国連恣意的拘禁作業部会の意見(Opinions adopted by the Working Group on Arbitrary detention)では、コーラ1本を万引きしようとした方が措置入院された件について、国内法の法的根拠を欠き(カテゴリーⅠ)、障害者差別(カテゴリーⅤ)を認定して、恣意的拘禁に該当すると結論づけて、世界人権規約等国際基準原則に合致させるように求め、直ちに釈放し、補償・賠償をすべきである。としています。
そして、政府に対して「すべての取りうる手段をとって『本意見』を広めるべきである。」を要請ししています。5月15日にメールが届きました。日本の強制入院の個別例に対して初めての国連からの意見です。
恣意的拘禁の作業部会のサイトに意見が公開されました。以下からダウンロードできます
英文はこちらから
以下邦訳は医療扶助・人権ネットワークから提供 PDFファイルは以下からダウンロード
Nさん意見翻訳一般公開版(2019年5月17日12時50分)
A/HRC/WGAD/2018/8
先行編集版 配布:一般
2018年5月23日
オリジナル:英語
人権理事会
恣意的拘禁作業部会
2018年4月17-26日第81回会合において
恣意的拘禁の作業部会により採択された意見
Nさんに関する意見No.8/2018(作業部会は氏名を把握)(日本)
1 恣意的拘禁作業部会は、人権委員会の決議1991/42により設置された。同委員会は、決議1997/50により作業部会の任務を拡大しかつ明確化した。国連総会決議60/251及び人権理事会の決定1/102により、理事会はその任務を引き継いだ。作業部会の任務は、直近では、理事会決議33/30において3年間延長された。
2 作業部会は、作業規則(A/HRC/36/38)にしたがい、2017年12月21日に日本政府に対して、Nさんに関する文書を送付した。日本政府は、期限に遅れて2018年4月6日に文書に対する回答を行った。当該国は自由権規約の締約国である。
3 作業部会は以下の場合、自由の剥奪が恣意的であると判断する。
(a) 自由の剥奪を正当化する法的根拠が明らかに見つからない場合(刑期満了後、または恩赦法が適用されたにもかかわらず引き続き拘禁されている場合など)(カテゴリーⅠ)。
(b) 自由の剥奪が、世界人権宣言第7条、13条、14条、18条、19条、20条、21条によって、また締約国の場合には国際人権自由権規約第12条、18条、19条、21条、22条、25条、26条、27条によって保障された権利・自由の行使に由来する場合(カテゴリーⅡ)。
(c) 世界人権宣言及び当該締約国が受け入れた関連条約で規定されている「公正な裁判を受ける権利」に関連する国際規範の全体または、部分的不遵守が、自由の剥奪に恣意的性格を与えるほど重大である場合(カテゴリーⅢ)。
(d) 亡命希望者、移民、難民が、行政的または司法的審査や救済の可能性がなく、行政により長期的監禁を受けている場合(カテゴリーⅣ)。
(e) 自由の剥奪が、出生、国、民族、社会的起源、言語、宗教、経済状況、政治的または他の意見、性別、性指向、もしくは障害、その他社会的身分に基づく差別として国際法違反を構成し、それが人権の平等を無視することを目的とするものまたは無視する結果となる場合(カテゴリーⅤ)
申立て
情報提供者からの通報
4 Nさんは、日本人であり、東京に居住する。情報提供者は、彼が統合失調症のため15年間通院していたと報告する。
5 情報提供者によると、2017年7月19日、Nさんはタバコを買いに、彼の家の近くの焼き肉屋に行った。彼がタバコの販売を断られたところ、彼はソフトドリンクを盗もうとした。焼き肉屋の店員が彼の行動に気づき、警察を呼んだ。
6 情報提供者は、Nさんが、そこで警視庁の警察署から来た警察官らに逮捕されたと指摘する。当局は、令状等を示すことをしなかった。Nさんは、警察署に連れて行かれた。
7 Nさんは、警察署からヘリコプターにより東京都立松沢病院に送られたと報告されている。後日、Nさんは、この病院で非自発的に入院することになった。彼は、医者による診断を受けたかどうか、また非自発的入院に関して説明を受けたかどうかについて記憶がなかった。
8 情報提供者によると、Nさんに関する拘禁は、精神保健福祉法29条に基づき、東京都知事が指示を出したものである。
9 情報提供者は、Nさんが松沢病院へ移った後、彼の入院形態が、措置入院から医療保護入院に切り替わったとする。情報提供者によると、医療保護入院は非自発的入院の一形態であり、これは、精神保健指定医と患者の親族の同意が必要である。
10 情報提供者は、精神保健福祉法38条の4が、精神科病院に入院させられている本人やその家族が都道府県知事に対して、退院を請求できると規定していると指摘する。2017年8月24日にNさんは、退院の請求を行った。この請求は、報告されるところによると否定された。
11 情報提供者はさらに、2016年の厚生労働省の調査結果についても言及している。請求の4.3%のみ、不適切な入院又は処遇であると認められているとのことである。さらに、当該患者の意見を考慮するかどうかは、判断権者の裁量であり、入院継続に対する決定に関して、さらなる不服申し立てができないとのことである。
12 情報提供者によると、2017年10月30日、Nさんは、松沢病院から東京の小金井病院に転院させられ、現在まで彼はここにいる。情報提供者によると、現在の入院形態は、任意入院とのことである。しかし、Nさんは、自由に病院から出ることができず、退院の具体的計画は立っていない。したがって、Nさんは継続して不定期の拘禁下にあると主張されている。
13 情報提供者は、Nさんの拘禁が法的根拠を欠くものであり、彼の精神障害を考慮すると差別であると指摘する。そして、情報提供者は、彼の拘禁は恣意的なものであり、カテゴリーⅠとⅤに該当すると指摘する。
14 カテゴリーⅠとの関係で、情報提供者は、非自発的入院を行うための要件が本件では充たされていないと指摘し、そしてNさんの拘禁は法的根拠がなく違法なものであると指摘する。情報提供者は、精神保健福祉法29条1項によると、精神障害を有している人が、医療及び保護のために入院させなければその精神障害が原因で自傷他害のおそれがある場合、非自発的に入院させることができると指摘する。
15 情報提供者は、Nさんによる犯罪行為は、利己的な理由に基づく窃盗未遂だったと指摘し、これが精神障害によるものではないと指摘する。被害妄想や幻聴が原因で窃盗未遂を起こしたわけではないと指摘する。そして、精神障害と犯罪行為との間に因果関係がないことを指摘する。さらに、本件が精神保健福祉法29条1項の要件を充たしていないことを指摘する。
16 情報提供者は、刑事手続において、窃盗未遂について、容疑者の逮捕または拘禁は(現行犯逮捕の場合を除いて)、犯罪捜査の一定の段階において一定の条件下で、裁判官が出す令状に基づいてのみ行われることを指摘する。さらに、拘禁するにあたって、容疑者を裁判官が直接聴聞することも指摘する。そして、勾留理由を開示することを容疑者が求めた場合、これを公開の法廷において開示しなければならないと指摘する。窃盗未遂の場合、容疑者は弁護人を付してもらう権利を拘禁当初から有している。これらの適正手続は、日本国憲法31条、33条、34条に規定されているものである。しかしながら、Nさんの事案は、情報提供者によると、精神保健福祉法に規定された手続に従って扱われた。
17 情報提供者は、Nさんが司法手続を経ることなく強制的に入院させられたと指摘する。刑事手続の観点からは、Nさんの拘禁は、当局が適正な手続きに従っていないため、法的根拠を欠くものだと指摘する。
18 カテゴリーⅤとの関係で、情報提供者は、Nさんが適正手続を伴った刑事手続を受ける権利を奪われたと指摘する。情報提供者は、繰り返しNさんは精神障害が原因で罪を犯したのではなく、利己的な理由で罪を犯したのだと指摘し、そしてこの事案は刑事手続で扱われるべきだったと指摘する。情報提供者は、Nさんの刑事手続を受ける権利が奪われたのは、障害に基づく差別を構成すると指摘する。
19 情報提供者は、当局が、障害者権利条約5条、12条、14条に違反すると指摘する。本条約は日本が、2014年1月20日に批准したものである。情報提供者は、また、当局が、自由権規約26条にも違反していると指摘する。
20 情報提供者は、さらに、Nさんが障害者権利条約14条1項における公正な裁判を受ける権利を奪われたと指摘する。また彼は、同条約13条に反して司法手続きの機会も奪われたとのことである。
21 さらに、情報提供者は、Nさんが、前科・前歴がないことを指摘し、本件における窃盗未遂は、重要な財産的損害がなく、彼が賠償可能であったものだと指摘する。したがって、検察官が、本件を扱った場合、起訴猶予として扱われる可能性が大きかったことを指摘する。そして、もしNさんが起訴されたとしても、刑の執行が猶予される可能性、また身柄が早期に解放される可能性が高かったと指摘する。情報提供者は、Nさんが、刑事手続により扱われていれば、現在は自由を奪われていることはなかったと指摘する。
22 情報提供者によると、精神保健福祉法のガイドラインでは、入院措置が人身の自由を制限するものであることに鑑み、その必要性判断にあたっては実質的な法益侵害の性格と程度を慎重に配慮すべきとのことである。また、その強制力は、患者を入院させるという行政上の必要性を満足させるための必要最小限にとどめられるべきとのことである。情報提供者は、本件のNさんの場合、非自発的入院の必要性判断に際して慎重な検討がなされなかったと指摘する。彼の犯罪は、財産に対する犯罪であり、他者の身体を傷つけるものではない。彼の行動によって生じた物質的な損害もとても小さい。そして情報提供者は、保護室にNさんを閉じ込めておくことは、必要最小限の強制力ではなく、比例原則を無視していることを指摘する。
23 情報提供者は、日本において、入院病棟は一般的に鍵がかかっていないが、精神科病棟は、鍵をかけることができるという。これは医療法施行規則16条1項6号によるとのことである。53%以上の自発的入院の患者が、鍵のかかった閉鎖病棟に入っている。夜だけ鍵のかかったところに入院している者も含むと、約94%の患者が閉鎖病棟に入っているとのことである。
24 情報提供者は、Nさんが閉鎖病棟に入院させられ、自由に外に出ることができなかったと指摘する。そして、精神障害を有する彼の犯罪行為に対する十分な検討が欠けたものであると指摘する。情報提供者は、Nさんが、精神障害を有しているという理由だけで拘禁されたのだと指摘する。
政府からの回答
25 2017年12月21日、作業部会は情報提供者からの本申し立てを日本政府に対して送付した。作業部会は日本政府に対して、2018年2月20日までにNさんの現状に関する詳細情報と情報提供者の主張に対する意見に求めた。
26 2018年3月6日に、作業部会は日本政府から、期限の延長を求める連絡を受けた。作業部会は、作業規則パラグラフ15と16に従って、期限の延長を要求するのは作業部会が設定した元々の期限までに行われなければならないことに留意する。本件の場合、提出期限延長の要求は、元々の期限2018年2月20日の2週間後になされ、したがって、その要求は否定された。
27 日本政府はそれにもかかわらず、2018年4月6日に回答を提出した。これは、6週間遅れたものであり、作業部会は日本政府が示した期限内に提出されたものであっても、受け取ることはできない。
検討
28 日本政府から適切な時機に回答がなかったので、作業部会は作業規則パラグラフ15に従って本意見を出す。
29 作業部会は、その先例において、証明の問題に関する手法を確立している。情報提供者が、恣意的拘禁を構成する国際法の違反について一応確からしいとの主張を行った場合、もし政府がそれを否定したいのであれば、証明責任は政府にある(A/HRA/19/57,パラグラフ68参照)。本件の場合、日本政府は、情報提供者からなされた一応確からしい主張に関して反論を述べないという選択を行った。
30 作業部会は、情報提供者と政府から送付される文書の扱いについての手続規則が作業規則に記されており、当事者が適用可能であると考える他の国際文書によらないことを強調しておきたい。これとの関連で、作業部会は、当該国において国内救済を尽くさない限り送付された文書の検討が行えないなどという規則がその作業規則に存在しないことを指摘する。したがって情報提供者には、作業部会に通報する前に、国内救済手続きをすべて尽くさなければならない義務は存在しない 。
31 作業部会はNさんが当初、2017年7月19日に焼肉店のソフトドリンク窃盗未遂で警察につかまったことに留意する。この事件の際に、Nさんと店員、Nさんと警察の間で口論などがあったとは指摘されていない。Nさんが窃盗未遂を犯した当時、彼に病気の症状が現れていたとか、凶暴だとかいった主張はなかった。また作業部会は、日本政府は反論する機会があったものの、これを行わないことを選んだことに留意する。
32 作業部会はそこで以下のように結論付ける。当初のNさんの逮捕の理由は缶飲料の窃盗のみであり、Nさんが犯した窃盗未遂は、重大な犯罪ではない。それにもかかわらず、Nさんは窃盗の行為で捕まったのであり、作業部会は、警察がNさんを逮捕すること、そして、それが現行犯逮捕として令状なく行われる理由があったであろうことを認める。
33 しかしながら、当初の逮捕に続いて、彼は警察により松沢病院に送られて、非自発的入院をさせれられた。この非自発的入院は、主張されるところによると、精神保健福祉法29条に基づくものである。作業部会は、政府が、本件申し立てに関して、反論する機会があったものの、これを行わないことを選んだことに留意する。
34 作業部会は、恣意的な拘禁が刑事手続において生じるだけでなく、精神科病院や他の施設などの個人の自由が奪われうるヘルスケアの施設においても生じることを指摘する。作業部会が最近の年次報告書で指摘したように、個人の自由の剥奪は、その人の自由な同意なしに行われているものである 。本件の場合、Nさんは、病院を退院したいにもかかわらず、することができなかった。したがって、作業部会の見解においては、彼の非自発的入院は、自由の剥奪に当たる。
35 作業部会は、自由権規約9条が、自由の剥奪は、それが国の法規に明確な規定がありかつ法の手続きにのっとって行われる場合を除いて行われない旨規定していることに留意する。本件の場合、精神保健福祉法29条が、二人以上の指定医が、その人が精神障害を有しており、医療及び保護のため入院させない限り、精神障害が原因で自傷他害のおそれがあるという点で同じ意見を有する場合に拘禁できると規定する。そのような場合、都道府県知事が、当該人に対して、書面で、非自発的入院が行われることの事実を伝えなければならない。
36 上記精神保健福祉法の規定と日本の国際人権法上の義務との整合性に関して評価はしないが、作業部会は以下のように、それらの規定がNさんの非自発的入院においては遵守されていないことが明らかであると考える。第一に、Nさんの最初の拘禁は、通報された窃盗に基づいて警察が行ったものであり、これはNさんの健康に関して事前に評価を行った指定医の判断に基づく逮捕ではない。第二に、Nさんの病院への移送において、彼は二人以上の指定医による判断を受けていない。第三に、Nさんには書面や通知などで非自発的入院の必要が知らされていない。結論として、Nさんの松沢病院への非自発的入院は、精神保健福祉法29条の規定を無視したものである。作業部会は政府が、申し立てに関して反論しないことを選んだことに留意する。
37 作業部会は、個人を拘禁することを正当化する法律が存在するだけでは十分でないこと、つまり、当局は個々の状況において法を執行し、そして、その法に規定された手続を遵守しなければならないことを想起する 。本件において、精神保健福祉法29条がNさんの拘禁を正当化しうるものと考えられ、日本の当局がその法に規定されている手続に従わなかったことは、当局が自由の剥奪を正当化する根拠として、この法の規定に依拠することができないことを意味する。すなわち、作業部会は、日本の当局が、Nさんの非自発的入院との関係で自国の法を守ることができなかったこと、そして法に従って拘禁がなされることを特に求める自由権規約9条に違反したものであると結論付ける 。
38 作業部会はさらに以下のように強調したい。いかなる拘禁であれ、精神科病院における拘禁でも自由権規約9条の基準を充たすものでなければならない。作業部会は、国連自由を剥奪されたすべての人が法廷に救済とその手続きを求める際の基本的原則とガイドラインの中で、障害を有している人がいかなるプロセスにおいても、自由を剥奪される場合、その人は、他者と平等であり、国際人権法に従った権利を保障されるべきであると指摘している。そこでは、自由に対する権利と安全、合理的配慮、人道的な扱いが障害を有する人の権利に関する最高レベルの国際水準の諸目的と諸原則にしたがったものとして含まれる。適正手続きの保障を備えたメカニズムが、特定され、自由で情報を与えられた上での同意なくして自由を剥奪している状況をレビューするためのものとして確立されるべきである 。
39 作業部会は、そのようなすべての適正手続がNさんの非自発的入院との関係で欠けていたと判断し、これは自由権規約9条に違反すると考える。
40 作業部会は前述の救済における基本原則とガイドラインを想起し、裁判所に拘禁の適法性に関して訴えることがそれ自体人権であり、これは、民主主義社会において正当性確保のための基本である 。その権利は、事実上、国際法上の強行規範であって、すべての拘禁に対して適用されるものであり、いかなる状況下の自由剥奪についても同様であり、刑事手続のため拘禁する場合のみではなく、行政上あるいは他の分野の法律により拘禁される場合、軍事的拘禁、保安処分、対テロ対策で拘禁される場合、強制的な医療施設、精神科施設への拘禁、移民の拘禁、外国人の引き渡し、恣意的な逮捕、軟禁、独居拘禁、放浪者や薬物依存症者の拘禁、そして教育目的での子供の拘禁も含まれている 。さらに、これは場所や法規で用いられている法律用語に関わらず適用される。いかなる理由に基づく自由の剥奪であっても全て、司法による効果的な監視とコントロールの下になければならない 。
41 作業部会は、これらの規定がNさんの事案では明らかに無視されたものであることに留意する。それは、彼が松沢病院での入院に関してその正当性について法的な申し立てを行うことができなかったからである。
42 さらに、作業部会は、2017年10月30日に、Nさんが小金井病院へ移送されたこと、そして彼は「自発的入院」になったことに留意する。作業部会は、Nさんがそのような入院に対して同意することを否定してきたこと、そして政府は、これに対して反論できる機会があったにもかかわらず、Nさんの主張に反論する証拠を示していていないことを指摘する。したがって、作業部会は、Nさんの小金井病院における入院は自発的ではなかったと判断し、そして、2017年7月19日から継続して、非自発的に入院させられていたと結論付ける。作業部会は、また同様にこれらの9か月間、Nさんの非自発的入院は、拘禁の必要性と適切性そして措置が個々の事案に比例したものであるかどうかを判断する独立機関によるレビューが行われることがなかったことに留意する。これは、さらに自由規約9条4項に違反するものである。
43 作業部会は、2017年7月19日のNさんの自由の剥奪とそれに続いた拘禁は恣意的なものであり、国内法に従ったものではなく、法的根拠を欠き、そして適正手続きを欠き、またNさんが拘禁に関して申し立てをする機会がなかったものとして 、カテゴリーⅠに該当すると判断する 。
44 情報提供者は、本件のNさんの拘禁が、カテゴリーⅤにも当たると指摘している。これは、彼の非自発的入院が精神障害に基づく差別であることを理由とするものである。作業部会は、日本政府から適切な時機に回答がなされなかったことに留意する。
45 作業部会は、日本が2014年1月20日から障害者権利条約の締約国であることに留意する。作業部会は条約14条に規定されているように、障害に基づいて自由を剥奪することは、条約に違反することを繰り返し指摘する 。さらに、救済における基本原則とガイドラインで指摘しているように、機能障害を理由とした非自発的入院と勾留は禁止されるべきである 。
46 作業部会は再度、以下の点を強調したいと思う。Nさんは当初、炭酸飲料1缶の窃盗未遂という軽い犯罪で拘禁された。彼を拘禁する際、またその前において、彼を拘禁しないと自己または他者に対する害が及ぶことの証拠はなかった。その後の彼の松沢病院への移送は、最初の窃盗未遂との関連がなかった。したがって、作業部会は、Nさんの自由の剥奪が、純粋に、彼の精神障害に基づいてなされたものであると考え、そしてこれが差別であることが明らかだと考える。したがって、作業部会はNさんの拘禁とそれに続く松沢病院での拘禁、小金井病院での拘禁は差別に当たり、カテゴリーⅤに該当すると指摘する。
47 作業部会は本件に関してさらに検討を進めるため、障害者の権利の特別報告者と達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者に対して、本件事案を送付する。
48 作業部会は、恣意的な自由の剥奪についての重大な懸念を払拭するため、日本政府との建設的機会を歓迎する。2016年11月30日、作業部会は、日本政府に対して訪問調査を行えるようにすることを求めた。そして、訪問の可能性に関してさらに議論するため国際連合日本政府代表部と共に開く会合を通した日本政府の関与を歓迎する。2018年2月2日、作業部会は、さらに日本政府に対して、訪問調査を行えるように求め、国際連合の特別手続に関する協調を高める意思の表れとして日本政府から肯定的な回答が得られることを望んでいる。
検討結果
49 前述の観点から、作業部会は以下の意見を出す。
Nさんの自由の剥奪は、世界人権宣言2、3、6、7、8、9条そして自由権規約2、9、1 6、26条に違反し、恣意的拘禁にあたり、カテゴリーⅠとⅤに該当する。
50 この意見の結果、作業部会は日本世府に対して、Nさんに関する状況を改善するための必要な措置を遅滞なくとること、そしてそれが、世界人権宣言や自由権規約を含む拘禁に関する国際規範に示される基準や原則に合致するようにすることを求める。
51 作業部会は、本件のすべての状況を考慮し、Nさんを直ちに解放すること、そして国際法に従って、必要な補償または賠償について実効性ある権利を付与するべきと考える。
52 作業部会は、日本政府が、Nさんの恣意的な拘禁に関する状況についての徹底的な調査や独立機関による調査が行われるよう求め、そして、彼の権利侵害について責任ある者に対して適切な措置をとることを求める。
53 作業規則パラグラフ33(a)にしたがって、作業部会は障害者の権利に関する特別報告者と達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告に対して本件事案を通報する。
今後の手続き
54 作業規則パラグラフ20に従って、作業部会は情報提供者と政府に対して、本勧告で言及された事項に関して取られた行動に関する情報を提供することを求める。それには以下の事項が含まれる。
(a) Nさんが解放されたかどうか、もし解放されたのなら、いつ解放されたか。
(b) Nさんに関して補償または賠償がなされたか。
(c) Nさんの権利侵害に関して調査がなされたか、なされた場合、その調査結果。
(d) 法改正または法の運用について、本件で示された国際基準に従う形で何らかの改革がなされたか。
(e) 本件の意見を実施するためのその他取られた行動。
55 作業部会は、日本政府が、作業部会に対して本意見の内容を実施するにあたって困難があるようなら、また技術的援助が必要かどうか、例えば作業部会による訪問調査が必要であるかなどの情報を提供するように促す。
56 作業部会は、情報提供者と日本政府に対して、上記の情報を本意見送付後6か月以内に提供することを求める。しかしながら、作業部会は新しい問題が本件に関して生じたときに行動をとることができることをここに留保しておく。そのような行動として人権理事会に対して、この勧告の実施や行動をとらなかったことに関する報告がありうる。
57 日本政府は、すべての取りうる手段をとって本意見を利害関係人に対して広めるべきである。
58 作業部会は、人権理事会が、すべての国家に対して、作業部会と協調すること、その意見に対して配慮をすること、そして必要な場合には、自由の恣意的な剥奪状況を改善するための措置をとること、執られた措置について作業部会に対して通知することなどを各国家に対して求めていることを想起する 。
[2018年4月19日採択]