全国「精神病」者集団ニュース 2001年12月号

2001年12月発行の「ニュース」抜粋です。

目録

ごあいさつ

いわゆる「触法精神障害者」への特別立法に反対の声を

窓口入手資料

冬季カンパ要請


全国「精神病」者集団

ニュース


ごあいさつ

2001年も終わろうとしています。皆様いかがお過ごしでしょうか?

いよいよ保安処分新設の特別立法が準備される時代となりました。

私たち「精神病」者を「犯罪を犯しやすい者」と差別的に規定し、精神医療そして福祉総体を「犯罪防止」に向けて動員していく時代がやってこようとしています。患者会やボランティアまで保安処分に動員しようという「精神医療と福祉の改善」がたくらまれています。そしてその極に特別病棟として「専門治療施設」が作られようとしています。

私たち全国「精神病」者集団が結成以来阻止し続けてきた、保安処分を決して許してはなりません。一人一人の知恵を集めそして一人一人の力を集めて、この保安処分と闘う陣形作りを始めましょう。

私たち「精神病」者が当たり前の医療保障を、そして当たり前の人間として生きていける保障をかちとるためにも今この保安処分を許してはなりません。

厳しい年の瀬であり、そして厳しい時代の始まりでもあります。

年末年始はなにやら気ぜわしく、また町を行き交う人々から取り残されたような寂しさも感じる季節です。家族団らんのお正月をよそ目に、孤立をかみしめる仲間も多いことと存じます。年末年始仲間の集える場所を、と切に願わずに入られません。読者の皆様が無事に年越しを済ませ、新年を迎えられますようお祈りいたします。

(略)

★お手紙、各地のニュース、住所変更、ニュース申し込みはすべて

〒923-8691 石川県小松郵便局 私書箱28号 絆社ニュース発行所

E-mail address

Tel: 090-8091-5131(土日以外 午後1時から4時まで)

★会員の運営している私設ホームページ

http://ssko.tripod.com/

★ニュース購読料カンパはすべて

郵便振替番号:00130-8-409131 名義:絆社ニュース発行所


北から 南から 東から 西から


(略)


いわゆる「触法精神障害者」への特別立法に反対の声を

長野英子

11月12日与党「心神喪失者等の触法および精神医療に関するプロジェクトチーム」が報告書(以下「報告書」とする)を公表した。

これは6月の池田小事件以降「危険な精神障害者の犯罪に対して何らかの対策を」という声に応えて出されたものである。

内容は別紙図のような「心神喪失等の触法精神障害者」に対する特別施設への収容を中心とした特別立法の提案と「精神障害者医療および福祉の充実強化」の提案である。

☆ 保安処分としての特別立法

保安処分とは何か? 「精神障害者」に対する保安処分に限ってみれば、「精神障害者を犯罪を犯しやすい危険な者とみなし、何らかの犯罪を犯す危険性を要件として、予防拘禁や人権制限を行い、その危険性を取り除くことを目的として強制医療を施すこと」と定義できる。

今回出された「報告書」は

①重大な犯罪にあたる行為を行ったが心神喪失あるいは心神耗弱を理由に不起訴となったものあるいは心神喪失あるいは心神耗弱と認められ裁判で無罪等(執行猶予となったものも含むのか?)となったものを対象として

②全国の地方裁判所に判定機関を置き、精神科医による鑑定を参考に対象者の処遇を判定する

③判定の結果は国立病院内におかれた専門治療施設に収容するか、保護観察所の観察下の通院を命令されるかであり、さらに責任能力ありと判断されれば検察官にその結果が通知されることとなる。

④専門治療施設からの退院や通院措置の解除、また観察下の通院からの再収容も判定機関が決定する。

としている。

施設への収容や強制通院命令の要件は明確にされていないが、「精神障害者」の中でとりわけ「事件を起こした精神障害者」を対象とする以上、「再犯防止」すなわち「危険性」が要件となることは明らかであろう。

まさに保安処分である。

☆ 一生出られない「専門治療施設」

再犯防止を目的として予防拘禁や通院の強制を行う以上、判定機関は「万一何か事件を起こされたら」という恐怖から、「社会にとって安全=すなわち危険ではない」と確信できるまで拘禁や強制通院の解除の決定を下さないことになる。すなわち永久の拘禁が必然となる。

一切希望が持てず監禁され続ける特別病棟で医療など成り立つであろうか? 人を監禁する専門家の法務省ですら、管理の困難を理由に「終身刑」導入をためらっている。一切の希望を絶たれた人間を管理するには、徹底した抑圧と厳重な警備、そして秩序維持を目的とした強制医療が必要となる。患者をおとなしくする目的で電気ショックや薬漬け、縛り付けが横行するであろう、そして脳外科手術すら復活しかねない。

報告書はこの特別病棟内での、治療拒否権も人権擁護システムについても何も述べていない。

たとえ特別病棟への入所ではなく強制通院を命じられたり、あるいは特別病棟を退所できても、いつまた再収容されるかわからない管理下での生活が続くことになる。こうした状況で医師や援助者との信頼関係を築き、医療を受け入れることは不可能である。

特別立法の対象者が、本来の意味での医療(=患者本人の利益のための医療)を保障される体制はどこにもない。

☆ 特別立法は「精神障害者」差別

「危険性」を要件として国家が人を予防拘禁したり人権を制限することはそもそも許されてはならないことである。こうした予防拘禁や予防的な人権制限を許せば、国家はほしいままに人の人権制限や予防拘禁を行ってしまうようになる。それゆえ、この国は少なくとも刑法において「再犯を行う可能性」を根拠に人を予防拘禁することを許していない。

しかしながら「精神障害者」に限って特別の法律を作り「再犯防止」を目的とした予防拘禁や人権制限を科すことの合理的根拠はなんだろうか? 「精神障害者」差別以外の根拠はあるだろうか?

「報告書」はこの疑問に全く答えていない。

しかもすでに建前上は本人の「医療と保護」を目的としながら、運用実態としては「犯罪防止」を目的として「人」を永久に拘禁できる措置入院制度をこの国は精神保健福祉法に定めている。99年6月末の時点で措置入院の30%あまりが20年以上の長期拘禁となっている。すでにこの国では「自傷他害のおそれ」を要件として、健常者が受ける刑期以上の拘禁が公然と行われているのだ。

措置入院下では医療が成立せず、ひたすら監禁のみある実態、電気ショックの乱用が暴露されている。

こうした強制医療の実態の中でさらに屋上屋を重ねる形の特別立法下ではどんなことが予想されるであろうか?

よくあるミステリーの書き出し。深夜帰宅すると夫が刺されて倒れていた。妻の私は悲鳴を上げながら駆け寄ってナイフを抜く。そこに悲鳴を聞きつけた隣人が駆けつける。隣人の目撃したのは血まみれのナイフを持って呆然と立っている私。私が呆然としてかつ病状も悪く何がなんだかわからなかったとしたら、そのまま警察に逮捕され取り調べられる。当然混乱している私は当番弁護士など呼ぶことなどできない。

検察は私の病状を判断してとても責任能力を問えないとして不起訴にし、特別立法下の判定機関にまわす。私は何がなんだかわからないまま身柄を拘束されており、自分が犯人とされていることなど理解する余裕もない病状である。当然自分はやっていないということを説明する余裕もなく、判定機関にかけられるとき、つける事ができるという弁護士を呼ぶ知恵すら浮かばない。私が孤立していれば私の身柄がどこにあるか探してくれる人もなく、私は闇から闇に葬り去られることになる。

判定機関は裁判でないので、検察がいう私が犯人というストーリーを検察官に物証を要求して証明を迫ることはできない。私は「重大な犯罪にあたる行為をした精神障害者」として専門治療施設に送られ、一生監禁されるか保護観察の対象となる。

今現在の措置入院もこうした冤罪事件で措置なっている人はありうる。

また現実に私が夫を刺していたとしても、夫が私を殺そうとして正当防衛で夫を刺したので、裁判にかけられれば無罪となったり、あるいは日ごろ夫がDVを振るっていたということで情状が酌量されてそれなりの刑期となることだってありうる。そして刑期さえ過ごせば私は再び自由の身となれる。

しかし「重大な犯罪にあたる行為をした精神障害者」とレッテルを貼られれば、一生監禁されたり、保護観察の対象となってしまうのだ。

国家が人を監禁するというのは国家による最大の人権侵害行為であるから、刑罰を科すには刑事訴訟法上の手続き保障が重要視され、検察は被告の有罪を立証する責任があり、刑罰を受けるとしたら「裁判を受ける権利」が確保されていなければならず、その裁判も公開を原則としている。

しかし判定機関はこうした手続きを一切省き人を監禁できるのだ。

この「精神障害者」差別を許してはならない。

☆ 特別立法とセットの精神医療改善?

「報告書」は特別立法とセットとして「精神障害者医療および福祉の充実強化について」を提案している。

国境なき医師団は、アフガン爆撃と同時に医療品や食料を投下する米英の「同時作戦」を厳しく批判し、空爆下にある人々を「人道的援助」全てを疑わなければならない状態に追い込むとしている。

「報告書」のいう「医療福祉の充実」も同じである。片方で特別立法という最大の「精神障害者」差別を行い、「精神障害者」を「犯罪防止」のために監禁しておいて、医療福祉の充実をいわれても、私たち「精神病」者は医療と福祉を疑いの目で見るしかなくなる。

私たちを「犯罪を犯しやすい危険な者」という色眼鏡で見て、「犯罪を犯させないため」に監視や管理をすることが精神医療や福祉充実の目的ではないか?と私たちは疑わざるをえない。患者会への援助だって相互監視へのご褒美なのかと疑ってしまう。医者も保健婦もホームヘルパーもボランティアもみな警察官になるとしか思えない。

おびえる「精神病」者は医療や福祉に近づくことすらできなくなるであろう。

今なすべきことはこの国の論外の精神医療システムを根底的に改善することである。そして精神医療を批判してきた私たち「精神病」者の言葉に耳を傾け、精神医療の被害を受け苦しむ仲間に謝罪し学ぶことである。

そこからしか精神医療の改善はありえない。

この特別立法阻止のため葉書運動が始められている。読者の方にご協力ご支援を訴えたい。

窓口入手資料

*特別立法関係

①与党政策責任者会議「心神喪失者等の触法および精神医療に関するプロジェクトチーム報告書」

②「触法精神障害者の対策論――精神科医の最近の論議の検討」 中山研一 判例時報

この問題をめぐる議論の歴史を、は保安処分の法律家の立場からまとめたもの、歴史的な流れがよくわかります。

③「どうする触法精神障害者と社会」 法学セミナー

特集ですが、この中の石塚伸一さんのドイツ保安処分の解説は参考になります。ちなみに森山法務大臣は8月にドイツの保安処分施設を視察しましたが、その中で、「精神障害者」の保安処分施設だけではなく、「常習累犯者」に対する保安処分施設をも視察したとのこと、政府の動向が気になります。

③山上晧医師の厚生科学研究の「触法行為を繰り返す治療困難者が入院する施設の設備構造、人員配置、治療内容に関する研究」(「精神病院等の設備構造及び人員配置のあり方に関する研究(主任樋口昭彦)」の分担研究班)

の行ったアンケートのアンケート用紙(プライバシー侵害の調査です)

この研究は山上晧によると以下の目的とのこと。「厚生労働省研究班『触法行為を繰り返す治療困難者が入院する施設の設備構造、人員配置、治療内容に関する研究』分担研究者代表=山上皓・東京医科歯科大学難治疾患研究所教授)は罪を犯し、措置入院となった精神障害者の入院処遇実態を調べる初の全国調査に着手した。すでに複数の病院から回答が寄せられ、今夏をめどに調査結果をまとめる。日本には罪を犯した精神障害者を診る専門病棟はなく、他の患者の動揺や安全性を考え、長期隔離や過剰拘禁、未治癒での早期退院をもたらすなどの弊害が指摘されている。長年タブー視されてきたこの問題に厚労省と法務省は1月、初の合同検討会を立ち上げたところ。調査にあたる山上教授は「調査結果を国民のコンセンサス確立に役立てて、(公的な専門病棟を整えて)精神病院の機能分担を図り、触法精神障害者の適切な処遇と再犯防止につなげて、精神障害者への社会の偏見をなくしたい」と調査の意義を語っている。

日本では罪を犯した精神障害者の約9割が責任能力がないとして不起訴となる。その後は措置入院となって医療に処遇が委ねられるケースが大半。イギリスなどの先進諸国は裁判所が触法精神障害者の入退院の決定に関与し、公的な専門施設で処遇している。日本でも公立病院が中心となってこうした精神障害者を受け入れる地域も出始めているが、精神医療の開放化の流れが進むなか、国による公的専門施設の整備を求める声は強い。

今回の研究では、日本精神病院協会、全国自治体病院協議会精神科部会の協力のもと、全国約1200の精神病院を対象に、触法精神障害者の処遇実態調査を実施。責任能力がないとして不起訴または無罪となった措置入院者について、1998年~2000年の3年間の治療実態を分析する。調査項目は罪を犯すまでの通院・入院歴、隔離・拘束の有無や頻度、退院時の病状、退院後の処遇、入院時に起こした問題行動や問題行動への対処―など詳細にわたっており、山上教授は病院での処遇実態を明らかにしたうえで、触法精神障害者とその他の精神障害者双方にとって最良な精神医療システムの確立につなげたいとしている。

④緊急研究討論合宿「触法精神障害者の処遇と精神医療における患者の権利」報告集

福岡県弁護士会精神保健委員会


冬季カンパ要請

北風の季節となりました。向かい風に抗って歩むとき返ってすがすがしささえ覚えるときもあります。私たち「精神病」者にとっても今厳しい向かい風が襲っています。

保安処分新設の特別立法です。

全国「精神病」者集団が結成以来戦ってきた反保安処分闘争の正念場を迎えています。

この危機的状況の中で会員は飛躍的に増えており、また有料購読者も増加しております。しかしながら、全国「精神病」者集団の財政は今なお約40万円の赤字を抱えております。

全国「精神病」者集団事務局員は会議への出席や闘争参加、日ごろの病院面会や仲間の援助活動の交通費は全て自前、資料収集などの費用も手弁当で活動しております。この状況下で事務局員全員が経済的疲弊の中で倒れております。赤字分は「精神病」者の一会員が借金をして穴埋めしている実態があります。京都事務所年内に撤退しますので来年は財政状況が好転するかとも思いますが、まだまだ赤字解消には時間がかかります。

一方で会員増加に伴い、相談や交流のための郵送料負担も増加しております。また反保安処分闘争のための資金も必要です。一人でも多くの方にカンパにご協力いただきたくお願いするしだいです。

ニュース有料購読者で今回購読料切れのご請求をさせていただいた方はぜひ購読料をお振込みいただきたくお願いいたします(同封の振替用紙は請求書ではありません。カンパお振込みの便宜のために全員に同封させていただいております。「精神病」者会員は会費、購読料とも無料ですのでご心配なく)。

年賀状などの書き損じ葉書や未使用切手のカンパも歓迎いたします。また読者の中で余裕のある方はぜひ有料購読者拡大にご協力いただけますようお願いいたします。窓口にご連絡いただけましたら、見本誌とニュースのご案内ビラを送らせていただきます。

なにとぞよろしくお願いいたします。

2001年12月

全国「精神病」者集団

カンパ振り込み先
郵便振替口座 00130-8-409131
口座名義 絆社ニュース発行所