全国「精神病」者集団ニュース 1999年2月号

1999年2月発行のニュースです。一部のみの掲載となっております。
一般定期購読は有料(年6回発行1年分5000円)です。

目録

ごあいさつ

北から 南から 東から西から(投稿)

  • 病の罪(発作)と、つかの間の安楽
  • コダマ
  • 精神障害者・家族合同研修会(宮崎県精神保健福祉センター主催)における発表
  • 全国障害者解放運動連絡会への公開質問状
  • 詩二編
  • 病者集団に望む
  • 精神科医への言葉の処方
  • 八王子「医療」刑務所
  • 労働戦線の右翼的統一に反対しよう

お知らせとお願い

事務局報告

  • 〇の会有志からの提起により要望書に全国「精神病」者集団として連名(野宿労働者の健康問題)
    添付資料として野宿労働者(ホームレス)の皆さまへ
  • 九八年一二月全国「精神病」者集団例会議事録
  • 厚生省精神保健福祉課に対する文章 専門委員会議事録への抗議文
  • 週刊朝日に対する抗議文と回答(記事「刑法三九条(心神喪失)のタブーを突く」について)
  • 事務局入手資料

SSKO

全国「精神病」者集団ニュース

1999.2 Vol.25 No.1 東京都三鷹郵便局留め

ごあいさつ

ニュース発行が遅れましたが、今年最初のニュースとなりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?悪性のインフルエンザがはやっています。皆さまお気をつけ下さいませ。

三重県の私立精神病院多度病院で、入院患者19名が死亡していた事実が明らかにされました。インフルエンザの院内感染の可能性が高いとして県が立入検査をしました。
今のところ一部の病室で定員以上の過剰収容があったこと、常勤医師数が医療法に違反して1名不足していたことなどが明らかになっていますが、一人一人の患者に対する、医療保障、看護体制の不備があったのではないかと疑われます。
この国の精神病院の多くが医療の場ではなく収容所でしかないことは皆さんもご承知のことと思いますが、痛ましい事件が相次ぎ、私たちは一体何をしているのかと、暗たんたる思いに駆られます。
今年も全国「精神病」者集団は、殺させない、生き延びる、生存権の主張を軸とし、一人一人の会員の命を見つめる闘いを続けていきたいと思います。一人一人の会員あっての全国「精神病」者集団です。会員を主人公として今後も活動を続けていきたいと思います。
(以下、略)

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公開質問状

全国障害者解放運動連絡会議御中

一九九九年一月二五日

前略

この度、以下のような理由により、公開質問状を送付する次第である。
一昨年夏の富山における全障連全国交流集会で提起した、私の「箕面市障害者事業団解雇事件」及びこれを巡る対応について、今日でも多大な不満を持っている。私は本件に関して全障連の依頼に基づき、「作業所で受けた精神病者差別」と題したレポートを提出したが、資料集への掲載を拒否された。拒否の理由には頷けない部分が多々あったものの。「レポートについては関西ブロックで受け止め、具体的な話を進めていく」「真摯に受け止めたい」という文言を「信頼」し、悶々とした日々を送りながらも待ってきた。しかるに今日に至るまで何ら前向きな対応をする気配は感じられない。
加うるに昨今聞き捨てならない噂を耳にした。関西ブロック周辺では私の発病に関し、「勝島は阪大出のボンボンで、それが知的障害者と一緒にカブトムシの養殖など泥臭い仕事をさせられたのでああなっちゃったんだね……云々」
これは噂であって、誰彼がこのような発言をしたという証拠があるわけではない。しかし「火のないところに煙は立たず」という言葉を引くまでもなく、噂として遠く石川の地まで伝わってくる以上、誰かがこれに近い内容の発言をし、さらにそれに疑問を投げかける者が誰もいなかったであろうことは推察できる。これは上述の無対応とあいまって、全障連の思想的退廃を示す以外の何ものでもない。
私は確かに阪大出であるが、決して「ボンボン」などと揶揄されるような人生は歩んでいない。しかしそんなことはどうでもよい。問題は上記内容の発言(仮にこの通りの発言があったとしよう)がどれほど障害者解放の精神に反したものであるかという点にある。
まず、障害なり病気に対して、その原因にまでさかのぼって云々してよいかという問題である。これは近代の福祉の概念を全否定することになる。障害者基本法起草の折りに、傷痍軍人会が、「我々はお国のために傷ついたのであり、生まれつきの馬鹿や片輪と一緒にされては困る」と申し入れた際、全障連は反対したはずである。さらに言えば何か本人に「落ち度」があって障害になった場合は福祉の対象としては認められないと全障連は考えているのか。
次に、上記発言は知的障害者の仕事に対する蔑視に満ちあふれているということである。知的障害者の仕事は単純で泥臭く、大卒の者が関わるに値しないと考えているのか。これは積極的にその仕事を選んだ私に対しても失礼であり、福祉の道を志そうとするすべての人々に対する軽蔑でしかない。
以上のような事態により、私の全障連への「信頼」はついえた。よって以下の事項について公開で質問するところである。

一私のレポートで要求した二つのこと、すなわち、
・全障連が私に対してとった対応について総括謝罪すること、
・(財)箕面市障害者事業団に対する糾弾行動を行うこと、

これらに対し、本当に実行する気はあるのか。あるなら具体的方法を、ないならその理由を明示せよ。

二レポート中で私が引用した全国事務局次長(MH)の発言「まさか全障連が事業団に抗議するわけにはいかんからね」の真意は何か。富山交流会前夜の幹事会では私のレポートの掲載をめぐって全障連顧問の楠敏夫が激怒し、危うく暴力ざたになるところであったと聞く。それほどまでに全障連が箕面市障害者事業団を守ろうとする理由は何か、明らかにせよ。
三上記事項に関連し、全障連は一会員である精神病者の訴えより、友好団体との関係を優先するのか、今後の運動方針を説明せよ。
四本文中、噂に関して私が提起した問題に対し、全障連の考え方を示せ。
五そもそも私の「解雇事件」を精神障害者の労働問題として認識しているのか、見解を明らかにせよ。

以上である。解雇から約三年、レポートによる問題提起から一年半、私は十分に待った。これ以上は待たない。一ヶ月以内に全障連の組織名で回答されたし。

(編注…富山交流集会でのレポートについては全国「精神病」者集団ニュース一九九七年一一月号をご参照下さいませ)


事務局報告


(省略)

☆〇の会有志からの提起により以下の要望書に全国「精神病」者集団として連名しました。

各区役所(福祉事務所への要望書)
一九九八年も残すところわずかとなり、野宿労働者(ホームレスの人々)は厳しい冬に突入しようとしています。
今冬、野宿労働者は「仕事がないあぶれ地獄」と相俟って食生活の不充分性と、それに関して健康問題は例年にない厳しいものとなっています。
そうした野宿労働者の健康問題に関して市民たちはいち早く「権利としての『医療』の問題」を野宿労働者ご本人に徹底オルグし、この冬の乗り切り策を提示しています(一市民のビラ参照のこと)。
毎年行政機関で掌握しておられるように「野宿労働者の行路死(野垂れ死に)」はおびただしい数に上っています。とりわけ冬の「行路死」は野宿労働者の医療の対応がいかに粗末なものか如実に物語っています。そして医療のみならず深刻な野宿労働者の生活権を名古屋市は放置しています。
こうした「行路死」の背景には複雑な要素が微妙に絡んでいると思われますが、何より「行路死者」を出さないことが行政の責任ある姿勢であり、とくに「人権宣言」を高らかに打ち上げた愛知県の基本姿勢であると私たちは判断します。
私たちが把握する「行政の野宿労働者の医療問題」はきわめて不充分であり、野宿労働者からは「行政は医療受診の要求に対応しない」と厳しい苦情が私どもに寄せられています。こうした行政姿勢は野宿労働者(ホームレス)の差別であり、行路病者に関する法の空洞化といわねばなりません。
私たちはこうした行政の姿勢に関して厳しく批判するとともに、今後野宿労働者の医療問題にはきっちりと対応されるようここにいうよく要望いたします。

一九九八年一二月七日

野宿労働者の医療を考える市民の会
全国「精神病」者集団愛知分会〇の会有志
全国「精神病」者集団

添付資料

野宿労働者(ホームレス)の皆さまへ
――医療問題の提起を行います。――
師走の声とともに新しい季節に入りました。お身体はいかがですか?仕事の確保ができない中での深刻な年の瀬です。中でも健康状態には大変な不安がつきまとうのではないでしょうか?
健康状態に不安があれば「いますぐ医療にかかれるのが野宿労働者の権利」です。

*野宿労働者の医療に関する法律

地方自治体法第二章、大都市及び中核市に関する特例
(指定都市の機能)第二五二条の一九の五「行路病人及び行路死亡人の取り扱いに関する事務」で法的に保障されています。

*急病はどうするか?

公衆電話で緊急医療情報センター(〇五二ー二六三ー一一三三)に電話して下さい。近くの病院を紹介してくれます。

*「どうも体調がすぐれない」と思う方は次の要領で医療機関にかかって下さい。

あなたが野宿している「区の福祉事務所」に電話するか?直接に「区の福祉事務所」に出かけて「医療にかかりたい」と申し出て下さい。法律的には上記に提示しました。

*あなたの野宿場所が「中区」であれば「二四一ー三六〇一」(中区役所)をダイヤルして「福祉事務所をお願いしますと申し出て下さい。

福祉事務所が出たら……
「役所に行って医療の手続きがしたい。区役所にはどう行けばよいか」
「**が悪いので『医療券』が欲しい」
「**が悪いので医師の紹介を頼みたい。病院の紹介を頼みたい」
「権利としての医療だからキチンと対応しなさい」
*医療は「早期発見早期治療」が原則です。遠慮せずに申し出て下さい。
もしもトラブルがあったり、役所に医療的配慮がなかった場合には仲間の方々と検討して下さい。
そしてあなたの生存権はしっかりと主張して下さい。
一九九八年一二月一日 一市民より


☆一九九八年一二月全国「精神病」者集団例会議事録

(省略)


☆厚生省精神保健福祉課に対し以下の文章を出しました。

専門委員会議事録への抗議文

私たち全国「精神病」者集団は一九九八年末に○○医師を班長とする「精神科医療領域における他害と処遇困難性に関する研究」の情報をキャッチし、それ以来研究班のアンケートの人権侵害を糾弾し、「処遇困難者専門病棟」新設阻止の闘いを繰り広げてきました。
この闘いの中で私たちは、この問題に関し広く論議を起こすため、組織参加している精神衛生法撤廃連絡会議としてこの研究班報告書を印刷し広く配布しました。こうした活動の中で日本精神神経学会、日本病院地域精神医学会などが、次々と「処遇困難者専門病棟」新設の凍結あるいは反対の決議を挙げたのは歴史的事実であり、一部の精神科医のみが「処遇困難者専門病棟」新設に反対したわけではありません。私たちは「処遇困難者専門病棟」新設阻止とともに、研究班のアンケートの人権侵害追求のため、この研究班のアンケート個票を一九九四年一〇月二四日名古屋において「精神病」者仲間約二〇名、○○医師、○○医師、○○医師、厚生省精神保健課長補佐○○氏と同○○氏、そして○○病院院長(当時)○○医師立ち会いのもとに焼却処分にしました。
しかるに精神保健福祉法見直しに関する専門委員会第八回議事録において、匿名の委員が以下の発言をしており、私たちは見逃すことができません。

○委員

歯切れが悪くて申し訳ありませんが、実は、このMレポートが出ましたあと、M先生に対する非難攻撃が集中的に参りまして、そして個人的に身の危険を感じられるくらいのことがございました。それから、私たちの仲間では焚書事件と言っているんですが、その報告書を患者さん側の一部の代表、プラス精神科医側の一部の代表の人たちが徹底的に攻撃いたしまして、その報告書を目の前で焼けというふうなことがありまして、実際にお焼きになったといううわさを聞いております。そういった非常に情緒纒綿たる歯切れの悪いお話でございました。

この発言は「ウワサ」という形で逃げていますが、デマ発言です。上記のように私たちは報告書を自分たちで印刷し広く配布したのであって、決して報告書の焚書など行っておりません。また私たち以外の患者団体でも報告書を焚書した事実は一切ありません。焼いたのは上記のごとくアンケート個票であり、また焼却にあたっては厚生省側の人間も立ち会っている事実があります。厚生省精神保健課としてこうしたデマ発言をそのまま見過ごし、議事録として公開していることを私たちは強く抗議します。直ちにインターネット上および公にした文書としての議事録を訂正するとともに、私たちのこの文章を議事録に添付するよう要求します。

一九九九年一月一五日
厚生省精神保健福祉課御中

全国「精神病」者集団
これに対して、○○課長補佐に二月になって電話したところ「個人の発言なので云々」というので「厚生省として明らかな事実誤認なのだから注というかたちでも訂正しろ」と要求、「検討する」という回答を口頭で得た。今後も追求が必要と考える。

☆週刊朝日に対して以下の文書を出しました。

抗議文

私たちは一九七四年に結成された、全国の「精神病」者個人団体の連合体で、全国「精神病」者集団という団体である。私たちは結成当時より刑法改悪=保安処分新設策動に対し全面的に反対し、その新設を今まで阻止し続けてきた。そしてこうした活動と共に、保安処分の対象者となるであろう触法精神障害者の個々の救援活動も行ってきた。
こうした立場にある私たちは、貴誌の「刑法三九条(心神喪失)のタブーを突く」上下編について怒りを禁じ得ない。
この文章の要点を「精神障害者」についてのみ述べれば、

①検察段階で簡易鑑定により、心神喪失となり、不起訴となっている殺人事件容疑者が九三年から九七年五年間で六二〇人もいる。
②世間が注目した事件においては、起訴されるが、注目されていない事件では不起訴が選択されているのではないか?本来裁判所が「心神喪失」を判断すべきであるのにその前段の検察段階で「心神喪失」と勾留期限二〇日以内で判断され不起訴がされており、裁判所の命じる精神鑑定に比して「法の下での平等」に著しく反しているのではないか?
③不起訴後措置入院になったあとはいかなる公的機関も実態を把握しておらず、医療機関と家族のみに任され、「ザル状態」である。
まず第一に検察官が起訴するにあたっては刑法の構成要件にしたがって起訴することになっている。構成要件とは、行為がなされたこと、その行為に違法性があること、行為を行った人間に責任能力があること、この三点である。この構成要件を満たしていなければ起訴できないのは刑法の原則として当然のことであり、仮に不起訴が一〇割であろうとも、刑法の原則からいって何ら問題はない。不起訴が四割であることをことさらに問題にする論拠は何もない。また検察官が重大事件は起訴し、そうでないものは不起訴にしているという根拠はこの文章では一切明らかにされていない。それゆえこの文章自体(不起訴が四割云々)はいたずらに大衆を扇動し愚弄しているに過ぎない。
この国において、検察官の起訴便宜主義があり、起訴不起訴の判断はすべて検察官に任されているという問題点は少なからず指摘されているところである。私たちの経験においても事件の犯人が検挙できない場合に入院中の患者を「犯人」ということにして「心神喪失」不起訴、となり、裁判を受ける権利を奪われ、えん罪の疑われるケースは存在する。したがって「精神障害者」であっても裁判を受ける権利は保障されるべきであり、起訴前鑑定は「精神障害者」の裁判を受ける権利を奪うものと考える。
しかしその前提として、本人への医療保障、本人に防御能力がきちんとある中での取り調べおよび裁判が保障されなければならない。「精神障害者」以外であっても加害者とされた人間が大けがをしている場合は、病院で治療を行い、医師の許可を得てから取り調べが開始される。「精神障害者」であっても同様の措置がとられるべきであり、その時に病状が悪ければ、精神病院でゆっくりと治療し、本人の回復を待ち防御能力をもてるようになってから取り調べを行えばよいだけである。
しかしながら、私たちの救援活動の経験からいって、これらのことはほとんど保障されないままに取り調べが行われ裁判が行われている例がほとんどである。監獄法四三条では精神病、伝染病その他の疾病で監獄において適当な治療を施すことのできないときは、病院へ移送することができる、とされている。しかるに現状では多くの「精神障害者」が病院に移送されることなく警察の代用監獄および拘置所で医療を施されずに放置されたり、不適切な環境で病状を悪化させたり、不適切な医療によって苦しめられている。
自殺未遂は「脱獄」と同様にとらえられ、治療より懲罰が優先する。弁護士の調査によっても、精神病の苦痛のために大声を出せばすぐ懲罰というのが現実である。その最たるものとして私たちが痛苦の思いで想起するのは、大阪拘置所で殺された鈴木国男氏の例である。一九七六年の冬鈴木国男氏は「傷害」で逮捕され大阪拘置所に勾留された。彼は病状のさなかにあり、着衣を脱ぎ捨てているにもかかわらず、暖房もなく換気扇で外の寒気にさらされる中で放置されたのみならず、体温を低下させるクロールプロマジンを注射され、彼は凍死した。この事件はご母堂により民事訴訟が国に対して行われ、裁判で彼の死について国の責任が認められ賠償金が命じられた。
私たちは「精神障害者」の裁判を受ける権利を主張するが、以上の実態を放置したままでの安易な起訴勾留は「精神障害者」の死に結びつくものであり、また防御権の侵害であり決して認めることはできない。生命の保障があってこその、そして防御権の保障があってこその「裁判を受ける権利」である。
この記事を書いた記者はこうした「精神障害者」の獄中での弾圧実態を一切無視して検察の起訴便宜主義のみを批判していることを私たちは決して許すことはできない。
さらに「殺人」で不起訴となり精神病院に措置入院となった「精神障害者」がいかなる状態におかれているのか、その実態を記者は意図的に無視している。不起訴措置入院後は「ザル状態」でありいかなる公的機関も把握していないといっているが、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第二九条の四によれば、措置入院の解除にあたっては都道府県知事の指定する指定医による診察の結果、自傷他害のおそれがなくなったと見なされることが条件となっており、単に主治医や家族の都合で措置入院が解除される訳ではない。また同法二九条の五においては措置を解除した際には措置入院者の症状消退届けを最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出ることになっており、その書式には措置年月日、本人の氏名、生年月日、住所、病名、症状の経過、入院継続か通院医療か、転医か、その他か、さらに退院後の帰住先住所、保護者の住所氏名、生年月日まで書くことになっている。いったん措置入院となればこれだけの個人情報が行政に把握されることになっているので、公的機関が把握していないというのはまったくのデマである。
またいったん措置入院となれば、とりわけ「殺人」を犯したとなれば、健常者が判決で受ける刑期以上、多くの場合は一生精神病院に監禁されることになる。現実に一九九七年六月三〇日現在において厚生省の統計によれば全措置入院患者数は四七七二名、その内一〇年以上二〇年までの措置入院患者は一六、三%、さらになんと三七,七%が二〇年以上の入院となっている。すなわち全措置入院患者の五四%が一〇年以上措置入院されていることになるのだ。
不起訴後は「ザル状態」どころか、不起訴となった「精神障害者」は個人情報を完全に行政に握られ、健常者に比べて過剰に長期監禁されているのが実態である。
これらの実態を意図的に無視している記事に対し私たちは怒りを禁じ得ない。
さらに欧米において触法精神障害者の専門的治療施設があることを言及しているが、これらの保安処分施設は、各国の「精神病」者および専門家から厳しく批判されているのが実態である。一昨年私たちの団体から派遣した二名がオランダの保安処分施設を訪れ、職員抜きで中に入れられている仲間と交流をしたが、この二名はこの施設が恐るべき施設であり、保安処分体制がいかに恐ろしい事態を生み出すかを如実に体験してきた。入所者同士を相互監視させ、職員の気に入る繰り人形にならない限り一生出られないのがこうした施設である。
日本ではこうした保安処分施設を阻止し続けてきたことは世界に誇るべきことであり、今後も決してこうした保安処分施設を作らせてはならない。貴誌のこの記事は日本にも欧米の保安処分施設を作れといわんばかりの、上記の実態を意図的に無視したデマに満ちた差別記事であると断ぜざるを得ない。
私たち全国「精神病」者集団は上記の趣旨に基づき以下の要求をするものである。

①この記事を書いた日垣隆氏および週刊朝日編集長は私たちとの確認会に応じること。

②確認会に応じ、それに基づき自己批判を明らかにして週刊朝日誌上に自己批判書を掲載すること

③私たちの「精神障害者」違法行為者の救援活動に基づく私たちの書いた記事を週刊朝日誌上に掲載すること

以上 週刊朝日編集長殿
日垣隆様
一九九九年一月一六日

全国「精神病」者集団


これに対して週刊朝日編集長より以下の文書が来たがとうてい納得のいくものではなく、今後も追求が必要である。

全国「精神病」者集団
担当者様
前略一月一六日付の「抗議文」を拝受いたしました。
ご指摘いたしました件につきまして、お答えいたします。

週刊朝日一二月一八日号、二五日号で掲載しました記事「刑法三九条(心神喪失)のタブーを突く」は、精神障害者の犯罪が「裁判以前に検察の判断で幕を下ろされてしまう」現状を問題提起する内容です。
殺人で不起訴になって措置入院となった精神障害者が、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づいて、精神障害による「自傷他害のおそれ」という要件によって措置入院を解除され、その届けを保健所長を通じて都道府県知事に出すとのご指摘は、その通りです。
また、措置入院患者の多くが長期入院しているとのご指摘も、その通りです。
ただ、記事は検察の裁量にゆだねられている「起訴」について指摘したものです。精神障害者の医療の実態を意図的に無視したわけではありません。
ご理解を賜りますようお願い申しあげます。

早々 一九九九年一月二二日
週刊朝日○○○
○○○○ 印


(※HP用に一部省略して掲載しております。)