強制不妊手術――優生保護法の実態と課題を探る

開講日:10月5日(金)、10月26日(金)、11月30日(金)
開講時間:午後6時30分~9時
コーディネーター:大橋由香子(大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員)
場所 東京麻布台セミナーハウス
定員 30名
受講料 1000円

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大阪経済法科大学|市民アカデミア2018

優生手術は、優生保護法(1948〜1996年)において「不良な子孫の出生防止」するためになされた不妊手術である。本人の同意を必要としない強制的なケース、同意とは名ばかりの強要したケースも含めると約25,000人が被害にあい、障害や精神疾患、貧困や孤児など支援を必要とする人が対象になった。国は20年以上、「当時は合法だった」と主張し、実態調査も被害者への謝罪や補償も行わなかった。本講座では、優…

優生手術は、優生保護法(1948~1996年)において「不良な子孫の出生防止」するためになされた不妊手術である。本人の同意を必要としない強制的なケース、同意とは名ばかりの強要したケースも含めると約25,000人が被害にあい、障害や精神疾患、貧困や孤児など支援を必要とする人が対象になった。国は20年以上、「当時は合法だった」と主張し、実態調査も被害者への謝罪や補償も行わなかった。本講座では、優生手術の実態を知り、戦後民主主義の日本において、このような人権侵害がなぜ可能になったのかを考察し、ドイツにおける「被害者の会」の経緯も参考にしながら、今後の課題を探っていく。

第1回:10月5日(金) 午後6時30分~9時
日本の優生手術はどのように行われたのか
利光惠子 (立命館大学生存学研究センター客員研究員)

《講義内容》
優生保護法のもとでは、不妊手術が「公益上必要」な場合には、医師が申請し優生保護審査会が認めれば、強制的に手術することが認められていた。さらに、法の定める範囲を超えて、月経介助軽減を目的に障害女性への子宮摘出等も行われた。差別を根底に、障害者らの「性と生殖に関する健康/権利」を暴力的に奪う行為であった。戦前の「国民優生法」よりも「優生」に関する規定が強化され、約50年もの長きにわたって存続したのはなぜか。どのような運用がなされ、いかなる被害を引き起こしたのか。最近になって、各都道府県によって公表され始めた優生手術に関する資料や、被害者の聞き取りから明らかになった事実を踏まえて、優生手術の実態に迫る。

《講師プロフィール》
利光惠子 (としみつ・けいこ、立命館大学生存学研究センター客員研究員)
1953年兵庫県生まれ。大阪大学薬学部卒業、薬剤師。調剤薬局自営のかたわら、「優生思想を問うネットワーク」、「優生手術に対する謝罪を求める会」等の市民団体で活動。50歳で立命館大学大学院先端総合学術研究科に入学し、博士号(学術)を取得。現在、客員研究員。「女性のための街かど相談室・ここからサロン」共同代表。著書に『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』(生活書院、2012)、『戦後日本における女性障害者への強制的な不妊手術』(立命館大学生存学研究センター、2016)。

第2回:10月26日(金) 午後6時30分~9時
「被害者の会」の役割――ナチス・ドイツ強制断種の場合
紀 愛子(日本学術振興会特別研究員PD、早稲田大学等非常勤講師)

《講義内容》
ナチ体制下のドイツでは、「遺伝病の子孫予防法」(1933年7月14日成立)と呼ばれる法律のもと、少なくとも30万件もの断種手術が実施された。戦後、この措置は、当時は法律に基づく合法的行為であったとされ、被害者に対する補償も長年行われなかった。こうした状況に対して声をあげたのが、強制断種被害者の女性クララ・ノヴァーク、および彼女によって設立された、「ナチスによる『安楽死』および強制断種被害者の会」(1987-2009)であった。同会は、補償を求めてどのように闘ったのであろうか。ナチスによる強制断種の実態も踏まえながら、同会の活動内容、特に補償をめぐる闘争とその結果について紹介する。その上で、日本の場合との共通点、相違点についても検討する。

《講師プロフィール》
紀 愛子 (きの・あいこ、日本学術振興会特別研究員PD、早稲田大学等非常勤講師)
1987年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部、東京女子大学修士課程を経て、早稲田大学大学院博士後期課程に進学、博士号(文学)取得。主な論文:「『ナチスによる「安楽死」および強制断種被害者の会』の歴史と活動」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』第61輯、2016、「ナチスによる『安楽死』犠牲者の子供たち:ナチ体制期における境遇から戦後における過去との関わり方まで」大内宏一編『ヨーロッパ史のなかの思想』(彩流社、2016)。

11月30日(金) 午後6時30分~9時
「当事者」にとって「解決」とは――謝罪と補償の意味
大橋由香子 (大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員)

《講義内容》
優生手術を強制・強要してきた優生保護法は、刑法堕胎罪(1907年~現在)の阻却事由として人工妊娠中絶を認める側面も持っていた。強制的な条項とともに、不妊手術でも中絶に関しても、本人や配偶者の「同意」の意味が揺らいでいる。このように、身体を傷つけられずに生きること、性や恋愛、生活形態など個人的で大切な事柄が、国家にコントロールされ侵害される仕組みを作ってきた優生保護法。この法律で人権を侵害された「当事者」とは誰なのか。取り返しのつかない被害に対して、国家の謝罪や補償はどのようになされるべきなのか。人に優劣のラベルを貼る優生思想的な感覚は生き続け、婚活・妊活を促す少子化対策や出生前診断が進行する現在、今後の課題を探る。

《講師プロフィール》
大橋由香子(おおはし・ゆかこ、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員)
1959年東京都生まれ。上智大学文学部社会学科卒業。出版社勤務を経て、フリーライター・編集者。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員、フェリス女学院大学等非常勤講師。著書『満心愛の人 フィリピン引き揚げ孤児と育ての親』(インパクト出版会、2013)、『異文化から学ぶ文章表現塾』(共著、新水社、2016)他。論文「優生保護法によって傷ついた女たちの経験から」『世界』2018年4月号(岩波書店)、「国に強制された不妊手術」『ジャーナリズム』2018年6月号(朝日新聞社)、「性暴力と人工妊娠中絶」『現代思想』2018年7月号(青土社)他。「優生手術に対する謝罪を求める会」メンバー。

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