こころの健康推進議連ヒアリングに向けて 20120209 全国「精神病」者集団意見書

こころの健康推進議連ヒアリングに向けて 20120209

全国「精神病」者集団意見書

結論

私たちはこころの健康推進基本法を求めません。

理由

1 立法事実がない さらに憲法違反、自由権規約拷問等禁止条約違反、そして障害者権利条約に抵触するおそれがある

 

精神疾患(心の健康)の問題が重大な問題であるという認識を示しているが、その背景にある、性差別他差別問題、人権侵害、労働環境の問題、経済施策などを個人病理として解決しようとすることは重大な誤りであり、むしろ問題の所在を不明確にし、政策の失敗を糊塗することになる。

構造的な社会問題を心の健康の問題として、精神医学化するのは、厳に慎まなければならない。

例えば自殺問題一つとっても一部の都道府県自死遺族会の調査では自殺者の少なくとも半数が精神科利用中あるいは利用歴があり、精神医療は自殺防止に役立っていない。むしろ精神医学化が、差別的ラベリングをし、それによる自殺の疑いすら多く指摘されている(参照 添付資料1 うつ病患者の増大と抗鬱剤の販売数増加が自殺を防止していない事実添付グラフ参照 別紙添付資料2また富士市による自殺防止キャンペーンが自殺を減らしていない事実)

また月に100時間以上残業している欝の患者さんに残業をやめなければお薬をいくら飲んでもよくなりません、会社と話し合いましょうと主治医が提案し勤務先を聞いたら、なんと労働基準監督署だったという実話すらある。

自殺防止や虐待防止に対しては、子育て後、病気休職後の復職者が安心して働ける職場作り、総労働時間の削減、労働者派遣の禁止と正規職員化などの労働条件の解決、さらに貧困問題の解決こそが優先されるべきであり、心の健康基本法制定の立法事実はない。(添付資料3参照)

またすでに精神保健福祉法はその第3条国民の義務において「 国民は、精神的健康の保持及び増進に努めるとともに」とされ、さらに健康増進法第2条(国民の責務)において「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。」としている。

これらはすでに健康を国民の義務とし、疾病を持つものや障害者をいわば非国民として位置づけ優生思想を強化するものであり、憲法25条の生存権という権利を国民の個別の義務に転化したものでありそもそも問題であるが、これに屋上屋をかけて心の健康を推進しようとすることは重大な疑義がある。

そもそも心という目にも見えない形もないものが病んだり健康になったりするはずはなく、「心の健康」の法律による制定は、憲法第19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」に抵触するおそれすらあり、個人の精神的身体的統一性完全性不可侵性(インテグリティ)の侵害を禁止している拷問等禁止条約および自由権規約、そして政府が署名し今批准に向けた障害者権利条約17条にも抵触する

こうした立法事実がない法律を作るならば、精神保健福祉医療専門職の利権を拡大し、さらに市民の内心へまで踏み込んだ権利侵害を拡大するだけであり、自殺防止になるどころか虐待や差別人権侵害を強化しかねない

 

2 今私たちが求めるもの

1 まず精神障害者への差別立法を廃止すること、差別的政策を廃止変更すること

精神障害者差別をあおり人権侵害を重ね、分かっただけで17名の自殺者を出している心神喪失者等医療観察法の廃止(資料4 別紙東京新聞記事参照)

何の法的根拠もなく個人に強制介入するアウトリーチ事業を廃止すること(これは本人の同意が取れないからこそ医療保険が使えないと厚生労働省は説明している。全てを拒否している方についてはヨーロッパでも高く評価されている例えばスエーデンスコーネ県のパーソナルオンブートのような試みが試行事業化されるべきである 資料5参照)

 

2 総合福祉法骨格提言を完全に反映した障害者総合福祉法を制定し、精神障害者にも使いやすい介助体制や支援を準備することで、精神障害者の地域生活を保障していくこと。

本人の権利擁護者を準備し、施設病院、刑事施設に出張御用聞きをする権限と義務を定め、また相談支援はケアマネージメントではなく権利擁護でもあるべきことを明記すべき。政府の現行の自立支援法における相談支援はケアマネージメントとして位置づけられ、かつ「中立公平」「家族あっての自立」という位置づけであり、人権擁護ではなく裁く機能を持たせられており、これはソーシャルワークの倫理規定「非審判」にも抵触する。

とりわけ骨格提言の地域移行の法定化を速やかに定め、長期高齢患者20年以上の入院患者が4万人以上いる実態を早期に解決すること(厚生労働省は来年度予算で精神病院に長期高齢患者の地域移行の担当者を各精神病院に一人配置するとしているが、精神病院に雇われた人間に退院促進は不可能、利益相反となる)

また地域移行は家族が介助している精神障害者についても自立生活に向けた障害者本人への介助支援体制を法定化することであり、この点も重要である

 

3 精神医療の一般医療への統合を進め、ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会の求める医療基本法制定およびそれに伴う患者の権利法制の確立が必要である。この提言は医師会および日本精神病院協会など医療提供側も含めて賛同したものであり、精神医療の底上げも重要であるが一般医療自体が崩壊している実態(地方は当然、例えば東京ですら小児科の救急は危機に瀕しているし、精神障害者の合併症治療も保障されておらず死亡者が出ている 資料6参照)を考えると、医療の基盤整備こそが今緊急に求められており、医療基本法の制定が何より優先課題である

在宅医療の強化も必要であり、総合医による精神疾患への対応は今後さらに重要となる

 

4 強制入院制度については、数値目標を定めた削減方針を定めるべきであり、最終的に精神保健福祉法を廃止し医療基本法に統合すべき

障害者権利条約は12条、14条、15条、17条、25条で強制入院および強制医療を禁止している

オランダでは専門職団体が一致して年間10%ずつ強制入院を減らしていく計画が立てられ、そのためのオールタナティブの開発にも予算が付けられている。ノルウェーでは、少女への強制入院強制治療についてヨーロッパ拷問禁止条約の調査が入ったこともあり精神保健法の廃止への議論が始まっている

OHCHR(国連高等弁務官事務所)のモニタリングガイドおよび資料ではいかなる強制入院も障害者権利条約の下ではあってはならないとしている(添付資料7参照)

また拷問等禁止条約前特別報告官は強制医療や強制入院は拷問等禁止条約が禁止している拷問あるいは残虐で非人道的品位を汚す処遇に当たりうるとしている(添付資料8参照)

当面残る強制入院や閉鎖処遇については速やかに拷問等禁止条約選択議定書を批准し、国内防止機関を作り精神病院に対して継続的抜き打ち査察を行うこと(別紙添付資料9参照)

 

こころの健康推進議連におかれましては上記意見および添付資料ご参照の上、基本法成立ありきではなく、幅広い議論検討を継続なさることを訴えます

 

 

 

 

添付資料

資料 1 こころの病は誰が診る(日本評論社)2011/8/11

裏表紙グラフ

 

資料2  別紙

自殺予防事業を考える:富士モデルへの建設的フィードバック

第7回日本うつ病学会 2010/06/11-12 (金沢大会)

斉尾武郎(フジ虎ノ門健康増進センター)

saio@ppp.bekkoame.ne.jp

櫻澤博文(さくらざわ労働衛生コンサルタント)

http://homepage3.nifty.com/saio/suicid-prevent-JSMD2010.pdf

自殺予防事業が、逆説的にも自殺を増やしているのではないか、という問題提起。

 

資料3 2010年9月23労働現場と精神障害者公開学習会講演録
   講師 神奈川労災職業病センター 川本浩之さん

https://nagano.dee.cc/201009kawamoto.pdf

 

資料4 別紙 東京新聞記事

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sougoufukusi/2011/02/dl/0215-1b03_01.pdf

 

資料5 2011年度厚生労働省アウトリーチ事業

「周囲の困った感」で自宅を急襲、個人情報を共有化

厚生労働省アウトリーチ試行事業弾劾声明にご協力を

あなたの知らないところで、家族や隣人保健所等が「困った感」(厚生労働省社会援護局障害保健福祉部精神・障害保健課の本後課長補佐発言)を感じて通報することを契機に、自宅を急襲される。さらにあなたの個人情報が多職種チームに共有される。

こんな人権侵害があったいいでしょうか?

「困った感」などというあいまいな要件で、強権が発動され自分の個人情報があずかり知らないところで共有され議論され、さらに評価委員会というところの一度もあったことのない顧問医があなたについて意見を述べる。こんなものは医療でも支援でも何でもありません。単なる人権侵害です。

このアウトリーチは決してあなたが困った時にあなたの依頼に応じて、相談にのってくれたり往診してくれたりするものではないのです。

こんな人権侵害を許してはなりません

すでに動き出している京都のアウトリーチ事業についてある方は以下報告しています

「厚労省アウトリーチ推進事業が始まっている。退院促進推進、未治療・医療中断対応が目的のはず。蓋を開ければ病院機能を地域に移しただけ。結局強制入院に頼って悪循環。当事者の医療トラウマを増やすだけで、病床数は減りやしない。事業に手を挙げた病院のPSWからの相談に乗るたび感じる疑問です。」

全国「精神病」者集団のアウトリーチ事業弾劾声明にどうぞ賛同のご署名を

2012年ドアウトリーチ事業弾劾声明

ご賛同のお願い

全国「精神病」者集団

皆様へ 同封の弾劾声明の個人団体のご賛同を広く呼びかけます。

このアウトリーチ事業はすでに2011年度にも試行されていますが、その検証は調べた限り明らかにされていないまま、2012年度には全国29都道府県で試行がもくろまれています。

従来のACTなどの地域医療はあくまで治療同意の取れている方に医療保険を使って行われるものですが、これは治療同意のない人が対象(図参照)であり、医療保険ではなく福祉予算でおこなわれます。精神病院によって行われ精神病院の病床削減と引き換えのものです。私たちにとっては突然精神病院から人が押しかけてくるという恐るべき事業です。家族警察隣人などからの通報によりこのチームが動くのですが、当面の間は統合失調症重度の気分障害認知症による周辺症状のあるものとされていますが、医師は顧問非常勤であり、そもそもその判断を誰がするのかチーム発動の決定は誰がするのかも不明です。

こうした人権侵害に多額の予算がつきこまれることに多くの皆様の反対の声を集中していただきたいと存じます

 

なお声明に触れられているアウトリーチ事業の資料およびスコーネのパーソナルオンブートの資料はご希望の方はお申し込みいただければ送付いたします

 

以下 障害福祉保健関係主管課長会議 20011年2月22日資料より

 

2012年度予算によるアウトリーチ事業を弾劾する

全国「精神病」者集団

 

厚生労働省は2012年度予算において精神保健体制によるアウトリーチ施行事業を予算化した。

これは本人の同意がない場合、医療報酬としては請求できないという理由で、医療保険以外で多職種チームによる強制的介入を行おうというものである。望んでいないのに自宅に侵入され介入されるという重大な人権侵害が税金を使って行われようとしている。いかなる根拠でこのような人権侵害が許されるのか? 憲法および国際人権法違反と断ずる。

しかも恐るべきことにこのチームにはピアサポーターも位置づけられており、いわば精神障害者自身を専門職による人権侵害の手先として利用する、恐るべき精神障害者の分断である。私たち精神障害者はこうした犯罪行為に加担するいわば岡引になることを拒否する。

この試行事業は世界的に精神障害者の反対の中で強行され、しかも効果も疑わしく、死亡例も有意に多いとされている、地域での強制医療法への一里塚である。

本来すべての福祉や医療を拒否して孤立して、苦痛や困難に直面している人たちに対しては(ホームレスを含む)スエーデンスコーネで行われているような(注参照)パーソナルオンブート制度こそが求められている。これについてはすでに全国「精神病」者集団が何度も厚生労働省および関係団体にも紹介している。

スコーネのパーソナルオンブートは行政からも精神保健体制からも独立した障害者および家族団体によって運営されており、1対1のつながりを作っていく事で信頼関係を作り上げ、語り合うものであり、守秘義務があり、記録も付けないものである。もちろん精神保健体制にも行政にも個別の人について報告義務はない。こうした先進事例こそが試行事業化されるべきである。

私たち全国「精神病」者集団はこのアウトリーチ事業についてすべての都道府県が拒否すること、そしてすべての関係諸団体が拒否することを強く要請する。

 

アウトリーチ試行事業については

障害福祉保健関係主管課長会議 20011年2月22日資料以下11ページより

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kaigi_shiryou/dl/20110630-01-05.pdf

 

 

スエーデンスコーネのパーソナルオンブートについては以下参照

 

スエーデンの利用者運営のサービス 精神科の患者のためのパーソナルオンブード制度

 

精神科の患者のためのパーソナルオンブードあるいはパーソナルオンブズマン制度はスエーデンの新制度である。この制度は1995年のスエーデンの精神科改革から生まれた。この制度はこれまで誰もどう取り扱えばいいか分からなかった問題の解決として生まれた。

パーソナルオンブズマンは専門的で高度な訓練を受けた人であり、100%精神科の患者のみの代理人として活動する。パーソナルオンブズマンは精神医療、ソーシャルサービス、あるいはほかの何らかの行政当局そして患者の家族や周囲の人から完全に独立している。

パーソナルオンブマンは利用者がオンブズマンにしてほしいと望むことだけをする。利用者は自分はどんな援助を望んでいるのかを知りそしてそれを勇気を持って告げられるようになるまで、長い時間が、時には数ヶ月かかるので、たとえ混乱と混沌の中にあったとしてもパーソナルオンブズマンはひたすら待たなければならない。

このことは同時にパーソナルオンブズマンはクライアントと長期にわたる関係、通常数年間にわたる関係を作っていかなければならないことを意味する。これは信頼関係を作り上げそしてより本質的な事柄に触れられるようになるためには必須の条件である。パーソナルオンブズマン制度は、この点で伝統的な精神保健サービスにおいて精神科の患者が一人の担当者から別の人へと次々に引継ぎされたり、あるいは全く支援を受けられないというとは全く異なっている。

パーソナルオンブズマンはとりわけ接触がもっとも困難であり通常支援を受けることなく放置されている精神科の患者を支援することに焦点化して活動している。なぜなら誰も彼らと接触し支援するやり方を知らないからだ。すなわち対象者は重い精神障害(主に精神病)の精神科の患者そしてホームレスであるか非常に孤立して閉じこもって生活している人、すなわちコミュニケーションをとるのが困難な人あるいは行政当局に対して強い敵意を抱いている人たちということになる。それゆえにパーソナルオンブズマンは対象者が訪れるのをじっと待っているのではなくて、対象者の生活の場に行って対象者を見つけださなければならないということになる。さらには彼らと接触できるやり方を創意工夫していかなければならないということになる。

こうしたことが可能となるためにはパーソナルオンブズマンはすべての行政当局から独立している必要がある。スエーデンでもパーソナルオンブズマンが自治体に雇用されている地域もある。しかしこうした雇用関係にあるパーソナルオンブズマンは行政当局の代理人に対して警戒的であったり敵意を持っている精神科患者と接触することができなくなってしまい、数々の問題を引き起こしている。パーソナルオンブズマンは「二重の忠誠」を持っているといういかなる疑いももたれてはならない。原則として独立した非政府組織が好ましい。

この例として以下のスコーネの例を紹介する。

「PO-スコーネ」( スコーネパーソナルオンブズマン)

スコーネはスエーデンの最も南の県である。住民は約110万人。スエーデン第三の都市であるマルモに住民の三分の一が住んでいる。

ほとんどのスコーネのパーソナルオンブズマンは「PO-スコーネ」に雇われている。「POスコーネ」はユーザー組織であるRSMH(スエーデン全国社会精神保健協会)と家族組織であるIFS(シゾフレニア・フェローシップ協会)とが運営している。

RSMHとIFSの地方組織のみが「PO-スコーネ」の会員資格を持つ。年次総会でこれらの地方組織代表が「PO-スコーネ」の理事を選出する。この理事会が25人のパーソナルオンブズマンとその管理職の雇用者となる。すなわち組織は完全に利用者の支配下にあり、パーソナルオンブズマンは利用者のガイドラインに沿って働くということになる。ガイドラインを以下にいくつか紹介する。

*パーソナルオンブズマンはほかのサービスとは違って、9時5時の月曜から金曜という通常の業務時間にのみ働くわけではない。業務時間は週7日でありそして毎日24時間である。そしてパーソナルオンブズマンはこの業務時間の中でさまざまな時間帯で働く用意がなければならない。なぜならクライアントの問題は通常の業務時間に集中しているわけではないし夜間や週末のほうが接触しやすいクライアントもいるからだ。パーソナルオンブズマンは週40時間の勤務時間で働き、クライアントの希望に応じてそのつど弾力的な勤務スケジュールを作って働く。

*パーソナルオンブズマンはいかなる形でも事務所を持たない。なぜなら「事務所は権力」だからだ。パーソナルオンブズマンは自宅から電話やインターネットを使って仕事する。そしてクライアントとは自宅あるいは街中の任意の中立的な場所で会う。

*パーソナルオンブズマンはまず「関係性モデル(?relation-model)にのっとって仕事をする。多くのクライアントが懐疑的で敵意を持っていたり、あるいはその他の理由で接触すること自体が困難なので、パーソナルオンブズマンはクライアントがいる場所に出かけ彼らを見つけなければならない。そしていくつかの段階を経なければ彼らと関係を持つにいたらない。その段階とは、1接触する。2コミュニケーションをとる。3関係性を作り上げる。4対話を始める。5委任を受ける。これらのすべての段階を積み上げていくには長期間を要する。単に接触するだけでも数ヶ月かかる場合もある。出かけていって公園でホームレスの精神科の患者に話しかけるという場合もあろうし、あるいは非常に強固な形で引きこもって生活している人に手紙を差し入れるだけで話しかけようとするという場合もあろう。関係性ができ、対話が始まってはじめてパーソナルオンブズマンはクライアントから委任を受けることができる。

*パーソナルオンブズマンはあらゆる種類の事柄についてクライアントを援助すべきである。クライアントが優先するものは通常行政当局や家族の優先するものとは一致しない。8年間の経験によればクライアントの最優先課題は住宅でも就職でもない。それは実存的な事柄(たとえば、なぜ私は生きているべきか? なぜ自分の人生は精神科の患者の人生となってしまったのか? いい方向に変化する望みはいくらかでもあるのか?など)そして性的な事柄あるいは家族との問題などである。パーソナルオンブズマンはこれらの事柄について解決するだけではなくてこれらのさまざまな問題についてクライアントと話しこむ時間の余裕を持たねばならない

*パーソナルオンブズマンはさまざまな行政当局に対してあるいは法廷でクライアントの権利を守るために有効に発言できる技量をもたなければならない。「PO-スコーネ」のパーソナルオンブズマンはすべてなんらかの大学の学位を持つか同等の教育を受けている。ほとんどはソーシャルワーカーとしての訓練を経ているが、弁護士の資格を持つものやほかの専門的訓練を受けているものもいる。

*民族的マイノリティの精神科患者もパーソナルオンブズパーソンを使えることを保障するためにはさまざまな民族出身のパーソナルオンブズマンがいなければならない。パーソナルオンブズマンとクライアントの間に言葉の問題があっては個人的関係性を築くのは難しい。マルモは多民族のまちである。「PO-スコーネ」ではマルモに12人のパーソナルオンブズマンがいるがその中で、一人はソマリア生まれでアラブ首長国連合で育った人であり、そのほかイラン、ルーマニア、ハンガリーで生まれた人がそれぞれ一人ずついる。

*クライアントは行政当局に対して匿名でいる権利がなければならない。クライアントがパーソナルオンブズマンを使っていること自体を誰にも知られたくなければ、パーソナルオンブズマンはそれを尊重しなければならない。「PO-スコーネ」は自治体からこのサービスに関して資金を得てはいるが、パーソナルオンブズマンは自治体にクライアントの名前を告げることを拒否できるという文言のある契約を交わしている。

*パーソナルオンブズパーソンはクライアントに関するいかなる記録も保存しない。クライアントの友人と家族のために名前と、電話番号、住所そしてその他事務的な事柄を書きとめることはできる。そしてもちろんパーソナルオンブズマンがクライアントの代理として書いた行政当局への書類のコピーを保存する場合もよくある。しかしこれらすべての書類はクライアントのものである。クライアントは希望するときにはいつでもすべての書類を見ることができる。そしてパーソナルオンブズマンとクライアントの契約が終わったときにはすべての書類はクライアントに渡されるかパーソナルオンブズマンによってクライアントの立会いの下で完全に廃棄される。

 

「PO-スコーネ」は1995年に二人のパーソナルオンブズマンを抱えた実験的プロジェクトとして始まった。2000年には恒常的なユーザー運営のサービスとなり、現在25人のパーソナルオンブズマンがフルタイムで働いている。このサービスの財政は三分の二が国庫負担そして残りの三分の一が地方自治体負担である。

 

さらに詳しい情報は以下のサイト(ただし今のところスエーデン語のみ)

www.po-skane.org

マース・ジェスパーソン

maths.jesperson@comhem.se

(長野英子 仮訳)

英語原文はこちらからダウンロード

https://nagano.dee.cc/swedensde.doc

このレポートは第3回障害者権利条約特別委員会の国際障害者同盟主催の「自己決定」をテーマとしたサイドイベントではなされたレポートの一つに最後の記録の保存をしないというガイドラインを付け加えたものです。

 

資料6

ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会事務局事業

http://www.mri.co.jp/SERVICE/thinktank/kyouiku/2027965_1462.html

 

 安心と活力の日本へ

(安心社会実現会議報告)平成21年6月15日

安心社会実現会議

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ansin_jitugen/kaisai/dai05/05siryou1-1.pdf

より引用以下

4 医療と健康の安心

日本では、医療費がGDP比で8・1%(2005年、OECD平均9%)と相対的に抑制されてきたにもかかわらず、人口一人あたりの医師診療件数はOECD平均の倍以上であり、諸外国に比べて医療サービスを受けやすい環境が実現されてきた。ところが、急性期病院を中心に医師不足が深刻化し、地方では病院の経営破綻が拡がり、この安心が急速に揺らいでいる。

医療救命救急センターにおける医師、看護師の配置などをできるだけ早急にすすめなければならない。併せて二次医療圏において、病院のコンソーシアム(共同運営体制)を組織しつつ医療機関の機能分担と集約をすすめ、地域の医療ニーズに応えていくべきである。二次医療圏において、とくに産科、小児救急に対応する救急医療体制を確保する。レセプト(診療報酬明細)のオンライン請求(電子請求)への切り替え、データに基づいた効率的医療の推進など相対的に遅れている医療IT化への対応を速やかに進められなければならない。

また、国民の命と基本的人権(患者の自己決定権・最善の医療を受ける権利)を実現するため、2年を目途にそのことを明確に規定する基本法の制定を推進しなければならない。

Vol.381 東京都北西部と埼玉県南西部の小児医療を守るための小児科医共同声明

医療ガバナンス学会 (2012年1月25日 16:00)

http://medg.jp/mt/2012/01/vol381.html

日本大学練馬光が丘病院 小児総合診療科診療准教授 橋本光司
志木市民病院 病院長・小児科部長 清水久志
大泉生協病院 病院長・小児科部長 齋藤文洋
国立埼玉病院 小児科部長 上牧 勇
2012年1月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

練馬区の日本大学練馬光が丘病院(以下、日大光が丘病院)撤退、および志木市の志木市民病院からの小児科撤退により、4月以降の東京都北西部から埼玉県南西部に及ぶ広域の小児救急医療崩壊が避けられない状況になっております。
日大光が丘病院と志木市民病院が都北西部と県南西部において、小児救急医療で果たしてきた役割は非常に大きく、日大光が丘病院は小児科常勤16名で年間 8,000〜10,000人の小児救急対応し、志木市民病院も現在年間約12,000人の小児患者に対応しております。また小児科病床もそれぞれ34床、 45床、同一医療圏の順天堂練馬病院は24床、国立埼玉病院は26床であることを考えると、日大光が丘病院と志木市民病院小児科の撤退で地域全体の60% もの小児病床がなくなることなります。これは非常に重大な事態で、患者搬送の遅滞による大事故や病院小児科のドミノ倒しに発展しかねません。
練馬区は日大光が丘病院の後継として、「日大と同等およびそれ以上」「小児科医15名」という公約のもと、日大存続を諦め、地域医療振興協会(以下、協 会)を選定しました。しかし、日大光が丘病院の引き継ぎ関係者によると、平成24年1月18日に開催された日大小児科から協会小児科への引き継ぎには、協 会側からは小児科医師は1人も現れず、代理人と称する他病院医師と協会側の引継ぎ責任者の2人が現れ、協会は日大が果たしてきた小児医療機能を引き継ぐつ もりはないとまで明言されたと聞いております。また他の複数の診療科でも同様に、協会側の医師体制が整わず引き継ぎ業務が事実上、とん挫していることを確 認しております。
このような実態は限られた医療関係者が知るのみで、このまま4月を迎えれば、医療現場そして患者さんに多大な混乱と後退が避けられません。私たちは強い危 機感を持って現状を広くお伝えするとともに、都県境を超えた小児救急医療体制を守るために、東京都、練馬区をはじめとした関係機関が責任ある対応を早急に 取るよう強く求めます。
以上

 

資料7

障害者権利条約モニタリング人権モニターのための指針
専門職研修シリーズNo.17

国際連合人権高等弁務官事務所国際連合
ニューヨーク/ジュネーブ2010

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/rightafter/right_agreement_monitor.html

以下一部引用

〉 法律の前における平等な承認の権利では、とりわけ、障害を法的能力はく奪の根拠とすることを廃止する必要がある。たとえば、障害のある人の代理として決定を下す後見人を任命する慣習を廃止し、代わりに、障害のある人が自ら決定できるよう支援する。

〉 身体の自由及び安全の権利では、とりわけ、十分な説明にもとづく自由な同意がない限り、誰も精神障害および知的障害などの障害を理由に、精神科施設およびその他の施設に収容されることがないよう、監視する必要がある。

〉 拷問からの自由で は、とりわけ、各施設が障害のある人に対し、電気ショック療法の実施や檻のベッドの使用などを最終手段として用いたり、あるいは本人の意思に反して、障害 を矯正するための押しつけがましい、または元に戻すことのできない治療を課したりしているかどうかを調査しなければならない。

 

国連人権高等弁務官事務所08年10月「被拘禁者のための尊厳と正義の週間、情報ノートNo.4 障害者」

http://www.ohchr.org/EN/UDHR/Documents/60UDHR/detention_infonote_4.pdf

以下一部引用  「障害者権利条約は、障害の存在に基づく自由の剥奪は国際人権法に反しており、本質的に差別であり、そしてそれゆえに不法であることを明確に宣言する。障害に加えて追加の根拠が自由の剥脱の正当化に使われる場合に対しても、こうした違法性は拡大して認められる。追加の根拠とは例えばケアや治療の必要性あるいはその人や地域社会の安全といったものである。」

 

資料8

08年7月28日
国連第63回総会への拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する、人権理事会特別報告官(Prof. Manfred Nowak)の報告
長野英子訳
以下は一部3章のみの訳しかも注は省いてあります。

拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する中間報告

要約
国連総会決議62/148に従って提出する当報告書において、特別報告官は彼の権限内にある疑問点についてのとりわけ全体的は傾向と発展において特に懸念される事柄について述べている。
特別報告官は総会に対して、障害者の状況について注意を喚起しており、障害者が放置、拘束や隔離という厳しい状態、また同様に、身体的、精神的、性的暴 力に頻繁にさらされていることに注意を喚起する。彼は公的施設のみならず民間領域でも同様にこうした行為が行われているにもかかわらず、こうした行為が表 面化せず、また拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰と認識されていないことに懸念を表明する。最近発効した障害者権利条 約とその選択議定書は障害者に関して反拷問という枠組みから再点検する絶好の機会を提供している。障害者に対してふるわれている暴力と虐待を拷問あるいは 残虐な取り扱いとして再考することにより、被害者そしてその権利を擁護するものはより強い法的保護と人権侵害への補償を獲得することができる。
4章において、特別報告官は独居房への隔離拘禁の使用を検証している。独居拘禁は明白に、精神的健康への否定的な影響があるものとして記録されている。 そしてそれゆえ、独居拘禁は例外的な条件においてのみあるいは犯罪調査の目的で絶対的に必要とされる場合にのみ行われるべきであるとしている。特別報告官 は報告の付属文書として、非拘禁者の権利尊重と保護を促進する有益な手段として独居拘禁の利用と効果におけるイスタンブール宣言に注意を喚起している。

中略

三章 障害者の拷問からの保護
37 その権限行使において、特別報告官は障害者に対して行われている多様な形態の暴力と虐待についての情報を得てきた。これら障害者には男性、女性、子供が含まれるが、彼らの障害ゆえにこの人たちは放置と虐待の対象とされている。

38 障害者は施設に入れられ社会から隔離されていることが多い。こうした施設には刑務所、福祉的ケアセンター、児童施設そして精神保健施設が含まれる。 障害者は意思に反しあるいは自由なインフォームドコンセントもなしに、長期間自由を奪われている。これは時には一生にわたる場合もある。これらの施設内部 では、障害者は、頻繁に言語に絶する屈辱的な処遇、放置、身体拘束と隔離拘禁といった厳しい処遇、同様に身体的、精神的、性的暴力にさらされている。拘禁 施設における合理的配慮の欠如は放置、暴力、虐待、拷問そして残虐な処遇にさらされる危険を増加しているといえよう。

39 民間領域において、障害者はとりわけ暴力と性的虐待も含む虐待にさらされやすい弱者である。家庭内、家族の手によってあるいは介護するもの、保健従事者、そして地域社会の成員の手によって虐待が行われている。
40 医学実験や侵襲的で非可逆的な医療が同意なしに障害者に対して行われている(例えば、不妊手術、中絶そして、電気ショックや抗精神病薬を含む精神を変容させる薬といった障害を矯正したり軽減したりすることを目的とした介入)

41 特別報告官は、多くの事例において、こうした行為が障害者に対して行われる場合において、表面化しなかったり、あるいは正当化されたりしており、拷 問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰と認識されていないことに懸念を表明する。最近発効した障害者権利条約とその選択議定 書は障害者に関連する事柄について拷問禁止の枠組みから検証する絶好の機会を提供している。

A 拷問から被害者を保護する法的な枠組み
42拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は罰禁止条約、および、国連自由権規約7条、子供の権利条約37条、において拷問の絶対 的禁止が含まれており、障害者権利条約においても拷問の禁止が15条において再確認されている。障害者権利条約15条によれば、障害者は拷問又は残虐な、 非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない権利を有しており、特に科学的医学的実験を受けない権利を有している。15条第2項におい て締約国は、他のものと平等に拷問や虐待から障害者を保護するために、効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる義務がある

43 障害者権利条約16条は障害者に対しての暴力、虐待搾取を禁じており、また17条はすべての障害者に対して、身体的精神的インテグリティ(不可侵性完全性)が尊重される権利を認めている。

44 特別報告官は障害者に関しては、障害者権利条約は更に権威あるガイドを提供することにより、拷問および虐待の禁止についてのほかの人権条約を補強し ていることを明記する。たとえば、条約3条は障害者の個人としての自律の尊重の原則そして自らの選択の自由を宣言している。さらに12条はあらゆる生活領 域、例えばどこにすむか決めること医療を受けるか否かを決めることなどが含まれるが、において法的能力を享受する平等な権利を認めている。さらに付け加え て、25条においては障害者の医療は自由なインフォームドコンセントを基盤としなければならないとしている。したがってかつての拘束力のない基準、例えば 国連原則として知られている、1991年の精神疾患者の保護および精神保健ケアの改善に関する原則(決議46/119)について、特別報告官は非自発的治 療と非自発的拘禁を受け入れることは障害者権利条約の条項に違反と明記する。

B 障害者に対して、適用する拷問と虐待からの保護の枠組み
45 国際法において、とりわけ拷問禁止条約の下では国家は拷問を犯罪行為とする義務がある。すなわち加害者を起訴し、犯罪の重大さに応じた適切な刑罰を 科し、そして被害者に賠償提供する義務がある。障害者に振るわれている暴力と虐待を拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰 として認識し位置づけなおすことにより、被害者およびその権利擁護者は人権侵害に対するより強い法的保護と補償や回復を獲得しうる。

1 拷問の定義の要素
46 拷問と虐待からの保護に関する障害者権利条約15条の適用については拷問禁止条約の1条に含まれる拷問の定義によって説明することができる。障害者に対す る行為あるいは障害者を尊重しないという怠慢が拷問となるには、拷問禁止条約の拷問の定義の4つの要素すなわち、激しい痛みや苦痛、意図、目的そして国家 の関与、が存在することが必要である。この定義を満たさない行為であっても、拷問禁止条約16条のもとで、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い 又は、刑罰となることもある

47その本質上、苦痛や痛みの度合いの評価に当たっては、そのケースについてのすべての条件が検討されることが求められる。その条件には障害の存在そのも のと同様に、被害者の処遇や拘禁条件の結果、損傷が生じあるいは悪化したかについても注目する必要がある。医学的治療として完璧に正当化されうるものであ ろうと、医療は重大な痛みや苦痛をもたらし、侵襲的で非可逆的な本質があるがゆえに、治療的目的に欠けるときあるいは障害を矯正するまたは軽減する目的を 持つときで、当事者の自由なインフォームドコンセントなしに強制され行われるならば、拷問そして虐待を構成することとなろう。

48 拷問禁止条約における拷問の定義は、いかなるものであろうと差別を根拠とした身体的精神的苦痛をもたらす行為を明白に禁止している。障害者の場合、 特別報告官は障害者権利条約第2条が障害を根拠とした差別について以下述べていることを想起する。「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政 治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎として すべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、合理的配慮を 行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む。」

49 さらに拷問禁止条約の第1条の意図という要件は障害に基づいて差別されてきた人については有効に適用されうる。このことはとりわけ、障害者に対する 医療の文脈において、重大な侵害と差別が障害者に対して、保健専門職の一部においては「よき意図」というごまかしにおいてなされうるということについては 重要な関連がある。単なる過失や怠慢は1条の求める要件である意図にかける、しかし、重大な痛みや苦痛をもたらすものであるなら、そうした過失や怠慢も虐 待を構成しうる。

50 拷問すなわち、個人のインテグリティ(不可侵性統一性)と尊厳へのもっとも重大な人権侵害は、他の者による全的な支配の下に被害者が置かれるが故 の、無力さを前提としている。障害者がそうした状況におかれることはよくあることだ。例えば、監獄あるいは他の場で自由を奪われているときあるいは介助者 や法的後見人の支配下におかれているとき。一定の状況下では個人の特定の障害が、その個人を依存的な状況下に置くことがありがちで、そしてそうした個人は 容易に虐待の対象となりがちである。しかし「無力さ」はしばしば個人の外側にある環境がもたらすものである。意思決定の行使そして法的能力を差別的な法律 や運用によって奪われ他の人にその権限を与えられるというときに「無力さ」が生じるのだ

2 誰に責任があるか?
51 政府の関与という要件に関して、特別報告官は、拷問の禁止は公務員に限ることなく、厳密な意味で法的な権限を持った機関のようなものに限らず、民間 病院、あるいは他の施設や拘禁施設で働く場合も含めて、医師や保健従事者、ソーシャルワーカーにも適用されることもあると明記する。拷問禁止条約委員会の 一般見解のNo.2(2008)で強調されているのは、あらゆる種類の施設で拷問の禁止がなされなければならないということであり、締約国は国家機関によ らないあるいは民間機関における拷問の禁止については徹底して予防し、調査し、起訴処罰すべきであるとしている。

3 何に責任があるのか?
(a)貧しい拘禁条件
52 数え切れないほどくりかえし、拷問禁止条約委員会は精神保健施設や障害者用の家の貧しい生活条件について、拷問等禁止条約16条の下の虐待という視 点から、懸念を表明してきた。施設の貧しい条件は、適切な食事、水、医療的ケア、衣服を拘禁下ある人に提供すべき義務を国家が果たしていない結果である場 合が多い。そしてこうした貧しい条件は拷問と虐待を構成しうるのだ。

53 国家は障害者に対して直接的間接的な差別がなされないよう、拘禁下の処遇あるいは環境条件を整えることを確保するさらなる義務がある。もしこうした 差別的処遇が痛みや苦痛をもたらすのであれば、それは拷問あるいは他の虐待を構成しうる。ハミルトン対ジャマイカのケースにおいて、人権委員会は、申立人 の障害を考慮し、適切な配慮をして、独房に拘禁し、彼の汚水バケツを取り上げることを認めたことが、国連自由権規約の7条と10条に違反するか否かを審査 した。委員会は両足の麻痺した申立人は、条約10条の第1項に違反して、人道的にかつ人間としての固有の尊厳への尊重を持って処遇されていないと判断し た。プライス対英国の場合、ヨーロッパ人権裁判所は、身体障害のある女性の拘禁条件について、利用不可能のトイレとベッドも含め、ヨーロッパ人権条約3条 の品位を傷つける処遇となるとした。
54 特別報告官は障害者権利条約14条第2項は以下の締約国の義務を定めていると明記する。それは自由を奪われた人は合理的配慮を提供される権利があるという ことを確保するという義務である。このことは手続きにおいてまた、拘禁施設、これらはケアのための施設や病院も含むが、において障害者が他のものと同じ権 利と自由を享受することを確保するために、その調整が過大な負担をもたらさない限り、適切な調整を行う義務があるということだ。障害者に対する合理的配慮 の否定や欠如は虐待や拷問とみなされるほどの拘禁や生活条件を生み出しうる。

(b)身体拘束と隔離の使用
55 施設の貧しい条件はしばしば身体拘束と隔離という厳しい形態を伴っている。障害のある子供たちや成人は長期にわたりベッドや、檻あるいはいすに縛られたり することがある。鎖や手錠をはめられることもある。”檻”や”檻つきのベッド”に拘禁されることもある。また大量の薬を与えられることも化学的身体拘束と いえよう。”長期にわたる身体拘束は筋肉の萎縮、生命にかかわる変形、そして内蔵の損傷を生み出しうるということ”、そして精神的な損傷を悪化させること を明記しておくことは重要である。特別報告官は拷問や虐待を構成しうる長期にわたる身体拘束について、治療的正当化はありえないと明記する。

56 治療的理由からは正当化できず、処罰の一形態であるにもかかわらず、施設において障害者は管理の一形態としてあるいは医療的治療としてしばしば隔離 され独房に拘禁される。2003年12月米州人権委員会はパラグアイの国営神経精神病院に拘禁されている460人を保護するために予防的対策を承認した。 この460人の中には独房に裸で非衛生的な条件で4年間以上も独居拘禁されていた二人の十代の少年も含まれていた。Victor Rosario Congo対エクアドルの場合、米州人権条約委員会は社会復帰センターにおいて精神障害のあるCongo氏が独房に拘禁されていることは米州人権条約第5 条2項に定められた非人道的で品位を傷つける処遇を構成すると認めた。特別報告官は人に対する長期の独居拘禁と隔離は拷問あるいは虐待を構成する場合があることを明記する。

(c)医療の領域
57 医療の領域において、障害者はしばしば重大な虐待と身体的精神的インテグリティの権利の侵害を体験している。とりわけ実験においてあるいは特定の損傷の矯正あるいは軽減を目指した治療において。

(ⅰ)医学的科学的実験
58 障害者権利条約15条の下では、薬物の治験含め障害者に対する医学的科学的実験は当事者の自由な同意のあるときのみ、そして実験の本質が拷問または残虐で非人道的品位を傷つける処遇とみなされえないときにのみ許される。

(ⅱ)医療的介入
59 ロボトミーと精神外科手術の実施は実例として役立ちうる。侵襲的で非可逆的な治療であればあるほど、自由なインフォームドコンセントを根拠としての み保健専門職が治療を障害者に提供することを確保するより強い義務が国家にはある。子供の場合にはもしそうした介入が治療的目的にのみ行われるのであれ ば、保健専門職がそうした介入が子供の最善の利益において、そして両親の自由なインフォームドコンセントに基づき行われることを国家は確保しなければなら ない。(しかしながら両親の同意は治療が子供の最善の利益に基づかない場合は無視されなければならない)。さもなければこうした治療は拷問あるいは残虐 で、非人道的もしくは品位を傷つける処遇となりうると特別報告官は明記する。

a 妊娠中絶と不妊手術
60 無数の障害のある成人と子供が政策の結果としてまたそうした目的を持って制定された法律によって強制的に不妊手術を行われてきた。障害者とりわけ女 性と少女が施設の中と外とを問わず、自由なインフォームドコンセントなしに中絶や不妊手術を強制され続けている。この行為の関しては報告されている。特別 報告官は障害者権利条約23条C項の下で「障害者(障害のある子どもを含む。)が他の者との平等を基礎として生殖能力を保持する」ことを確保し、また自由 と責任をもって、子供の数と出産の期間を決める権利を確保することが締約国の義務であることを明記する。

b 電気痙攣療法
61 囚人に対する電気ショックの使用は拷問および虐待を構成すると認められてきた。発作を引き起こす電気ショックあるいは電気痙攣療法の使用は精神あるいは知 的障害をもつ人への治療法として、1930年代にはじまった。ヨーロッパ拷問禁止委員会は非修正電気痙攣療法(例えば麻酔、筋弛緩剤あるいは酸素補給なし のもの)が精神保健施設において障害の治療のために人に行われていることさらには処罰の形態としてさえ行われていることを報告している。特別報告官は、非修正電気痙攣療法は、重大な痛みや苦痛そしてしばしば重大な医療的結果例えば骨折、じん帯の損傷や脊髄損傷、また認知障害や記憶喪失の可能性などをもたら すことがあることを明記する。非修正電気痙攣療法は医療行為として許容されることはできず、また拷問あるいは虐待を構成しうる。修正電気ショックの形態で あれ、当事者の自由なインフォームドコンセントにもとづいてのみ行われることはきわめて重要である。この自由なインフォームドコンセントには、副作用や心 臓への影響や混乱、記憶喪失さらには死亡といったリスクの説明を受けること含まれる。
c 強制的精神医学的介入
62 拷問や虐待の手段としての政治的弾圧を目的とした、例えばテロリズムとの戦いという文脈での精神医学の使用、より少ないとはいえ、個人の性的指向を 弾圧し、支配し変更しようとする試みを目的として行われる治療については詳しく報告されてきた。しかし、特別報告官は精神医学の乱用と障害者への強制、主 として精神的知的障害をもつ人への強制についてより重大な注意を喚起する。

63 施設内そして地域での強制医療も同様であるが、精神医 療、抗精神病薬と精神を変容させる薬も含む投薬が精神障害者の自由なインフォードコンセントなしにあるいは意思に反して強制的にあるいは処罰の一形態とし て行われることがある。拘禁施設と精神保健施設における薬の投与、それは抗精神病薬も含まれえるが、この抗精神病薬はふるえをもたらしたり、無気力な状態 にさせたり、知性を曇らせたりするものであり、こうした薬の投与は拷問の一形態として認識されてきた。Viana Acosta 対ウルグアイのケースでは、人権委員会は、申立人の処遇、治療は非人道的処遇を構成すると結論を出した。この治療処遇には、精神医学的実験、彼の意思に反 したトランキライザーの強制的注射などがふくまれていた。特別報告官は精神状態の治療のための、強制的そして同意のない、精神科の薬の投与とりわけ抗精神 病薬の投与は詳細に検証される必要があることを明記する。個別のケースの情況、与えられる苦痛そして個人の健康への効果、これらの検証しだいでは、拷問あるいは虐待の一形態となることもありうる。

d 非自発的精神保健施設への収容
64 多くの国家が、法的根拠のあるなしにかかわらず、精神障害者を自由なインフォームドコンセントなしに施設収容することを許容している。その根拠は精 神障害の診断の存在と共に追加の基準が使われることがよくある、それは例えば「自らあるいは他者に対する危険性」あるいは「治療の必要性」というものであ る。特別報告官は障害者権利条約の14条が法によらない恣意的な自由の剥奪の禁止と障害の存在が自由の剥奪の正当化とされてはならないとしていることを想起する。

65 特定の事例においては恣意的あるいは法によらない障害の存在を根拠とした自由の剥奪はまた個人へ重大な痛みや苦痛をもたらす場合もあり、したがって拷問禁 止条約の対象となる。自由剥奪による苦痛の影響を検証するには、施設収容の期間、また拘禁や処遇条件が考慮されなければならない。

(d)性的暴力も含む障害者に対する暴力
66 施設内において、他の患者や被収容者また同様に施設職員によって障害者は暴力にさらされることがある。Ximenes Lopes 対ブラジルのケースでは米州人権裁判所は、精神科病院へ収容された患者に対する暴力という文脈において、被害者に行われた日常的な殴打や身体拘束そして貧 しい拘禁条件,(たとえば貧しい保健ケア、低い衛生状態や不足がちな食事)は、米州人権条約5条の1項と2項の下での拷問と虐待の禁止と身体的精神的イン テグリティの権利の侵害であるとした。

67 もし、病院、ケア施設あるいは同様の施設において働く公務員も含む、公務員によって、あるいは公務員の示唆にまたは同意あるいは黙認の下で行われたのであれば、拘禁下での強姦は拷問を構成することを特別報告官は繰り返し発言する。

68 民間領域において、家族の手によってまた障害者の介護者によっての双方によって、障害者は男女にかかわらずほぼ3倍も身体的性的虐待と強姦の被害者 となっている。女性や少女はジェンダーと障害の二重の差別の結果として、親しいパートナーによる暴力も含め高い比率の暴力を経験している。Z対英国とA対 英国のケースにおいてヨーロッパ人権裁判所は個人とりわけ子供と他の弱者を虐待から保護する政策を採る義務が締約国にあることを認めた。同様に当局は虐待 を防止する合理的な段階を取るための知識を持つあるいは持つべき義務を認めた。

69 障害者権利条約16条が宣言しているように、締約国は家庭の内外、そしてジェンダーにもとづくものも含み、あらゆる形態の暴力、虐待および搾取から 障害者を保護しそれらを予防するため、またこれらの責任について調査し訴追するすべての適切な政策をとる義務がある。特別報告官は、締約国の障害者への暴 力に関する黙認は多くの形態がありうることを明記する。それは、法的能力を奪う法律という差別的な法の枠組みや運用あるいはこれらの暴力が刑罰を逃れると いう結果をもたらす障害者に対する司法への平等なアクセス保障の失敗もふくまれる。

C 結論と勧告
70 特別報告官は障害者権利条約の発効にあたって以下を歓迎する。障害者権利条約は拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑 罰の絶対的な禁止を再確認していることそして、障害者の基本的な権利と自由へ解釈についての権威あるガイドを示していること。障害者に対して行われた侮 辱、放置、暴力そして虐待の一連の報告に対して、これらの行為がどう認識されるか、例えば拷問や虐待と認識されることそして、国際的拷問禁止の枠組みが活 用されることは、法的保護と補償への道を切り開くであろう。

71 特別報告官はとりわけ2条の非差別条項に注目した上で、障害者権利条約の批准と、完全履行を各国政府に呼びかける。

72 条約締約国は条約が公刊され広められ、そして市民にあまねく啓発啓蒙がなされ関連するさまざま専門職グループ(例えば、裁判官、弁護士、法執行公務 員、公務員、地方自治体公務員、施設職員そして保健専門職など)すべてに広く訓練されることを確保しなければならない。公務員と民間機関の職員は同様に障害者を拷問と虐待から保護しそれらを防止する役割を持つ。

73 条約を守るために締約国は、障害者に法的能力があることを認める法律を制定しなければならない。また必要であるならば、説明を受けた上で決定するために必要な支援を提供することを確保しなければならない。

74 締約国は、「自由なインフォームドコンセント」が何を意味するかについての明白であいまいでないガイドラインを条約の求める基準で公布しなければならない。また使いやすくアクセスしやすい不服申し立ての手続きも作らなければならない。

75 独立した人権監視機関(例えば国内人権機関、拷問禁止機構、市民団体など)は障害者が住んでいる施設、例えば監獄、福祉ケア施設、児童養護施設そして精神保健施設などを定期的に監視しなければならない。

76 特別報告官は関連する国連および地域の人権機構に対して、個人の不服申し立ても含み、拘禁施設の監視を行うさいに、障害者権利条約に含まれる新たな基準に完全に配慮した上で、これらの監視調査に新たな基準を統合することを呼びかける。

 

資料9 別紙

拷問等禁止条約選択議定書よくある質問と答え

http://www.apt.ch/index.php?option=com_docman&task=doc_download&gid=376&Itemid=256&lang=en

 



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