2016年8月2日
日本精神神経学会 御中
全国「精神病」者集団
措置入院の見直し議論への意見書に関する申入書
このたび、相模原の障害者施設で発生した連続殺人事件で亡くなったそれぞれの方の命を思いご冥福をお祈りするとともに、被害に合われた方々の順調な回復をお祈りします。
現在、容疑者に対する措置入院の解除、退院後の監視が不十分であり問題であったかのような報道が散見され、厚生労働省が8月に措置入院の見直しに関する有識者会議を設置し、正式に措置入院の見直しの検討を開始することが決まりました。私たちは、障害のある人もない人も共に生きていく社会に向けて治安的な色彩の強い出口を狭くするような法改正になるのではないかと深刻に憂慮しています。
つきましては、次の下記の論点について緊急要望書を出してくださいますようお願い申し上げます。
記
1. 措置入院の検討を決めたことが時期尚早であること
現時点では容疑者に本当に何らかの精神障害があったかどうかはよくわかりません。
したがって、精神障害による犯行と決めつけることや、事件を予防できなかった原因を精神医療及び措置入院制度に求めたりするのは、時期尚早と言わなければなりません。
最低でも裁判で精神鑑定の結果がだされ、裁判所が認定するまでは検討を中断するべきです。
2. 出口の問題ではなく、入口の問題であること
容疑者に対する措置入院の解除、退院後の支援が不十分であったことが問題であったかのような報道がされています。しかし、そもそも容疑者が措置入院の要件である精神障害があったのかどうかが現時点では不明です。
とくに、大麻の使用については、入院時ではなく入院後に確認されているため、中毒性精神病による自傷他害の恐れを論じるべきではないし、単に「危険思想」というだけで措置入院にしたのなら出口ではなく入口の問題こそ検討しなければなりません。
3. 医療保護入院を含めた非自発的入院全体の検討
2016年1月、政府厚生労働省は精神保健福祉法の見直しのために「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」を設置し、改正に向けての検討を開始しました。当該検討会では、非自発的入院は医療保護入院のみを検討をしています。
それなのに今回、全く別のルートから措置入院のみが取り上げられ検討されるのだといいます。本来、これら非自発的入院は等しく障害者権利条約に違反することが指摘されており、医療保護入院と措置入院を合わせて総合的に検討し、障害者権利条約に適合した法整備をしていく必要があります。
4. いたずらに出口を狭くすること、治安・監視強化のための検討ならば中断すること
容疑者に対する措置入院の解除、退院後の支援が不十分であったことが問題であったかのような報道がされています。地域移行が課題となっている現在、逆行する政策になりかねません。
容疑者を精神科病院に閉じこめておけばよかったかのような考えは、精神医療を犯罪防止の道具にする短絡的思考につながって いきます。
このような考え方でしか検討が進まないのであれば検討そのものを中断、撤回するべきだと考えます。
以 上
→日本精神神経学会法関連委員会は2016年8月29日に以下の声明を出しました
相模原市の障害者支援施設における事件とその後の動向に対する見解