2012年4月19日「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」 ヒアリングに向けて

全国「精神病」者集団会員 山本眞理

 

 

前提として

そもそも社会的でない入院は他の科も含め存在しない。病院という存在が生み出されそれにより入院患者が生まれたのは医療史の語るところである。もちろん技術集約や先進医療のための「病院でしかできない治療のための入院」そしてそのための「病床」は今後もあり続けるであろうが、一般科であっても高齢化による慢性的な疾患の増大という疾病構造の変化によって、「病院の世紀20世紀の終焉」が来ようとしている。

「精神科病院」は、「精神病院」から名称変更し、「入院でしかできない治療」に純化し一般病床と同じ位置づけを求めるという方向を示しているのであろうが、果たして精神科において社会的入院でない病院でしかできない治療のための入院というは存在しうるであろうか? 「精神科病院でしかできない高度な医療」の中身はいったいなにか、そうした議論がまずなされなければならない。

急性期であろうと精神病院ではなく、自宅で治療を行う実践はすでに各国で行われている、また家庭的な小規模の施設によって、薬を使わないで急性期を乗り越えるソテリアのような治療共同体は対照群の一般的な精神科救急より高い成果を上げたという調査も行われた。

現在でもスイスのソテリアベルンにおいてこうした「治療」が実践されており、精神病院をなくしたイタリアにおいても抗精神病薬を初発においてつかわずに対応するソテリアのモデルが注目されているところである。

また日本でも地域で精神障害者支援を行っている人々の間では入院がむしろマイナス要因が大きいことは共通認識とされている。(たとえば、南相馬市ひまわりの家スタッフ 発言、精神科医と私たちで入院の基準が違う、入院してよくなってきた人はたった一人、あとは薬漬けになって回復に数か月かかる)

もちろん人権上も身近で地域で医療を受ける権利保障は重要である。

そういう意味で、本当に精神病院入院は必要なのか、それがまず問われなければならない

 

 

今ある病棟機能分化

①    「病棟機能分化」なるものは何か?

今行われているものは「病棟の機能分化」ではなくて「診療報酬と有資格者の病床別傾斜配分」であり、「病棟の機能分化」と称するのは詐欺である。

②    病棟機能分化なるものが生み出した実態

森山公夫研究班が精神病院の機能分化を主張した時、様々な批判がなされた。そこにある有資格者の傾斜配分の問題点指摘であり、いわゆる療養病床あるいは慢性期とされた患者さんのいる病棟には看護は手薄くていいのか?という批判であった。

看護や医師が少なくて、本当に医療が保障できるのか、むしろこうした病床が終末施設化しないかという批判であった。

これらの批判は妥当であった。実際療養病床には5年以上の入院患者34751名が在院しているが、この方たちに対して個別の看護や医療が保障されているのかどうか疑問がある(平成20年630調査より抜粋)。

「院内寛解」であるとか「慢性期」といったラベリングそのものが問題であると考える。いったんそうしたラベリングを貼られると、治療もおこなわれず放置され退院に向けた努力も放棄してしまうのが医療従事者の悲しい実態である。また長期間保護室に隔離され放置されている患者も一定数存在する。こうした態度こそが問われなければならず、そしてそうした態度を生み出すラベリングおよびいわゆる「機能分化」こそが、問われなければならない。

いわゆる急性期病棟およびスーパー救急の実態についても問題がある。下記資料にあるように、新規措置入院患者のばらつきはそのままいわゆる精神科救急体制の整備と並行していると読み取れる。措置入院の実態そのものも地域格差があることは心神喪失者等医療観察法の国会審議のさなかにも明らかにされ、その後も改善されたという報告は寡聞にして知らない。(なお最近措置指定を受けた東京のある精神病院ではあっという間にスーパー救急を満たす措置入院患者をうけいれスーパー救急病棟を新設した。労働者の印象ではこうした病態が措置?という疑問があるとのこと スーパー救急病棟のために措置が濫用されている実態はないのか? 疑問あり)。またこうした機能分化ゆえに、自ら入院を希望しているのに、医療保護入院の手続きを強いられるという事例すら出てきている

広範囲の医療圏から集められた患者さんに対応するために医療従事者はおびえ予防的に行動制限をすることになり、身体拘束や隔離が手順としてマニュアル化している実態がある。電気ショックですらマニュアル化されている。

電気ショックは非可逆的に逆向性の健忘をもたらすこともあり(アメリカでは皮肉にも精神科看護の専門家が電気ショックを受けて技能も知識も失ってしまったという民事訴訟で賠償を勝ち取っている)もちろん命にかかわることもあるが急性期にあたって同意なしに濫用されている実態がある。

少なくともWHOも求めているように同意のない電気ショックは禁止されなければならない。

身体拘束はそもそもあってはならない行動制限であり、イギリスのようにすでに全廃している国もある。エコノミークラス症候群やその他による死亡の恐れすらあり、また心理的な屈辱感によるトラウマも深刻である。

こうした体験ゆえに心疾患によって救急車に乗せられたにもかかわらず、救急車の中で身体拘束ゆえに拒否し、その後心疾患で急死した仲間も存在する。

命に係わる身体拘束は即時廃止されなければならない。

精神科救急の徹底した見直しがなされなければならない。そして急性期病棟の在り方についてはさらに医療圏の縮小がその他の見直しが急務である

たとえばすでに立証されている急性期に代わるオールタナティブとしてのソテリアの実践。また今現在も継続中のソテリアベルン。あるいはオランダで実践されているオールタナティブ(危機に際する介入を医療主導ではなく行う実践であり、毎年10%ずつ強制入院を減らしていく計画の一端としてのオルタナティブ開発)などなど各国の取り組みの検証と試行プロジェクトが求められている。

 

③    あるべき精神医療のありかた

 

精神病院を解体し病床0に向けて年次計画を立てること。一般医療に精神医療を組み込むこと。当然精神疾患のみに向けて法体系は廃止の方向に行くことが障害者権利条約の要請であり、そのためには精神医療は医政局のもとに統合され、障害福祉部に精神に特化した部局をなくすべきである。(ただし現在の自立支援法は健康な身体障害者をモデルとした介助体制が引かれているので、精神障害者のニーズに合った介助体制の確立は必要)

地域の医療保険福祉の体制は総合的なものであるべきで、精神障害者に特化したものはあってはならない。

なお今後生物的精神医学と薬のみに集中している精神医療の根源的見直しも必要である。心理社会的アプローチの研究が求められている。

初発急性期において薬を使わない、ソテリアの試行プロジェクトも必要であろうし、当事者運営の危機センターの試行プロジェクトも必要である。初発急性期において抗精神病薬の使用により慢性患者を作り出している実態は根底的に見直されなければならない。各国の精神病院に代わるオールタナティブ開発に学ぶべきである。現在精神病院への強制入院は最初にして唯一の選択肢となっている実態は即急に改められなければならない。

基本的に一市民として地域で生きるものとして必要な場合に医療を使うという基本線が大前提となされなければならない。

現状では本来障害者福祉で行われるべきことが医療保険を使って行われており、とりわけデイケアナイトケアは医療保険で行われるべきではなく医療機関で行われるべきではない。

精神医療の復権としてACTが喧伝されているが、本来は自立支援法による支援を使い一市民として地域生活が保障され、医療は必要な部分だけで機能するべきであり、医療主導の多職種チームあるいは専門職主導の多職種チームなるものではなく、精神障害者自身の運営によるセルフヘルプグループ活動に予算がかけられるべきであるが、今はそこに通う交通費すらままならない現実がある(AAや断酒会については生活保護受給者に対して交通費が出されている)。医療対福祉保健の予算が97対3という現実を変え、さらに専門職に予算をつぎ込むのではなく精神障害者団体の実践に予算が分配されるべきである。

長期高齢の入院患者さんたちに必要なものは何か? 実際に30年40年と入院していた方たちからの意見を吸い上げる必要がある。昨年度の科研費による地域移行への研究を全国化し、精神障害者団体により行うための予算が求められる。

実践例に学ぶ必要があるが、グループホームやケアホームはあくまで施設であり、選択肢の一つといわれながらそれしか選択肢のない実態が続いていることが問題である。まかないつき共同住居は高齢の方や、独り暮らしはさびしい、あるいは精神病院で作られたコミュニティの継続という意味では必要かもしれないが、できればサテライト型グループホームで、居住権を持った家と呼ぶに値する住宅保障が必要である。退院支援について個別給付化されたが、そうした申請書とわかりやすいパンフレットがすべての精神病院入院患者に配布されるよう、国費で保障すべき

なお相談支援事業所が精神病院に自由に出入りし事業の説明会や相談を受けられる体制づくりも必要。また自立生活体験室をたくさんつくり、そこで実際に介助を使ってクラス体験を重ねるためにも、そうした費用を本人に保障するかあるいは公費で賄う必要がある。入院中であろうと外出やこうした自立生活体験室においては自立支援法の介助が使えることと自己負担0であることが必要。さらにこうした体験に向けての交通費保障も必要。

なお当面精神病院も精神保健福祉法も継続し強制入院を0にはできないであろうし、閉鎖処遇もなくならないであろうから、それらが0になるまでは最低限刑事施設並みの外部視察委員会の設置が全精神病院に必要。(院内に外部視察委員会しか開けられない投書箱の設置は刑事施設並みに必要)。また個別の人権侵害からの救済のためにはすべての精神保健福祉法下の患者に対して公費で弁護士をつけることが求められる。

最後に再度訴えます。精神病院入院でしか治療できない状態とは何か明確にしていただきたい



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