障害者権利条約委員会ロビーイング報告

障害者権利条約委員会ロビーイング報告

山本眞理

今年9月23日から27日までジュネーブで障害者権利条約委員会のセッションがあり、その目的は、本審査に先立つ政府報告への重要質問事項(リストオブイシュウlist of Issues )決定であった。これに先立ち他の国の本審査もあり、この質問事項への審査には全員の委員は残らなかった。

(2013年 JDFセミナー ヴィクトリア・リー氏 講演スライドより)

上記図面の委員会による事前質問事項採択があったということで、それにあたって、各障害者団体はジュネーブで委員会に対してロビーイングを行う。精神障害者権利主張センター・絆としてもジュネーブに赴き、委員に向け日本の事情を伝え、最も政府に聞いてほしい質問を伝え、最終的に質問事項のリストにのせてもらう活動を行ったということである。中身については前号ニュースに書いたが、最も重要な点としてうったえたのは、33条に基づく国内監視機関そして強制医療を拷問として禁止すること、強制入院を禁止することを政府に求める質問をということであった。

まだ正確な邦訳ができてはいないけれど強制入院廃止を前提とした質問や、強制医療を拷問あるいは虐待とした質問、そして国内監視機関とりわけ条約に特化したものも含めてパリ原則に沿った政府から独立した枠組みの創設に向けた質問ということで、私たちの重点希望は取れたと考えている。

ジュネーブにはワルシャワ経由で9月21日に到着、翌日日曜日にも関わらず、日本担当の委員の一人(もうひとりはタイのモンティアンですが経費の都合で本審査を終えた後すでに帰国)である、キム・ミヨンさんと2時間にわたり話すことができました。こちらはインクルーシブ教育のレポートを出した一木さん、福地さんそして吉利さん、君が代日の丸でILOとユニセフの勧告をとった渡辺さんは日の丸君が代と障害児の性教育の問題について、そして、そして池原さん、わたしという4つのグループでした。その後なんとJDF御一行とさらに4時間も彼女は話したとのこと、重労働を強いてしまいました。

彼女からはその後強制医療についての追加質問があり、メールで回答しておきました。これは効果あったようです。

その翌日23日は朝10時から日本のNGOのブリーフィング。ここではJDF 15分、その他の団体、すなわち絆、インクルーシブ教育で福地さん、渡辺さん、池原さんは、5分ずつ日弁連は最後にもう少し長く話したと思いますが、質問もJDFの方で割り振ってくださり、後見人制度と精神障害者の地域生活に必要な支援、については桐原さんと私に、そして強制入院制度については姜弁護士が回答しました。

後見人制度及び支援された意思決定については、政府は支援された意思決定の制度であるかのように強弁しているものは、そもそも拒否権もなく支援そのものの拒否権もないので、12条の要請とは全く違うこと、精神障害者の地域生活については特別の支援は不要、基本的な家、所得保障、などがまず求められているという話をしました。時間がなくて十分には話せませんでしたが、JDFの準備した通訳及びその文字化テキストの配信によりとても助けられました。姜さんは強制入院の仕組みについて解説しました。池原さんには合理的配慮について質問がありました。

その後委員の一人ローズマリーと少し個別にお話しました。政府は、国連勧告は守る義務なしと言っているので、国内監視機関がとても重要、それについてリストに入れてほしいと要請しました。

翌日24日は朝別の委員とアポが取れていたのですが、その方前夜に体調を崩しなんと帰国なさったとのこと。残念。でも午後はWHOに行き、精神保健担当のスタッフであるナタリーと面談。WHOの開発したツールキットについて相談しました。WHOも今や強制入院強制医療を否定し、身体拘束隔離の禁止に向けて活動して、そのためのツールキットを作成しています。翻訳から必要ですし、大仕事、ちょっと私の手には余りますが。この作業部会を日本で発足させたいと考えています。

25日は障害者の権利特別報告者のカタリーナと面談、JDFの他の団体の方とも一緒に。精神保健福祉法案阻止のために政府に手紙を書いてくださった件お礼を伝え、優生保護法以降の実質強制の不妊手術についてDPI女性障害者ネットの藤原さんとともに訴えておきました。

その夜はカタリーナの事務局アルベルトと夕飯を一緒に。アルベルトはすべての人に法的能力を認めた画期的ペルーの改革の中心的活動家の一人でしたが、今はカタリーナの事務局としてジュネーブ在住です。

ペルーの改革そして更に進んだコロンビアの改革について池原さんたち日弁連の有志はペルーで学んでくるとのこと、報告が楽しみです。

いい中身の質問内容を取れたとはいえ、日本政府がまともに対応するとは考えられないので、私たち障害者団体が質問内容に沿って、そして追加情報も含めてパラレルレポートを出していく必要があると考えています。絆はまだパラレルレポート出していないので、今から準備と討論作業をしていく必要があります。できるだけ早く質問事項邦訳と共有を図りたいと考えますのでよろしくお願いいたします

追加 質問事項邦訳は外務省によりこちらに掲載されています。ただし気づいたところだけですが15条の質問の邦訳は完全に誤りです。意図的かどうかは不明ではありますが。修正必須です。

26日にはジュネーブを立ち、ワルシャワからクラコフへ、そして27日にはアウシュビッツ博物館を見学しました。行きか帰りはワルシャワに一泊する必要があり、それなら、ということでクラクフまで足を伸ばしてアウシュビッツへ。
吉利さんのご紹介で、唯一の日本人公式ガイドの中谷さんの案内でアウシュビッツとビルケナウの2箇所を回ることができました。

まずは有名な労働は自由への道という門からアウシュビッツ博物館へ、中谷さんの説明はこの博物館にはヒットラーの写真もナチスの写真も一枚もない、むしろこうしたことが民主主義の手続きに則ってなされたこと、そしてそれは街角のヘイトスピーチから始まったということが強調されていた。

このことの重さを今考えなければならない。現代の難民問題そして日韓で言えば徴用工問題などを映し出すというか同じ問題として中谷さんは考えるけれど、ユダヤ人からはそういう一般化には批判があるとのこと、それはそれでサバイバーの思いとしてはそうであろうとは思いますが。

ヨーロッパ中から100万人ものユダヤ人を集めたナチスのやり方、しかしそれを見過ごしあるいは見て見ぬ振りをしていた市民社会。そしてビルケナウの引き込み線によって運ばれた貨物列車からユダヤ人が降ろされると、行列させられ医師が選別、労働能力ないとされたものはそのままガス室へ送り込まれた。という話など中谷さんの説明を聞くと、直ちに思い出すのが、昨年夏の毎日新聞の調査報道、全国で少なくとも1770人の方が半世紀以上精神病院に隔離収容されているという実態。

この恐るべき人権侵害、人生被害の上に私達日本の市民社会は築かれている。誰も知らない、そして知ろうとすらしないままに。精神保健専門職すら無視しているこの問題、そして私たち精神障害者解放運動もまた何もできていない。当然政府は指一本動かそうとしないし、むしろ政府は2025年に至っても精神病院の長期慢性の方向け病床の「需要」は10万床などとうそぶいている。

精神科医がそして他の精神保健専門職も当然のごとく受け入れているこの実態をなんとかしないと、もはや精神保健業界に自浄能力はないことは明らかである以上、わたしたち自身が取り組む以外の解決の方策はない。

いまこそ障害者権利条約の完全実施に向け、まずこの実態と向き合わなければならない。

わたしたち自身が何者であるのか、何をしようとしているのかが今ほど問われている時代はない。もはや私の年齢でできることは限られているけれど、それでもなおできることをそしてひろく仲間に呼びかけていくことを続けなければならない。

ジュネーブ行きのカンパ要請には47名の方にご協力いただき約35万円弱集まりました。来年の本審査に10万ちかく残せそうです。ご協力いただいた方には会計報告をお送りいたしますので少々お待ちくださいませ。

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