2018年10月9日、10日ロンドンで開催する世界閣僚精神保健サミットにおける、主催者、 パートナー、および代表者への書簡
英国政府は、2018年10月9日から10日にかけて、ロンドンで 「世界閣僚精神保健サミット」を開催します。サミットは「早期介入、公衆衛生、研究、偏見への取り組み、証拠に 基づくサービスへのアクセスの促進などの世界的な精神福祉問題に推進力を促進する」ことを目的としています。 このイベントは、最終的に「精神保健に関して政治的リーダーシップをとる約束をする世界的宣言」となります。 サミットでは、精神保健と持続可能な開発の関連についてランセット委員会の発足も予定されています。
私たち、この公開書簡へ署名したものは、このイベントの組織方法、また英国が精神保健の「世界的リーダー」としての地位を位置づけていることに懸念をしています。
理由は以下の通りです。
1 このイベントの組織と計画は厳重に管理された秘密です。 参加国のリストさえ事前に 発表しなかったので、参加国の市民団体はいかなる主張もできませんでした。
重要な点として、このイベントの設計計画には、精神保健サービス利用者、サバイバー、 精神障害者の団体の関与がほとんどなかったことが挙げられます。
少数のネットワークが、用意されたテーマに関して議論する「経験のある専門家」を委員会に出席できるよう人材を募集しましたが、「グローバルメンタルヘルスのための運動」 (Global Mental Health Movement) にまだ登録していないユーザーや障害者団体による有意義な質問やアクセスもありませんし、幅広い分野の代表者が参加するための資金提供もありませんでした。
障害者の組織の代表は、障害者に直接関係する問題や事柄の決定に際して、綿密に協議 しなければならず、このことは、組織を通して障害者を積極的に参加させなければならな いという、条約に署名した国々に対して課せられた義務、国連障害者権利条約の第4条に公然と違反しています。
2 精神福祉の世界的なニーズの取り組みにおいて英国をリーダー国と位置づけることは、 様々な理由から問題が非常に多いです。
2016年、国連障害者権利委員会による調査によると、イギリス政府によって導入された 緊縮政策が「障害者の権利に対し重大かつ組織的違反の水準」にまで達していていました。
委員会は、社会福祉給付の削減、社会的孤立、生活水準の低下、学校での子どもたちの隔離、自立生活への支援の欠如、その他多数の違反の結果として、高度な貧困を見つけました。このような状況によって、自殺未遂率が2倍になり、広範な貧困が発生するなど、 人々の精神的健康に直接影響を及ぼしました。
3 英国および北アイルランド連合王国の最初の報告書に関する委員会の最終見解として、分権政府および/また領土の統制下において既存の法律、規制、慣習が、全地域の政策分野やレベルで障害者に差別的で、障害者権利条約の導入が不十分で実施も不均一なことに特別の懸念を示しました。
4 イギリス国内では、精神保健サービスの中で、黒人や少数民族、元植民地からの移住 者や南からのユダヤ人移民者に影響を与える特別な差別の状況があります。
英国の精神保健サービスにおいて、何十年にもわたって、ハイレベルの誤診、強制治療、 過剰投薬、地域での強制医療命令および文化的に不適切な治療など一貫した差別的治療があったことが証拠に残っています。
政府のケアのもとにあったカリブ出身のアフリカ人、デビッド・ベネットの死亡調査によって、NHS(国民保健サービス)の制度が人種差別主義であることが判明しました。しかし、英国政府は、インクルーシブで公正な社会を生み出すために世界的にリードしていると述べているにも関わらず、イギリス国内では、移民に精神的悪影響を与える社会福祉サービスのみならず、移住、警察、雇用、福祉などで、「敵対的環境」を継続し続けています。
5 サミットでは、「変革の時」としてインド、ガーナ、ナイジェリア、ウガンダ、ケニアで計画された偏見防止プログラムを、世界的に発足することを発表するために準備されています。
何百万ポンドもの費用が 既にイベントで費やされ、精神病患者に対する偏見の除去に役 立ったと主張していますが、精神医療専門家による差別に関するユーザーレポートにも、 一般市民の認識や振る舞いにも改善が見られないことを証拠が示しています。
最終見解において、国連障害者権利委員会は、障害者が他の人々よりも価値の低い生活 をしているという英国社会の偏見的認識について、特別な懸念を表明しました。
また、英国における現行の差別禁止法は、特に重複する理由による差別に対して適切な 保護をもたらしていないと指摘した。
このようなシナリオを考えると、英国政府が、精神障害者に悪影響をもたらす、最も偏見を強化する差別的政策を続けながら、精神病患者への偏見をなくすプログラムに資金を 提供し続けることは不愉快です。
6 英国は既に「グローバル精神保健のための運動」を通じて、まだ 成功していないです が、生化学的な精神医学のパラダイムを世界的に広めることでリーダーシップをとっています。
社会構造上の差別や不平等を改善するための、反スティグマ(偏見)プログラムを社会で 広めることができなかったので、 英国政府が外務および英連邦省からの資金で、高コスト低インパクトな、支援プログラムを南へ輸出することを阻止できませんでした。
この「北が南をリードする」というモデルは、植民地時代の「教育の使命」を再生産し、 南の地域活動で、国連障害者権利条約の知識に基づく人権をベースとした議論に打撃を与 えます。
南でも北でも精神保健分野における多くの専門家は、西洋医学の精神理論の適用や規模拡大を世界的に展開することに対して警告しています。
南のユーザー/サバイバー団体は、失敗した西洋医学の精神保健ケアモデルを自国に輸入することに既に反対しており、サービスユーザー、サバイバーおよび精神障害者が生活のあらゆる側面に効果的に完全参加できるよう、国連障害者権利条約遵守を求めています。
このことは、英国で精神福祉法が見直されるときにおいて、そして国連障害者権利条約 に準拠した法律へ向かうのに持続的な抵抗があるときにおいて、ことのほか重要です。
これらのシナリオを考えると、英国政府がリーダーシップをとって精神保健について宣言しているのは偽善的です。
政府が最近開催した世界障害サミットでわかったように、私たちはイギリス政府が精神障害者権利を擁護するふりをしながら、偏見を持ち心が狭いことを知っています。
サミットの組織は、国連障害者権利条約の精神と条件に反しています。
私たちは、このサミットの参加者と代表者に以下のことをもとめます。
A イギリス政府による精神障害者に対する国内の社会構造的また何重もの要因による差別など、この文書で挙げられた問題を考えてみてください。
B イギリス政府に対し障害者権利条約における政府の立場を明確にし、自らの方針と制 作において障害者権利条約を支持していくための措置について明確にするよう求めること
C 英国政府に、他国の地域改革や独自のやり方に悪影響を及ぼすので、国内で失敗した方法を世界中に輸出するような帝国主義的方法での運営をやめるように求めること。
D.サミットで出されたいかなる宣言についても、世界中の幅広いユーザーが主導する団体や障害者団体による、幅広い協議と承認が周知されるよう、キャンペーンをすること。
E. イギリス政府が南で精神福祉を促進したいのであれば、 政府は以下をしなければならないと主張すること。
i イギリス国内で経済と福祉政策が格差や不平等の拡大を招いたことにより、障害者に とって耐え難い生活がもたらされました。何千人もの障害者が自殺に追いやられるといったことも含み、現在精神保健ユーザー/サバイバーの生活を脅かしている、国内法律、政策および実践を変更するというリーダーシップの実例を示すこと。
ii ユーザー主導の団体や障害者団体が、最も効果的な方法や知識を持っていると認め、同 時にユーザー主導のサービス、政策提案、研究のサポートを提供する。
iii 南北における健康基準と倫理的基準の不均等をへらすために、西洋の精神保健システムの輸出における自国の外交政策を点検すること
iv リーダーシップをとるのではなく、南で社会構造的に、健康の決定因子に取り組むための地域に根ざした包括的な改革をサポートすること
v 欧米の豊かな国々に依存したり干渉を受けたりすることなく持続可能で、当事者が開発の客体というより主体として当事者が利益を得られるために、地域の人々がサービスを開 発できるようにすること。
F 独立した社会市民団体と連携し、英国政府の要望に従わないこと。
(翻訳 鈴木麗子)
英語原文は以下
https://www.nsun.org.uk/news/global-ministerial-mental-health-summit-open-letter
(国際的に先進国では向精神薬への批判も強まり、もう製薬会社としては市場を南へ中国やインドアフリカに求めなければならなくなり、そうした製薬資本の動きがこの背景にあります。まさにグローバル資本による侵略です。
また日本精神神経学会ほか14学会の以下文書もこの流れにあると言えましょう。
精神疾患の克服と障害支援にむけた研究推進の提言 山本)