いわゆる「重度かつ慢性」の基準化に反対する声明
2012年6月28日に開かれた第7回 精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会で「今後の方向性に関する意見の整理」が発表され、その中で、今後の精神科医療においては「新たな長期在院者を作らないことを明確にするため、『重度かつ慢性』を除き、精神科の入院患者は1年で退院させ、入院外治療に移行させる仕組みをつくる」との方針が出された。このなかで「重度かつ慢性」の患者については、「新たな長期在院患者を増やすことのないよう明確かつ限定的な取扱とする」こととし、その基準については「調査研究等を通じて明確化する」とされた。
この「重度かつ慢性」の基準については、平成25~27 年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業「精神障害者の重症度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究」として取りまとめられた。さら、2016年4月22日の「新たな地域精神保健医療態勢のあり方分科会」では、同研究の研究代表者である安西信雄氏(帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科)を招きヒヤリングを行い、その後も議論が続けられている。
この「重度かつ慢性」の基準化は同分科会においても複数の構成員から、「『重度かつ慢性』という評価判定は非常に絶望的な響きとともに、退院の対象にならない人、そういうレッテルになってしまうおそれがすごくあって、それをすごく恐れています」(精神保健福祉事業団体連絡会:伊澤構成員)、「地域で私ども経験していると、妄想ばりばりでも朝ちゃんと起きて自分なりに食べられて、言葉は悪いですけれども、自傷他害という感じがなければ退院して生活していらっしゃる方はいっぱいいます(中略)これがそれこそ壁にならないようにしていただければということです」(日本作業療法士協会:荻原構成員)、「治らない人、よくならない人みたいな形で捉えられてしまうと、臨床的ではないというか、医者のほうがよくならないと思って治療しても患者さんはよくならない方が多くなると思うのです。決してそういうふうにならないように構成しなくてはいけないのではないか(中略)外来で私が診ている患者さんでもこの基準であれば該当する方がおられます。項目の問題もあるだろうとは思うのですけれども、そのあたりをもう少し厳密にやる必要があるのと同時に、そういう対象の方がどうして地域で生活ができているのかをしっかり調査しないといけないのではないか」(日本精神神経科診療所協会:田川構成員)などと問題点が指摘されている。しかしながら、その後の検討会において、これらは省みられることなく、この「重度かつ慢性」の対象者は入院患者の6割とするなど、常軌を逸した議論が行なわれている。
そもそも、「重度かつ慢性」の患者については、「新たな長期在院患者を増やすことのないよう明確かつ限定的な取扱とする」とされていたはずである。しかしその限定的であるはずのものが6割というのは極めて不適切と言わざるを得ない。
私たちは、このような「重度かつ慢性」の基準をもって、これからの精神保健医療福祉の施策を検討することに反対する。さらに、現在開催されている「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」において、このような不適切な基準を基に議論を進めないよう強く求める。
2016年12月7日
病棟転換型居住系施設について考える会