以下声明に賛同団体を連ね28日に厚生記者会に持参しました
【京都ALS患者嘱託殺人事件報道に接しての声明】
私たちは、医療者による「死なせる」行為は容認できません!
「生きるため」の支援を求めます
公立福生病院事件を考える連絡会・事務局
Email:fussaren@yahoo.co.jp携帯電話:080(6532)0916
私たちは、2018年8月に、公立福生病院で起きた透析中止の末に患者が亡くなった事件を検証し、被害女性の遺族の訴えによる裁判を支援している団体です。この事件は、医師が透析中止の選択肢を示し、いったん患者が透析離脱を選択すると、容態悪化した患者や家族の透析再開の要望を受け入れず、大量の鎮静剤投与を行い、死に至らせたというものです。
7月23日に、ALSの女性を薬物投与で殺害した二人の医師が逮捕されたとの報道を知り、またこのような医療者が患者を死なせるという事件が起こったのか、と強い危機感を持ちました。さらなるいのちの切り捨てを許さない立場から、以下の声明を発表します。
2019年11月30日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかっていた林優里さんが殺害され、本年7月23日、大久保愉一医師と山本直樹医師が嘱託殺人罪の容疑で京都府警に逮捕され、8月13日に起訴されました。報道によれば、事件の概要は以下です。
――昨年11月30日午後5時半ごろ、この二人の医師が林さんの自宅マンションを訪れ、林さんの胃ろうから大量のバルビツール酸系睡眠薬を投与して殺害した。林さんとこの二人の医師はこの日が初対面で、それ以前に、林さんから山本医師の口座に130万円が送金されていた。――
お金を受け取りビジネスとして人を殺害することは到底許されない犯罪行為ですが、この二人の医師の行為は、高齢者や重度の「障害者」や難病者のいのちを、「価値なきいのち」として切り捨てる思想に基づいたものと考えられます。7月24日付の東京新聞は、大久保容疑者は「高齢者を『枯らす』技術」と題するブログや電子書籍を発表し、山本容疑者との共著で発表された電子書籍の「内容紹介欄」には、「『今すぐ死んでほしい』といわれる老人を、大掛かりな設備もなしに消せる方法がある」「違和感のない病死を演出できれば警察の出る幕はない。荼毘(だび)に付されれば完全犯罪だ」と記し、ブログには、こうした価値観とともに、死なせるための薬物の話、そして、「日本でもできる『安楽死』『尊厳死』について、医者として質問に答えます。」というメールフォームまで作っていました。
医師法の第一条には、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」とあります。
医者の仕事は、人の生死を左右する薬剤、技術を使用する仕事です。人の生命や生活を支えるためにだけ、その仕事は認められるのです。いのちを選別・抹殺することは、絶対に許されません。
しかし現実には、「脳死判定」、臓器移植、出生前診断など、いのちを選別する仕事が医者の仕事に入り込んできています。その意味では、社会の責任そのものが問われるのです。
●大久保医師の発想を生んだ背景に厚労省の医療政策、がある
「大久保容疑者は03年に弘前大医学部(青森県弘前市)を卒業し、医師免許を取得した。厚生労働省老健局で7年半勤めた後、呼吸器内科の医師として東北地方を中心に複数の医療機関に在籍」(京都新聞)と報じられています。彼が厚労省に就職したころは、政府が「尊厳死・安楽死」推進に動き出したころです。04年は、「尊厳死・安楽死」を推し進める世界の団体が構成する「死の権利協会世界連合」の大会が東京で行われ、厚生労働大臣がメッセージを寄せ、同省の医政局長が基調講演の一つを行いました。07年には、厚労省の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が発表され、09年には、臓器移植法が改悪され15歳未満の子供からも臓器摘出が可能になりました。
こうした時期を厚労省で過ごした大久保は、自身のブログにおいて、「安楽死」を容認し推進する自身の考えを展開した文脈の中で、次のように書いています。
「老人が大量に増えていて、いちいち刑事訴追していたらキリがないこともあってか、最近は老衰などでは、合法的に治療行為を絞って死にいたるプロセスが定められています。国がおすすめしているのは、本人や家族が『人生会議』を開いて延命処置を行うかどうかなどを決めておき、必要なときにはそのように対応するというものです。」
医療現場に出た彼は、高齢者医療の現実の中で、「入院の必要がないのに自宅に引き取らない家族を「年金目当て」と批判。病院を「うば捨て山」と表現した。」(朝日新聞)とブログに記述していたそうです。現実の改善に向かうのではなく、いのちを切り捨てる方向に向かってしまったのです。妻の証言によれば、彼自身が自殺願望を持ち、自殺未遂経験もあるとのことです。自らの生をも肯定できなかったのでしょうか。(毎日新聞デジタル版7月25日、京都新聞7月25日より)
●林 優里さんについて
林さんは、2011年にALSとの診断を受けました。生前は、重度訪問介護などの介助を24時間受けて、一人で暮らしていました。林さんのブログには、生死を見つめる思いが語られています。亡くなる前年には、必要な介助を確保するために17の事業所からヘルパー派遣を受けて、同性の介助者が足りず、異性介助も受けざるを得なかったと、京都新聞が報じています。大変な気苦労をされたことと想像します。
他方で、林さんは、「彼女は少しでも長く良い状態で生きたいと、最後まで治療法の情報を集め」、「生きるために色んな努力をしていた」こと、「錦織圭のファンで、ウィンブルドンを夜中に見て。洋服も好きで、きれいなパジャマを着ていたし。笑顔がすごくチャーミングで、ヘルパーさんたちも癒やされました」といった日常生活も報じられています(京都新聞)。
林さんは、2018年12月頃から、ツイッターで大久保医師とコミュニケーションをとるようになり、主治医によれば、「スイスでの安楽死をテーマにした2019年6月放送のNHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』を見て、死の選択への思いを強めていった。」(京都新聞)そうです。このNHKの報道については、京都の「日本自立生活センター」などの「障害者」団体からの批判が行われてきましたが、今回の事件の引き金の一つを引いてしまったことが明らかになりました。
●私たちは「安楽死」推進、合法化を絶対に許しません
石原慎太郎元東京都知事は7月27日のツイートで、「裁判の折り私は是非とも医師たちの弁護人として法廷に立ちたい」と発言。翌28日には、日本維新の会代表の松井一郎大阪市長が「安楽死」の法制化を主張し、「(難病を)患っている人たちの思いに寄り添う形で法整備を行うべきだ」(産経新聞)と発言しています。
私たちは、このような一部政治家の発言や「安楽死」法制化を進めようとする動きに大きな危機感を抱きます。「安楽死」の推進・合法化は、高齢者、難病者、「障害者」のいのちを「価値なきいのち」として、切り捨てる道です。断じて容認できません。
●私たちは「死ぬため」ではなく「生きるため」の医療行政を求めます。
私たちは、この事件に怒りを感じるとともに、いのちの選別・切り捨てを進めるこの社会の在り方が、この事件を生み出したものであると考えます。政府の政策、社会の状況を、根本的にとらえ返さなければなりません。つらい現実があってもよりよく生きていこうとするいのちを支えるのが現場の医療や福祉であり、それを支えるのが厚生行政です。難病や重度の障害と共に生きる人たちが生きることの困難に直面したとき、どう向き合っていくのか、私たち自身にも問われていることを自覚しつつ、同時に、どんな状況下でも「生きるため」の生活を守る支援を充実させる医療福祉・厚生行政の実現を求めていきます。
2020年9月28日
【賛同団体】
DNA 問題研究会/「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会/薬害・医療被害をなくすための厚労省交渉団/労働と生活を守る会(L&L)/林田医療裁判を考える会/臓器移植法を問い直す市民ネットワ ーク/兵庫精神障害者連絡会/平和憲法を守る荒川の会/やめて家族同意だけの「脳死」臓器摘出! 市民の会/尊厳死法いらない連絡会/医療情報の公開・開示を求める市民の会/精神障害者権利主張センター・絆/バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~/NPO 法人茨城県精神障害地域ケアー研究会(茨精研ICCAM)/「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会/子供問題研究会/労働者住民医療機関連絡会議幹事会/特定非営利活動法人こらーるたいとう
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