相模原事件を受けた措置入院見直し検討開始に対する精神障害当事者としての意見表明

 

このたび、相模原の障害者施設で発生した連続殺人事件で亡くなられた方に心からご冥福をお祈りするとともに、被害に合われた方々が1日も早く回復されることを願っております。

7月26日、相模原の障害者施設で前代未聞の殺人事件が発生しました。約50名の障害者を殺傷した植松聖容疑者は「障害者は生きていても仕方ない」という動機で事件を起こしたとされています。この「障害者は生きていても仕方ない」という考え方は、社会の中に根付いた障害者に対する差別意識のあらわれであると思います。ヒットラーが優生思想に基づいて行ったT4作戦を思い起こさせます。結果、精神障害当事者の中には、調子を崩したり、不安な気持ちになっている仲間もいます。

また、私たちは一箇所に大人数の障害者を収容する施設という環境が、短時間に50名近くの重度障害者の殺傷を可能とした点を厳しく指摘します。施設は大人数の利用者を一箇所に集めて少人数のスタッフで管理・援助していく仕組みであり、権能が管理・援助する人に集中しやすい点に特徴が認められます。そのため、小人数のスタッフが機能不全になると、利用者が無防備な状態で放り出されるような事態が起こり得ます。今回は、刃物を所持した元施設職員による殺傷事件というかたちではありましたが、重度障害者が逃げ遅れて死に至る問題は、災害その他さまざまなかたちで起こり得るものです。

そして施設や精神科病院は、障害者を収容して社会から隔絶してしまう負の側面があります。このように障害者を隔絶し、共に暮らすことのない社会においては、健常者の側から見て障害者が役に立たない、生きていても仕方のない存在のように思えてくるのだと思います。障害者とその他の人が共に当たり前に暮らしていく社会にしていくためにも、施設や精神科病院への長期収容状態から脱却し、地域移行や地域生活支援の拡充が不可欠になると考えます。

しかし、現在は容疑者に対する措置入院の解除、退院後の監視が不十分であり問題であったかのような報道が散見され、厚生労働省が8月に措置入院の見直しに関する有識者会議を設置し、正式に措置入院の見直しの検討を開始しました。私たちは、障害のある人もない人も共に生きていく社会に向けて治安的な色彩の強い出口を狭くするような法改正になるのではないかと深刻に憂慮しています。

私たちは次の論点で措置入院の見直し検討に対して意見を表明します。

 

1. 措置入院の検討を決めたことが時期尚早であること

現時点では容疑者に本当に何らかの精神障害があったかどうかはよくわかりません。

したがって、精神障害による犯行と決めつけることや、事件を予防できなかった原因を精神医療及び措置入院制度に求めたりするのは、時期尚早と言わなければなりません。

最低でも裁判で精神鑑定の結果がだされ、裁判所が認定するまでは検討を中断するべきです。

 

2. 出口の問題ではなく、入口の問題であること

容疑者に対する措置入院の解除、退院後の支援が不十分であったことが問題であったかのような報道がされています。しかし、そもそも容疑者が措置入院の要件である精神障害があったのかどうかが現時点では不明です。

とくに、大麻の使用については、入院時ではなく入院後に確認されているため、中毒性精神病による自傷他害の恐れを論じるべきではないし、単に「危険思想」というだけで措置入院にしたのなら出口ではなく入口の問題こそ検討しなければなりません。

 

3. 医療保護入院を含めた非自発的入院全体の検討

2016年1月、政府厚生労働省は精神保健福祉法の見直しのために「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」を設置し、改正に向けての検討を開始しました。当該検討会では、非自発的入院は医療保護入院のみを検討をしています。

それなのに、今回起こった不幸な事件1つだけを根拠に措置入院のみが取り上げられ検討されるのだといいます。本来、これら非自発的入院は等しく障害者権利条約に違反することが指摘されており、医療保護入院と措置入院を合わせて総合的に検討し、障害者権利条約に適合した法整備をしていく必要があります。

 

4. いたずらに出口を狭くすること、治安・監視強化のための検討ならば中断すること

容疑者に対する措置入院の解除、退院後の支援が不十分であったことが問題であったかのような報道がされています。地域移行が課題となっている現在、逆行する政策になりかねません。

容疑者を精神科病院に閉じこめておけばよかったかのような考えは、精神医療を犯罪防止の道具にする短絡的思考につながって いきます。

このような考え方でしか検討が進まないのであれば検討そのものを中断、撤回するべきだと考えます。

 

2016年8月2日

 

全国「精神病」者集団



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