1998年12月発行のニュースです。一部のみの掲載となっております。
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ごあいさつ
投稿
事務局報告
- ガイドライン反対の署名について
- 国立犀潟病院での患者虐殺に関する抗議文
- 国連人権規約委員会への報告書
日本における国際人権規約で保障された人権の精神障害者に対する侵害
カンパアピール
- SSKO
全国「精神病」者集団ニュース
- 1998.12 Vol.24 No.6 東京都三鷹郵便局留め
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ごあいさつ
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- 厳しい寒さの季節となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?年末のあわただしい街角、そしてお正月と、私たち「精神病」者は取り残されたような思いをする季節となりました。一人でも多くの仲間が、仲間同士より集まってこの季節をやり過ごせるようお祈りいたします。
- また3名の死刑執行が行われました。国家の厳然とした強固な意志の壁の前で、歯がみする思い、そして自分たちは何をしてきたかという自己批判の思いにかられます。
- 精神保健法に関する専門委員会報告書が出されました。その中で報告書は精神病院を「急性期」と「慢性期」の病棟に分け、人員配置するよう提言しています。精神科特例を撤廃しないでごまかそうとする方針です。長期入院患者への医療放棄につながると見なさざるを得ません。中井久夫という精神科医の『最終講義』(みすず書房)に以下の記述があります。
「治療者は漫然としてこれらの自然的機会(引用者注慢性分裂病状態からの離脱のチャンス)を待つべきか。実は萌芽的チャンスはもっと多く起こっていると私は推測します。これが見えてくるための治療者への具体的なアドヴァイスをするとすれば『慢性患者を慢性患者と見なすのをやめたらいろいろなものが見えてきて離脱への萌芽はその中に混じっている』ということです。無理をしてでも『慢性患者』というラベルを心の中で強引に剥がすのです。するといろいろな緩急が見えてきます。風の呼吸のような……。……中略……おそらく、この状態からの離脱の前提条件は、患者の自己尊敬と士気とを回復し維持することでしょう。そのため治療者は患者に対してどこか畏敬の気持ちを持っていることが必要です。殺風景な環境と単調な日々と、患者の力をそぐような治療、押しつけがましい治療は、患者の中の大切な何かを擦り切れさせるようです。」
- 患者に対して畏敬の念をもてない精神科医達の「対策」の対象とされて「慢性期」と一方的にラベリングされ、「慢性期病棟」に移されて、一体誰が自己尊敬と士気を回復し維持できるでしょうか?
- (以下、略)
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(省略)
事務局報告
☆同封のガイドライン反対の署名について
第二次世界大戦のさなか、私たち「精神病」者の仲間多数がナチスによって虐殺され、また日本においても精神病院入院患者の三分の一から半数が餓死するという事態がありました。私たちは「精神病」者の立場からも反戦の意志を強く表明していかなければなりません。
(以下、略)
☆優生思想を問うネットワーク呼びかけの、受精卵遺伝子診断に関する集会
「市民が開く公開討論会――産婦人科学会から回答来る――」
の賛同団体として全国「精神病」者集団も連名しました。
☆国立犀潟病院での患者(死亡)に関する抗議文
国立犀潟病院における身体拘束による患者の窒息死およびその他の患者の人権侵害に関し以下の抗議文を厚生省に送りました。
抗議文
われわれ全国「精神病」者集団は結成以来一貫して精神衛生法の撤廃を掲げてきた。今回の精神保健及び精神障害者福祉に関する法(以下精神保健福祉法とする)見直しにおいても、すでに法の撤廃および精神医療の抜本的改革に向け意見書を提出している。
今回明るみに出た、新潟の犀潟病院における入院患者の虐待およびその死亡は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の構造的欠陥を示したものである。われわれはいかなる身体拘束および閉鎖処遇に対してその撤廃を訴え、身体拘束や閉鎖処遇を合法化している精神保健福祉法の撤廃を主張してきた。問題は法手続上の不備にあるのではない。現行の精神保健福祉法上合法的に身体拘束が行われたとしても、この患者の死亡は防ぐことはできなかったはずである。
問題は常に患者に寄り添い、看護できる看護体制がこの国のいかなる精神病院にも存在していないことである。入院した患者に対して管理や監視ではなく、看護の視点から「患者に寄り添う看護」は現行の看護基準では不可能である。また新聞記事によれば、長期入院患者に対する医療体制の不備も院長自ら認めている。医師、看護人の絶対数の不足こそが今回の事件の原因である。
厚生省は今精神科医療における絶対的な看護、医師の不足を、病棟を「急性期」と「慢性期」に分けることで解決しようとしている。また精神保健福祉士の国家資格化によって、看護婦不足をごまかそうともしている。
ある患者を「慢性期」とラベリングして、医療悲観主義によって医療の対象から外そうとすら見えるこうした動きが、今回の事件を引き起こしたともいえる。われわれはこうした医療悲観主義による患者へのラベリングを決して認めることはできない。
今回明るみに出た患者死亡は、氷山の一角に過ぎず、闇から闇へと葬り去られた仲間の死は数え切れないほどあり、われわれは怒りを抑えることができない。
精神病院を医療の場をして復権するためには、精神保健福祉法の撤廃と、手厚い医師、看護人の配置が必要である。いやしの場であるはずの精神病院での患者殺しが二度とおきないために、精神医療の抜本的改革をわれわれは求める。
一九九八年一一月八日
厚生大臣殿
厚生省障害福祉部精神保健福祉課御中
全国「精神病」者集団
☆国連人権規約委員会への報告書
日本は国連人権規約を批准しているため、五年に一回人権状況に関する報告書を国連人権規約委員会へ提出する義務があります。この報告書には「精神病」者の人権侵害の現状について何ら触れられていませんので、全国「精神病」者集団として反論のレポートを人権規約委員会に出しました。全国「精神病」者集団としては二回目です。
日本における国際人権規約で保障された人権の精神障害者に対する侵害
人権規約委員会御中
報告
全国「精神病」者集団
一九九八年九月六日
私たちは精神科ユーザーの全国組織です。私たちはユーザーのグループおよび個人のネットワークであり、一九七四年に結成されました。私たちのグループの主な目的は人権の回復と生存権の回復です。日本政府の貴委員会へのレポートは精神障害者の人権状況について不充分な記述しかしていませんので、私たちは人権規約委員会に反論のレポートを書きました。
九条生存権
(精神病院の他の患者や職員によって入院患者が殴り殺されるケースがたくさんある)
大和川病院のケース
一九九三年に大阪の私立精神病院である大和川病院から八尾病院へ1人の患者が移送された。彼の身体には沢山の外傷があり、肋骨が折れていた。彼は脱水症状にあり、肺炎で亡くなった。八尾病院の医師は患者が大和川病院で殴り殺された可能性があるとして警察に通報した。患者の家族は大和川病院に民事訴訟を起こし、一九九八年に賠償金を大和川病院から勝ち取った。判事は患者は他の患者に殴られ、この暴力をとめることができるだけの職員数が大和川病院にいなかったこと、適切な医療が患者に対して大和川病院で行われなかったと判断した。
山本病院のケース
一九九七年三月五月に、高知県の私立病院である山本病院の看護助手と看護士が傷害致死で告訴された。彼らは女性患者を殴り蹴り、そして彼女の足を持って壁に彼女の身体をたたきつけた。その結果彼女はなくなった。
これらのケースはたまたま暴露されたものである。われわれの組織の会員のそれぞれが、精神病院における職員の暴力を体験している。外部交通権が精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律(以下精神保健福祉法とする)で原則的に保障されているにもかかわらず、多くの精神病院の壁は厚く、精神病院の情報を得ることは困難である、とりわけ職員が日常的に患者に暴力をふるっているような病院においては非常に困難である。地方自治体も精神病院の暴力の事実を把握することができない。なぜなら彼らは「精神病」者の入院に関して私立精神病院に深く依存しており、私立病院の感情を傷つけられないからである。彼らが私立病院の暴行の事実を把握したとしても、彼らは暴行を実質的にとめることはできない。
これらの暴行には構造的な背景がある(七条、二六条および参考資料一参照)
(医療刑務所の被収容者が看守に蹴られ翌日死亡した)
一九九五年一月一七日、朝日新聞は城野医療刑務所(精神障害の囚人のための医療刑務所)の被収容者が看守に蹴られ、翌日死亡したことを暴露した。
一九九二年八月二八日ある看守が囚人を蹴り、翌朝彼は死亡した。彼の遺体は独立した司法的解剖を受けずに、刑務所長は彼は病死したと報告した。
一九九二年一一月一八日に看守は暴行で告訴され、同日有罪とされ罰金二〇万円が課せられた。
一九九三年三月暴行と囚人の死が内部告発され、刑務所当局は調査を開始した。
一九九五年福岡弁護士会人権擁護委員会がこのケースの調査を開始し、一九九七年八月八日に看守部長(彼は告訴されていない)城野刑務所当局に対して「警告」が出された。「警告」は弁護士会のもっとも重大な結論である。福岡弁護士会は刑務所当局が囚人の暴行による死を隠蔽し、囚人はけり殺された疑いが強く、告訴された看守と看守部長は特別公務員による暴行致死で訴えられるべき可能性があると結論を出した。福岡弁護士会はまた暴行の後囚人に対して適切な医療措置がとられていないことを指摘した。
福岡弁護士会はまた福岡地検に対しても不合理な刑務所からの報告を受け入れ、囚人の遺体に対して独立した司法的解剖を行わなかったことを批判した。
私たちのグループには城野医療刑務所での生活を体験した仲間がいる。彼らはすべて城野刑務所の虐待を告発しており、再び城野刑務所送られることを恐れている。城野刑務所では暴行は日常化しており、精神病に対する配慮はない。それゆえこのケースは暴露されたまれなケースである。
(O氏のケース)
われわれのグループの会員であるO萌子氏は精神分裂病であり日常的介護を必要としている。実際愛知県は彼女を二級の障害者であり日常的介護が必要であると認定している。しかし彼女には彼女の日常的な支援を必要とするパートナーがいる。それゆえ彼女は非常に厳しい状況下にある。
彼女は愛精病院(愛知県の私立精神病院)に休息のため入院したいと主治医に要求した。しかし彼女の主治医の態度は彼女の要求を受け入れるものではなく、彼は彼女のために職員が病院を辞めていくと非難さえした。彼女は譲歩して保護室でもかまわないといったが、彼女の要請はすべて拒絶された。
一九九一年一二月一〇日彼女は自殺を試み、彼女のパートナーの首を絞めようとした、これは母親の拡大自殺である。彼女は危うく意識を取り戻し、彼女のパートナーを殺すことをまぬがれた。彼女はこの件を主治医に話したが、彼は彼女の入院を検討しなかった。彼女は入院を何度も何度も主治医に要求した。しかし彼女の要求はすべて拒絶された。
彼女は絶望的になり、主治医を罷免し、主治医交替を要求した。しかし愛精病院当局は彼女の要請を受け入れず医療行為の提供すら拒んだ。そしてかれらはO氏に対して彼女と病院は一切関係しないという手紙を書いた。彼らは他の病院の紹介すらしなかった。彼女の主治医交替の要請は正当である。こうした拒否は医師法一九条違反であるが、日本ではこうした不法行為がたくさん行われている。日本では多くの精神科医が「好まない患者」を排除している。O氏のこのケースは医師が患者に自殺を強いている証拠である。
精神病院は従順で人権感覚の鋭くない患者を好み、そして「処遇困難者」とラベリングした患者の入院を拒否する。精神医療審査会に虐待や不適切な強制入院を訴えたときにすら、金も家もなしに患者を病院から放り出す精神病院も存在する。入院拒否と病院からの放り出しによってそして地域にそれに変わる支援システムがないので、多くの精神病者が自殺したり野垂れ死にしたりしている。
今日本政府は医療費削減を望んでおり、医療保険からの入院費が三ヶ月を越える入院に対して減らされている。それゆえ患者の同意も地域で生きる準備もなしに、三ヶ月の入院後に精神病院から患者が放り出される現象がある。この現象のため多くの精神病者が自殺したり野垂れ死にしたりしている。
これらの現象に直面するときわれわれはホロコーストの時代を想起する。
第七条非人道的または体面を犯す待遇
(ある強制入院中の患者が強制的に中絶され、胎児の脳が解剖された)
一九八四年五月T医師は強制入院中の患者に対する実験を日本精神神経学会総会席上で告発した。
T医師は岐阜大学医学部精神科の助手である。彼によれば実験の経過は以下である。
ある患者が岐阜の私立精神病院に強制入院させられていた。彼女の主治医は岐阜大額の助手であり彼は彼女を岐阜大学病院へ移送し、一九八四年二月二日に彼女の人工妊娠中絶が行われた。そして胎児の脳は脳の神経に奇形があるかどうか、そして向精神薬が脳内にどう分布しているかを調べるために解剖された。
このケースでは二つの問題点がある。一つは人工妊娠中絶そのものが患者の同意なしであったことである。カルテや看護日誌によれば、彼女は何度も何度も赤ちゃんを産みたいといっている。二つ目は解剖が患者の母親の同意のみで行われたことである。
何故彼女の主治医は彼女を岐阜大学病院に移送したのか? 彼は解剖のために胎児の脳を望んでいた。彼は研究し出世のために論文を書きたかったのだ。彼は彼の患者の母親になりたいという望みを無視することに何の躊躇もしなかった。
日本では患者の権利法はなく、「インフォームド・コンセント」を保障する何の法律もない。また強制入院中の患者に対しての実験を禁止する法律もない。とりわけ大学病院においては患者の同意も患者の利益もなしに入院患者に対して多くの実験が行われている。大学の医師たちが入院患者を実験に利用し、出世のために論文を書くことは深く根ざした伝統である。
(栗田病院のケース)
一九九六年一一月六日倉石氏(栗田病院の経営者 栗田病院は長野県の私立精神病院)が詐欺で逮捕された。警察によれば詐欺の過程は以下である。
栗田病院では病院当局が入院患者の銀行通帳を保管していた。そして倉石氏は亡くなった入院患者のお金を家族の同意なしに二から三年間にわたって銀行から引き出していた。金額の合計は四百万円にのぼる。倉石氏が逮捕された後、栗田病院での虐待が暴露された。
病院の環境は非常に悪い。電灯は朝と夕食時に一五分から三〇分だけつけられており、病室の電灯は消されている。それゆえ患者は真っ暗な中で生活している。エアコンはなく一二月から二月の間だけ、朝五時から六時までのみ暖房が入れられる。それゆえ入院患者は懐炉なしでは眠れない。入院患者は週一回か一〇日に一回しか入浴できない。四人部屋に六人の患者が押し込められている。これらの環境は倉石氏の指示のもとにある。
栗田病院の内部告発者によれば院内では暴行があった。ある女性の入院患者が病院を逃げ出し、連れ戻されたが、その後倉石氏の指示のもと彼女は一ヶ月にわたって拘束衣を着せられていた。患者の家族の証言によれば、職員のいうことを聞かない患者は殴られ保護室に放り込まれる。そして職員はこうした処罰を日常的に行っていた。
精神保健福祉法においては医師は拘束衣や保護室を懲罰のために使うことは禁じられている。しかし実際にはわれわれのグループの会員の多くは拘束衣や保護室が懲罰のためにしばしば利用されていることを体験している。
こうした暴力の背景には職員不足がある。倉石氏逮捕後の長野県の調査によれば、県の許可した患者数を三〇人超過する入院患者がいた。そして医師、看護婦、薬剤師の数は法定の基準以下であった。人手不足により職員は適切な医療と看護をそれぞれの患者に対して行うことはできず。職員は患者の集団に対応するだけで、患者を管理することしかできなかった。職員は患者を管理するために暴力を使った。
大和川病院においても人手不足があり、職員は栗田病院におけると同様に暴力を行使していた。
(精神病院における非人道的処遇)
人権を侵害し、人間の尊厳を否定する処遇が至るところで行われている。こうした処遇は例えば大和川、山本、あるいは栗田といった一部の私立の利益を追求する評判の悪い病院のみで行われているのではなく、公立の精神病院でも行われている。
例えば松沢病院(典型的な公立病院であり、東京都により経営されていて、日本でトップレベルの病院の一つと認識されており、精神科医の研修病院にも指定されている)においては人員基準は最高の基準をとっているにもかかわらず、病棟の開放率は二〇%である(開放病棟の基準を一日八時間開放として)。
二九病棟のうち一一病棟においてトイレのドアに鍵がない。精神病者のための整形外科病棟においてすらベッドのまわりにカーテンがない。患者はしばしばポータブルトイレを使う必要があるというのに。何とホールでおむつ替えをしているケースさえある。
松沢の完全閉鎖の病棟では患者が喫煙を禁止されている病棟もある。その他の病棟では患者は固定されて時刻に一日七本だけしか煙草を吸うことを許されていない。そしてすべての閉鎖病棟の患者は現金所持を許されていない。二つの完全閉鎖の病棟では患者の友人は患者に会うことができない。
しかし残念ながらわれわれは松沢病院は日本におけるよい病院の一つと認識せざるをえない。実際他の代わる病院がないのでわれわれ患者はこうした非人道的な処遇に耐えざるをえない。日本においては入院患者の人権を有効に保障する法律もシステムも存在しない(九条参照)。
八条奴隷および苦役及び強制労働の禁止
(栗田病院は退院した患者を賃金なしか非常に低賃金で使っている)
栗田病院の側に寮がある。栗田病院を退院した患者がそこにいる。彼らは栗田病院で掃除夫や料理人として働いている。しかし彼らは適正な賃金を受け取っていない。一ヶ月に一万円受け取っている患者もいるが、多くの患者はお金を一切受け取っておらず、タバコやお菓子を受け取っているだけである。
この寮は精神保健福祉法による「社会復帰施設」の法的基準を満たしていない。患者は大きな部屋で暮らしそこで眠っている。
こうした条件の下で栗田病院を退院し帰る家のない患者は、他に行くところを選ぶことができない。日本では地域に精神病院退院患者への有効な支援を行う社会資源がない。それゆえ、倉石氏が逮捕された後も、患者はこの寮にとどまらざるをえない。
(精神病院における強制労働)
日本では多くの病院が「作業療法」を行っている。しかしそのほとんどは「療法」ではない。なぜなら入院患者は「療法」と称して強制労働させられているからである。もし患者が働くことを拒否すれば、患者は罰せられるか、開放病棟へ行けないとか退院できないとか脅される。
他のケースは患者が看護人や他の職員の助手として強制労働させられるものである。彼らはおむつ替えやおむつの洗濯、食事の配膳、部屋、廊下そしてトイレの掃除、庭の草取りなどを強制的にさせられる。患者は脅しによって働くことを拒否できない。
われわれのグループの多くの会員がこれらの強制労働を体験している。彼らは「なぜ私たちは病院で休息できないのか? なぜ精神科の患者だけは休息する権利がないのか?」と発言する。
九条身体の自由と安全
(精神医療審査会は機能していない)
日本政府は、精神保健福祉法において強制入院があるが、精神医療審査会が入院患者の人権を擁護し不適切な強制入院を不正でいるといっている。
しかし精神医療審査会(以下審査会とする)は独立した審査機関ではない。審査会の窓口は県であり、審査会は独立した事務局も持っていない。県は精神病院に人を強制的に入院することを命令する権限を持っている。県は人を強制的に入院することを命令する。そして同じ県が審査会の窓口となっている。
精神保健福祉法において強制入院は定期審査を受けることになっている、しかしこの定期審査は、一度に一〇〇件の書類を精神病院から受け取って審査するものである。それゆえこの審査は形式的審査であり、それぞれの強制入院について効果的に審査する時間はない。実際に一九九六年において強制入院の定期審査の数は八四三九二であり、入院形式の変更は二三のみであり、退院数は一〇のみである。
精神保健福祉法によって精神病院の入院患者は、強制入院が不適切であることあるいは精神病院の処遇が不適切であることについて審査会に訴えられることになっている。日本には約三四万人の精神病院入院患者がいるが、審査会への不服の訴えの数は一九九六年でたった九一八件である。審査会制度が始まって以来、不服の訴えの数が千件を越えたことはない。
なぜ不服の訴えがたった千件なのか? それには三つの理由がある。
最大の理由は、長期入院患者は地域で暮らす望みを持っていないということである。精神病院退院患者に対する住宅を保障する法律は存在しない。さらに彼らは公営住宅に住むことができない(二六条参照)。地域には有効な支援システムが存在しないので、長期入院患者は病院から退院できない。
精神病院に五年以上入院している自発的入院患者が約一〇万人いる。彼らは精神保健福祉法によって原則的にいつでも精神病院から退院することができる。しかしどこへも行くところがないので、彼らは退院できない。
精神病院に五年以上入院している強制入院患者は約五万人いる。仮に審査会が彼らの退院を認めたとしても、審査会にはソーシャルワーカーもおらず、彼らの地域での生活を支援するシステムもないので、彼らは退院することができない。
第二の理由は外部交通権が有効に保障されていないことである。閉鎖病棟にも電話が設置されているとはいえ、電話はナースセンターのすぐそばに設置されており、患者は秘密に電話を使うことができない。さらに多くの病院で患者は現金やテレホンカードを持つことを許されていない。したがって彼らはいつでも望むときに電話を使うことができない。閉鎖病棟にいる患者は自分で手紙を投函することができない。彼らは職員に手紙の投函をたのばねばならない。悪い環境の精神病院では職員は彼らの要求を拒否したり彼らの手紙を焼き捨てたりする。それゆえ虐待の行われている精神病院にいる患者は審査会に訴えることができない。
第三の理由は審査会について不充分な説明しか患者にされていないことである。精神保健福祉法に違反して栗田病院においては患者は審査会について一切説明をうけていなかった。栗田病院のような悪い環境の精神病院では精神保健福祉法違反が行われている。たとえ患者が審査会についての書類を受け取ったとしても、その書類を理解できない患者がいる。なぜなら書類は理解するのに容易ではないからである。患者は代理人の弁護士なしでは有効に審査会に訴えられないが、日本には入院患者の弁護士料を国が払う法律は存在しない。それゆえ多くの入院患者は代理人の弁護士を持つことができない。
他にも審査会システムの問題点がある。
強制入院の場合、病院を選ぶ権利は保障されていないにもかかわらず、審査会は転院の訴えは受け付けない。
患者が入院の必要性を認識したときにすら、彼らの強制入院から自発的入院への入院形態の変更希望は常に認められるわけではない。精神保健福祉法では入院形態は原則として自発的入院とするとなっているにもかかわらず。
さらにもし審査会に患者が訴えたとしても、患者は審査の結論しか知ることができない。どのように彼らの訴えが議論されどんな材料が使われたかは、患者自身にも代理人の弁護士にも知らされない。もし患者が審査会の結論に不満でも、さらに訴えられる上級の審査会は存在しない。
一〇条自由を奪われた者の待遇
(精神障害の囚人は隔離されなければならない)
日本では沢山の精神障害の囚人が、病舎や医療刑務所のみではなく一般の刑務所に入れられている。われわれは彼らの正確な数を把握できないが、われわれの精神障害者の違法行為者の人権擁護活動の経験からいって、一般の刑務所で多くの精神所害の囚人が二四時間毎日隔離されている。
精神障害者の囚人が隔離されなければならない理由は彼らが精神障害であるということである。刑務所当局は彼らは刑務所の秩序を破壊する危険性があると見なしている。
隔離された精神障害者の囚人は、もし家族があるなら家族が月に一回面会に来るとき以外は看守としか話すことができない。さらに日本の刑務所では、適切な医療を受ける権利が一般的に保障されていない。とりわけ精神病の囚人は医療を受ける代わりに罰せられてすらいる。例えば、もし精神病と囚人が精神病の苦しさから叫んだりすれば、たいていの場合彼らは罰せられる。そして彼らが自殺を図れば、彼らは皮手錠をはめられ保護房に放り込まれる。
われわれは一九七六年の冬、われわれのグループの会員である鈴木国男さんが体温を低下させる作用のあるクロールプロマジンの注射によって凍死させられてことを体験している。彼のご母堂は国を民事訴訟で訴え、息子さんの死の賠償を勝ち取った。これは国から獄死に対する賠償を勝ち取った最初で最後のケースである。
一九条意見及び表現の自由
(精神障害者は言論の自由を持たない 参考資料二参照)
都道府県知事による強制入院の要件は、精神障害者であり、入院させなければ、精神障害のため自傷他害のおそれがあることである。
「他害」は他人の身体を傷つけることのみを意味するのではなく「他人の名誉を傷つけること」をも意味する(厚生大臣告示に記述されている)。
実際その例がある。一つは一九八〇年に静岡でおきた例で、警察がある人物を保健所に通報した。理由はその人がある精神病院の虐待を告発したビラをまいたからである。静岡県知事はこの人の精神鑑定を命令した。幸い精神鑑定の結果は強制入院は必要ないという者だった。
今一つの例は一九九六年に香川県でおきた。細川さんは精神病院の院長に通報され知事は彼の精神鑑定を命じた。細川さんは彼が入院していた精神病院の虐待を告発した。法務省人権擁護局は彼の訴えを受けこの病院を調査した。そして病院長は彼を通報した。理由は彼が病院の名誉を傷つけたというものである。幸い彼は強制入院をまぬがれた。
われわれ日本の精神障害者は言論の自由を持たない。
二六条法の下での平等
日本には精神障害者に対する差別条項が法の中にたくさんある。例えば精神障害者は自動車運転免許を取れない。
最低賃金法も精神障害者と身体障害者には適用されない。労働安全衛生法(六八条)は自傷他害のおそれのある精神障害者の就労を禁止している。この条項は精神障害者に不利にそして拡大解釈され、この条項のため職を失う精神障害者は数多い。
民法七七〇条では離婚事由の一つとして、配偶者が重症の精神病になり回復の見込みがないことが上げられている。それゆえ意志に反して離婚される精神障害者は数多い。
医療法においては「特例」がある。「特例」とは精神病院においては必要な医師、看護婦の数が他の病院に比べてそれぞれ三分の一、三分の二でよいというものである。さらに「特例」の基準すら満たさなくても精神病院を運営することができる。実際に精神病院の病床の四〇%はこの「特例」の基準を満たしていない。厚生省はこうした状態に対して何ら対策を立てようとしない。そして一九九八年六月二八日のわれわれとの交渉において、厚生省は「特例」撤廃の計画はないと発言している。
この差別的な「特例」による人員不足が入院患者への虐待や高い閉鎖率の原因となっている(参考資料一参照)。
保険制度から出る医療費においても差別がある。入院患者一人当たりの一日の入院費は精神病院では平均八千円円だが、他の病院では入院患者一人当たり一日一万九千円。この低医療費もまた精神病院の悪い環境と虐待の原因となっている。
精神障害者は家族のいない限り公営住宅に住むことを禁止されている。この差別ゆえ、精神障害者は高価で条件の悪い民間アパートに住まざるをえない。
参考資料一
日本における精神医療の状態(厚生省の資料から)
(省略)
人手の割合(一九八九年)
(省略)
精神保健予算
(省略)
精神医療審査会(一九九六年一月から一二月)
(省略)
参考資料二
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第二八条二第一項の規定に基づく厚生大臣の定める基準(昭和六三年四月八日厚生省告示第一二五号)厚生大臣告示からの引用
第一
(省略)
年末カンパアピール
- 日頃の会員の皆さまおよびニュース購読者の皆さまのご支援に感謝いたします。
- 来年にも上程されようとしている「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」見直しは、私たち全国「精神病」者集団の意見書を全く無視した形で進められようとしています。違法行為を行った「精神障害者」に関する特別な施設対策は一応専門委員会の報告では触れられていませんが、今後も違法行為を行った「精神障害者」の問題について論議が必要、とされています。
- ノーマライゼーション、社会復帰の大合唱の中で、違法行為を行った「精神障害者」が切り捨てられようとしています。こうした保安処分攻撃に対して全国「精神病」者集団は今後も闘いを進めていかなければなりません。
- また長期入院患者に対する「終末施設」構想、精神病院病床を「急性期」と「慢性期」に分け人員配置していこうという構想が進められています。精神科特例の撤廃をせずにごまかしていこうという方針です。「慢性期」とは何か?という根元的な問いかけはこの間一切されていません。こうした動きは「長期入院患者」を一方的に「慢性期」とラベリングして、医療の対象から外そうとすら見えます。社会技術訓練(SST)社会復帰尺度、などによって「長期入院患者」を訓練の対象として、何らかの専門性を偽装する動きも活発です。病院は治療の場であり、医療従事者は治療者である、という素朴な原則が投げ捨てられようとしています。その一方で「長期入院患者」を精神病院併設の「終末施設」に収容し、医療資本の収奪の対象とするたくらみが進行しています。
- 「長期入院患者」はそもそも国の60年代の精神病院増床政策と隔離収容政策、そして私立精神病院の営利主義の犠牲者です。まず彼らへの謝罪と賠償が行われなければなりません。そのためにも全国「精神病」者集団は闘い続ける必要があります。
- また視野を転じれば、この国は急速な勢いで治安強化と戦争体制へと進もうとしています。その端的な動きが組織犯罪対策関連法であり、ガイドライン、周辺事態法です。一貫して「治安の対象」とされてきた私たち「精神病」者はこうした動きの中で真っ先に弾圧されることが予想されます。私たちはこの国の危険な動きに対しても警戒を続ける必要があります。
- 全国「精神病」者集団の会員は増加の一方であり、地域で孤立した「精神病」者の絆としてのニュース発行はまさに生命の問題と言えます。手紙や電話は命綱として機能しています。ニュース発行をとぎれさせることはできません。
- 全国「精神病」者集団事務局員は専従費が出るどころか、全ての活動費を自弁で活動しております。集会への参加費、交通費、例会への参加交通費、精神病院への面会交通費、獄中支援、全て手弁当で活動しています。
- それでもなお現在全国「精神病」者集団は財政危機にあります。助成金申請を試みましたが、7件とも却下されました。有料購読者の増加を目指しさまざまな場所での宣伝活動も行っております。経費の節減はこれ以上は不可能というところまで節減しています。全国「精神病」者集団の財政は皆さまからのカンパと「精神病」者以外の方のニュース購読料のみに頼っています。
- 現在赤字は約8万円でこれは一会員からの借金でしのいでいます。来年3月には事務所の契約更新料12万円を支払わねば事務所を撤退せざるを得ません。またこのままではニュース発行もままならない事態となります。今後も助成金申請や有料ニュース購読者の拡大などの自助努力を重ねていく決意でおりますが、なにとぞカンパ要請にお応えいただけますようお願いいたします。
- (以下、略)
1998年12月
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