小野市福祉給付制度適正化条例案の撤回・廃案を求める声明

私たち全国「精神病」者集団は、1974年に結成した、精神科病院や精神科クリニック(心療内科を含む)に入院・通院中あるいはその経験のある者、すなわち「精神病」者の個人及び団体で構成する全国組織です。

2013年2月27日、第384回小野市議会定例会にて「議案第17号 小野市福祉給付制度適正化条例の制定について」が公開されました。本条例案は生活保護法、児童扶養手当法、「その他福祉制度に基づく公的な金銭給付」を「受給している者又は受給しようとする者」が、「偽りその他不正な手段により」給付を受けたり、「給付された金銭を、パチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消し、その後の生活の維持、安定向上ができなくなるような事態を招」かないために、市民相互間に「市及び関係機関の調査、指導等の業務」への積極的な協力、情報提供の「責務」を定めるとともに、「小野市福祉給付制度適正化協議会」ならびに「小野市福祉給付制度適正化推進員」なるものを設置し、調査活動等にあたらせるという内容になっています。

生活保護受給者のみならず受給しようとするものとは、すなわち全市民を指します。

もちろん行政としては誰が受給者であるか公開はできない以上、全市民が「生活維持安定向上をできなくなる事態」になっているかどうか、生活ぶりを相互に監視し、それを密告することが「責務」となる条例です。さらにこの「適正化推進員」には警察OBを採用するとされています。これでは市民同士の連帯としても地域社会は崩壊してしまいます。

相互監視と密告が責務とされる社会、恐るべき社会です。この条例は、たんに生活保護受給者への人権侵害ではなく、すべての市民の人間性否定、人としての尊厳の否定であり、人権侵害です。

「精神病」者は、現行の低い有効求人倍率の中にあって、さらに一般の雇用市場から排除されており、あるいは、体調に著しい変動が生じる精神障害に対応した社会ではないために所得を得ることもままならず、最低生活の水準を強いられて生活保護を受給している人が少なくありません。にもかかわらず、社会は変わろうとせず、「精神病」者を変えようとばかりして、就労支援、自立支援などの施策を講じてきました。

先日、韓国の障害者団体から「韓国の精神病院に家族の都合で強制入院された精神障害者がいて、どうやって地域移行させたらよいか」と問い合わせがありました。私どもは、医師に退院について交渉し、生活できるように支援することを助言しました。しかし、当の「生活」は、韓国の場合、公的扶助の額が低すぎて働くほかありませんでした。それでも、精神障害者にかかる欠格条項が多くて就職先のあっせんも現実的ではないそうです。こうして考えると、日本の生活保護は、様々な社会制度の水準を高め、豊かにする重要な基盤を担っているといえます。

金額は、一律に最低生活水準であり、使途は被保護者自身の必要に応じたものであって、なんら問題ないはずです。何に使おうが、同じ金額を支給する以上、財政圧迫が危惧されることもないし、そもそも、最低生活水準の人が増加するということ自体が、国の経済政策の失敗ややマイノリティをインクルージョンしていない制度設計であることを意味しているわけであり、その責任も被保護者ではなく、国にあるわけです。

そして、本来地方公共団体として議会は、こうした国の在り様を問うべく、地方自治法第九十九条に基づき、国への意見を出すべきです。しかし、小野市福祉給付制度適正化条例案は、日本の生活保護制度の根幹を揺るがし、安直な削減への道標を示すものに他なりません。適正なる地方自治の在り様を真摯に受け止め、小野市福祉給付制度適正化条例案は廃案とされることを求めます。

 

2013年3月



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