国連恣意的作業部会が採択した日本政府に対する意見[2018年11月20日採択]

仮訳Ver1.3:藤田大智

A/HRC/WGAD/2018/70

先行編集版                     配布:一般
2019年1月16日
オリジナル:英語

人権理事会
恣意的拘禁作業部会

2018年11月19-23日第83回会合において恣意的拘禁作業部会により採択された意見(日本)

1 恣意的拘禁作業部会は、人権委員会の決議1991/42により設立され、これは、決議1997/50によりその任務が拡大されかつ明確化された。国連総会決議60/251及び人権理事会決議1/102により、理事会はその任務を引き継ぎ、そして最近では、2016年9月30日の決議33/30において3年間の任務の延長を行った。

2 作業規則(A/HRC/36/38)にしたがい、2018年1月23日に作業部会は日本政府に対して、Hさんに関するコミュニケーションを送付した。日本政府は、2018年10月19日にコミュニケーションに対する回答を行った。当該国は自由権規約の加盟国である。

3 作業部会は以下の場合、自由の剥奪が恣意的であると判断する。

(a) 自由の剥奪を正当化する法的根拠が明らかに見つからない場合(刑期満了後、または恩赦法が適用されたにもかかわらず引き続き拘禁されている場合など)(カテゴリーⅠ)

(b) 自由の剥奪が、世界人権宣言第7条、13条、14条、18条、19条、20条、21条によって、及び締約国の場合には国際人権自由権規約第12条、18条、19条、21条、22条、25条、26条、27条によって保障された自由の権利行使に由来する場合(カテゴリーⅡ)

(c) 世界人権宣言及び当該締約国が受け入れた関連の国際法律文書で規定されている「公正な裁判を受ける権利」に関連する国際規範の全体または、部分的不遵守が、自由の剥奪に恣意的性格を与えるほど重大である場合(カテゴリーⅢ)

(d) 亡命希望者、移民または難民が、行政または司法の審査、救済の可能性がなく、行政により長期的監禁を受けている場合(カテゴリーⅣ)

(e) 自由の剥奪が、出生、国、民族、社会的起源、言語、宗教、経済状況、政治的または他の意見、性別、性指向、もしくは障害、その他社会的身分に基づく差別として国際法違反を構成し、それが人権の平等を没却することを目的とするものもしくは没却する結果となる場合(カテゴリーⅤ)

申立て
情報提供者からのコミュニケーション

4 Hさんは、1949年に生まれ、日本国民であり東京在住である。情報提供者は、彼女が強制入院となる以前、約10年の間さまざまなホテルで暮らしていたことを報告する。彼女がこのようなことを始めたのは、彼女のアパートメントに泥棒が入ったあとであると報告されている。

5 情報提供者によると、Hさんは新宿ワシントンホテルに約4か月滞在していたのであり、その際、2016年8月1日又は2日に、彼女は誤ってベッドを汚してしまった。Hさんは、これについてホテルの清掃係に告げたが、ホテルのフロントデスクの係の者には告げずホテルを出発した。

6 情報提供者は、さらに、Hさんが同日の夜ホテルに戻ってきた際に、二人の警察官が彼女を待っていたと報告する。彼らは、Hさんを新宿警察署へ警察車両で連れて行った。新宿警察署から、Hさんは再度、警察によって、松沢病院へ連れて行かれた。医師の検査を受けた後、彼女は、強制的に病院に入院させられた。

7 Hさんは、松沢病院に、2016年8月から彼女が三恵病院に転院した2018年3月までいたのであり、彼女は報告されるところによると現在まで退院の見込みなく三恵病院にいる。

8 情報提供者は、当初のHさんの入院は、「措置入院」に分類されるものであると指摘する。情報提供者は、精神保健福祉法29条によると、二人の精神保健指定医により診断され、その人が精神障害を有しており、自己または他者に対する加害の恐れがあると判断された場合に、都道府県知事により指定された病院に人が強制入院させられると詳述する。同じ条文が、都道府県知事が、書面によりその者に対して強制入院がなされる旨告げなければならないとする。

9 情報提供者によると、Hさんの後見人が彼女の入院に同意した後、入院の形態が「医療保護入院」に変更された。情報提供者は、この入院の形態は、精神障害を持つ人を、精神保健指定医の診断と近親者や後見人の同意に基づいて強制的に入院させるものだと説明する。関連規定は、精神保健福祉法33条1項である。

10 情報提供者は、知事によるHさんの最初の自由の剥奪の理由が公開されなかったと主張する。情報提供者は、入院に際した医師らによる診断に関して現在問い合わせ中であるとする。情報提供者は、さらに、Hさんがホテルのベッドを汚したのは、体調によるものであり、そして彼女の年齢によるものであると主張し、そして、彼女の精神障害が原因ではないとする。

11 情報提供者によると、Hさんは、入院の当初から歩行に困難があった。彼女の身体的状況を考慮し、情報提供者は、病院での入院は彼女を閉鎖病棟に閉じ込める必要が無いものだと主張する。情報提供者は、当局は、強制入院ではなく、社会福祉サービスを利用して彼女に対して介護を提供するべきだとする。

12 情報提供者は、日本の法制度の下では、Hさんは、司法手続きに参加することができず、彼女の成年後見人が、彼女の法的代理人として訴訟において代理するとする。しかしながら、Hさんのこの成年後見人が彼女の強制入院に同意している。したがって、Hさんと成年後見人との間には利益相反が存在する。本件において、Hさんは、彼女の強制入院について不服申立を行うための司法的手続を開始することができない。

13 情報提供者は、指定医によってなされた診断に関わらず、彼女の精神障害と、彼女が自己または他者に対して加害を及ぼす恐れとの間に因果関係は存在しないとする。したがって、本件は精神保健福祉法29条の要件を充足しないものであり、Hさんを強制的に入院させる法的根拠はなく、したがって恣意的拘禁にあたるとする。情報提供者は、Hさんの自由の剥奪が、作業部会に対して申し立てられた事案の検討にあたるものとしてカテゴリーⅠに該当すると指摘する。

14 また、情報提供者は、Hさんを入院させる決定は、彼女が精神障害を有していた事実に基づくものであると指摘する。彼女は前科・前歴を有していなかった。情報提供者によると、彼女の入院は、彼女の精神障害に基づく差別に該当する。情報提供者は、Hさんの自由の剥奪が、作業部会に対して申し立てられた事案の検討にあたるものとしてカテゴリーⅤに該当すると結論付ける。

政府からの回答

15 2018年7月23日、作業部会は、情報提供者からの申し立てを日本政府に対してその通常コミュニケーション手続に基づいて送付した。作業部会は、日本政府に対して、2018年9月21日までに、Hさんの現在の状況についての詳細な情報を提供するように求め、彼女の継続する拘禁を正当化する法的根拠を明確にするように求め、国際人権法における日本の義務の適合性、特に、同国が批准している条約に関して、その適合性を明確にするように求めた。さらに、作業部会は、日本政府に対して彼女の身体的、精神的高潔性を確保するように要請した。

16 2018年8月30日、日本政府は、その回答について2か月の延長を要求した。作業規則パラグラフ16にしたがって、作業部会は、新しい期限を、2018年10月21日に設定し、1か月の延長を行った。

17 2018年10月19日、日本政府は、作業部会に対して回答を提出した。その回答において、日本政府は、作業部会が情報提供を求め言及する申し立てに関連する事実を調査したことを説明し、そして、Hさんが常に警察官職務執行法及び精神保健福祉法のいずれにも従って適切に処遇されたと説明する。

18 政府は、行政機関が保有する個人情報の保護に関する法律8条により、さらなる詳細について情報提供することが可能でないとする。しかしならが、政府は、当該人の保護と入院は、関連国内法に従った適切な態様でなされ、そして、これらの行為が恣意的拘禁を構成することはないことを確認する。

19 政府は後掲のような国内法についての説明及び抜粋を提出し、英文が非公式文であり、作業部会に対して、正確には日本語版を参照するよう求める。

精神錯乱者に対する警察官による保護についての概要
20 警察官職務執行法は以下のように規定する。

3条1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して左の各号の一に該当することが明らかであり、且つ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、とりあえず警察署、病院、精神病者収容施設、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
一 精神錯乱又はでい酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす虞のある者
二 (省略)

精神保健福祉法における日本の強制入院の概要
21 日本では、精神障害を有する患者の非自発的入院に関して、精神保健福祉法が「措置入院」、「医療保護入院」そして他の形態の入院がある。

(ⅰ) 「措置入院」は、警察官等の通報、届出等により都道府県知事が精神保健指定医に診察をさせた結果、精神障害者であり、かつ自傷他害のおそれがあると認めた場合に行う(29条)。
(ⅱ) 緊急措置入院は、急速を要し、措置入院に係る手続きを採ることができない場合であり、精神保健指定医による診察の結果、直ちに入院させなければ自傷他害のおそれが著しいと認めた場合に行う。入院期間は72時間を限度とする(29条の2)。
(ⅲ)医療保護入院は、精神保健指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある場合で、本人の同意による任意入院が行われる状態にない場合に、本人の同意がなくとも、家族等の同意に基づき行う。なお、家族等がない場合又は家族等の全員がその意思を表示することができない場合は、本人の居住地を管轄する市町村長の同意に基づき行う(33条)。
(ⅳ)上記の各入院は、精神障害者であることのみを理由とはしておらず、自傷他害のおそれや、その精神障害のために自らの意思による入院が行えないなどの要件を充たす場合に法に基づく適正な手続きにより行われるものである。

22 なお、精神科病院に入院中の者又はその家族等は、都道府県知事に対して、当該入院中の者を退院させることや、精神科病院の管理者に退院や処遇改善を命じることを請求できる(38条の4)。このような請求があった場合、都道府県知事は、独立した第三者機関である精神医療審査会に審査を求めなければならず、都道府県知事は、精神医療審査会の審査の結果に基づき、その入院が必要でないと認められた者を退院させ、又は当該精神科病院の管理者に対しその者を退院させることを命じ若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じなければならない(38条の5)。なお、精神医療審査会とは、都道府県等が、入院患者又はその家族等からその退院などの請求に対する応諾の可否等の審査などを行わせるため、都道府県等に設置することとされているものである(12条)。また、措置入院の処分に不服がある場合は、厚生労働大臣に対して審査請求することができる。

成年被後見人と成年後見人の利益相反
23 民法及び民事訴訟法により、一般的に法定代理人(成年後見人)を通して行う場合を除き、被後見人は、手続的事項を実施できない。しかしながら、法定代理人と成年被後見人との間に利益相反がある場合、法定代理人は、代理権限を行使できない。もし、後見人と被後見人との間の利益相反に関する行為があれば、後見人は、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならない(民法860条及び820条1項(原文ママ。政府反論書、826条1項の誤り))。特別代理人は、被後見人やその親族または後見人の請求又は職権により指名される。

24 家庭裁判所は、被後見人やその親族又は後見人の請求、職権により、必要がある場合、後見監督人を選任する。後見監督人は、被後見人と後見人との間に利益相反がある場合、後見人を代理する(民法849条、851条4号)。

日本における個人情報の保護
25 日本においては、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律が施行されている。同法により、行政機関が保有する個人情報の提供について制限が課されている。関連法規は以下の通りである。
8条

26 行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。

27 前項の規定にかかわらず、行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一 本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。
二 行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。
3 前項の規定は、保有個人情報の利用又は提供を制限する他の法令の規定の適用を妨げるものではない。
4 行政機関の長は、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、保有個人情報の利用目的以外の目的のための行政機関の内部における利用を特定の部局又は機関に限るものとする。

28 政府の回答は、情報提供者に対して2018年10月21日にコメントを求めるため送付された。

検討

29 作業部会は、情報提供者と政府に対して、それぞれの提出及び適切な協力そして本件での両当事者の関与について感謝する。

30 情報提供者は、Hさんの措置入院が、精神保健福祉法29条の要件を充足しないことを、Hさんが診断されたであろう精神障害と自己または他者に対する加害の恐れとの間に因果関係がないことを理由に指摘する。結果として、彼女の措置入院は、法的根拠のないものであり恣意的拘禁にあたるとし、作業部会のカテゴリーⅠに該当するとする。政府は、Hさんは常に警察官職務執行法及び精神保健福祉法において適切に扱われたことを主張することで、これらの主張を否定する。政府は、行政機関が保有する個人情報の保護に関する法律8条の関連規定に従い、さらなる詳細について情報を提供できないとする。

31 作業部会は、まず改めて、これが寄って立つ慣行を強調する。情報提供者が、恣意的拘禁を構成する国際法違反について一応確からしいことを指摘した場合、政府がその主張に対して反論しようとするのなら、その立証負担は政府にある。政府の主張として、法的手続に従った旨の単なる主張は、情報提供者に対する反論として十分ではない 。

32 さらに、政府が、国家当局の行為に関して、その国内法により政府が詳細な説明をなすことができないことも十分ではない。作業部会が、世界中で恣意的に逮捕又は拘禁される被害者の必要性に答えようと設置され、また構成国各国が説明責任を有するよう設置されたものであることを考慮すると、構成国は、被害者により持ち込まれた紛争を解決するためのメカニズムを意識しなければならない。これは、最近ではその決議33/30において行ったように、作業部会に対してきちんと協力するよう諸国家に対して改めて想起させた人権理事会のモチベーションでもある。

33 したがって、政府からの回答について、作業部会は、60日以内に回答することを期待するのであり、その間に、作業部会に対して可能な限りの情報を提供するように適切な調査が政府によりなされるのである 。政府による、国内法により詳細な情報提供ができない旨の主張はこの要件に適合していない。

34 情報提供者の主張を見て、作業部会は、Hさんは、彼女が滞在していたホテルから、2016年8月1日又は2日に、彼女を新宿警察署へ警察車両で移送した警察官により、連れていかれたことに言及する。作業部会は、特に、最初の警察官によるこの逮捕は、Hさんによりなされた犯罪の主張が先行したわけではないこと、また、彼女が他者や彼女自身に対して危険であったことの主張が先行していないことを指摘する。確かに、主張されている通りベッドを汚すという残念な状況が先行していたが、これは犯罪ではない。政府は、なぜ警察が、彼女が客として滞在していたホテルから彼女を連れだしたのか説明しないし、したがって、Hさんの最初の拘禁について法的根拠があることを主張することはできていない。自由権規約9条は、Hさんが、逮捕に関して情報提供されることを保障しており、本件ではこの権利が侵害されている。

35 警察署から、Hさんは、松沢病院へ連れていかれ、そこでは、医師らの診察を受けた後彼女は強制的に、2018年3月まで入院した。彼女は、三恵病院に移送され、彼女はそこにいる。政府は、これらの主張について反論しない。

36 最初のHさんの措置入院は、情報提供者によると、精神保健福祉法29条に従ってなされた。しかし、Hさんの成年後見人が後に入院に同意し、そして入院形態が、同法33条1項の医療保護入院へと変更した。これについても、政府は反論を行わない。

37 作業部会は、恣意的拘禁は、刑事司法の状況でのみ生じるのではなく、これらは個人が自由を剥奪される精神病院そして他の機関などヘルスケアの状況においても生じると考える。作業部会が2016年の年次報告書で言及したように、個人の自由の剥奪は、ある人が、その人の自由意思に基づく同意なく行われる場合に生じる 。本件では、Hさんは、病院を退院することができず、当初はその入院の非自発的性質に由来するものであり、そして後には、成年後見人が同意した医療保護入院のためである。

38 作業部会は、自由権規約9条により、人は、法律で定める理由及び手続によらない限り、その自由を奪われないことを指摘する。本件の場合、作業部会は、精神保健福祉法が、2人又はそれ以上の精神保健指定医が当該人が精神障害を持っていて、その者を医療又は保護のために入院させない限りその精神障害のために自己または他者に対して加害を及ぼす恐れがあるとの同じ診断に至った場合のみ入院を認めていることを指摘する。そのような場合、都道府県知事が、その個人に対して書面にて、その者が措置入院となる事実を通知しなければならない。

39 国内法の上記規定と日本が実施する国際人権法上の義務の適合性について評価することはしないが、作業部会は、Hさんの強制入院に際しては、これらの規定に従って行われていないことが明らかであるようだと考える。第一に、Hさんの最初の拘禁は、ほとんど、Hさんがベッドを汚したという残念な出来事に続く形で警察によりなされたのであり、Hさんの健康状態を評価した指定医の判断を基礎としたものではない。作業部会は、Hさんが、拘禁の前や拘禁されている間、危険であったとか、自身又は他者に対して危険を及ぼしたといったことを示すものがないことに留意する。

40 第二に、Hさんが松沢病院に移送されたとき、彼女は、国内法により明確に求められている、入院の必要性を確認する最低二人の指定医による診察を受けていない。情報提供者により主張されているように、そして、政府により反論されていないように、Hさんは、一人の医師の決定により強制入院となった。第三に、Hさんは、強制入院の必要について書面による通知を受けていない。結果として、Hさんの東京都立松沢病院への強制入院は、精神保健福祉法29条のすべての規定を無視している。

41 作業部会は、人の拘禁を正当化する法律が存在するだけでは不十分であることを改めて想起する。つまり、当局は、個々の状況において、当該法に規定された手続を遵守していることを指摘しなければならない 。本件において、精神保健福祉法29条が、Hさんの拘禁を正当化しうるものであり、日本の当局が、その法において規定された手続に従わなかったことは、彼らが、この法律規定を、自由剥奪を正当化する根拠とすることができないことを意味する。言い換えると、作業部会は、日本の当局が、Hさんの強制入院に関して自国の国内法規定を遵守しておらず、したがって、拘禁が法に従ってなされることを求める自由権規約9条に違反すると結論付ける 。

42 作業部会は、精神病院における収容も含み自由の剥奪のいかなる状況も、自由権規約9条の基準を充たさなければならないことをさらに強調したいと思う。作業部会は、国連自由を剥奪された人が法廷に手続きを持ち込むための権利についての救済と手続きに関する基本原則とガイドラインにおいて、障害を有する人が如何なる手続きを通じて自由を剥奪される場合でも、その人は、他者と平等に、国際人権法に従った保障が与えられるのであり、障害を有する人の権利に関する国際法の最高水準の目的及び諸原則に従った自由への権利及び安全、合理的な収容そして人道的扱いが必要であることに言及している。適正手続の保障を備えるメカニズムが、特定、自由意思に基づきかつ情報提供されたうえでの同意なくなされる自由の剥奪の状況を検討するために確立されなければならない。そのような検証は、上訴の可能性も含む 。

43 作業部会は、すべてのこれらの適正手続保障がHさんの強制入院に関して存在しておらず、自由権規約9条に反するものであると考える。

44 作業部会は、さらに、基本原則とガイドラインに従い、拘禁の適法性について不服申し立てを法廷に対して行うことそれ自体が人権であり、これは、民主社会の正当性を保持するための基本であることを想起する 。その権利は、事実、国際法の強行規範であり、自由剥奪のすべての形態に適用され 、自由の剥奪のすべての状況に適用される。これは刑事手続目的の拘禁に限らず、行政及び他の分野の法の下における拘禁状況、軍事的拘禁、安全のための拘禁、反テロの措置としての拘禁、医療又は精神施設における非自発的収容、入管での拘禁、引き渡しに際した拘禁、恣意的逮捕、軟禁、独房での監禁、浮浪者や薬物中毒者の拘禁そして、教育目的での子供の拘禁においてもそうである 。さらに、これは、拘禁の場所や、法規において用いられる法的文言に関係なく適用される。いかなる理由に基づく自由の剥奪の如何なる形式も、効果的監視の下に置かれなければならず、司法によるコントロールが無ければならない 。

45 作業部会は、これらの規定が、明らかに、Hさんの場合無視されたと指摘する。なぜなら彼女は、東京都立松沢病院への強制入院の適法性について不服申立をすることができなかったからである。さらに、作業部会は、強制入院の間、Hさんは、彼女の事案が、強制入院が必要か、適切か、そして比例性を有したものであるかを個々の場合において評価する独立した機関により検証されることがなかったことに言及する。これは、明らかに自由権規約9条4項に違反する。

46 作業部会は、Hさんの入院の形態がある時点で「医療保護入院」に、後見人の同意により変わったことに言及する。情報提供者は、日本国内の制度に従うと、彼女は、司法手続きに参加できないため、Hさんにとって、この同意に関して不服を申し立てるメカニズムが存在しないことを指摘する。

47 作業部会は、政府により提出された情報により、以下の点に言及する。後見人と被後見人との間に利益相反がある際、後見人は、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならず(民法860条及び820条1項(原文ママ、政府反論書、826条1項の誤り))、そして、特別代理人は、被後見人やその親族または後見人の請求又は職権により指名される。家庭裁判所は、被後見人やその親族又は後見人の請求、職権により、必要がある場合、後見監督人を選任する。後見監督人は、被後見人と後見人との間に利益相反がある場合、後見人を代理する(民法849条、851条4号)。

48 しかしながら、作業部会は、この手続きの適用は、利益相反について名乗り出て宣言する必要がある、後見人の行動に完全に依存していることを指摘する。被後見人にとって、指名された後見人について不服申し立てを行うことは可能でないようであり、これは自由権規約9条4項に違反する 。

49 さらに、作業部会は、また、Hさんの後見人の同意に基づく「医療保護入院」の期間、彼女の事案が、強制入院が必要か、適切か、そして比例性を有したものであるかを個々の場合において評価する独立した機関により検証されることがなかったことを指摘する。これは、やはり、自由権規約9条4項のさらなる違反にあたる。

50 したがって、作業部会は、それが国内法により設定された手続に従っておらず、したがって法的根拠を欠き、またHさんが、彼女の拘禁の適法性について不服申し立てをすることができず、適正手続が保障されていないので、Hさんの、2016年8月1日又は2日からの措置入院と後見人の同意に基づく医療保護入院が、恣意的なものであり、カテゴリーⅠに該当すると結論付ける 。この結論に至るにあたって、作業部会は、精神障害を有する様々な人に関して長期間、そして彼らの人権侵害について不服申立を効果的に行うことができない状況での、非自発的な入院を多く利用していることについて示された懸念が現れている、2014年の自由権規約委員会の日本に関する総括所見について留意する 。

51 情報提供者は、また、Hさんの拘禁が、彼女の非自発的な入院が差別的であり、これは彼女の精神障害に基づくものとしてなされており、カテゴリーⅤに該当すると指摘する。作業部会は、上記パラグラフ27において要約された政府の回答に言及する。

52 作業部会は、日本が、2014年1月20日から障害者権利条約の当事国であることに言及する。作業部会は 、障害に基づいて人の自由を剥奪することが、同条約の規定(14条) に違反することを繰り返す。さらに、作業部会が基本原則とガイドラインにおいて言及しているように、障害の存在や障害と認識されるものに基づいて、非自発的に施設への引き渡しや収容がなされることは禁じられている 。

53 作業部会は、再度、Hさんが、残念なことではあるが彼女自身や他者に対して危険なものとは認められない、彼女が滞在していたホテルでベッドを汚したという主張に基づいて当初拘禁されたことを強調したいと思う。作業部会は、特に、政府が、Hさんの拘禁につながるこの状況について反論しなかったことに留意する。

54 彼女の拘禁がなされている際、またその前においても、Hさんが、危険であるとか自身又は他者に対して危険を及ぼすことについての証拠はなかった。彼女のその後の東京都立松沢病院への移送は、すでに指摘したように、犯罪でもないし、これ自体危険な行為でもない、指摘されているベッドを汚したという最初の状況との関連性が無いようである。

55 Hさんは、支払いを行っている客として滞在していたホテルにとっては幾分か迷惑な者になったのであろう。そして、このホテルは、彼女を排除するために、警察と医療当局の完全な支持を伴い、この出来事を言い分としたのである。作業部会は、日本の当局によるHさんの扱いについて狼狽し、そして、Hさんの自由の剥奪が、純粋に精神障害に基づくものであり、差別的であると考える。したがって、作業部会は、Hさんの拘禁とその後の東京都立松沢病院及び三恵病院における収容が差別的であり、カテゴリーⅤに該当すると結論付ける。この結論に至るにあたり、作業部会は、日本に関する2013年の拷問禁止委員会の最終所見に留意する。そこにおいて委員会は、精神障害を有している人に長期的期間、強制入院が多用されていることに対する懸念を示している 。作業部会は、また、これらの懸念が、2014年の自由権規約委員会の総括所見においても繰り返されていることを指摘する。

56 作業部会は、本件について、さらなる検討のため、障害者の権利に関する特別報告者、身体的・精神的健康の最高の達成可能な基準の享受についてのすべての人の権利の特別報告者、そして年配者のすべての人権の享受に関する特別報告者に本事案を送付する。

57 作業部会は、自由の恣意的剥奪に関するその深刻な懸念について日本政府が建設的な活動をする機会を歓迎する。2016年11月30日、恣意的拘禁作業部会は、政府に対して、現地訪問を実施することの要求を送付し、そして、そのような訪問の可能性についてさらに検討するために、作業部会がジュネーブにおける国際連合日本政府代表部とともに開催した会合を通じて、政府の関与を歓迎した。2018年2月2日、作業部会は、現地訪問を実施するため、その要求を政府に対して繰り返し、そして政府から、人権理事会の特別手続について協調を高めるための意思の印として、肯定的な解答を得られることを望んでいる。

結論

58 前述の観点から、作業部会は以下の意見を出す。
Hさんの自由の剥奪は、世界人権宣言、2、3、6、7、8そして9条、自由権規約2、9、16、26条に違反し、恣意的であり、カテゴリーⅠとⅤに該当する。

59 作業部会は、日本政府に対して、直ちにHさんの状況改善のための必要な手段をとること、世界人権宣言や自由権規約などに規定されている規定を含む関連する国際規範を遵守するようにすることを求める。

60 作業部会は、本事案の全状況を考慮に入れて、適切な救済は、Hさんを直ちに解放すること、そして彼女に対して、国際法に従って、実効性ある賠償そして他の補償に関する権利を与えることだと考える。

61 作業部会は、政府に対して、Hさんの自由の恣意的剥奪を取り巻く状況についての完全かつ独立した調査と、彼女の権利の侵害について責任ある者に対して適切な措置を採ることを求める。

62 作業規則パラグラフ33(a)に従い、作業部会は、本件について、さらなる検討のため、障害者の権利に関する特別報告者、身体的・精神的健康の最高の達成可能な基準の享受についてのすべての人の権利の特別報告者、そして年配者のすべての人権の享受に関する特別報告者に、本事案を送付する。

63 作業部会は、政府に対して、すべての取り得る手段を通じて、可能な限り広く本意見を拡げることを求める。

事後手続

64 作業規則パラグラフ20に従い、作業部会は、情報提供者と政府に対して、作業部会に対して、本意見でなされた勧告について事後的に取られた行動について情報提供を求め、それには以下のものを含む。
(a)Hさんが解放されたか、解放された場合、その日付。
(b)賠償や補償がHさんに対してなされたか、仮になされた場合、いつなされたか。
(c)Hさんの権利侵害についての調査がなされたか、なされた場合、その結果。
(d)法律について改正や運用における変容が、日本の法律や実行を本意見に調和させるよう国際的義務に一致させるためになされたかどうか。
(e)本意見を実施するためになされた他の行動。

65 作業部会は、日本政府が、作業部会に対して本意見の内容を実施するにあたって困難があるようなら、またさらなる技術的援助が必要かどうか、例えば現地訪問が必要であるかなどの情報を提供するように促す。

66 作業部会は情報提供者と政府に対して、上述した情報について、本意見送達後6か月以内に情報提供することを求める。しかしながら、作業部会は新しい問題が本件に関して生じたときに行動をとることができることをここに留保しておく。そのような行動として人権理事会に対して、この勧告の実施に関しての情報、また行動をとらなかったことに関する報告がなされうる。

67 作業部会は、人権理事会が、すべての国家に対して、作業部会と協調すること、その見解に対して配慮をすること、そして必要な場合には、自由の恣意的な剥奪状況を改善するための措置をとること、執られた措置について作業部会に対して通知することなどを各国家に対して求めていることを想起する 。
[2018年11月20日採択]

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