危険運転罪の法改訂の動きを巡って

以下の声明をいか関係者に送付しました

国交省大臣、警察庁長官、厚労省 障害保健福祉部企画課および大臣、
法務省 大臣、内閣総理大臣、および内閣府政策統括官(共生社会政策担当)村木
厚子さん、国家公安委員会委員長、衆、参の法務委員会委員長

内閣記者クラブ、司法記者クラブ、法曹記者クラブ、 厚生労働記者会、国土交通記者会、警視庁記者クラブ

危険運転罪の法改訂の動きを巡って

 

2012年6月15日

全国「精神病」者集団

 

まず、交通事故で最愛の家族を亡くされた遺族のお気持ちの上に、心より哀傷の念を申し上げます。

私たち、全国「精神病」者集団は1974年に発足の起源がある、精神病を持つ個人、団体の連合体です。

私たちは様々な、精神病、精神障害を持つ者を巡る、生存権や社会権を脅かす差別や排除の状況に対し、当事者として異議を唱え、改革、解放への運動を行ってまいりました。

今般、私たちが深い憂慮を持つ事態が進行しているとの認識を抱くことがあります。

2011年4月、栃木県鹿沼市でクレーン車が登校中の小学生の列に突っ込み、児童6人が亡くなるという悲惨な事故がありました。

運転手はてんかんを患っていたという報道があり、遺族は約一年かけて約17万人近くの署名を集め今年4月、国家公安委員長に提出しました。

その署名文書では、てんかんを申告せずに運転免許を申告した運転手が起こした死傷事故の危険運転致死傷罪適用への刑法の条文改正、てんかんを隠して不正取得できないような免許制度の構築が訴えられています。

署名提出を受けて、5月16日に民主党は衆参両議員、遺族、てんかん協会会長などと、法改正に向けた合同会議を持ちました。

先に述べましたように、最愛の家族を一瞬の事故で失った遺族の悲しみは想像に余るものがあります。

しかし、署名文書に謳われているような、てんかんを有する者が運転免許制度のなかで、その個別の能力や適性を鑑みられることなく、てんかんという病名のもと一括りにされ、非常に大きな制限を受けるようにするという法改訂が、交通事故の本質的な軽減対策になると言えるのでしょうか。

本当に遺族の悲しみを少しでも癒すものとなるのでしょうか。

それは、ひとりの遺族が「誰も好きで病気になったわけではないのに、患者を責めているようで苦しかった」と署名に対する思いを語られた、という記事にも表れていると思います。

今般の法改訂を巡る議論は、病気を持っている、障害があるというだけで社会参加の機会からいたずらに排除してゆこう、社会権を奪おう、という事につながると私たちは考えます。

 

 

病者、障害者が死傷交通事故を起こした場合には過失運転致死傷罪では足りないとし、より厳罰である、危険運転致傷罪が確実に課せるようとする法改訂は、絶えることのない交通事故の原因を、単純に病者、障害者に帰することで問題の解決を図ろうというものです。

これは、いまだマイノリティーである、病者、障害者をスケープゴートに仕立てる事で社会の安寧を計ろうという差別と排除の原理によるものと考えます。

2001年に病者、障害者を巡り設けられていた、絶対欠格条項が見直され、総理府によれば60ほどになったという欠格条項が大幅に削除、相対化されました。

「障害者欠格条項なくす会」のまとめではまだ300ほど残っているという欠格条項。

これは今に至るまで障害者の社会参加を阻害してきました。

例えば、てんかんを持ちながらフォークリフトの運転業務についている人がいます。

昨年からのてんかんを持った運転手による死傷交通事故の影響を受け、その人はフォークリフト業務から配置転換され、20キロの荷物を一日200個運ばされ、ヘルニアが仕事ができないほど悪化。

一般傷病休職となり、1年したら回復の見込みなし、ということで退職させられる、という事例があります。

コメントするのも辛い気持ちになる、むごい話です。

これはあまたある事例の一つにすぎません。

2001年の欠格条項見直しまで、どう考えても不合理な欠格条項がはばをきかせ、障害者を社会から締め出していました。

2001年、国際社会の欠格事由の状況を調査し、また、事故の原因の状況等を検証して絶対から相対になり、不合理極まりなかった欠格条項の見直しによる条項の削除が行われました。

しかし、2001年に見直されたといっても、欠格条項は今でも不合理性をその本質としており、病者、障害者の奪われ続けてきた生存権、社会権を回復するにはすべてを全廃し、欠格条項とは何だったのかを問い直す作業をしなければいけない、と考えます。

そして、今回の刑法改訂の流れはこれに逆行するものと考えます。

重ねて申し上げるに、今般問題になっている交通事故に関して、本来、それは決して病者、障害者にその責を帰するという、私たちからすると蛮行としか言えない政策によっては、何の解決を見るものではありません

警視庁によると昨年の交通事故69万2千件のうち、てんかんによるものは73件で0.01%という非常に少ないケースなのです。

自動車の運転が生活の一部として深く入り込み、しかも、1トン前後の鉄の塊を時速数10キロの速度で様々な運動能力の持ち主が走らせる行為が、快楽をもたらす行為となっている近現代の問題。

 

また、日本経済の牽引役として政策的に、自動車の絶えざる生産、自動車の所有、運転が勧められてきた、社会全体が立ち止り考え直すべき、国全体のあり方の課題です。

自動車運転は基本的に誰が行っても重大な危険性のある行為であり、それを行うにあたっては厳重な危機意識の保持を求められる事柄なのです。

しかし、現在、有識者による道路交通法の改正の検討が始まることになったことが報道されました。

検討内容は、病気を申告せずに免許を取得した者への罰則や、医師に忠告を受けながら運転を続ける者を医療機関が警察に通報など、という事です。

人口の1%と言われるてんかん、また、統合失調症、双極性障害などの病者、障害者名指しの、罰則による脅し、主治医との信頼関係を引き裂く通報の強要、という、障害者は健常者と違って、危険なのだ、という偏見、差別に基づく、本質的な死傷交通事故問題解決には程遠い検討で認めるわけにはできません。

これ以上、病者、障害者を社会問題のスケープゴートにおとしめ、社会から排除することで問題解決のすり替えをすることを止め、真に社会総体の問題として、法、施策、政策の見直しが行われる様、ここに強く訴えます。

                        以上



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