廃案しかないことが訴えられた。
カンパアピール国会議員からの檄文紹介の後大阪の「精神病」者のバンド、ハルシオンの演奏。私たち「精神病」者の隔離実態を訴えた春夏秋冬ほか6曲が演奏され感動を呼んだ。
アピールは大阪の山口博之さん、仙台の佐藤宏明さんから当たり前の人として生きたい、私たちは人間だという宣言を、という当事者の声、精神保健福祉従事者懇談会から樋田医師の政府が精神医療の実態差別偏見に対して責任をとらず問題をすりかえていることの告発と、自分たちも国会ロビー活動を再再度行い、連帯して闘うという決意表明、自治労の寺沢さんから、自治体病院ですでにこの特別施設に転用できる病棟が先取り的に建設されていることおよび一方で自治体病院の民間払い下げなど、自治体の精神医療への責任放棄の実態報告、自治労も法案反対に向けがんばっていくというアピール、そしてDPI日本会議、監獄人権センターからそれぞれ、障害者への支援費上限問題に対する闘争報告および獄中者の人権問題とりわけ昼夜独居を強制されている獄中者が精神障害者である可能性が高いことなどの報告がなされた。飛び込みで下獄しようとしている悟道軒圓玉さんから障害者の獄中生活を暴露するホームページ作成への協力要請がなされた。
集会決議採択後、約140名でデモを行い、さらに有楽町でオープンスペース街とハルシオンの演奏とともに70名余りでビラまき署名集めの行動が行われた。
2.9集会実行委はいったん解散するが、参院への闘いに向けさらに広範な仲間を集め運動は継続される。
(文責Y)
集会決議
私たちは精神障害者、障害者、精神医療・保健・福祉従事者・法律家・労働者・市民といったあらゆる立場から本日「心神喪失者等医療観察法案」を廃案にする決意をもってこの集会に集まりました。
この法案は、重大な犯罪にあたる行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、およびこれらの未遂と、傷害)を行ったとされた人が、再び同様の行為を行うおそれがあるとされれば、強制的に入院ないし通院させて治療を加えるという新しい制度を定めたものです。
対象とされるのは「重大な犯罪にあたる行為をした」とされ警察に逮捕され検察に送られても、心神喪失あるいは心神耗弱とされて不起訴(ないし起訴猶予)となり裁判にならなかった人、あるいは裁判になっても心神喪失・心神耗弱による無罪・執行猶予などとなり刑務所に行かなかった人です。通院については最長5年とされていますが、入院については期限がありません。
そしてこの処分は裁判官と精神科医によって、通常の裁判では保障されている当たり前の手続きさえ省略され決定されます。
「再犯のおそれ」を要件に「再犯防止」を目的として人を拘禁する法案であり、これこそまさに予防拘禁法です。
もしこの法案成立を許せば、「精神障害者は危険、だから特別な法で予防拘禁してもよい、するべき」という偏見が強化され、精神障害者の退院促進や地域での生活総体はより困難になります。
また法案は精神科医や精神保健福祉士などに「再犯のおそれ」の判断と「再犯防止」の責務を負わせます。こうした責務は当然にもこの法案に定められた機関のみならず、精神医療総体にも押し付けられ、今以上に精神医療は社会防衛の任務を課せられ、治安の道具とおとしめられます。すべての精神医療・保健・福祉関係者はいわば警察官となってしまい、精神医療は医療ではなくなってしまいます。
私たちは法案が人を「将来の予測」に基づいて不定期に拘禁するものであり、とりわけて精神障害者を予防拘禁するという精神障害者差別立法であると考えます。精神医療を治安の道具にしないためにもこの法案は廃案しかないことを改めて確認します。
法案は早ければ3月にも参議院で審議が始まろうとしています。
私たちはこの法案廃案まで闘いつづけることをここに宣言し、広くこの闘いへの参加を呼びかけます。
2003年2月9日
つぶせ! 予防拘禁法2.9全国集会参加者一同
「触法心神喪失者等医療観察法案 絶対つくってはいけない理由!!」
弁護士 O
第1 法案の概要
法案の対象者:殺人、放火、強盗、強姦・強制わいせつ、傷害にあたる行為をして、心神喪失・心神耗弱とされて不起訴処分となって裁判を受けないか、裁判で心神喪失による無罪判決または心神耗弱による刑の減軽を受けて刑務所に行かない人(2条3項)。
本法案は、これらの人に対して、裁判官1人と精神科医1人で構成される合議体が、再犯防止のために、「指定入院医療機関」への強制入院又は精神保健観察下の強制通院を課すものです。
第2 法案の問題点
1 「再犯のおそれ」で強制入通院を課すこと
①「再犯のおそれ」要件は修正案で削除されたのか?
(原案)「(入院をさせて)医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」(42条1項)
↓
(修正案)「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」
一見、「この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」という医療上の要件に変わったように見えるかもしれません。しかし、「医療を受けさせる」目的である「対象行為を行った際の精神障害を改善し、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため」のうち、「精神障害を改善し」「社会に復帰すること」は通常の医療・入院の当然の目的のはずですから、意味があるのは「同様の行為を行うことなく」=「再犯防止」が付け加わっている点ということになります。
とすれば、やはり「再犯のおそれ」の有無を判断せざるを得ず、結局は「再犯のおそれ」要件は削除されていないのです。
②「再犯のおそれ」という将来の危険性に基づいて自由を奪うもの
刑罰は、過去に行った犯罪に対する責任として科せられるものです。将来、犯罪にあたる行為を行う「かも」しれないというだけで、自由を奪うことが許されていいのでしょうか。
③「再犯のおそれ」は誰にも判定できない
人間の将来の行動を100%予測することなど、絶対に誰にもできません。欧米の研究成果をふまえても、「再犯のおそれ」があると判断された人のうち実際には再犯しない人が8割にも上るというのです(「再犯予測について(日本精神神経学会精神医療と法に関する委員会報告)」)。これほど不確実な根拠で人を拘禁することは許されません。
④裁判官による「おそれ」判断の偏り
現在の刑事司法の中で、裁判官は勾留決定や保釈決定の際に「逃亡のおそれ」や「罪障隠滅のおそれ」を判断しています。しかし、その判断は、「独身で無職だから逃亡のおそれがある」といった程度のものです。「再犯のおそれ」を同じ調子で判断したら、「ない」と言えることはないでしょう。
2 法案による処遇~「社会復帰」のまやかし
①修正案における「社会復帰」の強調
修正案においては、「精神保健観察官」を「社会復帰調整官」に名称変更したり(20条)、関係者の「社会復帰」への努力義務を加えたり(1条2項)、付則に「医療・福祉の水準向上」を加えたりして、「社会復帰」を強調していますが、これらは裏付けのない言葉だけのお飾りにすぎません。
②通院期間は上限5年だが(44条)、入院期間は上限なし
入院期間は6ヶ月ごとに更新する(49条2項)と言うのですが、「再犯のおそれ」がなくなるまで一生出られない可能性もあります。
現状でも、33万人の精神科入院患者のうち半分以上の17万人が外から鍵のかかる閉鎖病棟におり、受け入れ体制がないために退院できない「社会的入院」が7万人とも10万人とも言われています。このようは現状で、しかも「精神障害者」「重大犯罪を犯した」という二重のレッテルを貼られた人について「社会復帰」と言っても説得力がありません。それができるなら、今の入院患者を退院させ、地域で生活できるようにできるはずです。
③強制隔離による「人生被害」を生むもの
ハンセン病熊本地裁判決は、強制隔離は単なる居住・移転の自由を制約するだけではなく、「ある者は、学業の中断を余儀なくされ、ある者は、職を失い、あるいは思い描いていた職業に就く機会を奪われ、ある者は、結婚し、家庭を築き、子供を産み育てる機会を失い、あるいは家族との触れ合いの中で人生を送ることを著しく制限される。人として当然に持っているはずの人生のありとあらゆる発展可能性が大きく損なわれる」という「人生被害」をもたらすものであるとしました。
この法案は、新たな「人生被害」を生むものになります。
④特別施設への強制入院(43条1項)
「犯罪にあたる行為をしたか否か」「心神喪失・心神耗弱と判断されて刑務所に行ったか否か」の区別による特別な治療法はありません。154国会で出された「メモ」は人格障害者を想定したものと思われますが、「人格障害者は本法案の対象外」と答弁するなど矛盾しています。
⑤精神保健観察下の強制通院
これは、保護観察所という「犯罪予防」を目的とする機関が関与して、「一定の住所に居住する」などの義務に違反すれば再入院させられる(107条、59条2項)という恫喝によって通院を強制されるという制度です。それは「本人のための医療」とは言えません。
⑥強制医療の問題
この法案により入通院している人に対して、精神科医や「社会復帰調整官」は「再犯のおそれ」があるか否かを常に観察し、必要に応じて報告して、裁判所に審判の申立をする材料を用意しなければなりません。そのような相手に対して、正直に症状を告白することなど、怖くてできないのではないでしょうか。そこには治療者と患者の信頼関係は成り立ち得ません。
3 精神障害者差別であり、差別・偏見をさらに作出・助長するもの
①「精神障害者は危険」という根拠はない
刑法犯検挙人員中、精神障害者とその疑いのある者の割合は0.64%(2002年犯罪白書)。精神障害者の人口比は1.7%と言われるので、精神障害者の犯罪率は低いということになります。
また、再犯率については、11年間の追跡調査の結果として、殺人を行った精神障害者の再犯率は6.8%、殺人を行った精神障害者でない人の再犯率は28.0%という研究があります(「触法精神障害者946例の11年間追跡調査(第一報)」山上皓ら・犯罪学雑誌61巻5号)。
とすれば、精神障害者が特別に危険であるという根拠はないのです。
②「精神障害者は無罪放免」の誤解
精神障害者は犯罪にあたる行為をしても刑罰を受けないと思われている面がありますが、それは正しくありません。
2000年の刑法犯の被疑者のうち、精神障害者の起訴率46%に対して、全体の起訴率は58%とされます(読売新聞2002年7月3日記事参照)。そして、2000年1年間で新たに刑務所に入った精神障害者は1,200人います。
このように、実際に多くの精神障害者が裁判を受けて刑務所に入っているのです。
③法案による差別・偏見の助長
上記①②の通り、精神障害者を特別に再犯予防の対象とすべき根拠はありません。
それにもかかわらず、ハンセン病熊本地裁判決は、「らい予防法」がハンセン病患者の特別に強制隔離することによって「ハンセン病患者は隔離されるべき危険な存在である」という誤った社会認識を作出・助長としたのと同じように、この法案も精神障害者のみを特別に再犯予防の対象として強制隔離するものであり、「精神障害者は危険な存在である」という誤った社会認識を作出・助長することになります。
4 手続き上の問題
①憲法の要請する適正手続に違反している
いったん無罪判決を受けた人に対して同じ事実を根拠として事実上の刑罰を科すことは「二重の危険の禁止」(憲法39条前段)に違反し、執行猶予付きの有罪判決を受けた人に対しても「二重処罰の禁止」(憲法39条後段)に違反します。
また、法案施行前の事件にも適用される点(付則2条)は「遡及罰の禁止」(憲法39条前段)の趣旨に違反します。
②刑事裁判と異なる簡易な手続しかない(職権主義的訴訟構造)
刑事裁判であれば、犯罪事実の認定についてはそれなりに厳格な手続が定められています。しかし、本法案の手続は、警察・検察の作った調書がそのまま裁判官に提出され、反対尋問の権利や証人申請の権利もありません。付添人弁護士をつけることはできますが、本人と付添人との立会人なしの打合せの権利(秘密交通権)や証拠書類をコピーする権利(記録謄写権)すらありません。本人にも付添人にも、争うための権利がほとんどありません。
これでは、裁判官は警察・検察の描いたストーリーを鵜呑みにしてしまう危険性が高く、事実関係を争うことは非常に困難です。
③不服申立はほとんどできない
処遇決定に対する抗告制度はありますが、法令違反や重大な事実誤認、処分の著しい不当などに制限されています(64条2項)。鑑定入院命令に対する取消請求もありますが、「再犯のおそれがない」などの実体的な理由ではできないことになっています(72条2項)。
また、判断するのは高等裁判所の裁判官になるので、医療判断については元の決定を追認するしかないのではないかと思われます。
④再審制度も補償制度もない
刑事裁判や少年審判手続には、後日、新たな証拠によって無実であることがわかれば再審の道があり得ます。また、結果として無実であった場合に、逮捕、勾留、観護措置などの拘束を受けたことに対して補償がなされます。
しかし、本法案にはそのような制度はありません。
第3 法案の本質
法案の目的は、「病状の改善」と「同様の行為の再発防止」=再犯防止による「社会復帰の促進」であり(1条)、医療と関係しつつも再犯防止が主要な立法目的です。
それを実現するため、①重大な犯罪にあたる行為をしたが責任能力の問題により受刑しなかった者を対象とし(2条3項)、②処遇要件として「再犯のおそれ」を考慮し(42条1項等)、③その決定に精神科医のみならず裁判官を関与させ(11条1項)、④「指定入院医療機関」という一般病棟とは別の施設に強制入院させて医療を強制し(43条1項)、⑤保護観察所というまさに「犯罪の予防」を目的とする機関が通院を監督・強制すること(19条3項)になっており、これらによって対象者に事実上の刑罰に代わる制裁を加えるものとなっているのです。
この法案の構造は相互に密接に補完し合っており、その一部のみに手を加えたとしても法案の本質は変わりません。
人は、本来、社会の中で、人との関わりの中で生きていくものです。たとえ病気で入院することがあっても、それは一時的なものであって、社会に戻るためのものであるはずです。ところが、年単位で社会から隔離され、人との関わりを遮断することは、社会の中で生きるための術も居場所も意欲までをも奪い取ってしまうのです。どんな人についても「再犯のおそれ」が全くないなどと言うことはできないでしょうから、この法案の下での入院期間は必然的に長期に及ぶでしょう。
このような法案は、廃案にするしかありません。
(参考)
・全国精神医療労働組合協議会のHP(法案、いろいろな団体の声明、関連新聞記事等々多数あります)
http://www.seirokyo.com/index.html
・京都弁護士会の法案Q&A
http://www.kyotoben.or.jp/siritai/houkoku/3.html
・精神障害者閉じ込め法案反対連絡会メーリングリスト(psy-love-net)
oio@k9.dion.ne.jp(I弁護士)に申し込んでください。
(2.9集会当日の講演レジュメの図は省略)
資料
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」をめぐる経過
全国精神医療従事者連絡会議事務局
2001年6月8日午前10時過ぎ、大阪府池田市の大阪教育大学付属池田小学校に包丁を持った37歳の男性が侵入し、児童らに切りつけ、8人が死亡、15人が重軽傷を負った。この男性が精神科に入通院歴があり、2年前にも傷害事件を起こしたが起訴されずに措置入院となっていることから、小泉純一郎首相が翌9日に「精神的に問題がある人が逮捕されてもまた社会に戻って、ああいうひどい事件を起こすことがかなり出てきている」と発言したことを始め、政府関係者や「識者」から、いわゆる「触法精神障害者」の問題として捉える発言が相次ぎ、実際にこれを一つの契機に政府や与党を中心に新しい制度に向けての検討が始まった。
この年には、「重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇決定及び処遇システムの在り方などについて」を議題とした法務省・厚生労働省合同検討会が7回にわたって開かれていた。偶然であったが、この第4回がこの事件直後の6月12日にあり、マスメディア等の注目を浴びた。このときは、神弁護士および池原弁護士が、弁護士の立場から、新しい制度ができた場合の法学的および実際的問題点について述べた。
11月9日、自由民主党の心神喪失者等の触法及び精神医療に関するPT(プロジェクトチーム)報告が、次いで同月12日に与党(自民党、公明党、保守党)政策責任者会議・心神喪失者等の触法及び精神医療に関するプロジェクトチーム報告書が出された。「触法心神喪失者」に新たな処遇決定手続きと専門治療施設の新設、保護観察所の指導監督下での通院医療の規定等を提言したものであった。
2002年2月14日、法務省刑事局は、放火、強制わいせつ、殺人、傷害、強盗を「対象行為」とし、これを行った心神喪失者ないし心神耗弱者を「対象者」として、対象者が対象行為を再び行うおそれがあると認められるときに入院等の処遇を開始すること等を定めた「重大な触法行為をした精神障害者に対する新たな処遇制度(案)の骨子」を公表した。
3月15日、政府は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」を閣議決定し、同月18日、同法案を同日から始まった通常国会に上程した。
この過程については種々の批判が出されている。この時点までに種々の団体で出された声明等は、当連絡会議事務局が編集したパンフレット「『触法精神障害者処遇新法』に反対します」および「『心神喪失者医療観察法案』を廃案へ」にまとめた。
5月末より、衆議院法務委員会で同法案の審議が開始された。短期間で採択されてしまう可能性もあったが、最大野党の民主党が対案を出したこともあり、厚生労働委員会との連合審査などを経、会期が延長されたにもかかわらず採択はなされず、7月末、継続審議となった。
10月より臨時国会が始まった。11月に入り、与党は、野党に対し、法案の対象となるのを原案の「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」から「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」に改めることを中心とした「修正案」を提示した。この提示は、11月13日の時点で非公式に行われ、同月27日に開始された衆議院法務委員会での審議の場で趣旨説明がなされた。
この「修正」は、種々の批判を受けて行われたものであったが、仔細に検討すれば到底「修正」と呼べるものではないことは明らかである。再犯予防が法の目的であることは変わっておらず、再犯予測が困難であることには一切答えていない。却って対象を曖昧にし拡大させたとの批判もある。例えば、日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会は、11月15日に、これを批判する声明を出している。
臨時国会での法務委員会の審議は、やはり厚生労働委員会との連合審査などの経過を経たが、12月6日、審議の続行を求める野党議員を押し切り、与党議員らにより同委員会で強行採決され、同月11日の衆議院本会議で可決された。
参議院に送られ、本会議での趣旨説明がなされた後、同月13日の臨時国会閉会で継続審議となった。
2003年1月20日、通常国会が始まった。政府・与党は今国会での本法案の可決・成立を目指していると言われており、この法案をめぐる状況は最後の正念場を迎えている。
(精神医療従事者連絡会議ニュースより)
冬季カンパ要請
各地の仲間の日頃の活動に敬意を表します。会員以外の方のご支援に感謝いたします。
全国「精神病」者集団は事務局員全員の体調不調および経済的逼迫のため現在事務局体制が機能せずニュース発行および窓口へのお手紙等への対応しかできていない状況です。
ニュースも昨年は4回しか発行できませんでした。
しかしながら、昨年12月の「心神喪失者等医療観察法案」強行採決に見られるように、私たち「精神病」者が、人間であることを否定し差別的に隔離収容しようとする政策はその頂点に達しております。
そうした中で、各地に点在する仲間をつなぐ「絆」のしるしとしてニュース発行を継続すること、情報提供を継続すること、そして窓口を開けておくことは重要なことと考えます。厳しい差別状況とこの間の弾圧の中で、会員が増えておりますので、ニュースの発行費および日常的な手紙の通信費負担も増大しております。
京都事務所も長らく皆様からのカンパで維持しておりましたが、財政的に維持不可能となりましたので、撤退しました。それゆえ現在財政は慢性的借金財政からは脱しましたが、今後もニュース発行と手紙等での交流を継続していくには自転車操業の状態です。
全国「精神病」者集団の財政は会員およびニュース購読者からのカンパおよび有料読者からのニュース購読料のみで成り立っております。
増税や年金生活保護の減額という中でのお願いで恐縮ですが、冬季カンパへのご協力をお願いいたします。またニュース購読料切れで請求書の入っている方はぜひニュース購読料のお支払いをお願いいたします。
なお「精神病」者会員は会費あるいはニュース購読料は無料です。同封の振替用紙はカンパしてくださる方への便宜のためであり、請求書ではありませんのでご心配なく。
カンパ振込先 郵便振替口座 00130-8-409131 口座名義 絆社ニュース発行所
なお領収書は経費節減のため次回ニュース発送時に同封させていただきますのであしからずご了承くださいませ。
担当者の転居その他によりお約束の2001年度の会計報告ができておりません。申し訳ありませんが、次号までお待ちいただけますようお願いいたします。
2003年1月
全国「精神病」者集団